第3話「探索」

《アルディク近郊・ラトの森》



「あなたって、結構向こう見ずよね……」


「そんなつもりはないんだが……いやでも、周りから結構咎められるし、実際そうなのか?」


 呆れ気味にため息をつくレイフィアに対し首を傾げつつ答える。俺達は調査の旨とロザリー達への伝言をエリンさんに伝えた後、襲撃の報告を多く聞いた森林地帯にやってきていた。


 王都周辺もそうだったが、このあたりは森林地帯が多い。緑豊かなのは結構なことだが、それは同時に奇襲をかけやすいとも言える。少しは警戒しておいた方がよさそうだ。


「にしても静かだな。まさかここには居ないなんてことは……」


「私としては、何も無い方がありがたいけど。」


「って、そういえばお前は、別に付いてくる必要は無かったんだぞ?」


「あら、いいのかしら?面倒を見るって言っておきながら、私を置いてけぼりにするって事になって……」


 ジトッとした目線を送ってくるレイフィア。そういえばそうだった……我ながら、とんだ墓穴を掘ってしまったものだ。


「ぐ……わかったよ。あんま離れすぎるなよ。」


「わかればよろしい。」


 一応警戒しながら進むものの、盗賊はおろか魔物の気配すらないまま森の奥深くまでやってきた。


「随分奥まで来たが、ここまで何も見当たらなかったな。」


「やっぱり偽情報だったのかしら……」


「そんなはずは……ん、待ってくれ。この辺り、空気の流れがある。近くに洞窟があるみたいだ。」


「そうなの?どちらにしても、日が沈まないうちに調査してしまいたいわね。」


 急ぎ足で森を進み、歩いて1分と経たないところで、予想通り洞窟を発見した。入口の前には門番らしき盗賊が2人。ビンゴだったようだ。


「どうやら当たりみたいね……」


 小声で話しながら、少し緊張気味に剣の柄を握るレイフィア。それを手で制し、少し下がらせる。


「ここは俺に任せとけ。」


 地面に手を当て、見張りの足元に意識を集中させる。


「吹っ飛べ……ガスティーライズ!」


 見張りの足元から爆風が巻き起こり、空高く吹き飛ばす。そこへ瞬時に接近し、延髄に納刀したままの剣を撃ち込み、二人を気絶させる。


「悪いな、寝ててもらうぞ……レイフィア、もう大丈夫だ。」


「あなた、魔術の心得もあるのね。それに今、詠唱してなかったような……」


 驚いた様子のレイフィアが茂みから出てくる。


「くだんのユーノに教わってな。少しくらいは使えるんだ。おまけに妙な体質らしく、詠唱が要らないらしい。」


「無詠唱で術が使えるなんて聞いたことないわ。それもあるけど……」


 何故かレイフィアが物凄く怪訝な表情でこっちを見ている。


「え、なんでそんな信じられないものを見るような目を?」


「今の……ガスティーライズだったかしら?実はスカートめくりに使おう、みたいな不埒な理由で作ったんじゃないでしょうね?」


「お前俺の事なんだと思ってんの!?」


 ……ちょっとは考えたけど、さすがに倫理的に問題あるからやらねーよ!




《ラトの森・洞窟》




「ここからは遭遇戦だ。見張りの力量から察するに、練度はさほど高くないと見える。奇襲に注意しながら一気に制圧するぞ。」


「了解。やってやるわ!」


「気合十分だな。それじゃあ行くか!」


 あまり広くない洞窟なのでいつもの剣は使わず、鞘に納めた短剣と体術で敵を無力化していく。レイフィアも同様の方法で戦いながら、洞窟の先を目指す。


 しかし、足を引っ張るかと思っていたのだが、こいつ……ぎこちなくはあるが、俺に動きを合わせてきている。出会って数時間どころか、戦っている姿を見たのは一度きりだというのに、俺の動きを読んで、更には連携を試みるとは……。


「お前、想像以上に動けるな。流石にここまでとは予想してなかった。」


「言ったでしょ?いつの日か旅に出るために、色々学んだって。これもその一つってこと!」


「それは素直に頼もしいな。この先もあてにさせてもらうぞ。」


「ふふ、あんまり期待はしないでほしいんだけどね……」


 笑顔を見せるも、余裕がない様子のレイフィアを気にかけつつ、洞窟の探索を再開する。道中は要所要所で会敵するものの、連携を活かした戦術で敵を次々と撃破していく。


 戦術は単純なもので、俺が敵に速攻で奇襲をかけて敵の注目を集めたところでレイフィアが死角から追撃。混乱した敵集団を二人で一気に制圧するというものだ。……と、今しがた倒した敵集団の一人が気になるものを所持していた。


「この盗賊が身に着けてるの、何かの鍵だな。」


「同じような鍵がいくつも……牢とか檻の鍵じゃないかしら?」


「俺も同意見だ。よし、近くを探してみるか。」


 予想した通り、少し進んだところに檻があった。盗賊たちに捕まった市民や商人が監禁されているが、身代金目当ての誘拐か……?


