お話ししましたぁ
木の幹を挟んで変な沈黙が流れてますぅ。そりゃ、向こうも誰か登ってくるなんて、思いもしなかったでしょうし、無理もないですねぇ……。
暗い色をした髪はぼっさぼさで、右目に関しては長い前髪にかくれて見えなくて、唯一見えてる左目は真っ黒ですしぃ。しかも隈だらけですごい寝不足って感じで不健康そう。
「誰かいると思わなくて、驚きましたぁ。すぐ退きますねぇ。」
「いや……いい。」
邪魔しちゃ悪いし別の木に移ろうとしたけど、止められたのでお言葉に甘えちゃいますぅ。いちいち登り直すの、めんどくさいですしぃ。
「あいつ以外に、木に登るなんて発想ある奴がいるなんてな。」
ぼそりと呟いた少年君は、こっちを興味深そうにみてますねぇ。あんまりじろじろみられてもぉ、困るんですけどぉ……。
「あいつ以外って、あんたも登ってるじゃないですかぁ。」
「俺のはあいつの入れ知恵だから、自分で発想した訳じゃない」
「私だって、入れ知恵ですぅ。」
普通に木に登るなんて考える、お猿さんと思われたくないのでぇ。ちゃんと否定すると向こうは首をかしげてました。
「……お前も?」
「そーですよぉ。といっても、私に入れ知恵したのは同僚の庭師なのでぇ、しょっちゅう木に登ってますぉ。」
一応風評被害にならないようにフォローもしときましたけどぉ、ますます不思議そうな顔をしてました。ごそごそと胸元を探りながら、こっちをちらりとみてますぅ。
「……俺に木に登れって行ったのも、庭師だった。 」
「へぇ、変な偶然あるんですねぇ。それとも庭師って、結構すぐに木に登るタイプなんですかねぇ」
私はロミアとクレゼスさん以外の庭師はみたことないから、わかんないですねぇ。まぁ、こうやってのんびり知らない同級生と話せたし、その庭師さんには感謝ですぅ。
「そういえば、名前聞いてませんでしたねぇ。リーリアでぇす。」
「レンジュだ。……お前、ラストネームはもしかして“ルクシュアラ”じゃないか?」
……んん??
突然の質問に、レンジュを見ると、レンジュは手元に一枚の紙切れを持ってて、それを見てましたぁ。
いったいどこから、お嬢様のラストネーム(※名字)を引っ張り出してきたんですかねぇ。とりあえず首を左右に振っときました。……ラストネームなんて、もう捨て去りましたから、私にはないですしぃ。
「違いますよぉ。私そもそも、貴族じゃないですしぃ。あぁ、でも、お仕えしているお嬢様は、ルクシュアラ家のご令嬢ですぅ。」
「あぁ……なるほど……。お前の言ってた庭師って、青い髪の翠目でなんか軽い感じのヤツで、ロミアって名前じゃないか?」
貴族じゃないといいましたけど、そこはスルーされて首をかしげられました。突然納得されましたけどぉ、ロミアの知り合い?あいつ知り合いいたんだぁ、意外。
なんか屋敷の外で情報収集以外、あんまり活動してないイメージだったからぁ。
私はこの時しりませんでしたけどぉ、現在絶賛ロミアが、屋敷で思いっきりくしゃみをしてたらしいですぅ。
「そうそう、私に木登りを教えたのは、軽そうでチャラけてるくせにちゃっかり周りを見て、空気読んじゃう苦労人なロミアですよぉ?知り合い?」
レンジュは徐に立ち上がると幹を越えて、私が座ってる枝まで来ましたぁ。少しきしみましたけどぉ、二人のっても余裕で支えられる枝って、わりとすごくないですかぁ?で、勝手にお隣に座られました。……で、さっきの紙切れを差し出してきますぅ。
あのぉ、なんか話してから行動してもらえますぅ?行動の意図が掴みにくいんですけどぉ。ていうか、私の質問に答えてないですしぃ。
「あれ、これ……ロミアの字?」
差し出された紙切れには、何度か見たロミアのなんとも言えない微妙な字が並んでるわけですぅ。ルクシュアラ家の庭師ダイヤルじゃないですか、これぇ。
専属でもたまぁにヘルプを呼ばれることがあるので、各部署に一応ダイヤルがあるんですよぉ。侍女とか、シェフとか。そんなに呼ばれること、ないですけどねぇ。
「あいつからもらった。本気で困ってるなら連絡しろって。」
あー、なるほどねぇ。ほんと、見境ないなぁ。困ってる人がいたらすぐに助けにいこうとするところ、変わってないんですねぇ。
「あいつ、いつもこうやって困ってる人を見過ごせないんですよぉ。」
「お前の同僚なんだろう。どんな奴なんだ。俺は、一度しかあってないからわからん。」
どんな奴……ねぇ。うーん、何て言えば良いんだろぉ。いざ言えと言われると悩みますねぇ。足をぶらーんぶらーんって振りながら、ちょっと考えちゃいます。
「そうですねぇ。いつも明るく振る舞ってるくせに、自分は色々背負い込みすぎてつぶれそうになって、けどそれを回りには見せたくなくて強がってる、お子ちゃまですよぉ。誰かを助けようとしたり、恩義にはなにがなんでも報いろうとするし……あぁ、この前なんてダンスやり過ぎて庭師忘れそうになってたのぉ。全く、自分が大変なときは助けてって、言わないのに、人には頼れってぇ、それならあんたも頼れって話ですよねぇ。」
半分愚痴みたいになっちゃいましたけど、まぁ良いよねぇ。たまにくらい、言ってやりたくなります。レンジュは黙って聞いてくれていたから、余計に話しちゃいましたぁ。
「……おまえ、あいつのこと好きなのか?」
黙って聞いててくれてましたけどぉ、次には爆弾投下を真顔でしてくれちゃったわけでぇ、私は枝から落っこちそうになります。ぽかんと、口を開けてレンジュを見ましたぁ。
「え、え、どこからそういう流れになるんですかぁ?いやいや、違いますよぉ。あいつは同僚でぇ、お互い幼いときにお嬢様のところに来たからぁ、幼馴染み?うん、そう、幼馴染みみたいなものですよぉ。だからあいつは私のことそういう風には見てくれないしぃ、それにあいつには……もう好きな人がいますからぁ、気を向けるだけ無駄っていうかぁ……ーーなんでわかったの?」
否定しようとして、否定できなくて、というか途中から言い訳になっちゃってぇ、うつむきます。恥ずかしいですからぁ。
「なんでって、あいつの話になったら、声が明るくなった。楽しそうだったから、そういう反応する奴は、大抵好意を抱いてる。あとは……俺の魔法かな。人の感情がわかる。」
……はい?
