第60話 結末
「親分、この宿に宿泊している女を殺せばいいんですね?」
「そうだ、特徴はさっき伝えたとおりだ。成功したら、アレを普段の倍やるぞ」
「いいねえ、親分。太っ腹じゃないか」
「さらに、その女を直接仕留めた奴にはさらに倍だ」
「「「「「おおっ!」」」」」
「他の奴らは何人殺しても無報酬だがな。無駄な殺しはやめておけ。どうせじきに飢え死にするか、アリたちに殺されるのだから。無駄は極力避けないと」
まさか、俺の作戦が酒場を経営しているという小娘によって妨害されるとはな……。
俺の先祖は元は貴族であり、ダストン男爵家としてこの領地と周辺のわずかな土地を治めていたそうだ。
男爵なのでそれなりの爵位だったが、領地の場所と広さに問題があり、決して裕福とは言えなかったそうだ。
そんな状況をどうにかしようと、俺の先祖は魔獣である巨大アリの卵から麻薬を作り出すことに成功し、その密売で財を成すようになっていた。
その後も研究が進み、アリたちが襲ってこなくなる忌避剤の開発も成功し……まあ、作るのにコストと手間がかかり過ぎるので多用はできないが……これを用いて巣の奥にいる女王アリの拉致に成功した。
これを極秘裏に町の中で飼育し、女王アリは働きアリたちがいない不安から、次々と卵を産んでいく。
これを麻薬の材料として、ダストン男爵家はさらに大儲けをした。
ところが、働きアリたちが女王アリの居場所を突き止め、これの奪還を目論むようになったのは予想外だった。
アリの生態に詳しくなかったがゆえに、最初ハンターや猟師たちが考え無しにアリを殺してしまい、激高したアリの大群に襲われて死んでしまうケースが多発したそうだ。
ハンターや猟師が減ってしまうと、町の近くにもアリが出現し、農民や女性、子供に犠牲者が次々と出てしまった。
原因である女王アリを返すという選択肢を、先祖は採らなかった。
なぜなら、町の税収よりも麻薬密売の方が儲かるからだ。
先祖たちは女王アリを秘匿し続け、それはダストン男爵家が統治に難アリという理由で改易されてからも同じだった。
他の場所に女王アリを運ぶと、アリたちはそちらに集まってしまう。
この町に置き続けるしかなかった。
王国の直轄地となったこの町に、わざわざ王都が多額の予算を使って城壁を築いてくれてからは、アリたちもお腹が空くと諦めて撤退するようになってくれた。
自らのお腹を満たし、巣の保全や拡張、女王アリが戻って来た時のための食料を集めると、また来襲するのだが。
これが、アリたちが定期的に町の城壁に迫ってくる理由であった。
元ダストン男爵家の人間しか知らない事実だがね。
つまり俺たち元ダストン男爵家の人間は、城壁に囲まれた町のおかげで安全に女王アリを飼育し続け、卵を採取して麻薬を密造できるわけだ。
わざわざ金と手間をかけて城壁を作った王国と、アリたちが来襲する度に町の中に閉じ込められる住民はいい迷惑だろうがな。
だがそれも、連中が無知なのが悪いのだ。
ただ、ここ六十年以上も続いた美味しい状況に変化が出てしまった。
ついに、女王アリが死んでしまったのだ。
寿命だと思うが……どちらにしても、我々はまた新しい商売のタネを仕込まねばならない。
女王アリの死骸を外に出すのは……女王アリ自体が結構大きいので難しい。
そもそも、とある民家の地下にある地下室の扉を通れないのでね。
というわけで、この町には落ちてもらうことにした。
代官や兵士、町の住民たちがアリによって殺されてしまえば、そのあと女王アリの死骸を地下室から搬出し、新しい女王アリを捕らえてくれば元通りだ。
町は街道沿いのいい位置にあるので、王国も人を送り込んで町を復興させるだろう。
新しい住民は、俺たちがダストン元男爵家の人間だとは知らない。
商売がますますやりやすくなるのだ。
女王アリ奪還を目指すアリの巣に大量の魔獣の死骸を放り込んで餌を早く集めさせ、この町をいつもよりも早い周期で襲うようにさせたのも俺。
連れて来た麻薬中毒患者たちに、町の食料庫に放火させたのも俺だ。
食料不足でこの町は陥落し、住民は全滅する。
汚れ仕事を担当した麻薬中毒患者たちも始末できて、俺はアリが近寄らなくなる特殊な忌避剤を持っている。
俺だけは無事に逃げ出せるのだ。
実にいい計画……だったんだが……。
「(あの小娘め……)」
『倉庫』系魔法の使い手で、今は王都にある酒場を休業し、新しい食材を求めて旅をしているだと?
