017話 風の回流、土の遊戯

「ぉぉぉおお!」

先に動いたのは、《つち巫女みこ》アースだった。


叫びながら《サタン》を一回転、水平に振り回し、何もない空間に叩き込みながら、もう一度、叫んだ。

圧破あっぱぁぁ!」


刹那せつな、《サタン》により強烈に圧縮された空間が解放される反作用で真空と化し、衝撃波が生まれたようだ。


衝撃波を追い、巻き上がる土煙が、目に止まらぬ速度で私達に迫った。


見えない攻撃は、ナル、イマリを三十m程、私を五十m程、吹き飛ばした。


ナルもイマリも、衣類を切り裂かれた跡があるが、身体へのダメージは少なそうだ。


二人とも、戦闘体勢を維持している。


風陣ふうじん

かぜ巫女みこ》アイリーンが、地に降りながら囁いた。


…風が変わる。


アイリーンとアースが立つ場所に強力な、局所的下降気流が発生した。


気流は大地にぶつかり、地を這う暴風となり放射線状に拡散している。


常に、こちらが風下に置かれる状況だ…しかも、かなりの暴風で。


私は岩山の後ろに隠れ戦況を伺う。…暴風で前へ進めないのだ…。


地に舞い降りたアイリーンは、《アルテミス》を大地と水平に構え、弦を引く。


は、無かった。


音を置き去りに《アルテミス》から銀の閃光が連続で放たれる。


同時に戦場を、黒い迅雷が横に走った。


爆風と爆音の中、イマリの残像を、銀の閃光が貫いていた。


しかし、徐々に誤差が修正され、いつ、イマリに直撃してもおかしくない状況だ。


まない《アルテミス》による閃光は、イマリを追い放射線状に射出されていた。



赤い迅雷も白銀の尾を引きながら、動く。


ナルは、やはり直進だ。


暴風に逆らい、アースへ突撃していった。


アースはそれを視界に収め、仁王立ちで笑っている。


ナルは突進の勢いのまま《アマテラス》を振り下ろそうとした。



《アルテミス》の閃光が徐々にイマリを捉え始めようかと、したときだった。


黒い迅雷は突如、横から縦に、進行方向を変え、さらに速度を上げる。


突然、迫るイマリに《アルテミス》は照準を合わせ切れない。


イマリの前方を通過した矢、後方を射抜く矢…。

迫る黒い迅雷…。



アースは《サタン》を両手で頭上に掲げ、叩き付けた。


"ガギィィィィィン"


《サタン》の槌が《アマテラス》の刃に触れた。


戦場に響いた不協和音は、《アマテラス》を振り下ろそうとしていたナルを、《アマテラス》ごと、叩き返した。


ナルは再び、元居た場所に吹き飛ばされた。


なんという威力だろうか。


アースは楽しそうに、振り下ろした《サタン》を担ぎ直し笑っている。



イマリは《漆黒しっこくのカタル》の圏内に、アイリーンを捉えた。


漆黒しっこくのカタル》の刃が、アイリーンの細い首筋に吸い込まれる。


アイリーンは華麗に避けた。


背後に倒れるように刃をかわし、バク転で直ぐ様、爪先をイマリに叩き込んだが、イマリもまた、その爪先を余裕でかわしていた。


アイリーンは体術も、たしなめているようだ。


アイリーンの横蹴りが、イマリに迫る。


漆黒しっこくのカタル》で防いだが、それを踏み台にされたようだ。


後方に大きく宙返りしたアイリーンは《アルテミス》でイマリを射抜こうとしたが…。


そこにイマリは居なかった。


"トス、ドス、サクッ、トス、ドス"


地面に《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》が五つ突き刺さった。


「…封殺陣ふうさつじん

アイリーンは、イマリの声を背後から聞いたに違いない。


着地したアイリーンを中心に真円と五芒星が赤光しゃっこうにより描かれた。


アイリーンは…動かない…。


それは、赤い光に照らされた美しい人形のようだった。


背後に着地した黒い悪魔は、その刃を心臓に突き刺そうと、腕を引いた。



荒株アラカブゥ!」

アースは叫んだ。


《サタン》が大地に叩き込まれた。地面が躍り、隆起陥没する。


それは広範囲に及び《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》による五芒星を崩壊した。


漆黒しっこくのカタル》はくうを貫いていた。


アイリーンはすんでのとこでイマリの右側へ回避しつつ、左回し蹴りを繰り出していた。


アイリーンの爪先は、イマリのこめかみを、まともに捉えた。


土煙を上げながら、暫く地を滑ったイマリは跳ね起きたが…イマリの可愛い顔に傷が付いたようだ。


その足元に赤い点がポタポタと増えていく。


「ありがとう!今のは死んだかと思ったわ!」

アイリーンがアースに微笑んでいる。


アースは《サタン》を担ぎ直し笑い返した。


「イマリ…大丈夫!?」

ナルが、イマリの元へ駆け付けた。


「……油断大敵ゆだんたいてき…悔しい」

珍しくイマリが悔しいと感情をあらわにした…。



私は暴風のため、未だに岩山の陰から前へ進めないでいる…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る