第11話 拷問はお任せあれっ
ジェナスがジャンヌとの邂逅を迎えていた時、シメタロウ・ボンズは団長殿にお土産を持ちながら意気揚々とグリンガムの町への帰還を果たしていた。
先程から誰かが噂しているのか、くしゃみが止まらない。
風邪をひいた可能性も捨てきれないが、先ほどの失態を帳消しに出来そうな案件を、引きずりながらギルド協会本部を目指す。
採集で集めた薬草の数々は背中に背負うリュックが、パンパンな様子を見るにかなりの数が採集できたようだ。
両方の手にはロープの端が握られている。
町に入ると多くの人々がこちらを見ている。シメタロウにしてみても【
なので、何か言いたそうにしている町の人々も「また、刻印か」という、暗黙の了解で流しているが気にはなっているみたいだ。
ロープの先に繋がれているものを見て、皆んなそんな顔つきをしている。
ロープの先には両手、両足を縛られ足に繋がれたロープで引きずられている4人の男がいた。
顔は……というか、全身皮膚が赤く腫れ上がり、火にかけられたように火傷しているところを見ると、この男の武器である爆弾による怪我なのであろう。
だが、手当てする事もなしで引きずられている。服はその為、赤茶色になり町の人々の視線を集めてはいるが、さっきも言ったように暗黙の了解である。「また、刻印か」で片付けられているのだ。
数時間前、シメタロウは採集場所であるレントの森でこの男達を見かけた。
「むむ、小生以外にも採集にくるとは……」
シメタロウは依頼のブッキング相手だと考えたのだ。
相手は4人。自分はひとり。
団長殿がいない事で、いくらS級ギルドとはいえ多勢に無勢である。
シメタロウは前持って、自身の荷物から『爆弾』と呼ばれる火薬を詰めた筒状の武器を、入念に用意し彼らの周りに配置させ、自分に何かがあってもこれで大丈夫と確信を得てから、彼らに勇気を出して話しかけた。
「こんにちわ〜」
自分の考える、すごく好感度が上がる爽やかな団長殿のような笑顔で話しかけたのだが、彼らは聞く耳も持たず手にそれぞれナイフや剣を装備し出したので、「こりゃダメだ」と思い、準備しておいた爆弾を一斉に起爆させた。
ドガんっーーーー!!!!!!
轟音と共にあたり一面は火の海と化した。
「善良な民なら本当にごめんなさい」、と心の中で謝りながら、心細さから用意周到に準備した、普段以上の多めの爆弾に、4人の男達は為す術なく全員燃え盛り倒れた。
死んではいないから大丈夫でしょう。
「武器など持って、小心者の小生を怯えさせるのが悪いのですよっ。
小生、皆さんのようには強くはないので、ビビリましたでしょうがっ!」
冷や汗を拭いながら、あくまでも正当防衛としての対処であると自身に言い訳をした。
倒れた男達を観察すると、どうもおかしい事に気が付く。奥の方に何やら大掛かりなモノもあった。
どうやら、昨日の事件に関与してそうな、盗賊ギルドの連中のようだとシメタロウは判断した。
自信はないが……そういう事にしておこう。
シメタロウは男達を抵抗できないように縛り上げ、こうしてグリンガムに凱旋したという流れだ。
ギルド協会入り口の段差を超えるときに、男達はそれぞれ「痛い」「おいこらっ」など叫んでいるが、シメタロウにはどこ吹く風のようで、胸を張り協会の玄関を開く。
なんせ、上手くいけば、先ほどの出費が帳消しにできるかもなのである。
「団長殿〜。ただ今戻りましたですっ」
団長であるジェナスもその光景に気づいたようで、こちらに駆け寄りこの手荷物の詳細を確認した。
協会内も不測の事態で職員達が慌しくなる。
「シメ、こいつらは何だ?」
「おい、お前がこいつの責任者か!?」
「こいつ何なんだ。いきなり燃やされたぞ」
「痛い痛い。早く治療してくれっ」
男達は各々に声を張り上げる。シメタロウは落ち着いたもので、一言だけ団長であるジェナスと協会職員に聞こえるように伝えた。
「はっ団長殿、こいつらは昨日の手下でございます」
四人の男達はびっくりした顔をしている。
「採集クエでレントの森に行きましたら、怪しい集団がいるではありませんか。
小生は友好的に話しかけようとしたら、問答無用でいきなり武器を取りましてので、予めセットしておいた爆弾で一網打尽にした次第でございます」
男達は気づかれなければ、文句を言って退路を確保しようとしたが、シメタロウの『昨日の手下』という発言でバレている事を知ったのか、全員黙り込んでしまった。
「「「「…………」」」」
「ん? おい、お前らどうしたんだ。騒がしいがまた賭博でもしようって……どうやら、そうではないようだな」
騒がしい声に気がついたのか、協会長であるベンシウスも出てきた。
すぐさま状況が掴めたようで、数人の職員に拘束させながら、シメタロウに確認した。
「シメタロウ、こいつらが昨日の手下共だという証拠を掴んでいるのか?」
「レントの森の入り口から北東方面に数分歩いたところに、何やら怪しげな道具が置かれております。
確認していただけると有り難いですが、小生には魔道具のように感じましたので……。
それに、此奴らのこの風貌……見るからに、悪党の顔つきでございますっ!!」
「「「「お前には、言われたくないっ」」」」
悪党4人組の声がハモった。
「黙れっ!! とにかく、今すぐ確認をしてこい。
それと、こいつらの取り調べを行うぞ。すぐに準備しろっ」
「「「「…………」」」」
ベンシウスの号令で、協会職員の動きはさらに慌しくなる。
ーー魔道具!?