小娘が町の連中に毎日食事を提供するものだから、一向に町の連中は飢えない。
これはとんだ計算違いであった。
急ぎ是正しなければ、王都から援軍が来てしまう。
代官のアンソニーは、若いながらも知恵が回る奴だ。
もうとっくに王都に対し狼煙を送っているのは確認していた。
一ヵ月以内に、この町はアリたちによって陥落していなければいけないのだ。
「(ならば、あの小娘を殺せばいい)」
食料庫に放火した麻薬中毒患者たちに、小娘だけを急ぎ始末するように命じた。
褒美の麻薬を増やすと言ったら、連中は大いにやる気を出しているので、作戦は成功するであろう。
もし多少反撃したとしても、あいつらは麻薬のせいで痛みなんて感じない。
小娘一人殺すなど容易なことなのだ。
「仲間にデカイ坊主がいるが、男なので一階の小部屋に泊まっている。小娘たちは二階だが、三人いるから間違えるな。胸がない女だ、やれ」
どうせこいつらは麻薬中毒患者だ。
静かと言っても無駄というか、部屋に入られて気がつかれないわけがない。
一秒でも早く、小娘を始末するしかないのだ。
アンソニーたちに知られてしまうだろうが、その時は麻薬中毒患者たちだけを生贄に差し出せばいい。
もう連中に使い道はないので、アンソニーたちに始末させれば俺の手間も省けるというもの。
「(あとは、アリたちが飢えた町を落とすだけだ。俺は、アリたちから逃げられるのでね)」
思わぬアクシデントがあったが、これでようやく計画どおりに進むはずだ。
小娘……お嬢さんには悪いが、運悪くこのタイミングで町に来てしまったのが不幸の始まりだ。
自分の運のなさを、あの世で嘆くといいさ。
「突入だ。上手くやれよ」
「「「「「はいっ!」」」」
「よし! 行け!」
さて、俺は先に逃げるとするかな。
「誰が胸のない小娘よ! 私は普通なのよ! ララちゃんとファリスさんが大きすぎるだけなんだから!」
「ユキコさん、そこが一番頭にきたんですか?」
「当たり前じゃない! もっと他に言い方があるでしょうが! 髪の黒い女だとか! わざわざ胸がない女とか言うな! 底知れない悪意を感じるわよ!」
「女将さん、寝室は暗いので、髪の色では判別できませんよ」
「だからって、胸の盛り上がり具合でってこと? 横向いて寝ていたらわからないじゃないの」
「女将さん、それを私に言われても……」
「まあまあ、みんな無事だったのだからいいじゃないか」
夜。
お店を閉めて宿で寝ているところに、暗殺者たちの襲撃を受けた。
私もVIPになったというか、アンソニー様の予想どおりだったわけね。
お店を続けている私がよほど邪魔だったようで、私を殺そうと寝室に飛び込んで来た連中は、目の焦点が定まっておらず、麻薬中毒患者特有の症状……昔、テレビで同じような人を見たもの。
彼らは怪我をしても痛みを感じず、麻薬のためならどんなことでもしてしまう。
危険な存在だったのだけど、ファリスさんの魔法ですぐに寝てしまい、全員が縛りあげられていた。
私もララちゃんもハンターとして活動していた時期もあり、さすがにドアの前に立つ数名の怪しい連中の気配くらいは察知できるわ。
彼らが部屋の中に突入してきた瞬間、ファリスさんの睡眠魔法の白い煙が彼らに纏わりつき、そのまま意識を失って地面に倒れ込んでしまった。
麻薬中毒患者でも寝ないわけがないので、この魔法は有効だってことね。
ただ少し効きが悪いみたいで、威力はかなり強めにしたと、あとでファリスさんが言っていたけど。
そして、寝てしまった彼らを私たちが縛り上げたのだ。
それにしても、なにが『胸のない女を殺せ!』よ。
暗殺されかけたことよりも、それが一番腹が立つ!
