オオミクフラギ

紫暖-SHINON-

prologue

頭に鳴り響く救急車のサイレン。

目の前で倒れている母。

兄が私を抱きしめて「大丈夫、大丈夫だから」そう何度も繰り返している。

私は冷静だ。寧ろ兄の方が取り乱しているように思う。きっと私を抱きしめることで安心しようとしているんだと思う。

じっと救急車に運ばれていく母を見て「ああ、もう会えないんだな」って心の奥で感じ取った。

遠くなるその光は、その時の私には言葉にできない感情だけを置いてどこかに行ってしまった。

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