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人間には誰しも感情がある。
喜怒哀楽って言葉があるんだから、笑って泣いて怒り悲しむ。そんな感情が。
兄は私には【感情がない】という。
小さい頃周りの大人たちが気味が悪いと騒ぎ立てることがあった。その度に母がかばってくれていた。そんな姿を見て迷惑をかけちゃいけないと思った。そしてその日から同年代の子たちの姿を見て感情というものを真似するようになった。
誰かが冗談などを言ったら口角を上げて高めの声で短く声を発する。
誰かと悲しい映画や悲しいことを言ったりしたら下を向いたり涙を少しでるように調整したりする。
誰かに理不尽なことや大切な人のことを悪く言われたら眉間を寄せて声を荒げたり、淡々と低い声で相手を睨み上げたりする。
母が私の前からいなくなってから中学、高校と卒業していった。もう大学生になった。
元々私の家庭は父がいなく、母がいなくなってからは兄が高校をバイトしながら、そして卒業後は私のために就職し大学まで行かせてくれている。
どこかで引き取ってくれたらよかったのだが、残念ながら母は頼れる身内がいなかった。何があったのかは知らない。縁を切っているということだけは兄から後々聞かされた。
兄が台所で夕食の片付けをしている。
「お兄ちゃん、私がいなくなったらどうする」
不意に兄に質問する。
「やめてくれよ。優希がいなくなったら俺が生きている理由がなくなるだろ。」
「そうなの。」
「相変わらず感情がないな。」
「うん。」
兄との会話はあまりない。
一方的に話しかけられるのでとりあえず聞いてはいるが他人と一緒にいるわけではないので基本的に素で過ごすとそっけなくなってしまう。
私から話したいことはないので特に話すこともない。
「なんでいきなりそんなこと言うんだよ。」
「お兄ちゃん、最近何か隠してるでしょ。」
そんな私の言葉に洗い物をしている兄の手が数秒止まる。
「何も隠してないし、今更隠すこともないよ。
なんでそう思ったの?」
「そう思っただけ。なんかそう言う気がしたの。」
本当に何か感じ取っただけで根拠なんてなかった。兄は「何も気にするな」と言わんばかりに私の頭を撫でてお風呂に入っていった。
オオミクフラギ 紫暖-SHINON- @biy_s
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