すぐに駆け込んできたイワン様が私を宥めようとするけど、この件ばかりは主犯を許すわけにいかない。
……麻薬中毒者たちに暗殺命令を出した主犯は、襲撃犯たちの突入と同時に逃げてしまったようだけど。
「女将さん、主犯ならちゃんと僕が捕まえましたよ」
「本当に? 凄くない?」
「そんなに戦闘力がなかったので。それと顔見知りでした」
どうやら私の知らないところでイワン様から事前に言われていたみたいで、ボンタ君は宿から逃げ出そうとする主犯を捕らえていた。
ボンタ君は体も大きく、パワーもあって強いから、主犯も逃げられなかったみたい。
縄で厳重に縛られて、同じく寝たまま縄で縛られている襲撃犯たちと合流をはたしていた。
「おじさん?」
そして私は、ボンタ君の言ったとおり、主犯が顔見知りであることを知る。
毎日のようにお店に来て話をしていた、魔法薬商人のおじさん。
彼が、この町に起こった一連の事件の主犯だったのだ。
「私たちと同じく旅人だと見せかけて、実はアリたちをいつもより早めにこの町に引き寄せ、裏で食料庫の放火を指揮し、最後に私たちの暗殺を謀ったというわけね」
「いつまでも町の連中に食事を提供してもらうと困るのでな」
「ただの飯屋なのに」
「戦でなにが一番大切かわかるかね? いかに兵士たちを食べさせるかだ。普段金ピカに着飾った王族や貴族は、率いている兵たちをいかに食わせるかで苦労する。この町は飢えてアリたちに蹂躙される予定だったのだが、お前のせいで誰も飢えなかった。俺がお前を狙うのは当然だ」
「だから、私は変装させた兵を彼女の傍に置いたのですよ」
「アンソニーか……我が家の領地を不当に支配する王家の犬めが!」
イワン様に続き、アンソニー様も部屋に入ってきた。
その姿を確認したおじさんは、悪しざまに彼を罵り始める。
私たち、なにも知らされていなかったから、寝間着姿なんだけどなぁ……。
もっとも、誰も透け透けなネグリジェなどは着ておらず、トレーナーにスエット姿……私が日本にいた時、この格好で寝ていたから作ってもらったのよね。
ララちゃんとファリスさんも寝やすいからって真似をしてしまって……ああ、私たちって駄目な女子たちね……。
「ユキコ君、私は可愛らしいと思うな」
「イワン様、お世辞でも嬉しいです」
トレーナーにスエット姿の女なんて、本当に可愛いとは思っていないだろうけど、女子だけの寝室に入ってしまったお詫びだと思うことにしよう。
「不当に占拠? 貴族としての領分を忘れ、領地を統治しているだけでは儲からないという理由で麻薬を密造していたお前とその先祖たちが言っていいセリフではない。お前たち一族が百年以上も王国中に流通させた麻薬で、いったいどれだけの人たちは不幸になったと思っているんだ」
アンソニー様が怒るのも当然よね。
彼らが密造、密売した麻薬で、どれだけの人たちが健康を害したり、大金を失ったり、家族が離散、崩壊してしまったか。
「我らダストン男爵家は、神に選ばれし一族なのだ。そんな我らが貧しく、不遇であっていいはずがない。麻薬で富を得て、いつかこの町をもう一度取り戻すのだ」
「つける薬がないな。お前たち一族がこの町を取り戻すなど、永遠にあり得ないのだから。お前たちの統治が駄目だったせいで、我ら代々の代官たちがいかに苦労したか……しかもそれに気がついてもいない愚か者だとは……」
自分たちは神に選ばれた一族なので、麻薬を密造、密売しても構わないなんて法はない。
お店で話していた時はいいおじさんだと思ったけど、こんなことを言う人だとは思わなかったわ。
「お前と議論しても仕方がない。で、女王アリの死骸は?」
「俺が言うと思うか?」
「お前は言わないか……では……」
アンソニー様は縛られた襲撃犯の一人に、小瓶に入った液体を見せた。
もしかして、それが麻薬?
