015話 風の希望、土の悠久

「あんたが《けん巫女みこ》かい!?」


巨大なハンマーを背負った女がナルに視線を送り気さくに話しかけてきた。


近くで見て解ったが、彼女はおそらく《巨人族きょじんぞく》だ。


全滅した、とまで噂されている希少な種族で、特徴は彼女の正にそれだ。


異様に発達した筋肉と骨格は、人間の男性を遥かに凌駕している。


身長は二百cm以上あるだろう。


頬や額には黄と赤の粧がしてあり、骨のネックレスと、髪飾りに鳥の羽を用いている。


最近見た《巨人族きょじんぞく》の資料と、かなり一致していた。


彼女の茶色の瞳は勇敢さを感じさせ、目鼻立ちがしっかりしているためか、中性的な雰囲気を感じさせる。


後ろで一つにまとめられた茶色の髪は腰辺りまであり、たまに風に靡き綺麗にキラキラと輝いていた。


その中でもやっぱり異様さが際立つ頭上のハンマー…縦横一mくらいの四角形を底とした二m五十cmほどの四角柱と言えば解るだろうか、とにかく巨大なのだ。


「あ、ごめんなさい、あんまり勝手に動かないで下さい」

大弓を引いて宙に浮いた少女がナルに矢先を変えながら柔らかい口調、高い声色で言った。


こちらも、近年絶滅が心配されている希少種族だ。


背中で切り揃えられた乳白に近い金髪は、髪質が細くその一本一本が光を乱反射させる。


大きな瞳はダークグリーン、透き通るような白い肌、白肌に朱を差す小さな唇、そして特徴的な縦に尖った耳。


彼女は《エルフ》だろう。


背は人間の女性と変わらず百六十cm程だが…三mを超える巨大な弓を先程から引いて、いつでも射ることが出来る状態だ。


また、局所的な凄まじい上昇気流だろうか、《エルフ》の足元には、風が渦巻き、その身体を宙に縫い止めていた。


ナルは、立ち止まり《巨人族きょじんぞく》から、一度 《エルフ》に視線を送り、再び《巨人族きょじんぞく》に視線を戻した。


「私は《けん巫女みこ》《長崎奈留ながさきナル》、さっきから弓矢とか地割れとか、あなた達の攻撃なの!?」

憤りを滲ませ、ナルは《巨人族きょじんぞく》の女性に言い放った。


巨人族きょじんぞく》の女性は威風堂々とした佇まいで、何かを確認するように答えた。

「ああ、すまなかったな。……二カ月程前だ……《りゅう巫女みこ》が竜化して……尚、殺された。殺したのは…二人の少女と妖精らしい……」


茶色の瞳が二人の少女と私を見据えている。


《エルフ》が続ける。

「竜の血の臭いを…風が私に知らせました。風は竜の死と…そこに二人の少女、そして妖精が居たことも教えてくれました…」


《エルフ》は宙から私達に視線を送る。


巨人族きょじんぞく》の女性がニヤっと笑い言った。

「早い話、竜のオーブ…それと…剣と闇のオーブ、それを、くれないか?って話なんだ!」


言いながら茶色い視線がイマリに移る。


「………ことわる…土と、風の巫女」

イマリは答えた。


黒い視線が茶色の瞳、それから、ダークグリーンの瞳へ流れた。


「ええっ!?巫女なの?しかも二人!」

ナルだ。鈍感なナルだ。

いまさら驚いた顔をしている。


「あなた達の神は何と…?」

私は一応、確認してみた。



―― 「風の神と地の神は、この世界を棄て、新しい未来を創造なさります。そこは、全ての種族が、平等で平和に暮らす世界」

かぜ巫女みこ》は瞳を輝かせ、そう答えた。

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