013話 風の拒絶

休憩を終え、私達は静まり返った荒野を西へと、再び歩み出す。


同じような景色が続く中それは、突然だった。


「…避けて…受けてはダメッ!」

声だけを残し、イマリの身体が左へ滑る。


よく解らないが、私も思い切り左へ避けた。


避けながら、私は見た。


私達の進行方向のずっと先に、銀に煌めく何かがあったのを。


「えっ!なにっ!なにぃ!?」

ナルも右へ避けたあと、その煌めきを捉えたようだ。

視線を前に向け、叫んでいる。


煌めきは閃光となり、無音で空気を切り裂きながら、私達が居たであろう場所を貫いた。


遅れて爆音と爆風が辺りを舞い狂う。


イマリの黒髪が風に靡く。


「…まだ来る」

銀の煌めきがあった場所を見つめながら、イマリは私を、忍装束の胸辺りに押し込んだ。


ほのかな柔らかさを感じながら、私は、いくつもの煌めきを見た。


イマリは左右に激しく動く。

無音の閃光は連続的に襲い掛かる。


閃光が起こした爆音と爆風の中を、さらに無音の閃光が走った。


止まない爆音と爆風に、辺りは次第に砂塵に包まれる。


暫くして、銀の閃光は止んだ。


砂塵が収まり始めたころ

「…ちょっとぉ…砂がまたぁ」

ナルは言いながら、帯を緩め、ピョンピョンと跳び跳ねた。


「……受けてたら、ああなってた」

イマリは進行方向に気を配りながら、後方の岩山を《漆黒しっこくのカタル》で、指しながら言う。


「……」

私とナルは、後方の岩山を見て言葉を失う。


その岩山の奥行は十mはあるだろうか、その岩肌に直径十cmほどの孔が十数個空いている。


その全ては向こう側が見えている状態だ。


銀の閃光は、岩山を溶かしながら直進したのだろうか。


「…何だったの?何で私達は襲われたの?」

ナルは憤りをあらわに、こちらに向き直る。


イマリは、進行方向を見つめつつ、答えた。

「…おそらく…巫女による攻撃…私達は大型の弓矢を十四発、打ち込まれた」


ナルは驚きを隠せず、言葉を詰まらせる。

「ぜ、全部、見えていた…のね…」


「…弓矢か…」

私は一抹の不安を隠せず呟いていた。


その時だ。


私達の遥か前方で銀の閃光が二つ、上空に向かって放たれた。


ナルは《アマテラス》を構え、上空を見つめている。


イマリも、《漆黒しっこくのカタル》を握り直し前方と上空に視線をせる。


「…前から、また来る…避けて」

イマリが右に滑る。


ナルと、私も、それにならう。


直後、音を置き去りにした弓矢が私達の傍らを通りすぎ、続いて爆音と爆風が巻き起こる。


「もう怒った!私達は正当防衛よね!イマリ行こう!」

ナルが《アマテラス》を両手で握り直しつつ、叫んだ。


「…射手まで約二千二百m、競争」

イマリがナルに視線を移し、答えた。


二人は、

《アマテラス》と《漆黒しっこくのカタル》を

交差させた。


"カキン"


―― 刹那、二人は

赤と黒の、疾風迅雷となり

荒野を駆け出した。


私はナルの背中を何とか

掴んでいる……。

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