第24話 温泉卵

「胸の大きさ?」

「はい、世間一般の男性の意見を聞いてみたいかなって」



 今日はお店がお休みで、前から計画していた狩猟と採集のため、王都から少し離れた森へと向かっていた。

 その道中で、私はあくまでも世間話風を装って、親分さんに好きな女性の胸の大きさと聞いてみたのだ。

 あくまでも、『男性って、胸が大きい女性が好きな人が多いじゃないですか。親分さんはどうなのかなって』的な、軽さを交えたニュアンスでだけど。

 真面目に聞いてしまうと、まるで私が胸が小さいことで悩んでいるように思われてしまう……実際に、胸の小ささには悩んでいるけどね。

「あまり気にしたことがないな。しかし、女将はどうして急にそんな話を?」

「俺様にはわかる! ユキコ女将は、年下であるララちゃんよりも胸が小さいのを気にしているんだ。でも安心してくれ! 俺様は、ユキコ女将の胸が小さくても全然気にしないから!」

「俺もだぜ! ユキコの胸が小さいくらいなんだ!」

「うるさい!」

「「うべっ!」」

 親分さんと共に採集についてきたミルコさんとアンソンさんだが、あまりに大きな声で人の胸が小さいと言い始めたので、私は落ちていた木の枝を二人に向けて全力で投げつけた。

 少し長い木の枝は、二人の顔面に直撃する。

 投石で鳥を撃ち落とせる、私のコントロール力を侮らないで!

