二人の自分
穂志上ケイ
短編
ここは裕福な家庭の子供たちが通う学校。
私は九条みか。
本当は普通の学校に通いたかったんだけど、親に意見に逆らえず、渋々通っている。
門をくぐるといつもの光景が目に入ってきた。
女子生徒①: 「おはようございます。西園寺様。今日は私とお茶でもどうですか?」
女子生徒②: 「私とショッピングにいきませんか?」
女子生徒③: 「私と芸術鑑賞にいきませんか?」
とまあ毎朝女子生徒たちがある生徒に猛烈にアピールしているのだ。
シュン: 「悪いけど、僕は君たちに興味ないんだ。それじゃあ」
そう言って囲まれていた中から出てきた生徒。
彼は西園寺シュン。学校一の成績と美貌を持つ男子生徒で、女子生徒とはあまり関わりをまた持たない様にしているようだ。
まあ私には関係ない事だけど。
でもそんなある日彼の秘密を見てしまった。
■■■
先生に頼まれ教材を運んでいるときの事だった。
前が上手く見えず何かにぶつかってしまった。
その反動で手元から教材が落ちた。
シュン: 「ご、ごめん」
みか: 「いえ、こちらこそ私の不注意で・・・・西園寺、シュン」
シュン: 「はい、これで全部かな?」
廊下に散らばった教材を集め私に渡してきた。
みか: 「あ、ありがとう、ございます」
教材を受け取り立ち上がろうとすると、自分の足に引っ掛かり、彼の方に倒れかかってしまった。
上手く胸で受け止めてくれたおかげで私は怪我をせずにすんだ。
だが。
むにゅ
?
彼の顔を見るととても青ざめていた
私を軽く押し返し、立ち上がった。
シュン: 「き、君、名前は」
みか: 「九条、みかです」
シュン: 「九条みか。・・今日の放課後少し付き合ってもらう。門の前で待っていてくれ」
そう言って彼はその場を後にした。
え。え~!
放課後
門に向かうと彼が待っていた。
シュン: 「早く乗れ」
彼の指示に従い、車に乗った。
みか: 「それでどこに行くんですか?」
シュン: 「僕の家だ」
みか: 「えっと、突然お邪魔してもいいんですか? 親御さんといるんじゃ」
シュン: 「だから、僕の家だ。言ってるだろ」
みか: 「その・・意味が分からないんですが」
シュン: 「親は住んでない。僕だけが住んでる家だ」
みか: 「成程。._ってえー!」
シュン: 「そんなに驚く事じゃないだろ。大抵の奴らは持っている」
みか: 「そ、そうなんですね」
そうこうしている内に。
「着いたぞ」
ドアを開け外に出ると漫画でしか見た事ないような大きな屋敷が目の前に存在していた。
シュン: 「ほら、行くぞ」
家の中へ入り、彼の部屋へ案内された。
みか: 「その、話って」
シュン: 「ここからの話は内密にすると約束してくれ」
みか: 「は、はい」
シュン: 「まず、僕の正体については絶対に秘密してくれ」
みか: 「えっ?正体?」
シュン: 「昼間で分かったと思うが、僕は女だ」
みか: 「........えーーーーー!!!」
シュン: 「何故驚いている」
みか: 「だ、だって。そんな事初めて知りましたし」
シュン: 「ど、どういう事だ!」
みか: 「その、昼間の時は単なる筋肉かと..」
シュン: 「と言う事は僕は正体を知らないのにバラしてしまったと..」
みか: 「そう、なりますね」
シュン: 「そんな..」
彼はその場にしゃがみこんでしまった。
「あ、あの..」
舞: 「ぐすん。こんな、ミスをするなんて..」
学校の時とはうって変わって全くの別人の様だ。
舞: 「すん。もう嫌だよー。何でこんな事しないといけないの?私だってちゃんとした女の子になって生活したいよ~!」
あまりの豹変に私は驚きを隠せなかった。
舞: 「ねぇ、みかちゃん!私を女の子にしてくない?」
みか: 「はい?」
舞: 「お願い!こんな生活もう嫌なの!」
みか: 「ちょ、ちょっと落ち着いてください! 西園寺さん」
舞: 「ご、ごめんなさい。だけど、どうしても女の子になりたくて」
みか: 「西園寺さんは元から女の子ですよ」
舞: 「そ、そうじゃなくて」
みか: 「ふふっ。分かってますよ。それで具体的に私はどうしたらいいんですか? 西園寺さん」
舞: 「えっとその前に私の本当の名前は西園寺舞って言うの。だから出来れば下の名前で呼んでほしいな」
みか: 「分かりました、舞さん」
舞: 「それでね、私服とか全然持ってなくて。その、一緒に選んでもらえたらなーって。普段男の人の服を着てるからファッションとかも分からないし」
みか: 「分かりました。では早速明日買いに行きましょう」
舞: 「本当! ありがとう、みかちゃん」
みか: 「そ、それじゃあ、私はこれで」
舞: 「あっ、待って。送っていくよ。ここからだと帰り方分からないだろうし」
みか: 「ありがとう、ございます」
それから車で家まで送ってもらい一日を終えた。
翌日 学校
