第17話

 五年後


 ソティアラとダリアステラの関係は悪化し、各地で紛争が起きている。砂漠地帯が国土のほどんどを占めているダリアステラはソティアラの豊かな資源を求めて国土拡大を目論んでいる。共に学んだ魔法持ちの子供たちは、それぞれの得意分野を活かしダリアステラのために働いている。リアも例外ではなくだ。村でお腹を空かせた子供が泣いている。そんな村で一際目立つ服装をした女が二人。村人は二人を見て、こう叫んだ。


「マグノリア様だ!マグノリア様が帰ってこられた!」


 村人たちは女二人を神様のように崇めた。


「みんな待たせたね、少しばかりだけど食糧を用意したから分け合うように」


 そう言って荷車を魔法で動かした。荷車の上には芋や米、野菜がびっしりと箱に入っている。


「いつもありがとうございます。我々はマグノリア様のおかげで生活できております」


「気にしないで。国民の命を守るのも我々の仕事です。荷車の中に品種改良した苗も入れているので育ててみて。今回は育つといいのだけれど」


 植物が育つ環境ではないこの村は食糧難が特に酷い。村人への食糧提供も苗の品種改良も独断でやっている。もう一人の女が


「マグノリア様。品種改良した苗、育つといいですね」


「今はリアでいいよ。仕事じゃなくてほとんどプライベートだし」


「リアはほんと立派だよ。任された地域全部に食糧や苗を差し入れするなんて」


「急にどうしたの?」


「こんなに頑張ってるからご褒美あってもいいのにね!例えば元婚約者に再会するとか!」


「へレナ、無理だよ。私ダリアステラの将だよ?再会してもお互い立場があるから意味ないよ」


 そう、きっと彼はソティアラの騎士になっているはず。対立している国の人間同士、再会してもお互いの立場に思い悩むだけ。


「それにもう終わったことよ。さ、次行きましょう」


「確かにお互いの立場で思い悩むかもしれないけど、障害があればこそ恋は燃え上がるのよ!」


 へレナはなかなか情熱的な女性だ。リアの後を追いながら恋について語る。ダリアステラに来てからは魔法が使えることの喜びや知識欲で本にかじりついて勉強した。恋愛なんて二の次だった。今はダリアステラの将を任されて更に多忙な毎日を送っている。


「縁談の話とかもちらほらあるんでしょ?私にすら縁談話きてるわよ」


 確かに縁談の申し込みの手紙も増えてきている。全て目は通しているが、気が進まないのでずっとそのままである。結婚にあまり良い印象を持ってないせいかもしれない。


「まぁ、きてるけど……私は結婚よりこの国の民を少しでもマシな生活を送れるように頑張りたいかな」


「ダリアステラの将としては模範解答ね、ほんとに仕事人間だなぁ」


 モラレス家にいた頃は未来が決まっていた。そこにはリアの意思なんて関係なく、ただ道具として生きていた。だが今のダリアステラの将としての生き方は気に入っている。完全な自由はないがダリアステラの将として働くなら他は何をしててもいい。とても人間らしく過ごしている。ダリアステラはソティアラやアルガナントからみれば悪いことをする国である。しかし貧困や国に豊かな資源がないから略奪を繰り返しているだけ。


(この国が略奪や戦争をしないよう、そしてソティアラにいる彼がせめて戦争で誰かを手にかけないようするのが私の使命だ)

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