第7話
俺は浜辺典明、42歳。妻と16歳の娘と14歳の息子の四人家族。
そしてここ、『chillin』のカフェオーナーだ。
『chillin』は午前8時開店。比較的ここは楽な方だが、カフェは朝が1番忙しいため余裕を持って7時頃に出勤している。
この店は木々が生い茂る山の麓にガソリンスタンドと隣接している。
露が緑を白くさせ、混ざり合い、溶けていく。
そこで思いっきり息をすると、文字通り森を吸い込める。
7時32分、松田さんが出勤してくる。
「店長、おはようございます。」
「松田さん、おはよう。」
準備を終え、開店を待つ。
毎日これの繰り返しだが飽きはしない。
同じ味のコーヒーが出来ないように
同じ日は産まれない。
一日一日に、丁寧に名前をつけてしまいたくなるぐらいに今は幸せだ。
そして今日も昨日とは全く違う一日だ。
松田さんの様子がおかしい。
俺は昔から人の機嫌を伺う癖がある。
そのため、人のちょっとした変化にも気づく。
それは外見にも内面にもだ。
だから一個俺は気づいてる。
柳田くんは松田さんが好きだ。あれは間違いない。というかぶっちゃけみんな気づいてるはず。あまりにも松田さんが鈍感すぎる。
あんなの好きって言いながらキスしてるようなもんだ。それぐらい分かりやすい…と言いたいけどそれは逆に分かりずらい。
人は散々、ハッキリとした解を求めたがる癖に
返ってくるとまず最初に出る感情は疑心だ。
人にとって求めるという行動が1番楽なのかもしれない。
…まぁそれは置いといて、松田さんの悩みの種はそれかな?
でも前々から思ってたが、松田さんの悩みってのは木のようになってしまってると思う。
主軸の悩みがあって、そこから連鎖して枝分かれ的に悩みがまた産まれる。
その枝の一本が柳田くんだ。
てことは仮にその枝を切る、つまりは悩みを解決したとしても、その根本的な幹の部分は何も変わりはしない。また産まれるだけだ。
そしてだ。その幹を切れるのは俺がわかる範囲なら柳田くんだけなんだ。
その幹が枝を産むなら、幹に何かを出来るのは枝だけだ。
俺は枝が切れるんじゃなく枯れないようにすることしか出来ない。
だから俺は全力でそれを全うする。
なんでこんなにも彼女を助けようとするかだって?
簡単な話だ。俺と彼女は似てるんだ。
弱さを悪と捉える。
俺と同じ考えだ。
死を終わりだと思っていない、
むしろ始まりだと。
「松田さん、なにか悩んでいるのかい?」
「…どうしてそう思ったんですか?」
「顔、以上。」
「適当な理由ですね…まぁ…半分正解ですけど。」
「半分?」
「どちらとも言えないんですよ
悩んでいないように思えるけどどこか苦しい。
フワフワとしているように見えて重いんですよ。何かが。」
コーヒーを2杯、机に置く。
置いた振動でコーヒーに波が流れる。
「ここはカフェにしては珍しく朝は空いてるからさ。ちょっとゆっくり話そうか。お互いの昔話もついでに。」
「長くなりますし、つまらないですよ。」
「お互い様だよ。誰だって致命的に心が欠けてる。それをあたかも無傷のフリをするから辛くなる。」
「じゃあ、ちょっと時間をかけて。」
コーヒーとガソリン お茶 @ocha0725
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