011話 姉妹がいた街

道端に咲いた小さな水色の花を、にこやかに見つめていた少女は、ハッと顔をあげ、先を歩いていた少女に言った。

「おねぇちゃん、まってよぉぉ」

姉妹だろうか。

姉と呼ばれた少女は振り返り、笑顔で言った。

「早くしないと、お団子売り切れちゃうよぉ」

妹らしき少女は、ぐずつきながら小走りに姉に寄り付き、抱きついて笑っている。

二人の更に前を行くのは両親だろう。

大人の男女が、姉妹に振り返り、立ち止まって名前を呼んでいる。

笑顔で陽だまりの中を、駆けて行く姉妹。


―― オーザリア大陸、中央部

草原地帯に位置する地方都市 グレイベリー


「……」

イマリは、微笑ほほえみとも、切なさとも、言える表情…羨望せんぼうだろうか、何とも表現しにくい表情で大通りを行く姉妹、家族を眺めていた。

ごきげんなナルの声がイマリの視線を動かした。

「おっ待たせ!」

新調した赤い着物を身に纏い、満面の笑顔でナルが呉服屋からやっと出てきた。

「まぁ、馬子にも衣装ってとこね」

心の声が、つい、うっかり、出てしまったようだ。

「ははは~!そぉ?似合ってる?可愛いでしょ!?」

ナルはクルリッと一回転し、満足気だ。

「……カステラ」

イマリは、着物に興味がないのか、ナルを一瞥し呟いた。

そう!次の予定はカフェだ。

カステラが美味しいと評判の、大陸でも有数の人気店がこの街にはあるのだ。


―― カフェ《ロウクワット》

メニューに目をキラキラ輝かせナルが注文した。

「チョコカステラひとつ…」

「それと、モカコーヒー、砂糖多目で!」

イマリの視線がメニュー表の上で、右往左往うおうさおうしている。

「…チーズカステラ」

「……と、オレンジジュース」

私は、もう決めてある。

定番かつ王道にして頂点!

「私はガトーショコラ」

「それと、ミルク!」

カステラとガトーショコラ、それぞれの飲み物がおしゃれなテーブルに並べられた。

大通りが見える素敵なカフェだ。

カステラは、一番下に、甘~~いザラメ。

真ん中は、卵黄たっぷりのふんわりスポンジ。

一番上は、焼き色が綺麗に付いている。

この三段が絶妙なバランスで成り立ち、堪らなく美味しいのだ。

私は、これからの予定について二人に問いかける。

「さて、次なんだけど」

二人はカステラに夢中だが…続ける

「風の砦は、ここから南、大陸の南端の海岸」

「土の砦は、ここから西に行った先の荒野」

今わかっている情報だけを挙げた。

ナルが視線を上げる。

「チョコカステラおかわり!」

「…ミルクカステラ」

メニューを指差し、イマリも、おかわりだ。

「海水浴もいいわね」

モカコーヒーを口に運んだあと、ナルが言った。

オレンジジュースをストローで上品に吸い、イマリが続く。

「…近いほうは?」

「西の荒野が近いわね」

私はイマリに応え世界地図をテーブルに広げた。

わかっている砦の大体の箇所にしるしを付ける。

「海岸でビーチバレーとか、花火とかもいいわね~」

ナルは地図上の南海岸を眺めていたが、視線を上げた。

「チョコカステラおかわり!」

「…抹茶カステラ」

メニューを指差し、イマリも、おかわりだ。

「…まぁ近い方から行きましょうか、《つち巫女みこ》が協力者なら、すっごく助かる」

私は、二人に決断をうながした。

モカコーヒーを口に運んだあと、ナルが言った。

「オッケー!西の荒野ね!」

オレンジジュースをストローで上品に吸い、イマリが続く。

「…了解」

こうして、私達が次に目指す地は、西の荒野となったのだ。

「チョコカステラおかわり!」

「…いちごカステラ」

「………ガトーショコラおかわり!!」

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