「まったく、親分さん以外の男子は……ボンタ君はどうなのかしら?」

「僕も、あまりそういうのを気にしたことないですね……気にしないかなぁ……」

 ちょっと怪しいけど、まあいいか。

 そんな話をしているうちに、目的地である森に到着したのだから。

「キルチキンの生息地か……」

「アンソンさん、知っていたんですね」

「見習いで王城に入ったばかりの頃は、よく自分で獲りに行ったものさ。卵は自分で採取しないと、高くて数を買えないからな。練習も満足にできないのさ」

 この世界において、卵は高価な食材であった。

 養鶏が存在しないので、すべて魔獣から採取するしかないからだ。

 料理人に、特に高級とされる料理を作る料理人は、卵料理を覚えなければいならない。

 ところが卵は高価なので、見習い料理人に扱わせるなどまずあり得ない。

 アンソンさんは見習い料理人の頃、ここで採取した卵で練習をしたようだ。

「ミルコさんもそうですけど、アンソンさんもハンター経験ありですか」

「高価な食材は自分で獲らないと、全然練習できないからな」

 見習いや新人に高価な食材で練習させてくれるほど、料理人の世界も甘くはないというわけか。

 もし失敗してしまえば、食材を無駄にしてしまうからであろう。

 いわゆる料理の値段が安いとされる飲食店では、まず卵料理などほとんど出てこないのも、そのためであった。

「キルチキンは危険な魔獣ですけどね」

 キルチキンとは、かなり大きくてクチバシが鋭い鳥型の魔獣であった。

 木の上に夫婦で巣を作って卵を産み、そこで温めて孵化させてから育てる。

 素早く飛べるし、なによりそのクチバシの鋭さは有名であった。

 レザー系の装備など、容易に貫通してしまうのだ。

 ワイルドボアやウォーターカウと同じくらい、狩る時には注意を要する魔獣であった。

 少なくとも、地球の鶏と同じ風に考えると大怪我をしてしまう。

 クチバシでの攻撃なのであまり死ぬ人はいないらしいけど、目を突かれて失明してしまう人は意外と多いそうだ。

「女将は卵が目当てなのか」

「はい、仕入れると高いので、うちの店だとメニューに入れにくいんですよ」

 ただ、今では高価な熟成肉を使ったメニューもあるので、少しだけなら卵料理もメニューに入れていいかなと思ったわけだ。

 試しに自分たちで採取した卵を材料に試作品を作ってみて、評価がよければお店のメニューにするというわけ。

「卵はいいよな。オムレツにしてさ」

 この世界でも、卵料理の王様はオムレツであった。

 腕のいい料理人の条件として、オムレツを上手く焼けるかどうかというものも入っているそうだ。

 当然アンソンさんは、卵料理も上手に作れるはずだ。

「キルチキンのお肉もほしいですね」

 うちのお店、日本基準だとヤキトンの店だからなぁ……。

 猪も鶏も同じくらいの強さなら、一頭から多くの肉が取れる猪型の魔獣ワイルドボアを優先して当然であろう。

 日本人としては、ヤキトリにも大いに未練があるのだけど……。

「肉も出すのか?」

「数量限定になるでしょうけどね」

 沢山キルチキンを狩れればいいのだけど、どうしても手間の問題が出てしまうからなぁ……。

 味見して合格が出たら、ある時だけメニューみたいな扱いになると思う。

「いたっ!」

 半年間もサバイバル生活をしていた成果であろう。

 私は、樹上に見慣れたものを発見した。

 木の枝などを組んだ大きめの巣の中に、青いトサカと紫色の羽が特徴である大きな鳥がいて、私たちに対し警戒を強めている。

 あれこそが、今日の獲物キルチキンであった。

「夫婦の片方が巣にいるってことは、卵を温めているはずよ」

 あの状態なら、卵と鳥と両方を得られるはずだ。

「ユキコ女将、俺様が卵も鳥も獲ってやるよ」

「気をつけろ、ミルコ」

「親分さんは慎重すぎだって……って! おわぁーーー!」

 金属系の防具を装備をしているミルコさんは、これなら安心だと油断していたようだけど、親分さんの注意を受けた直後、ノーモーションでキルチキンから攻撃を食らって腰を抜かしてしまった。

 キルチキンはあまり力はないけど、この予備動作なしの攻撃が怖いのだ。

「はははっ、ミルコは情けないな」

「アンソン、お前は攻撃されなかっただけだろうが!」

 尻もちをついたまま、ミルコさんは自分をからかうアンソンさんに文句を言った。

 自分も同じ立場からこうなっていたはずだと。

「俺は卵料理を練習するため、自分でキルチキンの卵を獲ったことがあるのさ。その習性はよく理解しているさ。親分さんもですよね?」

「若い連中に、肉や卵を獲らせることはよくあるのでな」

 自警団はある種の民間治安組織なので、強くないと団員としてやっていけない。

 ショバ代を貰った店舗などでトラブルがあった時、矢面に立てなければいけないからだ。

 そこで親分さんは、若い衆に狩猟をさせて強くする。

 キルチキン狩りと卵採取は、定期的に行うのだと教えてくれた。

「キルチキン狩りでも強くなるのでな。比較的需要がひっ迫しているというのもあって、自警団ではよく採取するのさ」

「鍛錬を兼ねたシノギでもあるんですね」

「自警団には、農村から流れてきたような若造が沢山いる。最低限食わせないとな」

 自警団は、もしそのまま放置すると悪さをしそうな若者や流れ者に職を与え、治安悪化を防ぐという社会的な意義もある。

 そのため、常に多くの居候を抱えている状態で、みんなが思っているほど儲かる稼業というわけではなかった。

 定期的にキルチキンの肉と卵を得るのも、大切な稼業の一つというわけだ。

 日本でいうところの任侠さん、プラス猟師みたいな感じだと思う。

 ワイルドボアやウォーターカウなどの大型魔獣はハンターや猟師がメインで狩るので、そちらは市場で在庫が不足した時に、レベル上げを兼ねて参加する程度らしいけど。

 キルチキンが相手でも十分に強くなるということは、経験値もそれなりにあるのだろう。

 大型魔獣よりも数を狩りやすい、多人数なら怪我をしにくいというのもあるのだと思う。

 ある種の集団戦闘訓練にもなるわけで、自警団としては都合がいい獲物というわけだ。

「ミルコの実演でわかっただろう? あいつらはいきなり突進してくる。それがわかっていれば、攻撃を避けることも容易だ。大型魔獣ほど強くもないので、こちらの攻撃が当たればすぐに弱るか死んでしまうのさ。あと、巣の中にちょうどいい卵があるかどうかだな」