「ベンシウス、俺もレントの森へ確認しに、職員について行ってもいいか?」
「うん? お前は取り調べに同席するかと思ったぞ」
「いや、さっきの話だ。こいつらの企みの内容や魔道具を見ておきたいんだ。
…………国宝級の
「あ、そうだな。ジェナス、悪いが一緒に行ってくれ。シメタロウは取り調べの方に同行しろ」
「助かる、ベンシウス。シメタロウ全部吐かせろよ」
「団長殿、お任せあれっ! 48にも及ぶ小生の拷問術で必ずや吐かせましょうぞ。グフフ
まずは傷口に塩を塗り込んで、爪を剥がして、そこにも塩を詰め込んで、それからそれから……」
シメタロウはトリップしたのか、楽しそうな顔をしているが、知らないこの男達は悪魔の顔を見てしまったかように全員が青い顔になった。
シメタロウは《調理師の紋章》を持っている。
拷問である技術も調理師にある技術補正の延長になるので、結構エグいものになる。
適任と言えば適任だ。
「「……程々にな」」
俺とベンシウスの声が被った。
魔道具?捜索部隊に参加した俺は、協会職員たちと共にレントの森に急行した。
「ジェナスさん、何かありましたら、よろしくお願いします」
ギルド協会職員の男性ヒムルさんが、俺に話しかける。
ヒムルさんは協会職員になったのは、俺と同じ時期になるから8年目のベテラン職員である。
「ああ、シメタロウが無力化した際に、何もなかったんだろうし安全だとは思うぞ」
「そう願いたいですね。昨日の一件から、上の皆さんはピリピリされてますから」
そりゃそうだろう。ずっと平和だったこのロークランド周辺で、きな臭くなってきてる訳だしな。
俺自身の考えの中にも、先ほどの話合いで出たラーゼフォンの動向が気になっている。
現場に到着すると、そこは酷い有様だった。
周辺の木々は倒れ、爆発の中心部から円状に直径60mくらいが、綺麗に吹き飛んでいた。
「……ジェナスさん」
「皆まで言うな。わかってる……」
シメタロウのやつ、さすがにあの4人相手にこれは破壊しすぎだ。
ーーそだ、あいつの言っていた魔道具は!?
「シメタロウさん、この魔道具までの距離も計算していたんでしょうか?
ギリギリのところまで爆発の影響が来ていますが無傷ですね」
ヒムルは、あははと苦笑いを浮かべながら言った。
「これは、確かに魔素を取り込んでいますね。私の体内魔素にも強く反応します」
どうやら、これがその魔道具みたいだ。
魔道具?と呼ぶにはあまりにも大掛かりな仕掛けをしたものが目の前にある。
運ぶためのものだろうか、下に車輪をつけた大きな台の上にそれはあった。
パッと見て一目で分かった事は一つだけある。
これは国宝級にも匹敵するような
人が造ったと考えられる要素が多い。と言う事は、これは量産しようと思えば出来る代物だ。
これがベンシウスの言うように、魔素を凝縮して魔石を生み出すものなのか?
