告白
「ふざけるな!! そんなのただの出まかせだ!」
激怒したグレイザードが、舞台へ上がってきました。私たちも、舞台袖からぞろぞろとリーリアを守るように立ちふさがります。
「な、なんだおまえ達は! そこをどけ! その不届きものを黙らせてやる! 」
「まぁまぁ落ち着きなさい」
頭に血が上ったグレイザードをなだめたのは、なんと彼を追いかけてやってきたサルリバーザ卿でした。
今にもリーリアに掴み掛かりそうなその肩を押さえ込んでいます。
「父さん!? 何でそんなやつをかばうんだよっ」
「かばう訳じゃないさ。ただ、取り合うのも馬鹿馬鹿しい言い分だろう。冷静になりなさい」
息子にそう正す彼が向ける目は、こちらを軽蔑し、嘲笑うものでした。
「さて、リーリア嬢。まず私の息子は今此処にいるグレイザードただ一人だ。確かに君の髪の色はサルリバーザ家特有の者とよく似ているし、魔力も高い。しかしながら、だからといって娘と言い張るのはどうかと思うよ。」
呆れたようにわざとらしいため息をこぼすサルリバーザ卿を見て、同じようにため息をついたのはリーリアでした。
「じゃ、まずそこのおバカさんが私にした嫌がらせの証拠見せますねぇ。はい、オープン」
彼女はそういうと、懐から記録石を取り出し起動させました。するとそこには、生徒に金を握らせて嫌がらせをしている一部始終がしっかり記録されていたのです。
「へへ、俺様とリーリアが早めに来て張り込んだ成果だぜ」
いつのまにか降りてきたロロが、ニヤリと笑いながらそういっていました。現在ロロの姿は、リーリアが許可した人にしか見えないようになっています。本当に便利な能力ですね。
さらに記録石の映像は続き、机の落書きや、荷物が隠されたり、ひどいときは水をかけたりなどがあります。……ここまでひどい嫌がらせを受けていたなんて、知りませんでした。
「安心してください。記録してないだけで、そのあとやり返してますから」
映像を見て心配していた私へ、リーリアは小声で教えてくれました。やり返すなどと逞しいことをいっていますが、だからといって平気なわけではなかったはず。
リーリアの今回の復讐劇への熱の入りようもそうですが、どうやら自分の因縁に決着をつけたいのでしょう。だからこそ、辛い虐めにも耐えられたのです。
「まだ続きますけど見ますぅ? 観客がそろそろいやがると思いますかぁ?」
わざとらしくリーリアが観客の方へと目を向けます。確かに、観客のざわめきはよりいっそう大きくなっています。このままでは騒ぎになりかねません。
一方グレイザードはと言うと、顔を真っ青にして言葉を失っています。ここまで撮られているとは思いもしなかったのでしょう。またサルリバーザ卿が彼へどんな顔を向けているかはわかりませんが、ひどく怯えています。
サルリバーザ卿はこちらへ顔を向けると、申し訳なさそうに頭を下げました。
「愚息がとんだ失礼を。これは親として申し訳がない。此処に謝罪すると共に、すぐにやめさせよう。今、グレイザード家の名にかけて、君にこれ以上ひどいことをしないと約束しよう。」
当主としては当然の動きを見せましたが、リーリアは納得していないようです。ちらりとお嬢様をみると、今にも爆発しそうです。彼女の手前必死に我慢しているのでしょう。
誰しもが思うはずです。その程度の謝罪で済まされるべきものではないと。
「もちろん、きちんとお詫びはさせていただく。だからこれ以上、騒ぎを広めないでいただきたい。君の気持ちは尊重するし、私をいくら罵倒しても構わない。しかしここには無関係な観客がいる。此処からは私たち二人で話をしないかい?」
ここまできて、観客の反応は二分してきました。対応が不十分だと言う声と、関係のないやり取りをみたくないと言う声です。半分はこちらに興味が失せているという結果の現れでしょう。
「……さっき、子供はそこのグレイザードただ一人って言いましたよねぇ。悲しいですね、私のことは否定するんだ。」
「それとこれとは話が別だ。大体、証拠もなにもないのに言いがかりをつけてきているのはそっちだろう。息子の不始末はこちらが全面的に悪い。君はこれ以上何を望むんだい?」
まるで話を早く切り上げさせようとしているサルリバーザ卿に、リーリアは俯き、拳を握ると顔をあげました。
「望むのはあんたがお母さんを無理矢理襲ったって認めることだよ!!」
彼女の怒鳴り声が、マイクを使わずとも観客へと届きました。この事実に、私たちすら動揺を隠せません。
たしかリーリアの母親は、大金を詰まれて仕方なく一夜のみの営みを行った、と聞いていましたから。
「な、何を馬鹿げたことを! 今すぐ撤回しろ!」
「いいや撤回しない!! 私はずっとお母さんから『父親は最低のくずだから気を付けろ』って言われてた! あんたにわかる!? 自分が生まれた理由が強姦だって知ったときの絶望をさぁ!!」
声を荒げたリーリアは、感情に身を任せ涙を流しながら叫び続けます。
「自分が望まれた結果で生まれた訳じゃないってわかって、私の価値ってなんなのかもわかんなかった。だから娼婦の子供ってだけでいじめられても、仕方ないんだって割りきってた。でも、そんな私のために怒ってくれる人たちに出会えた。だからもうどうでもいいなんて思わない! この怒りは、私の感情なんだ!!」
彼女はそういうと、とある書類をサルリバーザ卿へ付きだしました。
「なっ!? それがなぜここにっ!!」
それを見た瞬間、サルリバーザ卿の顔がみるみるうちに青くなっていきました。
その書類には、サルリバーザ卿が母親のお腹の子供、つまりリーリアを自分の子供と認める旨を書いた承諾書で、サインはもちろん血印までされていたのです。
「お母さんは全てを黙秘する代わりにこれを書かせた。この書類が、私があんたの娘である証だ!」
ラピスラズリのマダムが持っていた爆弾がおとされ、観客達が騒ぎだしました。血印が本物のため、もう言い逃れはできません。例えサルリバーザ卿が合意の上で営みをしていたとしても、誰も信じないでしょう。
嘘というのは、真実が紛れている方が信じられやすいのですから。
こうなると人の口を止めることはできません。サルリバーザ家への『噂』は今ここで止めることのできない激流もなり家すらも流そうとしているのです。
「ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるな!!」
今まで黙っていたグレイザードが叫びだしました。娘などいないといっていた父親に裏切られたのです、怒りを感じないわけはないでしょう。
しかし時として、怒りは人の判断を鈍らせ正常な思考を止めてしまうのです。グレイザードは杖を取り出すとリーリアへ向けました。
本来魔法とは、生物に向かって使うには許可書が必要です。この許可書はギルドの試験に合格するか、学園を卒業しなければなりません。
しかしここはサルリバーザ卿所有の劇場。法律上は私有地であり、所有者のグレイザードが魔法を放っても罪に問われることはありません。しかしこちらは魔法を使えば罪に問われるでしょう。
「僕は信じないぞ!! この売女め!!」
そう叫ぶと、グレイザードは鎌鼬のような鋭い風を巻き起こし、リーリアへ向けてはなったのです。
咄嗟に反応した私でしたが、私よりもさらに早く、サーニャが反応してリーリアを守るように立ちはだかったのです。
「サーニャ!!」
リーリアの悲鳴と、魔法の衝突音が同時に響き渡りました。激しい風に目も開けられなくなり、視界が暗くなりました。
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