騒々しい朝2
「旦那様に直談判とは、先の学園祭についてでしょうか?」
漸く太陽が高く登り始め明るくなった空が窓にうつり、部屋が明るく照らされ始めました。
幾分か物理的に暖かくなったお部屋で、お嬢様はまだベッドから起き上がらず口を尖らせております。
まだ学園に行く時間ではありませんので、支度の準備はもう少しあとでもよろしいかと。
「そうよ!学園祭といえば街でも一大行事として扱われるのに、どうして私のクラスは出し物が本喫茶なのよ!!ありえないわ!」
聖ルチアーノ学園は王国のお膝元、レディアンでもっとも大きな魔法学園。
魔力とはごく一部の人が持つ力。大なり小なりはありますが、魔力を保有するものは魔法学園に通い力の使い方を身に付けます。
魔力を宿した者は貴族が多く、家柄がよいほど力も肥大する傾向にあります。とりわけお嬢様は侯爵家の長女。
膨大な魔力を保有している学園でもとても有名なお方です。
その学園で行われる学園祭はまだ半年も先の話ですが、今の時期は出し物を決める頃合いでしょう。
お嬢様の動向はある程度報告を受けておりましたので、大方の察しがつきました。
「ルクシュアラ家の長女の私が、薄汚い本に囲まれて奉仕をするだなんて、社交界の笑い者になるじゃない!」
学園では位は関係なく生徒は皆平等。それが学園内での規律となっておりますが、お嬢様含め一部の貴族の横暴は日常茶飯事。
一度わがままを言い出したら聞かないお嬢様は、別の意味でも大変有名だそうで。
本日は朝一番からそれが炸裂しております。
「ですがお嬢様、旦那様に直談判は些か時期尚早かと。」
というのも学園祭は今から半年後に開かれます。つまり今はまだ出し物の候補を選定する時期。
学園祭の日程から考えるに出し物の確定は1ヶ月程度と予測されますゆえ、確定してから直談判すればよいかと。
「そうはいっても、もしも本喫茶になったらどうしてくれるの!?」
口を尖らせるお嬢様に私は微笑みを返します。
他の侍女も釣られてひきつった笑みを浮かべていますが、笑顔がなっていません。また指導しなければ。
「本喫茶については…最近街外れの森にオープンした喫茶が原因とされます。」
学生は流行りにとても敏感です。学園祭で成功すれば有力者との繋がりもできるため、社交界で優位にたてる場合も多いのです。
そのため街での流行をいち早く察知し、学園祭に盛り込むのです。
件の喫茶は…「ぶっくかふぇ」と言う名前で、異国の女性が開いた小さな軽食店だそう。軽食を食べながら各国から集めた珍しい本を読めることから、密かなブームになっております。
店主の女性も大層腕がよく、自家製のパイや、パンに具材を挟んだ軽食はとても斬新で街の人の心をつかんだとか。
そうした今の流行りがあるからこそ、本喫茶などと言う案が出ているのでしょう。
「流行りはすぐに廃れるもの。お出し物が決まるまではいくつも変動するものです。お出し物が本喫茶と確定してから…直談判すればよろしいかと。」
そうでなければ直談判も意味をなしません、と付け加えてお嬢様の様子をうかがいます。
まだ全然納得はしていないようですが、一応私の言うことは聞き入れてくださります。
どうしてもダメな場合はいくつか説得の方法はありますが、渋々といった形でベッドに潜りました。
「でもちゃんと決まったらその時は直談判だからね!止めたらレイだろうとクビよクビ!」
「承知いたしておりますお嬢様。それではまた、起床時間に起こしに参りますゆえおやすみなさいませ。」
もう見てはいないお嬢様へ深々と頭を下げ、侍女たちを引き連れてお嬢様の部屋をあとにいたしました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本館を出てお庭へ戻ったころ、サーニャと再会を果たしました。
いつもこの時間なら私は旦那様、つまりお嬢様のお父上をお見送りしているのですが、朝はお嬢様のことがありサーニャに代わってもらっていました。その帰りでしょう。
「お、お嬢様はどうでしたか!?」
私を見つけた途端そわそわした面持ちで駆け寄ってくるサーニャは、まるで子犬か何かのよう。
落ち着きなさい、とまた落ち着かせてから本題へと入ります。
「なんとか直談判は阻止いたしましたが、早く対策をとらねばなりません。」
このままの流れでいけば確実に出し物は本喫茶に決まってしまいます。
なぜかと言うと…今とても流行っているからです。
今までにないものが街に流れたせいもあり、火が付いたような爆発的な人気は、すでに街にいくつもの本喫茶を建てるまでに至りました。
ちょっとやそっとで、この流行は止まりはしないでしょう。
そうなれば、お嬢様のお望みは叶わなくなってしまいます。
それだけは阻止しなければだ。
懐中時計は現在6:32を指しております。お嬢様の身支度まで残り1時間。
できることは限られますが、まずは情報共有を始めなければ。
「サーニャ、みんなを集めてちょうだい。会議を始めるわ。」
「えぇっ!?こんな早くにですか…。」
「それだけ緊急なの。皆にそれも伝えてね。」
危機感を募らせたサーニャは大きく返事をすると急いで別館へと走っていきました。
侍女が股を大きく開いて走るなと指導しているのですが、サーニャはまだ直らないようで。
今日は急いでおりますから多めに見ましょう。
…さて、今日もお嬢様の世界をより良くするために、僭越ながら私もお力を添えさせていただきましょう。
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