出発しまーすぅ
━━お嬢様をお願いね
普段よりも早い時間に出発した馬車は、いつもと違う道を進んでいた。
時おり揺れる馬車の中、お構いなしに寝ているお嬢様のとなりで、私は外を眺めながらレイさんに言われた言葉を思い出す。
「お願いって言われてもぉ、ほとんど別行動なんだけどねぇ。」
まだちょっと暗い道を進むなか、思わずため息が出る。だってすごくめんどくさい行事だしぃ、ぶっちゃけ私は行きたくない。
今向かっているのは、レディアンから馬車で1時間ちょっと位いったところにある山の中。精霊のほこらって言われている、それはそれは由緒正しい?神聖?な場所。
毎年学園一年生がそこで、守護精霊の儀を行うんですよぉ。
魔法が使えるものは、何でも精霊に好かれるんだって。精霊に好かれること事態が才能で、主語精霊を見つけられたものは、将来成功すると言われてますぅ。現に国王や王子なんかは主語精霊がついてるし、あながち間違いじゃないんじゃないかなぁ。
そんなすごーいことなんだけど、これがまためんどくさいんだよねぇ。精霊って気まぐれで、ほとんど人前に姿を表さない。そんな精霊とコンタクトがとれる場所っていうのがあって、所謂パワースポットってやつなんだけど……今向かってるのもそういう感じの場所ぉ。
約一時間洞窟の中にいて、精霊とコンタクトがとれるかやってみる。そしてうまく精霊が現れたら、契約を結び守護精霊にする。
まぁこんな流れなんだけど、そんなにうまくいかないんだよね。この洞窟に行けるのは入学してすぐの一年生だけ。つまり機会はこの一回。
毎年100人近い生徒が代る代るに入っていくけど、主語精霊を見つけられた生徒は10人未満。それくらいレアってこと。あとは生まれもった才能とか?過去にはすごい才能の持ち主は精霊に選ばれず、その時無能と言われた生徒に精霊がついた途端物凄い才能が開花して、一躍有名になったとか。
お嬢様みたいな、才能の権化みたいな人ならまだしも、私みたいなのはいくだけ無駄なんですよぉ。行事だし仕方なくいきますけど、洞窟には属性ごとに割り振られた生徒同士でいくのでぇ、私はお嬢様と離れ離れ……。
ちなみにお嬢様は、五大属性の一つである火魔法の使い手でーす。ルクシュアラ家の当主は代々火を扱うみたいで、五大属性っていうのは火、水、土、雷、風っていうやつで、それ以外の属性は亜種属性って枠組みでくくられてますぅ。闇、聖属性っていう、レア中のレアはまた別の括りになるらしいですけどぉ。
あぁ、私は光属性っていう、亜種属性に分類される属性です。よく聖属性と勘違いされますけど、ただピカピカ光るだけの能力で、そんなに使い道はないんですよぉ。あ、そうおんなく周りを明るくできるっていうのが、一番のメリットですねぇ。
……って、私今、誰に話しかけてるんですかぁ?まだ寝ぼけてるのかもしれません。
「んん……」
寝ぼけてると言えば、こんなに揺れてるのに爆睡しているお嬢様はまだ起きませんね。本当に朝が弱いので、今日はレイさんもサーニャも、大変だったろうなぁ。
レイさんがちゃんと起きれるように無理矢理に珈琲を飲ませていたはずなので、そのうちカフェインが聞いて起きてくるはずですぅ。まぁ、こんなに揺れてたら安眠もなにもないですけど。
「ふぁあ……」
私は私で、やっぱり眠くてあくびをこぼす。そうしている内に、日が上って外が明るくなっていく。あー、朝日が気持ちいぃ……なんて思う余裕もない。眠いから。お日様に当たってたら、そのうち目が冴えてくるかな?
