普通メイド外伝 貶められ処刑される公爵令嬢の少女と黒猫の暗殺者

水篠ナズナ

普通メイド外伝 貶められ処刑される公爵令嬢の少女と黒猫の暗殺者

 14歳の少女がよろよろ歩いていた。少女は国で二番目に偉い公爵家の令嬢のはずだった。だけど今はどうだろう、ボロボロの服を着せられ体中あちこち傷だらけになっており魔力封じの縄で腰と手首を縛られ、前と後ろの人と繋がっている。


 そして処刑場へと繋がる道を列をなして歩いていた。


 少しでも止まればムチで叩かれる。ここにいる人達は少女を含めみな無機質な目をしていた。


 少女の家は悪意ある者に陥れられてしまった、彼女の家に味方する者や親族全て100人近い貴族と使用人たちが国家転覆の罪をきせられ処刑される事になった。


 使用人達の中でも脅されたり生き残る為に嘘の供述を迫られ証言してしまう者も多かった。公爵家の立場はどんどん悪くなり主犯として認定され、たった3日でお家取り潰し、5日で処刑が決まった。


 あぁもうすぐ死ねる、やっとこの地獄から解放される。少女は見えてきた処刑台を前にしてそんな風に思っていた。


 そして処刑台ではまさに今、兄の処刑が行われようとしていた。罪状が読み上げられると大きな斧を持った屈強な男が斧を振り下ろし、兄の首が飛んだ。


 だがその光景を目の当たりにしても少女は何も思わなかった。わたしも早くああなりたいとばかり思っていた。


 父は王宮に抗議をしに行くと言ったっきり帰って来なかった。母はわたし達だけでも助けようと奔走したが裏切りにあい、嬲られ殺された。


 わたしの番まで後少しだ。少女の無機質な目に光が戻り、迫りくる死を今か今かと待ち望んでいる。


 少女を見張り役の男達が見ていた。


「おい、あれって公爵家の令嬢だよな」

「あぁ、噂以上に可憐だな。殺すのが勿体ない」


「どうせ殺すんだから遊んでからでも遅くはないんじゃねえの」

「そうだな、そうしよう」


 男達は少女を列から切り離すと、代わりに奴隷の少女と入れ替えられた。奴隷の少女も無機質な目をしていた、死ぬのを望んでいるようなそんな眼だった。


 男達は少女も奴隷の少女もボロボロな為、見分けがつかないと思ったのだろう。周りの人はその光景をみても何も言わず、すぐに視線を処刑台に戻した。


 少女も男達にひきずられながら、いつまでも処刑台を見つめていた。 


 あぁ死にたい。


 少女はまた酷いことをされるのだと覚悟した。大人しくしていればすぐに死ねる。痛い思いをしないで済む。


 少女の生きる希望は、死ぬことだけだった。


 そんな少女を男達が眺める。


「こいつ何も言わねぇな」

「いいじゃねえか大人しくて。顔と身体が良くて、俺たちが楽しめればいいんだよ」


「俺たちの仕事が終わるまで大人しくしとけよ」


 男達は少女を小屋のベットに縛りつけると処刑場へと戻って行った。 


 少女にはこの時3つの選択肢があった。


 男達は縄をきつく縛らなかったので、ほどいて逃げ出す事ができた。しかし魔法で体の傷は癒せても心の傷まで癒すことは出来ないので、少女は1つ目の選択肢を捨てた。


 2つ目の選択肢は縄をほどき、刃物やガラスなどで自分の首を掻き切ることだ。


 だが14歳の少女に自分の首を掻き切る勇気はなかった。2つ目の選択肢も捨てた。


 少女は3つ目の選択肢を選んだ、男達の慰み者になりその後処刑される道だ。彼女にはこの道が一番良いと思えた。追われる恐怖もない、自分で首を切る恐怖もないからだ。


 もう少女に生きようという気力は、残って無かった。


 今頃誰が死ねたんだろ? 庭師のトムさんかな? それともメイド長のアンかな。少女は思いつく限りの知り合いの名前を口に出した。最後に思い浮かぶのは妹のメイのことだ。


 もう殺されてしまったのだろうか、処刑場で離されてから2日の間、食いしん坊のあの子は飲まず食わずで生きているのだろうか?


 あの子は有能な固有能力を持っていたから保護されているかもしれない。少女は妹の無事を切に願った。


 その時、扉が開き男達が入ってきた。


「待たせたな、公爵令嬢様。アンタのお友達の処刑はみんな終わったぜ」

「へへっもう我慢できないや」

「俺たちを楽しませてくれよー」

「その後、しっかり殺してやるからな」


 男の一人が少女に覆いかぶさり、少女の顔や身体、手足を舐めまわした。


 少女は身動き一つとらなかった。あぁ今から痛いことされるんだなとばかり思っていた。


 縄をほどき少女の服を脱がし仰向けにすると彼女の隠されていた部分が露わになった。均整のとれた肢体は白く、細い。十代半ばにもかかわらずくびれた腰と胸に実っているそれなりの果実は男達を喜ばせるには十分だった。


「うひょー。こいつは上玉だぜー」


 男達も自分の準備を始めた。少女は魔法を使えるようになり、無防備な男達に魔法を浴びせることもできたが……する事はなかった。


 準備を終えた男達がこちらに向かってくる。少女がいよいよだと覚悟した時、外から悲鳴が聞こえた。


「な、何事だ!」


 男の一人が下だけ履き外に出ると、男の首が飛んだ。


「ん? こんな所にもいたのか。お楽しみ中のとこ悪いな俺も混ぜてくれよ」


 黒服に包まれた青年は扉の奥にいたわたし達に向かって言った。その目は新しい獲物を見つけたのかのようだ。


 青年、少女からみたら青年に見えたが彼は20は超えている大人の男性だ。だが彼の口調のせいか不思議と青年と認識してしまった。


「お、お前黒猫の…」


「おや、俺たちの事を知ってるのか。だったら話が早い、死んでくれ」


 少女は思いました。尻尾も猫耳もないのに何故黒猫なのでしょうと。


 あぁ、確か暗殺者ギルドの名前がそんな名前だった気が。


「くそ、かかれ!」


男達は下着だけ履くと、剣を取り青年に斬りかかった。


「遅いし、気持ち悪いよ。おじさん達」


 青年の発言に、少女は確かに気持ち悪いと思いました。


 一瞬で男達の首が吹き飛び、男達の首がごろごろと地面に転がった。


 青年は私の元へ来た、きっと私の事も殺してくれるのだと思った。だが青年は私に服を投げ掛けてくれた。


「遅くなってごめんな、依頼で処刑場を破壊し、君達を逃す筈だったんだけど……邪魔が入って間に合わなかった。君だけでも助かってよかったよ」


 青年は少女に手を伸ばした。


「俺の名前はジーク。君の名前は?」


「わたし、わたしの名前はアメリア」


 少女は青年の手をとった。少女の眼は希望で満ち溢れていた。

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