「ちょうどいい?」

「わからないのか? ミルコ。巣を作っても、まだ卵を産んでいないことがある。卵はあっても、雛が孵る寸前で殻を割ると雛が出てくる状態の時もあるんだ」

 養鶏の卵と違って有精卵が多いので、孵化寸前の卵だとそうなるのよね。

 卵料理には使えないけど、孵化前の雛はじっくり焼くと骨まで柔らかくてなって美味しいけどね。

 見た目がちょっと残酷なのだけど。

「怪我しないよう、手分けして採取しましょう」

 私たちはそれから暫く、キルチキンの親鳥と卵の採取に勤しんだ。

 私はララちゃんと一緒に、親鳥がいない巣を次々と見つけて卵を採取していく。

 卵が籠一杯採れ、ララちゃんは目を輝かせていた。

 卵は結構なご馳走だからね。

「ララちゃん、巣は壊さないでね」

「わかりました。でもどうしてですか?」

「卵だけ採取した巣は、またキルチキンが卵を産むからよ」

 卵のうちに獲ってしまうと、親鳥たちはまた卵を産んでくれるのだ。

 もし産んでくれなくても、残った巣は別のキルチキンの夫婦が再利用してくれる。

 巣作りが早く終わればその分早く卵を産んでくれるわけで、キルチキンの巣は壊さないのが暗黙の了解、半ば決まりみたいなものであった。

「へえ、そうなんですね。実は私って、キルチキンや卵を獲ったことがないんですよ。故郷の村の近くにも生息地はなかったので」

 もう一つ、この世界で鶏肉がさほど普及していない原因の一つとして、キルチキンの生息地が限られているというのもあった。

 ワイルドボアほど、どこにでもいるというわけではないのだ。

 キルチキンは、単独だと他の魔獣に狙われやすいため、群れを作って子育てをする。

 森の木に巣を作るのも、開けた場所にある木に巣を作ると、巣が目立ってしまうからというのもあった。

「ユキコ女将、俺様はキルチキンの親鳥を何匹か獲ったけど、今血抜きをしているから、これを焼いて食べようぜ」

「いいですね」

 さすがというか、もはや職業病なのであろう。

 ミルコさんは、自分が獲ったキルチキンの首を速攻で落とし、足を上にして縄で縛り、木の枝に吊るしていた。

 肉を美味しく食べるため、素早く血抜きに取り掛かったというわけだ。

「俺も手伝うぜ」

 アンソンさんも加わり、二人は血抜きを終えたキルチキンの羽を毟り、最後に焚火で毟り残した羽や毛を焼いてから、内臓を抜き、塩とハーブをまぶしてから焼いていく。

 新鮮なキルチキンは、鶏を焼いた時に似た香ばしい香りを周囲に漂わせていた。

「私も簡単になにか作ります」

 とはいっても、鍋にお湯を沸かして卵を茹でるだけだけど。

 凝った料理はお店に戻ってからでいいわけで、それに獲れたての卵を用いた茹で卵は美味しいはずだ。

「ユキコ女将、鍋が二つなのはどうしてだ?」

「二種類の茹で卵を作るからよ」

 まずは、普通の固茹で玉子。

 新鮮な卵で作った茹で玉子に、塩を振って食べると美味しいわ。

 卵はタンパク質が豊富で、美容と健康にもいいから、私やララちゃん向けでもある。

 特に胸の土台がほしい私向けね!