「あ、あなた方は?」


「ただの冒険者だ。アルディクで話を聞いて、助けに来た。」


「ここから出ましょう!立てますか…?」


 錠前を開放し、人質を解放する……が、妙な気配を感じた。これはまさか……念のため、手を打っておくか。


「レイフィア、彼らを安全な場所へ。」


「わかった。って、あなたは?」


「俺はこのまま先行する。それから、ちょっとこっちに。」


 少し離れたところでとある『作戦』を説明する。彼女は最初驚いた様子だったが意を決したように、


「…!わかった、やってみるわ」


力強く頷き、人質の避難誘導を開始した。さてと、俺は俺で責務を果たさなくては。


「こっからは駆け足だ……!」


 補助魔法で足に風をまとい加速、急いで最深部を目指す。途中で巡回中の盗賊に何度か遭遇したが、相手が身構える前に体術で瞬時に打ち倒し、勢いを殺さずに猛進していく。……見えた、ゴールだ。




《洞窟・最奥部》




「これはこれは、奇妙な事が続くものだ。ここには潜伏して間もない筈なのだが……また、招かれざる客の到来とはな。」


 洞窟最奥部の開けた空間。その奥の方に盗賊団のリーダーらしき男が、やれやれと言わんばかりの様子で待ち構えていた。


「突然の訪問ですまないな。すぐ帰るから、おもてなしはしないでくれて結構だ……ところでお前、今『また』って言ったか?」


 よく見ると男の隣に縄で縛られた見覚えのある人影が……。


「あー!ゼクトではありませんか!おーたーすーけーー!」


 幸か不幸か、目下捜索中のユーノを発見した。もしかしたらと思って来てみれば案の定、捕まっていた。


「探したぞ疫病神。あんまり遅いもんだから、迎えに来ちまった。」


「誰が疫病神ですか!私はただ、道端で見つけたウサギを追いかけていたら、ここにたどり着いただけなのです。そしたらこの人達に捕まったんです!」


 ……なんかもう、いいや。放っておこう。


「――さて、あんたが盗賊団の頭ってことでいいか?」

(「無視ですか!?なぜ私の言い分を聞いてくれないんですか!」)


「フム、まぁそういうことになるな。」

(「完全に聞き流してますね!わかりました大人しくしてますよ!ふーんだ!」)


「なら話は早い。そこにいる奴は俺の連れでな。悪いが返してもらおうか?」


「好きにしろ……と言いたいところだが、嗅ぎまわられると面倒なのでな、悪いがお連れ様共々、大人しくしてもらおうか。」


 不敵な笑みを浮かべつつ、男が杖を構える。


「おっと言い忘れていたが、お前は既に我が術中にはまっているぞ?」


「……どういうことだ?」


「小僧、お前は疑問に思わなかったか?これほどまでに衛兵の目を掻い潜って、強盗や誘拐を繰り返すにも関わらず、今までその影すら捕らえられなかったほどの盗賊団が、この程度の練度なのか……とな。」


「……そうか。道中の盗賊たちは、囮だな?」


「ご名答。そして今頃は道中に伏していた本隊により、退路は絶たれているだろう。お前は獣の胃袋に自ら入り込んだ哀れな獲物というわけだ!実に愚かな話ではないか?」


「あとは消化されるだけだとでも?ったく笑えない冗談だな……!」


「さて、おしゃべりはこのくらいにして、覚悟を決めてもらおうか?」


「チッ……!」


 投げナイフ状の炎魔法を素早く放ち、先手を打つ。しかし不意打ちをかけるには遅すぎたらしく、難なく回避されてしまう。


「ほう、詠唱せずに魔法を放つとは珍しい。しかし威力はないな……特殊ではあるが、貴様自身の魔力は高くないようだな。」


「まぁ、本職はこっちだからな!」


 抜刀し、敵が飛ばしてきた氷塊を斬り払いながら距離を詰め、接近戦に持ち込む。やはり魔術師なだけあって接近戦は苦手らしく、近づけばこちらが圧倒的な優位に立てる。しかしさすがに対策はしているようで、うまく牽制されてその間に距離をとられてしまう。


「フハハハ、もう少し足掻いてみてはどうだ?この堂々巡りを繰り返しているうちに、増援が来てしまうぞ?」


「チッ、時間稼ぎばかりしてくれるな……!」


「そうだ……そうやって焦燥に駆られるがいい!そして最後に、絶望に暮れる表情を見せてくれたまえ!」


「ハッ、野郎の嗜虐嗜好に付き合う趣味はねえな!」


 その後も攻撃の手を緩めることなく、フェイントを掛けて不意を突いてみたりもしたが、それらも防がれてしまった。こいつは思った以上に手練れかもしれん。


「ほう……運動量の割には、呼吸に乱れがないな。見事な体力と言うべきか。」


「その攻撃を、全部捌いて平然としてるアンタに、それを言われてもな……」


「クク、それは残念。しかし妙だな……未だに増援が来る気配がないようだが。」


「それはこっちとしても好都合だなっ……!」


 先程と同じ投げナイフ状の炎魔法を撃ち出すも、再び避けられてしまう……が、これでいい。


「フハハハ!どこを狙ってルォッ!?」


 思わぬ方向からの攻撃を受け、男が吹っ飛ぶ。男に攻撃を仕掛けたのは、先ほどまで捕まっていたユーノだ。不意打ちに見せかけて撃ち込んだ炎の短剣は、狙い通りユーノを拘束していた縄を焼き切っていた。


「チッ、最初からこれが目的で位置取りをしていたな?なかなかどうして、小賢しく立ち回るではないか!」


「こちとら結構な修羅場を越えてきた身だ。このくらい容易いもんさ。」


 会話をしているうちにユーノが武器を持って戻ってくる。魔力を増幅させる魔術結晶が両端に填められた、杖というよりは棍という出で立ちの武器を構える。


「色々言いたいことはあるが、まずは無事で何よりだ。」


「フン!あの程度私一人でも充分だったんですけどね!……まあ一応、助かりました。スルーした件も、チャラにしないこともないです。」


「そりゃどうも……こっからは連携していくぞ。前に出るから、援護を頼む。一気に逆転するぞ!」


「いいでしょう!その提案乗りました!」


「幕引きだと……クク、一人増えたところで、手遅れな事に変わりはない。潔く諦めるのだな!」


「……いいや、悪いがそろそろ『頃合い』だ。」




《to be continued...》


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