「これが欲しければ、女王アリの居場所を吐いてもらおうか」
「言う! 女王アリの死骸がある民家は……」
「言うな!」
「うるせえ! 俺は麻薬が欲しいんだ!」
麻薬中毒というものが、ここまで酷いとは……。
襲撃犯の一人は、すぐに女王アリの死骸がある民家の場所を吐いてしまった。
商人のおじさんは彼らを完全にコントロールしたと思い込んでいたようだけど、それはおじさんの力ではなく麻薬の力だったわけね。
本人もそう思っていたはずだけど……。
「すぐに女王アリの死骸を回収して、アリたちに返してしまえ」
「はっ! 了解しました!」
アンソニー様の命令で、兵士の一人が伝令に走った。
町の駐留部隊が、彼の命令どおり女王アリの死骸を回収して、城壁の外のアリたちに返すのであろう。
「やめろぉーーー! それをしたら、アリたちが!」
「ここから引き上げて、もう二度とこの町の城壁に近寄らないんだろう? いいことではないか」
「この町の住民が全滅したら、新しい住民たちが来るまでに俺が新しい女王アリを捕らえてまた匿える! 楽に麻薬の原料が手に入るんだ!」
「いちいちアリたちに押し寄せられる、この町の迷惑も考えてもらおうか。密造所がある村で飼育すればいいだろうに」
「……」
それをしたら、城壁なんてない村はアリたちに蹂躙されてしまう。
密造所を失ってしまったら、ダストン元男爵家一族の富の源泉がなくなってしまうし、いちいちアリの巣に潜入して卵を盗んでくるのはコスト的に見合わないのであろう。
だから、城壁がある町に女王アリを運び込み、アリたちの襲撃を防がせていたのだから。
「イワン殿、教えてやれ」
「君たちの一族や仲間がいる寒村の麻薬密造所だが、とっくに王国軍に急襲されているはずだ。君は町に閉じ込められていたせいで情報を得ていないだろうけど」
「はっ? 密造所が?」
「君は私の正体に気がつかなかったようだが、そんな仕事もしているのだ。悪いけど、これまでの罪状を考えると、君たち一族は全員が縛り首だね」
「全員がですか?」
「ダストン元男爵家一族は、確信犯的に全員が麻薬の密造と密売に関わっている。君も一族だよな?」
「そうだ、心して聞け! 俺が当代のダストン男爵家の当主、イオルグ様だ!」
「これは意外だったな」
私も驚いた。
おじさんが、ダストン元男爵家の当主だなんて……。
「食料庫の放火の指揮に、長年アリたちをこの町に引き寄せていたこと。お嬢さんたちの暗殺未遂。
悪いが君たちも縛り首だ」
「くっ……」
「俺の麻薬は?」
「君たちの末期の願いは聞けないな。そのまま死にたまえ」
「麻薬をくれ! 死刑になる前でもいいから!」
「これは以前、末端の密売人から没収したものだが、当然焼却処分となる。君に与えてしまっては、私の職務規定違反になるのでね。そのまま死にたまえ。連れて行け」
アンソニー様が命じると、兵士たちはおじさんと襲撃者たちを連行して行った。
一人だけ、麻薬をくれと叫び続けているが、見ていると切なくなってくる。
優しく見えたおじさんが、彼をあそこまでの麻薬中毒にして、様々な犯罪に手を染めさせていたのだから。
そして彼らも死刑になる。
日本なら、刑務所で依存症治療とかをするのだろうけど、この世界にはこの世界の決まりがある。
私が彼らを可哀想と思って助命を頼んでも無駄だろう。
それに麻薬依存症の治療なんて、私にはできないというのもあった。
「死刑でもいいから、麻薬ををくれよぉーーー!」
