新宿

西口から出てタクシーを拾う、暫くすると高層ビルが立ち並ぶオフィス街だ、ラジオからオアシスのシャンペンスーパーノヴァが流れてきた。曲の途中でジジッジジジッと電波が悪くなり音声が挿入された、「○○さんこれからが本番ですよ」浩はとても恐怖した。その音声は浩の悲惨な未来を予め知っていて嘲るような口振りだったからだ。

都庁前に到着する。

1階のエレベーターの脇に展覧会のフライヤーが置いてあった。浩は1枚手に取りエレベーターに乗り最上階のボタンを押す。フライヤーには今日が午前で終了することと、協賛企業がホイサーであることに目がいく。

展覧会場には誰もいなかった、もう終了してしまったのかと時計を確認すると11時33分、まだ終了時刻まで30分ほどある。浩は人気のない会場をくまなく巡る。天使の像や月の欠片や人工衛星や梯子などが展示されているのだが、会場の中央に一際目立つ異様な展示物が展示されていた。

死刑用の電気椅子が展示されていたのだ。

作品名を見てみると、「王座」と表記されていた。そして脇に「自由に座ってください」と書かれていた。

浩は何となく座ってしまう、すると意識が何かに溶け出すように遠退いていくのを感じる。


「ヒロシ!」なんだか誰かに呼ばれた気がして浩は目を覚ます。

目を覚ましたが真っ暗闇だ。

「何をしにここまで来た?」と誰かが言う。

「誰だ!?」と浩。「すでに知っているだろう、いつも近くに居たのだから」と誰か。

「俺か?」

「ふふふ、ソンザイだ」とソンザイは言う。

「何をしにここまで来た?」とソンザイは言う。

「お前に呼ばれたからだ」と浩。

「よろしい、それでは運命を信じるのだな」とソンザイは言う。

「信じるもなにも…」と浩は思う。

「折角ここまで来たのだから、未来を見せてあげよう、まずはひとつ目」とソンザイは言う。

視界が拓ける、そして浩らしい中年が写し出された。その浩らしい中年はなにやらぶつぶつ言っている、なんだか見たような場面だと耳をすますと、その中年は「わっかんね~だろ~な~わっかんね~だろ~な~」とぶつぶつ言った。浩はわかんねーだろうなおじさんになってしまっていたのだ。わかんねーだろうなおじさんは、何やら見覚えのある並木道の木に向かって、ひたすら「わっかんね~だろ~な~わっかんね~だろ~な~」と言っている、わかんねーだろうなおじさんは自分の事が分かんなくなってしまっていた。そしてその並木道は千本桜だった。わかんねーだろうなおじさんはは、首を吊り死んでしまった。

「どうだ良い死にかただろう、気に入ったか?」とソンザイは言う。「ふざけるな」と浩。「まだお前は4つ選択できる、それでは次の未来」とソンザイ。

バスの中だ何やら見覚えのある風景だ。浩はネコおじさんになってしまっていた。猫おじさんは家につき、なぜだか子猫を虐待してしまう。猫おじさんは自責の念に駆られて、千本桜に来てしまう。そして首を吊り死んでしまった。

「どうだ?」「ふざけんな」「では次」

浩は道端の植え込みで気張っていた。うんこおじさんになってしまっていたのだ。うんこおじさんは警察に捕まり。記事になり。炎上し。生活できなくなり。千本桜に来てしまう。そして首を吊り死んでしまった。

「まだ納得がいかないようだな、のこりは2つだ」とソンザイは言う。

浩は転びマンになっていた。ぶつかり男でもある。転びマンは気分よく森下駅構内でぶつかりターゲットを探していると、むかつくガキに目が行き転んでしまう、気を取り直しエスカレータで上階に上がり懲りずにターゲットを探していると、下りの階段口でむかつくガキと目が合いゴロンゴロンと階段を転げ落ちてしまう。転びマンは後遺症で生活が難しくなり。気を病み、千本桜で首を吊ってしまった。

最後に浩がなった人物は、浮浪者であった。浮浪者は計画を練っていた。要人の暗殺計画だった。実行に移し国は内戦になってしまったのだが、浮浪者はその前に千本桜で首を吊ってしまった。

「さあ、どれかを選べ」とソンザイは言う。

浩は怒っていた、「なんで俺ばかりこんな目に会うのか?」浩には分からなかった。

「なんでこんな目に会うのか教えてやろう」とソンザイは浩の心を見透かして言う。

「お前は、イチブに甘んじないつもりだからだ」とソンザイ。

「私が全部であるので、お前はイチブである。であるので全部を志向するお前は見せしめとして、ひどい死にかたをしなくてはならないのだ」ソンザイは浩の声色をコピーしてそう言った。

「ふざけるな!」と浩。「俺は俺だ他の誰でもない!」と浩は言う。

「それでは世界を変える他ないな」とソンザイ。

浩はブラックホールの内部に飛ばされた。とてつもない重力を感じる。世界の全ての情報が中心に向け収束していく。浩はその全ての情報を否定しようとする。もちろん浩の情報も含まれていた。自分の情報も否定するとエネルギーが減るが、浩は全てを否定した。最後に残った情報には否定が貯まりきっていた。それをさらに否定すると。浩はとてつもないエネルギーを得た、浩はイベントホライズンを内側から突き破り。系の宇宙を飛びだしエネルギーだけの宇宙に到達した。


…「お客様、そろそろ閉館の時間ですので」聞き覚えのある声で目を覚ますと、学芸員の美里が浩にモーニングコールをする。

「美里さん?」と浩、美里は少し驚いたように「はい」と答える。「なんでここに?」と浩、「え?」と美里。

浩はなんだかばつが悪くなり展覧会場を後にする。

帰りはタクシーを使わず歩いて帰る。懐具合もあったが、達成感で肩で風を切って歩きたかったのだ。

なんだかおかしい、行き交う人行き交う人がマスクをしている。「はて花粉の季節は終わったが」などと思いながら浩は新宿駅に到着する。構内が騒然としている。どうやら人身事故があったようだ。携帯が震えた母からのメールで「父コロナから回復」とあった。浩は「コロナ?ビールかな?」などと思いつつワンセグでテレビを見ると、人身事故のことをやっている。

テロップに怪現象か?!などとある、また浩ははてなとおもう。

「さてコメンテーターの田沼さんいよいよ分からなくなってきましたね」

「そうですね」

どうやら、お昼頃、新宿線の一之江駅下りと神保町駅上りで人身事故があったのだが、同時刻に起き、人物の容姿が同一人物出はないかと言うほどにており、その上…消えていなくなってしまったようなのだ。

そして飛び込み際に2人とも「わかんねぇ~だろ~な!!」と叫んだらしい。

「生活アドバイザーの田沼さん、どう言うことなんでしょう」と司会が言うと、田沼さんは「全く、わかりませんね」と答えた。

浩はテレビでどうやらコロナとはウイルスの事で、感染症が流行っていることを知り「これで、引きこもりが捗るな」などと思いつつ、大江戸線で森下まで戻ろうと大江戸線に乗ると。前の席に美里が座っていた、美里は本を読んでいる浩と目が合いニコッと笑う。

本のタイトルを見ると「ハレンチ大江戸線」と書かれていた。

浩は「やれやれ…」と思った。


「完」

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パラレル新宿線「プロット」 源ガク with ネコさん and 妻 @GakuMinamoto

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