青春の1ページ目は、ありふれた場面から始めよう

かりんとう

第1話 1ページ目


 小説書くって本当に大変。全ての作家さんに敬意を。あぁ、彼女欲しい。


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 あぁ、そうか、そうだった




 君と出会ったのは、皺一つ無いまっさらな制服を身に付けて登校したあの日だった。


 少し乾いた空気。微かな話し声。表情の硬い先生の顔とは裏腹に、これから始まる新たな生活に僕は心踊っていたんだっけ。


 長々と語られた賛辞の言葉。配布された連絡事項を隅に寄せた後、始まったのは自己紹介。




 次の列。




 次の列。




 隣の列。




 目の前。




 来た。



『───────』



 自己紹介は無難に終わらせた。面白味はなかったがまぁいいだろうと半ばヤケになりつつ机に被さった。


 体勢が悪かったので、何気なく左を向いた時、窓際でスポットライトに照らされた彼女と目が合った。


 その目はかわいくて、綺麗で、艷麗な雰囲気を醸し出し、引き込まれるほどに深かった。僕は目を逸らすことができなかった。


 どれくらい時間が経ったのだろうか、実際は1秒にも満たない時間だったのだろうか。心地よくて、けれども刺激的な時間は唐突に立ち上がった彼女によって終わりを迎えた。



『───────』



 その声が自己紹介だと気付いたのは、まばらな拍手が始まってからだった。今思えば、多分惚けていたのだと思う。なんせ初めての体験だったから



 彼女は底抜けの明るさと可憐な笑顔で、クラスの中心になるにはそう時間はかからなかった。


 それとは対照的に僕は在り来りな生徒A、そう多くない友人と共に、輝く彼女を傍観する観客の一人だった。


 それにもかかわらず彼女は、飽きもせずに僕に何度も話しかけてきた。





 なんだ、まだしっかり覚えてるじゃないか



 「よっ」





 最初はぎこちなかった彼女との会話も一学期も経てば流暢になり、二学期も終わればあたかも旧知の仲のようになっていた。


 家が近所だと分かってからは度々一緒に帰るようになっていた。少し先を歩く彼女。絶え間なく聞こえる弾む声。頭一つ分小さな影はモノトーンには見えなかった。


 その頻度は増えて行ったけど、誘うのはいつも彼女から。僕は頷くだけの簡単な仕事。自分から行くなんて、小心者の僕にはハードルが高すぎたんだ。





 「待たせたね」





 教室への行き方が変わっても、僕らの関係は変わらないはずだった。


 運良く同じクラスになれたけど、君はクラスの花で僕は普通の一生徒。流行の波に身を任せ、右へ左へ忙しなく流れる日々を飽きもせずに繰り返していた。


 そして僕らはただの気の合う同級生。時々一緒に帰る友達。この関係を表すのに語彙力なんて必要ない、ありふれた関係のはずだった。



 それを変えたのは、やっぱり君だった。



 当たり前と化していた二人で歩くいつもの帰り道。話していたのは流行りのKーPOP。笑顔で話す彼女の半歩後ろで、僕は少しの相槌と共に頷くだけだった。


 見えてきた分かれ道、来て欲しくないと希うその場所で僕らはいつものように立ち止まった。





 また明日ね




 そう言って別れるふたつの影。僕は踵を返して歩き出す。



 今日の課題多かったな。そういや最近野菜食べてないな。この前買った小説はどこへ行ったっけ。今日はゲリラダンジョンがあるんだった。あっ、昨日の ─────





 待って。





 無価値な思想を切り裂く声。振り向いた先の彼女は初めて見る顔で、僕を見つめていた。


 夕暮れの少し肌寒い風が心地よく二人の間を吹き抜ける中、彼女の顔は、一際目立って染まっていた。


 その目はやはり、あの目をしていた。



『ーーーー』



 唐突に紡ぎ出された音は僕の耳にすんなりと届いたが、言葉に置き換えるにはそう簡単にいかなかった。




 言葉の意味を理解したその瞬間、十六年間生きてきて初めての衝撃が身体中を駆け回った。鳴り始めた動悸、滴る汗、暴れ狂う感情は無秩序に襲ってくる。先程まで二人の世界を彩っていた風景も、僕を急かすように囁く。


 下がりつつあった視線を戻すと、彼女は朧気に佇んでいた。いつものような陽気な気配は影を潜め、今にも散ってしまいそうだった。


 やばい、急がないと。早く何か言わないと。気持ちだけが先走り、脳の回転が追いつかない。急げ、急げ、急げ ────





 ごめんね。迷惑だったよね。





 僕の混沌とした思考を突如遮った彼女は、その言葉だけを残し、駆けて行った。最後に見たその目は、儚く、どうしようもなく透き通っていた。





 待ってくれ、行かないでくれ。僕をこんな状態にさせてどこへ行くのか。君は勝手だ。身勝手だ。





 いや、違う。心の底では分かっている。本当に身勝手なのは僕だ。傷つくことを恐れ、常に周りに流されているだけ。彼女や誰かをいつも風よけに、ぶつかることを恐れていたのは僕だった。自分の尺度を自分で決めたせいで、可能性を消していたのは紛れも無い自分自身だった。




 そう気付いた時にはカラフルだった世界も、いつの間にかモノトーンに戻っていた。




 彼女も既に見えなくなっていた。




「大丈夫?」




 重たい足取りで帰宅するとすぐにベッドへ倒れ込み、僕は想起した。初めて出会ったあの日の事を、学校でのくだらない会話、帰り道の止まらぬ笑い声、真っ赤に染まる君の顔


 彼女への想いは恋か、憧憬か。





 どのくらい時間がたったのだろうか、僕はむくりと起き上がり、君にメッセージを送った。




 次の日の放課後まではあっという間だった。その日の授業は上の空。友達との会話もぎこちなかっただろう。その間、君との会話は無かった。君が誰もいないこの教室に入ってくるまでは。



 「いや、全然待ってないよ」



 「そっか、なら良かった」



 現れた君を見た途端、震えだした膝は止まらない。気を抜くとそこから崩れ落ちてしまいそうだ。喉が渇く。心無しか頭も痛い。鳴り止まぬ心臓は臆病な心を何度も鼓舞する。


 いつもはうるさく聞こえる野球部の声も聞こえない。いつも居るこの教室に、世界に二人だけ取り残されたような感覚。顔はきっと昨日の君のようだろう。


 あぁ、そうか、君もこんな気持ちだったのだろうか。やっぱり君は凄いな。僕には耐えられそうにない。だから早くこの気持ちを伝えなければ。



 ほぅっと一息つくと、君をまっすぐ見つめた。君の目は、昨日のままだった。






「好きです」






 掠れた声。それでも確かに紡いだ声。意外とするりと出た声は二人の間を支配した。出した言葉は図らずとも昨日の君と同じだった。



 言い終わると同時に、体は嘘のように軽くなり、教室も、学校も、いつの間にか普段の色彩を取り戻していた。当の君は少しの狼狽をみせたが、僕と目が合うと、微笑んだ。






 「なんだ。君も同じじゃん」






 あぁ、そうだ。君にはその目が一番似合う。



 帰り道、並んだ二つの影は一つに繋がり、そよいだ風は祝福している様だった。




 ─────────────



 こんにちは。かりんとうです


 小説書くって難しいですね。処女作なのでどこか至らない所も多々あると思いますが、温かい目で見て頂けると幸いです。誤字訂正、今後のアドバイスなど、よろしくお願いします




 ちなみに少女は黒髪ショートの小麦肌です。異論は認めません

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