大気にある魔素の恩恵は人も受けている。
魔法や魔術などの技術は基本、魔素を力としているものが多い。
ある程度の魔素は人体にも問題はないが、多すぎる魔素や魔石などを体内に取り込むと意識が保てなくなり、俗に言う化物やモンスターとして成り代わる。
強すぎる力は人を狂わせるものだ。
魔獣や魔物と呼ばれるモンスターはいずれも体内に魔石なるものを宿している。
大気から大地に染み込む魔素を、時間をかけて凝縮して生成されたものが魔石だ。
それがその地に住う魔獣に形を変えて生まれてくるというのが一般常識だ。
大気には魔素の強い土地と弱い土地がある。
魔素の強い場所は強い魔獣がたくさん生まれ、弱い場所には弱い魔獣が生まれる事になる。
魔人族の人たちが住う土地は、もちろん魔素の量が濃い。
ただ、魔人族には、体内に取りすぎる魔素を分解する器官が存在し処理できるらしいが、普通の人間がその土地に足を踏み入れると体調不良に陥り、体内の魔素を処理しきれず、バランスを保たなければ死に至る。
魔人族の人々は、人族の土地では魔素不足に陥りやすく、不足すると先ほどとは逆に死に至る場合がある。
なので、グリンガムに住う魔人族の人々は、生活をしていく為に冒険者協会の店などから、定期的に魔石を購入すると言う流れがある。
じゃあ、魔人族は魔素により化物みたいな力を有した種族なのか?
確かに魔素の取り込みが常人より多く圧倒的な身体能力を有するが、その代わり寿命というのが極端に短いのが魔人族の特徴だ。
人族と呼ばれる俺たちの約半分といったところか!?
なので、現在では魔素の比較的緩いところに町を作り、魔人族の多くの人は生活をしているのが主流だ。
これにより魔人族は、人族の3分の2ほどの寿命に変わったらしい。
お袋、いや母さんが、子どもを産めない身体になったのは、この魔素が大きく関わっている。
ブースター・ドラッグと言う、魔素を一定時間急激に上げる【
作ったのは前の聖女ナタリアで、彼女自身もこんな事故になるとは思っていなかった。
聖女ナタリアは在団中、ずっと母さんの体内の浄化を行ってくれていたが、母さんが仕事を引退する時に責任を感じ、後任にジャンヌを指名して辞めたというのが聖女交代の真相だ。
無理をしない限りは、母さんの身体は大丈夫だとナタリアは言っていた。
無理というのはドラッグの使用である。
今、そのドラッグはエリシアだけが使っている。
彼女は《魔法師の紋章》の効果もあり、母さんのように魔素を体内に蓄積する症状はない。
ナタリアの話ではエリシアなら『1日5回』程度、間隔を空けてなら問題はないらしい……。
元々、高い才能と高位の紋章の効果、それにこのブースタードラッグ……エリシアが使えば、天災級クラスの効果があるが、あまり使って欲しくないと思えてしまう。
だが、性格なのか、感情の起伏が激しい、必要以上に頑張りすぎるところもあり、エリシアはその薬を使う頻度が高い。俺がエリシアを心配する一つの要因だ。
話が少し逸れてしまったが、もしこの魔道具が魔素を集約しているとして、人の手によるものなら一つの恐ろしいことも可能になってくる。
それは、魔素を集めて放出させ、魔素の濃度の濃い土地を形成できるということだ。
人の住めない土地……戦争を考えるなら、手を汚さずに土地を奪い取ることができる。
もちろん、その為には濃い魔素を、中和もしくは除去できる技術が必要になってくるが…………。
ーーこの魔道具を作ったやつは、一体どういう気持ちで作ったんだろう!?
人の発展の為か、侵略の為か…………。
とにかく、危険な代物だ。
この地にあるという事は、敵の狙いがロークランドという事になる。
「ヒムル、この魔道具が何なのかは詳しく調べないとわからないが、これをここに置いた奴らの狙いがロークランドだとしたら、少し厄介だぞ」
「調査にはもう少し掛かりそうです。
さすがにこの大きさの物の移動には人数が足りません。
今、協会や冒険者に手伝いを頼んでいるので、ジェナスさんは協会長に、この事を伝えてもらえますか?
