012話 風のざわめき

―― オーザリア大陸中央部、荒野


荒れた大地から、高さ二十mほどの岩山が、ボコボコと生えている。


雑草だけが、何とかこの地で生きようと、枯渇する大地にあらがい、所々に緑を添えていた。


私達は、《つち巫女みこ》に逢うため、荒野を西へと進んでいた。


のだが…


「いたたたたぁい」

ナルが身体を反転させて背中を丸め、何やら騒いでいるが、強風でよく聞こえない。


砂を含む風が、いよいよ強まり、私達の行く手を阻んでいた。


イマリは《漆黒しっこくのカタル》を目の前に掲げ、砂を防いでいる。


私は、イマリの背中だ。


この一番、安心、安全だと思われる場所から、後ろで騒いでいるナルを見ている。


砂塵を含む風は西へ進むほど、強くなっていた。


「土の砦まで、もう少しのはずよ、気を付けてっ!」

イマリに向き直り、イマリの耳元に大きな声で、話しかけた。


「…うん」

イマリは、いつもと変わらない声量での返事に加えて、頷いて意思表示する。


砂塵を含んだ風が吹いても、イマリは歩みを一度も止めていない。


この愚直な任務遂行力は忍ならでは、なのだろうか。


私は後方で、くるくる回っているナルへ向き直り、思いを馳せる。


本当に、イマリが仲間で良かったと。


そして、《つち巫女みこ》も仲間であってほしいと。



―― 砂塵が吹き荒む地帯を抜けたのだろうか。


パタリと風が止んだ。


青空に浮かぶ筋雲も、風に吹かれず、空に縫い止められている。


先程まで、風との舞踏ダンスを楽しんでいた雑草達も、今は誰ひとり頭を揺らさない。


動いていたものが止まり、物音ひとつしない荒野は、刻が止まったかのような世界感を演出していた。


刻の止まった世界で、私達は腰を下ろし、一息入れていた。


「ねぇ、脱いでいい?」

着物の胸元辺りをパタパタさせ、ナルが私達に問いかける。


イマリは、ナルの豊満な胸元を一瞥、それから一度視線を落とし、何も言わず視線をこちらに向ける。


脱ぐか脱がないかの判断は私に託されたようだ。


「着物の中に入った砂くらい我慢、我慢、そのうち落ちていくわ」

気に入った服を毎日着ようとする子供を、諭す親の気持ちが解ったような、変な気持ちで私は答える。


「うーんやっぱりダメ!お腹と背中が、ジャリジャリで気持ち悪い」

そう言うと、ナルは岩山の裏に回り、着物をバタバタはたきだした。


イマリがポツリと呟いた。

「…やっぱり負けてた」


「…ナルは大きいよ」

私は事実を述べるしかなかった。


イマリは空を見上げた。

「…」

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