敷地内に入るといつもの光景が目に入ってきた。
私はスルーして校内に入ろうとすると、舞さんもといシュンさんに声をかけられた。
シュン: 「おはあよう、みか」
みか: 「お、おはようございます」
すると周りはざわめき始めた。当然と言えば当然か。異性に全く興味がないと言っていた人が女性に話しかけているのだ。驚くのも無理はない。
女子生徒1: 「あの、西園寺様。その方は・・」
シュン: 「僕の彼女だよ」
その瞬間一同の表情は驚きへと変わった。勿論、私を含めて。
シュン: 「それじゃあ。行こうか」
みか: 「は、はい」
周りがまだざわついている中、平然と校内へ入っていく私たち。
みか: 「ちょっと、どういう事ですか! ま、シュンさん」
シュン: 「この方が一緒にいても怪しまれないだろ」
みか: 「た、確かにそうですけど」
シュン: 「それじゃあ、放課後迎えに行くよ」
そう言ってシュンさんは教室へと向かった。
そして教室では私とシュンさんの話でいっぱいだった。
放課後
シュン: 「みか、迎えにきたよ」
みか: 「シュン、さん」
やっと、この嫌な空間から解放される。
車内
みか: 「今日はデパートに行こうと思うんですが」
舞: 「みかさんに、お任せします」
みか: 「わ、わかりました」
んー。なんというかとても違和感しかない。昨日もそうだっただ、突然女口調になるとどうも落ち着かなくなる。
デパートまで車で送ってもらい、私たちは施設内の服屋へと足を運んだ。
みか: 「本当に一着も持ってないいですよね」
舞: 「はい。何着かは持っていたのですが、捨てられてしまって」
みか: 「そうですか。じゃあ私がとびっきり可愛い服を選んであげます」
舞: 「お、お願いします」
服屋
みか: 「今の流行りだとシアーシャツとタンクトップを合わせたコーデやエスニック柄のワンピースとかですけど。どうです、舞さん」
舞: 「えっと、何の呪文ですか?」
みか: 「呪文じゃありませんよ! 最近の流行りの服なんですよ」
舞: 「あの、みかちゃんに決めてもらえればー『駄目です! こういうのは自分で決めないと』―わ、分かりました」
それから悩みに悩んだ末、真っ白なワンピースを選んだ。
みか: 「舞さん。一着だけじゃ足りませんよ。ほらこれとかどうですか? ほらこっちも」
結局6着ほど購入した。
舞: 「買い物ってこんなに大変なんですね」
みか: 「そうですよ。女の子の買い物は大変なんです」
舞: 「でも、また一緒に来ましょうね」
みか: 「はい、是非!」
それから休日には買った服で町に出かけたり、舞さんの家で化粧の練習などをして、舞さんとの仲を深めていった。
けれど、ある事件が起こってしまった。
休日に一緒に出掛けている時の事だった。
ある男性が話しかけてきた。
父: 「シュン、その格好はどういう事だ!」
舞: 「お、お父様・・」
父: 「こんな女の格好をしよって。お前は大人しく私の指示に従って男の格好をしておればいいのだ」
みか: 「そんな言い方、しなくてもいいじゃないですか」
父: 「君は?」
みか: 「舞さんの友達の九条みかです」
父: 「そうか。みか君。これは家族の問題だ。口を挟まないでくれ」
みか: 「家族なら、本人の思いを優先するべきじゃないんですか!」
舞: 「みかちゃん、もう、やめて」
みか: 「舞さん・・・」
舞: 「お父様、私は女です! お父様に言われて今まで男性の格好をしてきましたが、もううんざりなんです。これ以上お父様の理想を私に押し付けないでください!」
父: 「理想を押し付けて何が悪い。お前が男であれば理想を押し付ける事もなかった。こんな事ならお前なんてー『やめてください! なんで、実の子供にそんな事を』
舞: 「みかちゃん。ありがとう、私の為に。お父様、後は家でお話しましょう」
父: 「そうだな。邪魔者がおっては話が進まん」
舞: 「そういう事だから。じゃあね、みかちゃん」
みか: 「待って、舞さん」
しかし舞さんたちは一度も振り返らずこの場を立ち去った。
翌日シュンさんが学校を辞めたという連絡が全校生徒に言い渡された。
どうして、学校を・・
その日から何もかもどうでもよくなった。それだけ舞さんと過ごした日々は大切だったという事。
そして二日後全校生徒がホールに集められた。
そこで先生から転校生を紹介すると告げられた。
けれど、今の私にはどうでもよかった。
舞: 「今日から入学しました、西園寺舞と言います。どうぞよろしくお願いします」
みか: 「えっ?」
壇上を見ると確かに舞さんの姿があった。
他の生徒をかき分け、壇上の前へ向かった。
みか: 「舞さん!」
舞: 「ただいま、みかちゃん!」
二人の自分 穂志上ケイ @hoshigamikei
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