彼は、最後の最後まで麻薬をくれと叫び続けていた。
「お嬢さん、惨いと思うかね?」
「見ていていい気分ではないですけど、私に彼らを救う術はありません」
彼を、ただ可哀想と言うのは簡単なんだと思う。
でも、彼を救うのはとても大変なことであり、少なくとも私にはできなかった。
それに彼は、これまで麻薬欲しさに色々な犯罪を犯しているはず。
彼は、その報いを受けなければいけないのだと思う。
「ただ単に、購入した麻薬を使って中毒になった人なら……と思います」
「そういう人たちは主に教会が面倒を見ているけど、依存症から抜け出すのは大変みたいだ」
「そうですか……」
世界は違えど、教会は似たようなことをしているのね。
「色々と手助けしてもらって感謝の言葉しかない。アリたちも、もう二度とこの町に押し寄せないだろう。この恩には報いさせていただくよ」
「そうだね。私もようやく何年も追いかけていた案件を解決できた。ユキコ君には本当に感謝の気持ちしかない」
思わぬアクシデントに巻き込まれて色々と大変だったけど、イケメン二人に褒められたのはご褒美だと思い、アンソニー様からの報酬に期待することにして、今夜はもう寝てしまうことにする私たちであった。
「すまなかったね、一週間も事後処理につき合わせてしまって。で……本当に褒美はこれでいいのかな?」
「当然ですとも。これが欲しかったんですよ。せっかく集めた分は、みんな丼として提供してしまったので」
「アレは確かに美味かったな。貴族なんてしていると、ああいう料理は下品だとか、うるさい人が多いのだけど、炊いたお米がミソニコミの汁を吸って……また食べたくなってきた。茹でてサラダに添えるよりも圧倒的に美味しいからね」
「でも、ラーフェン子爵様はなにか言っていませんでしたか?」
「いや、イワン殿によるとなにも言っていなかったそうだよ。災害に備えた備蓄なんて、他の穀物でも問題ないのだから」
巨大なアリたちが城壁に押し寄せる町。
ここで起こった事件は無事解決して、みんな事後処理に奔走していた。
ダストン元男爵家の当主であるおじさんが町の中に隠していた女王アリの死骸は、それを見つけた兵士たちによってアリたちに返された。
彼らによると、相手は長年町に恐怖を与え続けた存在ではあったけど、女王アリの死骸を抱えて巣に戻っていく光景はとても物悲しかったそうだ。
アリたちは、ダストン元男爵家の人たちに攫われた女王アリの奪還を六十年以上も試みていただけなのだから。
そしてその犯人であるおじさんは、つい先日処刑された。
最後まで、『ダストン男爵家の正義』みたいなことを叫んでいたけど、私が思うにおじさんも実はそんなものは信じていなかったのかもしれない。
生まれてからずっと、家族や仲間が密かに麻薬の密造と密売を行っていたせいで、それに抗うことができなかったのだと思う。
先に摘発された寒村の密造所において、ダストン元男爵家の人間はほぼ全員が捕まったそうだ。
そして先に、寒村の外で全員が処刑されてしまった。
みんなわかっていて麻薬の密造をしていたので、仕方がなかったのだと思う。
おじさんも、私たちにその真意を語ることなく、麻薬中毒の襲撃犯たちと共に処刑されてしまった。
事件の内容が内容なので、その事実が世間に公表されることはないそうだ。
元とはいえ、長年麻薬の密造に携わっていた貴族とその一族がいたという事実は公表できないのだと思う。
その代わり、私は褒美でまた大量のお米をゲットできたけど。