 もう一つは、温泉玉子。

 七十度くらいのお湯で、卵を三十分ほど温めれば完成する。

 お湯の温度を保つのが大変だと思われがちだけど、他の簡単に温泉玉子を作る方法を私は知っていた。

 蓋つきの鍋にお湯を沸騰させ、火から下ろして卵を投入する。

 すぐに蓋をして十二分前後待つのだけど、この世界には時計やストップウォッチがないので、砂時計で代用していた。

 小さな砂時計は、砂が落ちきるとほぼ三分くらいなので、これを四回ってわけね。

 十二分経ったら、茹で上がった玉子をお湯から取り出し、さらに三分ほど待つ。

 これで温泉玉子の完成というわけ。

「ミルコさん、アンソンさん。キルチキンは焼けましたか?」

「もうすぐだぜ」

「いい感じに仕上がってきたな」

 焼けたキルチキンの肉は、とても鶏の肉に似ていた。

 焼けた肉をカットして皿に乗せ、これに出来上がった温泉玉子を割って載せる。

「キルチキンの丸焼き、温泉玉子載せです」

 焼けたキルチキンのお肉に、崩した温泉玉子の黄身をまぶして食べると絶品なのだ。

 半年間のサバイバル生活では、定期的に作って食べていたのを思い出す。

「うわぁ、さっぱりとしたキルチキンのお肉に、濃厚な玉子の黄身が絡んで最高です」

「女将さん、パンに挟んで食べると美味しいですね」

「今日はついて来て正解だったな。テリーの奴も来ればよかったのに」

「テリー君、今日は親分さんと一緒にお休みですよね? ついて来なかったのが不思議だったんですけど」

 テリー君は、親分さんを心の底から尊敬し、将来は親分さんのようになりたいと願っていた。

 だから少しでも長く親分さんと一緒にいようと、よくお店にもついて来るのだけど、今日はいなかったので意外だったのだ。

「あいつ、好きな女ができて、今日はデートらしい」

「それは来ませんね」

 でも変ね。

 親分さんなら、むしろテリー君の恋を応援しそうな気がするんだけど……あまり嬉しそうに見えないわね。

「テリーの奴、とある飲み屋のナンバーワン嬢に惚れてな。懸命にアプローチはしているんだが……あの店は、金持ちしか行かないようなところだからな」

 なんの後ろ盾もない女性が王都で成り上がる方法の一つに、夜の蝶として君臨するというのがある。

 銀座の高級ホステスみたいな人ね。

 テリー君は、そういうお店のナンバーンワン嬢に惚れて、懸命にアプローチしているそうだ。

 きっと親分さんは、テリー君が確実にフラれるのがわかっているから、微妙な顔をしているのだと思う。

「止めないのですか?」

「こういうことは、実際に袖にされ、騙されないとわからないからなぁ……。俺も今では落ち着いているが、あいつくらいの年齢の頃には色々とあったさ」

 恋は盲目って言うからね。

 周囲が『その女はやめておけ!』と忠告しても、本人は聞く耳を持たず、実際に相手にされなかったり、騙されたりしなければわからないというわけか。

 まさに、『痛くしなければ覚えない』ってわけね。

「どこぞのアクセサリーが欲しい。高級なレストランに連れて行ってほしいと、どの男性にも同じようなことを言っているのさ。テリーの奴は夢中で、それに気がついていないが……」