日が上ってから一時間、特に何かある訳じゃなく暇をしてたら、ようやくお嬢様が起きた。眠そうに瞼を擦って窓の外をみてます。
「おはよーございますぅ、お嬢様」
「おは……よう……今どの辺り?」
窓の外は普段見る街並みの光景はなく、ひたすら木ばかり。現在地なんて、その光景でわかるはずもないですよねぇ……。
「馬車に乗ってから一時間くらいたってるのでぇ、そろそろつくと思いますよ?」
「……そう」
実はお嬢様も、この行事には乗り気じゃないんですよねぇ。そりゃ、お嬢様くらいの人なら精霊に選ばれる可能性はありますけどぉ。選ばれないことの方が多いですから。自分にもし精霊が付かずに洞窟から出たら、なにか言われるんじゃないかって、考えてるんでしょうねぇ。
まぁ実際、なにかいってくるやつはいると思いますよぉ……妬みの一種で。お嬢様って、非の打ち所がないっていうか、普段完璧なので。ちょっとでも弱味を見せると、皆寄ってたかって……ですからねぇ。
だから気分が乗らないのは、仕方ないんですよ。
「あ、お嬢様。着いたみたいですよ。」
あれだけ揺れていた馬車が止まり、扉が開いた。お嬢様が先にでて、私も続きます。ちなみにですけど、エスコートはお嬢様だけです。私は受けられないし、受けたくもないのでぇ。
見渡す限りの森の中、開けた場所にちらほら生徒が集まっています。全員集合しちゃうと人で溢れ返っちゃうので、属性ごとに集合時間が違うんですよぉ。お嬢様は火属性グループなので、今回は一番最初のグループです。私は……一番最後。
お嬢様を待たせたくなくて別々に行こうって言ったんですけど、嫌だの一点張り……。積極私のグループが終わるまで近くの街で時間を潰すことになってますぅ。お嬢様が出てくるまでの間は、私は適当にその辺り待機です。
「それじゃ、いってくるわね」
「はーい。お気をつけてぇ」
火属性グループ全員が集まったみたいで、講師が説明やらして皆一緒に洞窟にはいっていきました。洞窟の中は複雑になってるみたいですけど、必ず出口につく仕組みになってる、不思議ビックリ洞窟なんだそう。
さぁてと……私はどこかに隠れますかぁ。次のグループは風だったかな?お嬢様がいなくなった今、私は私で身の危険がありますからねぇ。
開けた場所から離れて、森の中へ行ってみると、丁度良い高さの木を発見しましたぁ。
普段はお嬢様にくっついているので何かされることも、言われることもないですけどぉ。この学園って、貴族がほとんど何ですよねぇ。身分が高いってふんぞり返ってる奴等ばっかりで、そんな奴等からしたら、私ってすごい目障りなんだと思いますぅ。
だって私、貴族じゃないですもん。
所謂一般市民ってやつです。そんなやつが、貴族に気安く話しかけるな、同じ空気を吸うだなんて気分が悪くなる……まぁ、そういう言い分があるみたいですぅ。こっちは知りませんけど。別に有害物質を出してるつもりもないですし、悪いことはしてないですからぁ。
そういうのを露骨に言われないのは、お嬢様がいるからで、こうやって一人の時は結構言われるんですよねぇ。もう慣れましたけど、態々言われてやる必要もないので、逃げるが勝ちです。
丁度良い高さの木……貴族様は木登りなんてしませんし、上を見上げることもない。見下すばっかりですからぁ、隠れるには丁度良い。
ロミアのやつが、隠れるなら木の上が良いぜ!なぁんていってたけど、あながち間違いじゃないのがムカつきますぅ。
まぁ木登りの方法とか、色々教えてもらったので、助かりましたけどぉ。こういうことも考えてスカートの下に短パン履いてますし、準備万端。
枝に手をかけ、幹に足をつけて……うんうん、ちゃんと登れそうですぅ。
ぐんぐん上っていって、一番太い木の枝だ二つ、左右に別れて生えてました。あれだけ太いなら、乗っても大丈夫そぉですねぇ。
「よいしょっと!」
勢いよく枝の上に着地。結構な高さですけどぉ、眺めも良いですしなかなか良い場所です。本を持ってきてたのでここでゆっくり読書でも……
しようと思って、固まっちゃいましたぁ。
だって、反対側の木の枝にふと目を向けたら……
目を丸くしてこっちをみている、ボサボサ頭の男の子がいたんですからぁ……。
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