第4話

 ユリウスは汗をかきながら質問を受けた場所から離れると急ぎ服装を変えるべきだと考えた。季節は冬に差し掛かっているのか、やけに寒い。ユリウスがいた場所は四季があったが、他国では年中冬が続く場所もあると聞き及んでいたため、移転してしまった可能性があるのではないかと考えていた。


 早く主のもとに戻らなければならなかった。時間が経過するほど代償は大きい。

 彼女は凍えており、切実に屋根のある暖かな部屋が欲しかった。しかしないもの強請りだ。着替えも必要だったが、チラリと買い物客を確認したところ通貨が違っていた為成すすべがない。換金所を探して悪目立ちすることは避けたかった。


 彼女は薄暗い道を練り歩くと明かりの灯っていない家や部屋を探して回った。ようやく人気の無い場所で三階建ての借家らしき建物の二階で、不用心にもカーテンと窓を開放したたまの部屋を探し当てた。

 少し遠くから部屋の中を確認し人気がなさそうだと分かると、向かいの建物から地面へと降り立ち素早く狭い階段を登る。音が響かないように注意を払いながら登りきったユリウスはもう一度周囲を確認すると、手すりを乗り越えて細いサッシに足の指先を掛けるとそのまま身軽に上手く突起を使って窓へと手を掛けた。慎重に聞き耳をたて気配を探るが、何も感じられないため身を乗り出して頭から部屋へと侵入した。


 さっと部屋を見渡して屈んだユリウスは息を殺して歩を進めた。物の多い部屋だった。多少片付けられているようで足のふみ場はあったが、本や植物、ランプに置物、テーブルが二つに大きなベッドが一つ、椅子が五脚に空の花瓶が幾つか。ざっと確認しただけでも倉庫のような部屋だった。

 テーブルの上には書類や本が山のように積まれており、崩れないよう更にその上から木の板が重しとなって乗せられ、上に衣装などが折り畳まれて無造作にあった。見ているだけで体が痒くなりそうだが今更だ。今夜は別を探す気力は無かった。


 ユリウスは銀製の燭台から蝋燭を一本抜き、マッチを一本拝借してカーテンを閉じると火を灯した。クローゼットを開けると洋服もびっしり詰まっていた。ある程度種類が別れているようだったので、適当な袋を探して着られそうなものを片っ端から詰め込んだ。加齢臭がするため、老人が部屋の主だとユリウスは考えていた。ものを溜め込みすぎているため、減っても気がつくのが遅れれば運がいい。


 その場で着替えを終え、減っても分かりにくい未使用と使用済みの蝋燭の束や使えそうなガラクタを最後に袋に入れたユリウスは隣の部屋へと赴き、窓から外を確認して玄関の鍵を開けると一旦荷物を置いて再び部屋へと戻り鍵を掛け、窓を開け出て手すりを越えると袋を回収した。


 ユリウスは足早に来る途中で確認していた空き家へと侵入してその夜はそこで身を丸めて寝て過ごした。隙間風の吹く家で、外と対して変わらない場所だったが、濡れないだけましだろう。そう考えながら穴の空いた天井を見上げて彼女はきつく目を閉じた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Roses of the past 照手白 @terutesiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