「なるほど。同じアクセサリーを複数のお客さんに買ってもらって、一つを残して売り払うけど、買ってあげた男の人たちは誰もそれに気がつかないという」

「女将、詳しいじゃないか」

「そんな話を聞いたことがあるような、ですよ」

「若いうちに痛い目を見るのも薬さ。俺はこっちの料理の方がいいがね。なにより、作っている女将の方が、その夜の蝶よりも綺麗だからな」

「そうですか? 親分さんもでもお世辞なんて言うんですね」

 その手の店でナンバーワンになる人だからね。

 私よりも、圧倒的に綺麗な人だと思うけど。

「お世辞ではないんだけどな……なんだ、二人とも。食べないのか?」

 親分さんは、ミルコさんとアンソンさんが料理に手をつけていないことを不思議に思っているようだ。

 私は、なんとなくその理由がわかるのだけど。

「ユキコ女将、完全に加熱していない卵は危険ではないか?」

「俺も、固く茹でた玉子は美味しいと思うけどな。完全に火が通っていない卵はどうかと思うな」

「ちゃんと火は通っていますよ」

 卵の生食が危険なのは、鮮度は勿論、サルモネラ菌が付着・繁殖している可能性があるからだ。

 基本的に加熱をすればサルモネラ菌は死滅するので、卵が腐っていなければ、生食しなければ問題ない。

 二人は固茹で玉子は普通に食べたので、白身と黄味が完全に固まっていない温泉玉子は、完全に火が通っていないから危ないと思っているのであろう。

「生卵でお腹を壊すのは、まずは鮮度。これは、つい先ほど採取したので問題ないです。次に、卵に目に見えない悪い生き物がついていることがあり、それが人間に悪さをするわけです」

 サルモネラ菌なのだけど、これは七十五度以上で一分間加熱すれば死滅してしまう。

 つまり、作り立ての温泉玉子でお腹を壊す可能性は低いというわけだ。

「白身は完全に固まっていないけど、もし悪さをする小さな生き物が付着していても、お湯の熱で死滅しているわけか」

「見た目は固茹で玉子の方が安全だとすぐにわかりますけど、この温泉玉子の方が美味しいですよ。応用も利きますからね」

 色々な料理に載せて、混ぜて食べると無限の可能性があるものね。

 今度、『つくね』を作って、その上に温泉玉子を載せる新メニューを……卵が手に入りにくいのと、温泉玉子を作る手間を考えると常備メニューにはできないかな。

「ユキコ女将、よくそんなことを知っているな」

「私の国では、当たり前のように普及している料理法なので」

「女将は、東の果ての『ジパング』から来たんだったよな」

「謎の国だが、料理に関しては随分と進んでいるんだな」

 別の世界から来ましたなんて言うと問題がありそうなので、ちょうどこの世界の東の果てに、『ジパング』といういかにも日本風な名前の国があるらしいので、私はそこから流れてきたことにしていたのだ。

 それにしても、都合よく『ジパング』なんて国があるとは……。

「温泉玉子という名前も、温泉のお湯で作ることが多いからです」

「なるほど。確かに温泉のお湯は沸騰まではしていないか。固茹で玉子までは固まらず、でも加熱して悪い生き物を殺しているから、お腹を壊しにくいと」

 料理のプロということもあって、アンソンさんは温泉玉子の原理を理解してくれたようだ。

「ただ、作った温泉玉子を長時間放置すれば、腐ったり、また小さな悪い生き物が繁殖して、食べるとお腹を壊しますけどね」

「加熱したから安心というわけではないのか」

「加熱後も、保存方法には注意が必要ですね。すぐ食べた方が安全です」

「なるほど。合点がいった」

 アンソンさんの場合、これまでの料理人の経験から、私が説明したことを納得してくれたようだ。

 学者が書いた本を読んだり、専門家の話を聞かなくても、暖かい場所に食べ物を置けば腐りやすい。

 それを食べるとお腹を壊しやすいのは、よくあることなのだから。

「俺様も理解したぜ。ボンタとララちゃんと、ヤーラッドの親分は微塵も疑っていなかったようだけど」

「私の場合、ユキコさんが出してくれた料理を食べてお腹を壊したことはないので」

「僕もですね。前に、親分と一緒に食べたあるレストランの料理は酷かったけど、女将さんは食べ物の扱いが本当に上手です。高級レストランよりも上でしょうね」

「俺は食べ物のことに詳しくないが、女将がプロフェショナルなのは理解できる。ならば信用して食すのみだ。それがその店を贔屓にするということなのだからな」

「「おおっ! 大人の意見!」」

 いや、ミルコさんもアンソンさんもとっくに大人でしょうに……。

 ララちゃん、ボン太君、親分さんにそこまで信じてもらえたら、それは料理人冥利に尽きるというものね。

「アンソン、ユキコ女将に負けてるな」

「それを言うなよ!」

 アンソンさんは、もし自分が常連さんたちに温泉玉子を出しても、気にせず食べてくれる人はまだいないと思っているのか。

 ちょっと、落ち込みながら料理を食べていたのであった。

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