おそらく敵の狙いはロークランド、グリンガムであるとっ!」
「俺も同意だ。捕縛した奴らの尋問も気になるから、先に帰らせてもらうぞ」
「はい、こちらの方にはフレイム・アローの方々も来てくださっていますし、さらに増援が来ますから大丈夫ですよ。
よろしくお願いします」
「じゃあ」とだけ伝えて、俺はレントの森を後にしグリンガムへと急いだ。
ギルド協会に戻ってくると、レインさんが玄関口に立っていて、帰ってきた俺に尋問室に行くように告げる。
ベンシウスからの指示のようだ。
取調室ではなく、尋問室に連行されたという事は、完全に黒という事だろう。
まあ、どっちも協会の地下にある事には変わりないが。
「どうだ、ベンシウス!? 何か分かったか?」
「どうやら、こいつらやっぱり某国の盗賊ギルドに所属している輩だ。
シメタロウの執拗な拷問で我慢できず吐きやがった」
中を覗いてみると、傷だらけで白目を向いて倒れてる2人と、涙を流し怯えからガタガタと震える2人の容疑者。その前に熱されて真っ赤になった鉄の棒を片手に、真っ赤に染まった怒りの表情で見下ろすシメタロウがいた。
こいつら、シメタロウの逆鱗に触れたようだ。
シメタロウは普段は気弱で大人しい男だが、自分以外の事では怒りを顕著に現す。
多分、こいつらがここに住む人々に対して、しようとした仕打ちを純粋に怒っているのだろう。
「団長殿、此奴ら我がグリンガムに喧嘩を売ってきたでございますよっ!
今からこの正義の棒で、此奴らの股間を焼き尽くし、尻の穴に突き刺してやろうかと思ってる所存にございますっ」
それを聞いた此奴らさんは、ブルブル震えながら許しを乞うように「申し訳ございません」、と呪詛のように繰り返している。
「ジェナス、向こうの方はどうだった?」
ベンシウスがこちらに、レントの森での事を訊いてきた。
「ああ、詳しくは調べないとだが、間違いなさそうだ。それとどうやら人為的なのも確認できた」
「そうか、ジェナス少し表にでよう。シメタロウ、好きにしろ」
「御意っ!!」
「「ひいぃぃぃぃいーー」」
此奴らさんどもが悲鳴を上げていたが、ここにいるメンバーには、誰1人としてこいつらを庇う人間はいない。
「……間違いなくラーゼフォンの仕業だろう。
すぐに調査隊を送って探らせるが、お前の見てきたものが人為的だとしたら、そんなものを造れる奴が存在することになる。
魔獣の発生件数が異様に多発してる場所にはあるのかも知れないな」
「後でアーノルドのおっさんにも伝えるが、魔素を自由に集めれるという事は、魔素によって住めなくしてしまうような事も、いつかは可能かもしれない。
汚いとは思うけど、侵略には打って付けだろう!?
まだ、大気にある魔素の中和や除去の技術が開発されてないことを祈るしかない」
「もし、そうなら戦争どころじゃねえな。
……グリンガムの盗賊ギルドに、製作者の暗殺を依頼で出す!
もちろんアーノルドの許可は取るが、事後報告になってでも一分一秒が惜しい」
「それでいいと思う。
後【
「そいつはありがたい。S級にも関わってもらわなきゃ、話になんねえだろうしな。
そうなると【
まあ、十中八九アーノルドの手駒としてになるだろうがな」
「かまわない。先手は確実に向こうに取られてるんだ、なりふり構ってられるかよ」
と、笑いながら伝えると、ベンシウスの方もニヤ〜っと笑いながら
「うちに喧嘩売ったこと後悔させてやろう」
「キッチリ落とし前はつけてもらおうぜっ!!」
ガッチリ握手を交わすのであった。
シメタロウの拷問タイムも終了し、あとは職員達に任せて地下の尋問室を後にした。
もう、日が暮れている。暗くなってきてる外の様子を協会内の窓から確認できる。
随分な時間が経ったことを、今更ながら気づいた。
「シメタロウ、お疲れさん」
「団長殿、この事は……」
シメタロウの言いたい事もわかるが、もはや隠す事もできないだろう。
「ん、まずはドランに話してみよう。その後全員に伝える。その時まで……わかったな」
「御意にございます」
「じゃあ、ホームに帰ろうぜ。俺はもう疲れた」
「小生もですね。拷問は体力も使いまする」
そうこう話し合いながら協会の玄関に差し掛かった時、慌ただしくやってくる集団がいた。
レントの森からの移送のやつらかと思ったがどうやら違うようだ。
「団長」
「お兄様」
「マスター」
と叫びながら、マリーナとカインとミリエラの3人が慌てた様子で駆け込んできたのだった。
終焉の烙印 ーThe stigma of the endー 亜貴 千翼 @takuya27
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。終焉の烙印 ーThe stigma of the endーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます