第18話
朝、太陽が昇ると同時に魔法をかけた時計が鳴る。昨日、食料と苗を届けるために村から村へと転送魔法を繰り返したため少し頭が痛い。ムクっと起き上がり顔を洗って外へ出る準備をする。ちょうど支度が終わった頃にヘレナがリアの私邸に来たようだ。
「マグノリア様、おはようございます。お迎えに上がりました」
同じ施設で同じように暮らしていたが、ダリアステラのルールは実力主義で魔法などの戦闘能力や座学、つまり頭の良さで階級が決まる。ヘレナはリアの部下だ。施設で暮らしている間に勉強や訓練を欠かさずしていたリアは成績が認められ小隊長の役割を最年少で与えられた。そしてたった数年で三大将軍まで上り詰めた。あまりに早い出世に宰相と夜を共にしたから出世できたと根も歯もない噂をする輩もいた。
「今日は宰相と三大将軍との会議があります。そして……」
ヘレナはその後の予定を淡々と読み上げる。朝から忙しくなりそうだと覚悟を決める。野菜の苗の品種改良の結果報告や苗を配った村から成長具合の報告書など目を通す書類が山ほどある。
「……と今日の予定は以上です」
「え?以上?午後からは?」
会議が終わってからはデスクワークで会議が長引かなければ昼過ぎにはなんとか終わる量だ。
「今日の仕事が終わったらソティアラとダリアステラの国境近くのナーティアへ行って視察とのことです」
視察?あそこはソティアラの唯一のリゾート地ではなかったか?と疑問符を浮かべる。するとヘレナがニカっと笑って言った。
「宰相からの伝言です。苗の品種改良ご苦労だった。褒美に今日の午後から明後日まで部下を連れて休暇を取るように。だそうです!」
「え!?休暇?二日と半日も?」
「そうなんですそうなんです!宰相ってば太っ腹ですよね~」
「休暇明けに仕事が山積みになるくらいならいらないよ」
「あー!仕事人間ですね!今は休暇を楽しみに仕事を終わらせましょうよ!会議中に勝負水着とか買っておきますから!」
ヘレナはナーティアで男を捕まえる気満々だ。
「あんまり派手なの選ばないでよね」
「マグノリア様の素材を生かした素敵な水着をご用意いたします!」
私邸を出てダリアステラのモンタナード城へ向かう。城へ入り長い廊下を歩き、王がいる謁見の間の近くに会議室がある。会議室に入るとまだ誰もいなかった。席につかずに部屋にある資料に目を通したり観葉植物を眺めていた。扉が開き宰相の右腕ジークリート・レッサーが入ってきた。
「リア、久しいな」
「レッサー将軍、おはようございます」
「かしこまらなくていい。昔のように兄上と呼んでくれ」
施設にいるときからジークリートを兄のように慕っていた。最近は仕事でしか会わないので『将軍』と呼ぶことがほとんどで兄と呼ぶ機会がなかった。
「はい、兄上もお変わりないようで安心いたしました」
「血が繋がってないのに、また家族ごっこか?」
嫌味を言いながら会議室に入ってきたのは大魔法使いのアロイジウス・ダッケである。先祖代々モンタナード王家に仕える魔法持ち一家の当主である。まともに言い返しても面倒くさいので無視している。
「このアロイジウス様を無視するとはなんだ!!」
「これこれ、喧嘩はやめんか」
アロイジウスがブチぎれている後ろからグレゴール・ブルツェンスカ、この国の宰相が呆れて登場した。三人とも慌てて忠誠を誓うように膝をついた。
「うむ、それでは会議を始めよう」
会議室の扉がバタンと音を立てて閉まった。
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