丼にしてほぼ全量を放出してしまったので、それが取り戻せたのはありがたかった。
一度お米生活に入ってしまうと、それがないのは我慢ならなかったのだ。
イワン様が、新しいラーフェン子爵様……ザッパークさんのことだけど……と交渉して島の備蓄のほとんどを持ち帰ってくれた。
備蓄は全部他の穀物になっていて、お米農家の人たちも次の収穫までは毎日パン生活を送る予定だという。
それと、今回の籠城劇のせいでお米を初めて食べた人も多く、美味しいので売ってくれという引き合いが増えたそうだ。
カレーライスへの需要もあるから、ラーフェン子爵領では今、お米の大増産計画を開始したみたい。
なるべく早く、お米の生産量を増やしてほしいわね。
だって、そうしないと相場が上がってしまいそうだから。
以上のような理由で、私は大量のお米を再びゲットしたのだ。
アンソニー様が『さすがにそれだけでは……』と、金銭なんかもくれたけど。
これは、みんなへのボーナスに回すとしよう。
「お嬢さんは、これからどうするのかな?」
「もうそろそろ王都に戻ります」
さすがに、地区の再開発問題には目途がついているはず。
旅先でも色々と飲食物を提供していたけど、やはり本命は王都にある『ニホン』の再開だ。
今回の旅だって、新たな食材などを探すというのが最大の目的だったのだから。
「なるほど。お嬢さんのお店か……通いたくなるね」
「でも、あまり上品な場所にはないですよ」
私はアンソニー様に『ニホン』の場所を教えてあげたけど、さすがに来ないと思うわ。
「私のような小者貴族なら、お忍びも行くことも可能なのでね。実はもうそろそろこの町の代官職の任期が終わって王都に戻るので、その時は伺わせてもらうよ」
「お待ちしております」
「私も行かせてもらうから」
アンソニー様と、イワン様。
二人とも、私のお店には不釣り合いだよなぁ……。
まさか本当に来るとは思えないので、社交辞令だと思うことにしよう。
「女将さぁーーーん! 親分から手紙が来てますよぉーーー!」
ボンタ君が、親分さんから手紙がきたと叫びながら駆け込んで来た。
私たちの居場所がわかるなんて……親分さんは凄いわね。
「自警団は横の繋がりがありますし、親分は有名人で顔も広いので」
この町で、アリたち相手に籠城戦をしていた……というほど大げさではないか。
足止めされていたので、親分さんは私を捕まえることができたのであろう。
「……これは……」
「女将さん、親分はなんと?」
「元のお店、もう取り壊され始めたって」
やっぱり、再開発計画の阻止はできなかったみたい。
「私たち、店ナシ、家ナシですか?」
ララちゃんは私と生活しているので、あのお店がなくなると家までなくなってしまう。
不安になったようだ。
「私、アルバイト先がなくなってしまったのですか?」
ファリスさんも心配そうだけど、彼女の場合優秀な魔法使いなので、他のアルバイト先はいくらでもあると思うけど……。
「ええと、お爺さんが新しいお店を用意してくれるそうなので、そこでリニューアルオープンの準備をしましょう」
「「「おおっーーー!」」」
みんな、不安が消えてよかったわ。
というわけで、私たちはアリたちが攻めてきた町を出て、王都への道を急ぐことにしたのであった。
私は酒場の女将だから、やっぱり酒場を営業しないと。
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