020話 闇の巫女 v.s 風の巫女 1


"カキン"


赤と黒の疾風迅雷が

荒野を駆け出した。


イマリは、左右に不規則に振れながら疾走していた。


《アルテミス》の閃光は数発、撃ち込まれたものの、イマリを捉えることはなかった。


アイリーンとの距離を急速に詰めるイマリ


「…!」

イマリが止まった。


その顔は無表情だが、黒瞳はアイリーンを凝視している。


イマリは、目の前で起きている状況を冷静に分析しているようだ。


迫るイマリを前に、アイリーンは、《アルテミス》を手放していた。


アイリーンの手を離れた《アルテミス》は風に支えられ、ユルリと宙を移動し、遠くの岩山に立て掛けられた。


イマリは、《アルテミス》を一瞥いちべつしアイリーンに視線を戻す。


「闇さーん!ちょっと待っててねっ!」

高い声色は、悪びれた様子もなく、イマリに待機を依頼する。


何か策が、ありそうだが…。


…イマリは動かなかった。


アイリーンは両手を天に向かって掲げ、叫ぶ。

風神降臨フウジンコウリン!!」


風がアイリーンを中心に渦巻き、集まり始めた。


イマリの黒髪が強風になびき、アイリーンの金髪は、逆立ち始める。


アイリーンを取り巻く風の渦は限界を超え、紫電が走り出したが、それすらも渦は飲み込んだ。


空間が圧縮されアイリーンの姿が見えなくなり始めたそのとき、天に掲げたアイリーンの両手が降ろされた。


刹那せつな、急激な風の逆流が起こる。


疾風と、真空になった風、カマイタチが辺り一帯に拡散した。


イマリの髪、頬、腕、太腿フトモモが、いきなり切れ、血はすぐさま、後方に流される。


傷は、それほど深くない。


イマリは微動だにせず、竜巻の中心を凝視していた。


渦を巻いていた風が晴れ、アイリーンが姿を現した。


その両手両足の約十五cm延長線上に、紫電を伴う小型の竜巻たつまきが球体となり、滞留たいりゅうしていた。


乳白色の金髪は、ふんわりと逆立ち、尖った耳と相まって勇ましさを演出していた。


「…さてと、闇さん!り合いましょうか!」

三十cm程、宙に浮いたまま、アイリーンは体術的な構えを取り、微笑みながら言った。


イマリも両手の《漆黒しっこくのカタル》を構え応える。

「…おもしろい」

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