第8話 ボンタ君

「なるほど。それで、彼が入ったわけか」

「親分さん推薦の新人君です」

「ボンタって言います。お店と合わせてご贔屓に」


 新しく入ったボンタ君だけど、新入りにしては仕込みでも調理でも初日から大いに戦力となってくれた。

 親分さんの言うとおり、以前にかなりの調理経験があるようだ。

 過去になにかあって王都に流れついたようなので、それは詮索しないのがマナーというか、いつか彼から話してくれるかもしれない、と思うことにしよう。

 とにかく、ボンタ君のおかげで仕込める料理の量が増えたので、早めの品切れを心配しないで済むようになったのはよかったと思う。

「早めに料理が売り切れにならなくなったのはいいな」

「ボンタ君がいると、沢山仕込めるんですよ」

 仕込める串焼きの数も大幅に増えた。

 ボンタ君は体が大きいのに手先が器用で、次々と肉を串に刺してくれるからだ。

 味噌煮込みも大きい鍋が取り扱えるようになり、一度に沢山作れて、味も安定させやすくなった。

 カレーが、大きな鍋で一度に沢山作った方が美味しいのはよく知られていることで、当然煮込み料理もその法則が当てはまるというわけだ。

 そしてなにより……。

「けっ! シケた店だな!」

「姉ちゃん! 酌しろや!」

「お客さん、ここはそういうお店ではないんですよ。静かに飲めないのなら、そのままお引き取りください」

「「はいっ!」」

 場所柄、どうしても定期的にガラの悪い客が来ることが避けられないのだけど、ボンタ君の巨体を見た途端、すごすごと引き上げるようになってくれた。

 ボンタ君自身はとても温和で優しい子なんだけど、その巨体にビビる人が多かったのだ。

 親分さんが、彼を拾って面倒を見た気持ちがわかるというか。

「ボンタ君は、このお店に馴染めそうでよかったではないか」

「はい、とてもよく働いてくれますので、いつか独立させてあげたいですね」

「腕もいいようだからな」

「はい」

 お爺さんも、ボンタ君なら将来独立できると太鼓判を押してくれた。

 暫くは、なるべく多くの料理を仕込めるよう貢献してもらうとしよう。

「僕、このお店に入れてよかったです。勉強になりますし、女将さんは優しくて、まるでお母さんみたいで」

「……いっ! お母さん?」

 私、ボンタ君よりも三つしか年上じゃない……。

 ボンタ君は見た目どおり(顔のみ)十五歳だったから、私は姉くらいじゃないの?

 というか、日本で奥さんの方が三歳年上の夫婦なんて珍しくもないのに、私がお母さん?

「まあその……女将は若いのにしっかりしているからだな。包容力のある女性は、きっと男性にモテる。ワシが保証するぞ。ワシもあと五十年若ければな」

「……お爺さん、それ本気で言っています?」

「エールのお替りと、ロースを塩で!」

「誤魔化された!」

 人手不足はある程度解決したけど、まだ十八歳の私が『お母さん』呼ばわりなのには納得いかない。

 私だって、いつか普通に結婚とかしたいわけで……。


 はたして、私の白馬の王子様はどこにいるのであろうか?

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