003話 竜の巫女との開戦

「竜の神と竜人族は、先の大戦で失った三貴竜さんきりゅうの復活と、三貴竜さんきりゅうによる世界統治のため過去へと世界を導きます」


しっかりした意思表示のあと、カイハーンは壁に掛けてあった双頭の槍 《雷電ライデン》を手に取る。


「世界を過去へと塗り替えれば、滅んだはずの三貴竜は復活するのかっ?!」

珍しくイマリが感情をあらわにカイハーンに問いかけた。


「神が、そう申されたのです、それ以上の答えはありませんよ」

カイハーンは二mを優に超える《雷電ライデン》の感覚を確かめるかのように握り直しながら答える。


「剣のオーブと闇のオーブを、おとなしく頂けませんか?不必要な殺生は苦手なのです」

カイハーンはおそらく、この願いが聞き入れられないと解っているのか悲痛な表情だ。


「巫女にとって神の御言葉は絶対です、私達も引くわけには…いきませんっ!」

不安を隠せないが、今はナル、イマリを信じ、カイハーンに応じる。



―― ついに、巫女同士の衝突が起きてしまった。



―― 先の大戦


神々と天使 v.s. 三貴竜を筆頭とした地上生物、天上界 v.s 地上界 を制したのは天上界だった。

天上界は最高神ソル統治のもと、300年間安定して平和な世界を築いていたのだが…

天上界に異変が起きたのは約3年前、突然最高神ソルが姿を消した。ソル無き天上界では下位神達が、それぞれの思想で動き出した。

ソルが帰ってくると信じ現状維持を望む神、ソルに代わり最高神の座を狙う神、過去から世界を塗り替えようとする神、新しい時代が来たと未来を造り出そうとする神。

天上界は混迷を極め、最高神ソルが造り上げた下位神達の結束は脆くも崩れた。下位神達は世界を支配するため、それぞれの巫女に天命を与えた。7つのオーブを集め

"世界を過去へ"

"現在を護る"

"世界は未来へ"

天命を受けた巫女達は、各地の巫女が持つオーブを集め、神の御言葉に応えるべく、行動に移した。

それぞれの神の望みが一致すれば、最高の協力者となるが、望みが違えば…即、殺し合いだ。



―― 竜の砦 外


両手の《漆黒しっこくのカタル》を構え、限界まで低い姿勢を取るイマリ。


今にも突進しそうな構えだ。


「やるしかないのね」

《アマテラス》を突きの型で構え、ナルは悲しげにつぶやいた。


雷電ライデン》をクルクルっと回したあと、腰を低く落とし、矛先を二人の巫女へ向けるカイハーン。


「では、すみません」

カイハーンが言い終えたと同時に姿を消す。


…いや、消えたのではない。

カイハーンは地を高速で這い、超低姿勢でイマリへ急接近していた。


イマリより、さらに低い。


カイハーンはイマリを見上げ叫ぶ。

土弦渦ドゲンカぁ!!」


地表スレスレから、心臓を突き破ろうと跳ね上がった矛先。


"ガキンッ"

それは、両手でクロスした《漆黒しっこくのカタル》にその進行を妨げられた。


その突きの凄ましさは、防いだはずのイマリの身体が宙に投げ出された事で証明される。


「…痛い」

宙に放り出されながらも、体勢をすぐさま整えたイマリは、何かを呟きながら《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》を二つ、投擲とうてきする。


追撃の突きをイマリに繰り出そうとしていたカイハーンは、的確に頭と心臓に向かって飛んで来る《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》を払うため、追撃を諦め《雷電ライデン》を回転させた。


"キンキンッ"

雷電ライデン》に払われた二つの《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》が向かう先は、カイハーンに向かって《アマテラス》を振り下ろそうとしていたナルだ。


"カカンッ"

「あっぶないわね~」

《アマテラス》の腹で《漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》を防いだナルは攻撃の好機チャンスを失った。


漆黒しっこく手裏剣しゅりけん》投擲後、一回転して着地したイマリは、すぐさま低姿勢を取る。


雷電ライデン》を軽々しく回したカイハーンも再び、腰を落とし矛先を揺らしている。


巫女達の初接触は、一瞬だった。


三人の間に張り詰めた空気が流れる。


「今度はこっちからいくわよっ!」

その空気を壊したのはナルだ。

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