「寂しい、寂しいよ」〈マイ×リラ〉

マイ side


"別れましょうか"


去年のクリスマス。


別れ際に彼女がそう言った。


理由は教えてくれなかった。


"別れよう"そう言った彼女の目は、どこか覚悟を決めた目をしていた。


その目に何も言えなくなって、別れた。


彼女とあったのはそれが最後。


飲み会にも来なくなったと、彼女の先輩であるりぃなから聞いた。


気づくと年が明け、バレンタインも過ぎて、私の誕生日が近くなった頃。


リラから、一通の手紙が届いた。


書いてあったことは、






・元々、持病があったこと。


・もう余命がすぐそばまで迫っていること。


・入院している病院の住所。



の3つだった。




私は手紙を読んで、すぐ家から飛び出した。


タクシーを拾う時間ももったない。


とにかく彼女に会いたくて、必死に走った。


受付で病室を尋ね、また走る。



途中で看護師の止める声が聞こえたが、無視して走った。


息を整えることも無く、病室のドアを開けた。



その音に驚いたのか、びっくりしたような顔で私を見る、以前とほぼ変わらない彼女の姿がそこにはあった。


窓から差し込む光に当てられて、綺麗にひかる銀髪も、日本では珍しいオッドアイも、私を見上げる低い背も、くしゃっとした顔で笑うところも。


…ただ1つ、変わったことがあるとするならば、強く抱きしめたら折れてしまいそうだった細い体が、さらに細くなっていたこと。




彼女は枝のようになってしまった腕を私の方に伸ばして、


「手、握って?」


と、小さく言った。



その手に、優しく自分の手を重ねると、私の大好きな、くしゃっといた笑みで


「ありがと」


と言った。





そこから数時間。


私たちは色々なことを話した。


離れていた数ヶ月のこと。


患っている病気がどんなものか。



日が暮れてきて、面会終了の時間が迫ってきて。


握っていた手を、名残惜しく離し、


『また来るね』


と声をかけ、病室を出た。





……余命がすぐそばまで迫っているとは思えないほど、元気に喋るリラの姿に、数ヶ月の不安はあっという間に消え去った。





























私がもう一度、彼女の病室を訪れたのは


前回訪れてから、2日後の事だった。




病院からかかってきた電話に、言葉を失った。









"リラが、死んだ"









医者曰く、私が訪れた次の日に様態が悪化したとの事。



看護師が私に電話をかけようとした所を、リラは




「あの人に、これ以上重荷を背負わせたくないんです」


と言って止めたらしい。






そして、その日の深夜に、




眠るように死んだという。










良く考えれば、私の『また来るね』


には、返事がなかった。



恐らく、リラは自分の最期が近いことをわかっていたんだと思う。


だから、「またね」と言わなかったんだろう。


















葬儀も、荷物整理も終わって、全てが落ち着いた頃。



病院から電話がかかってきた。



"リラの遺書を渡したい"


という内容の電話だった。





正直言ってしまえば、要らなかった。


貰ったら、きっと彼女を思い出してしまうから。




だけど、それを言う訳にもいかず。


重い腰を上げて、病院へと向かった。






前のように走りはしなかった。


ゆっくり、ゆっくり。


歩いていった。




道端には、今まで気づかなかったが、リラの好きなマリーゴールドがたくさん植えられていた。




それがまた、彼女を思い出す材料になって、少しだけ早歩きになった。





病院に着いて、すぐ別室へと通された。



彼女の遺書を貰って。


彼女の病気についても聞いた。








家に帰っても、その遺書を読む気にはなれなかった。


ようやく、落ち着いて、夜泣くことも少なくなったというのに。










ベッドに寝転がって、ボソリとつぶやく。








『私って、リラがいないとなんにも出来ないんだよ?













寂しい。寂しいよ、リラ』








その声は届くことなく、天井に反響して、消えてった。

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END @wisteria_Rira

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