「それ、ずるじゃないですかぁ?」
「ずるじゃない、俺の能力だから。」
きっぱり言ってくれますけどぉ、内心覗かれたみたいでぇ、こっちは余計に恥ずかしいんですけどぉ??
っていうかぁ、人の心がわかる魔法?そんなのあったっけぇ?人の内面に作用する魔法なんて、闇魔法くらいしか……
「闇魔法使いだよ、俺」
自慢するでもなく、ポツリと言われた言葉。闇魔法……人の心に作用する、危ない魔法……って授業で受けたっけなぁ。
「心が読めるのぉ?」
「いや、それはできない。けど、感情はわかる。怒ってるとか、疑心とか、好意とか。……お前は、俺に不信感を抱かないんだな。」
なるほどぉ、それで私がロミアのことを話してたときの感情がわかってばれたって訳かぁ。心が読める訳じゃないなら、思考回路が読める訳じゃないんだぁ。
「別に不信になるようなことないしぃ。」
「闇魔法ってだけで不信がられる。」
あー、なるほど。確かに授業やどの書物にも、闇魔法=悪いことに使われるって言われてるもんねぇ。暗示とかかけられるらしいから、そりゃ人によっては不信になる人もいるかぁ。
「だってどーでもいいじゃん」
「え?」
今度はレンジュがぽかんと呆気にとられた顔をして私をみてますぅ。さっきの仕返しができたみたいでいい気味ですぅ。
「闇魔法を使えるからって、それを使うレンジュには関係ないじゃないですかぁ。別に闇魔法に限らず、悪人が使えば悪い魔法になりますしぃ。」
闇魔法=悪人と決めつけるのはよくないですからねぇ。それに、こうして話してますけどぉ、レンジュは悪い人には見えませんからぁ。不信になる理由がないんですよぉ。そりゃ、感情がわかるって言うのはちょっとずるいなぁって思いますけどぉ、“思考トレース”を得意とする私だってぇ、似たようなものですもん。
「……おまえ、変わってるな。」
「それはよく言われますけどぉ、さっきからお前お前ってぇ、ちゃんと名前でよ……」
ーードガァン!!
激しい地響きと爆音が、私の声を遮りましたぁ。えぇ、なにあれ?洞窟の方向から巨大煙がもくもくと立ち上がってますけどぉ!?
「洞窟にはお嬢様がいるんですよぉ。早く様子を見に行かないと……」
なにか事故でもあったんですかね?それにしては激しすぎる爆発でしたし、お嬢様が心配です。結構な高さまで上っちゃったので、降りるのには時間かかりそうなので、早くしないと……。
「……え?」
降りようと下を見て、足元に黒い足場ができてるのに気づきましたぁ。よく見ると、私の足元には黒い階段が、まっすぐ地面まで続いてます。
「早く行くんだろ?」
その足場をなんの疑いもなく両手をポケットにいれて歩くレンジュ。あぁなるほど……あんまり筋肉無さそうなひょろい体でどうやって木に登ったのかと思いましたけどぉ、こうやって登ってたんですねぇ。便利ですねぇ。
急ぎなのは本当なので、お言葉に甘えて階段をかけ降ります。そして煙の上がってる場所に駆け出して行きましたがぁ……
そこにあったのは、想像してたのとは全然違う光景でしたぁ。後から追いかけてきたレンジュも、また口をぽかんと開けてましたしぃ、たぶん誰が見ても同じ反応しちゃいますよぉ。
だって洞窟の回りが激しく燃えている危ない状況の中、大声で口論しているちっちゃい妖精の女の子とお嬢様を宥めようと必死になっている、機械仕掛けみたいなドラゴンがいるなんて、ちょっと情報量多すぎません?
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