第16話 梅シロップとコンポート

 今年(2024年)は梅が不作ということですが、庭の梅は小粒ながらたくさん実ってくれました。ありがたや。

 職場の庭の梅は去年より少ないながら、かなりの大粒。近所の公園の梅も、数は少ないけれど大粒のいい実をつけていましてね。でもどちらの場所も、完熟した実が落ちてもたまに誰かが拾っていく程度で、ほぼそのまま朽ちている状況。今年は通りかかったときに落ちている実を、思いきって少しだけ拾って帰りました。

 我が家の小梅は梅干しへ。大粒の実は梅シロップと初挑戦の梅コンポートへ。


 まずは拾った梅を水洗い。表面についた泥をよく洗い落とし、ヘタを取ります。傷みのひどい実は取り除いたり、傷んだ部分だけを包丁で切り取ったり。

 青梅は一晩、完熟の実は30分以上、水に浸けてあく抜き。梅干しですと必須のあく抜き作業ですが、梅シロップやコンポートの場合はやらなくても大丈夫です。

 水気をよく拭き取ってから、梅シロップ用と梅コンポート用に実を分けて重量を量り……。


【梅シロップ】

 梅 お好きな量

 氷砂糖 梅と同じ重量

 ホワイトリカー 少々


 大きな瓶に梅の実を少し投入。次に氷砂糖を少し投入。これを何度か繰り返して、梅と氷砂糖の層を作ります。

 まあ瓶の中で層を作ったところで振り混ぜてすぐ壊すので、きれいに何層も作ろうとしなくて大丈夫ですよ。要は実と砂糖を混ぜやすくするのが目的なので。私は梅・氷砂糖・梅・氷砂糖くらいで終了してます。

 層を作ったら最後にホワイトリカーを少しだけ入れて瓶を振り、全体が軽く湿るように行き渡らせます。

 ホワイトリカーは防腐剤代わり。ですので、度数高めのお酒であれば、焼酎やブランデーでも問題なしです。今回は泥汚れのひどかった実もあったので入れましたが、お酒に弱い方は入れなくても大丈夫ですよ。

 あとは毎日一回以上、瓶を振って中を軽く混ぜてあげてください。だんだん梅のエキスが出てきて、氷砂糖が溶けていきます。

 日数が経ってエキスがだいぶ染み出してくると、梅についた天然酵母でシロップが発酵しはじめることもあります。瓶を振るときに、瓶の縁や液体の表面に細かい泡が浮かんで白っぽく見えるときは発酵が始まっていますね。こうなると、発酵が進むほどアルコールが作られていきます。

 こうなった場合、我が家では氷砂糖が溶けきる前でも梅の実を抜いてしまい、氷砂糖が溶けるまで放置することにしています。実を入れっぱなしにしていると、醸造臭やシンナーっぽい臭いがしてくることもあるので。

 このシンナー臭はピキラと呼ばれる酵母の大繁殖が原因。こいつはアルコールを分解して酢酸エチルというものを作るのです。シンナー臭(セメダイン臭)の正体はこの酢酸エチルなんですね。

 メロンなど糖度の高い果物でご経験あるかもしれませんが、よく熟した果物なんかでも、同様にピキラが酢酸エチルを作っていることが。果物の中で糖を食べた酵母(ピキラ以外)がアルコールを排出。そのアルコールを食べたピキラが酢酸エチルを排出……。

 ということで、アルコール濃度が上がる前に、ピキラがついている可能性大の実を取り去ってしまうという対策をしています。濃度が上がる前にピキラが死滅してくれることを祈りつつ。


 氷砂糖が溶けきったら梅シロップ完成。もし発酵が始まっていたら、火入れして酵母を止めます。琺瑯ホーロー引きの鍋に移して火にかけ沸騰させて、ついでにアルコールも飛ばしちゃいましょう。エチルアルコールは沸点78℃ちょっと。前述の酢酸エチルも、沸点77℃ですので飛んでくれます。

 アルコールを飛ばしたくないなら、沸騰する前に火を止めてくださいね。酵母は55℃くらいで死滅してくれます。乳酸菌は78℃くらいまで耐えるので、できれば80℃までは一度加熱したほうがいいと思います。アルコールを残した場合、お子さんに飲ませるのは要注意ですよ。

 冷めてから、だしパックや油こし紙、キッチンタオルなどでしながら空き瓶やペットボトルに移して冷蔵保存。完熟の実を使うと特に、崩れた果肉なども入ってきますしね。これが我が家のやり方です。


 そうそう。沸騰させるのが怖いとか、ガラス瓶に詰めちゃったあとで念のため殺菌しておきたかったなと思っちゃった場合。鍋にお湯を沸かしながら、湯せんしましょ。

 水を入れた鍋を火にかけ、シロップを入れたガラス瓶を入れます。で、沸騰したお湯の中でしばらく加熱。

 ペットボトルやプラ容器の場合は、容器が溶けたり変形したりのリスクがあるので、湯せんNGですよ。

 それから湯せんするときは、瓶の蓋は開けておいてくださいね。下手すりゃ蓋が吹っ飛びますよー。



【梅コンポート】

 梅 お好きな量

 砂糖 梅と同じ重量

 白ワイン 1カップ(200cc)


 今回は初めての試みですので、梅の実は少なめの350g弱で作ってみました。

 傷みのひどい部分はあらかじめ包丁で切り取り、琺瑯引きの鍋へ。

 そこへ、梅と同量の砂糖と白ワインを投入。あとは弱火でしばらく煮詰めるだけです。

 沸騰させずに80℃くらいを保ってといろんな方々が言っていらっしゃいますが、うっかり沸騰させてしまいましてね。

 我が家の琺瑯鍋はかなり深い大きめなものなのです。それでも蓋をして弱火で加熱して、ちょっと目を離したら沸騰して吹きこぼれそうになってましてねぇ。一瞬焦りました(汗)。

 80℃くらいって、たぶん吹きこぼれ防止と焦げ防止のための温度なのでしょうね。蓋をしていなかったら、目を離したときに焦がしていたと思います(汗)。

 沸騰を防止するなら、湯せんで加熱したほうが無難かな……。


 さてさて、無事に全体に火が通り、やわらかくなったところで火を止めました。鍋に蓋をして、冷めるまで放置。冷めてから適当な瓶に実と煮汁を入れて冷蔵保存です。


 残った煮汁は梅シロップと同じ使い方ができそうだと思いましてね。さっそく試してみました。

 コップに煮汁を少々入れて、炭酸水を投入。軽くかき混ぜて、いざ試飲。


 んー、フレッシュ!!


 ふわりと鼻に抜ける、桃のような杏のような甘く爽やかな香り。そして、しっかりとした甘酸っぱい味。

 いや、火入れしているんですよこれ。というか、間違いなく数十分グツグツ煮込んだ汁なんですよ。それなのにこの汁の風味、漬け込んだ火入れなしの梅シロップよりはるかになまの果実感があるんですよ。不思議!

 作る時間の関係でしょうか? 片や1ヶ月、片や数十分……。それとも、煮汁に混ざった皮や果肉もそのまま混ぜて飲んだから? いやいや、できたての濾過もしていない梅シロップ試飲のときにも感じたことのない果実感だぞこれ。白ワイン効果もあるだろうけど、うーん……。


 コンポート本体も杏のような香り。甘酸っぱい味わいがたまりません。お箸で掴もうとすると崩れてしまうやわらかさ。これ、いいな。

 実は私、やわらかい梅干しや甘い梅干しって苦手なのですが、もしかしたらこいつのおかげで克服できるかも……。


 なお、このコンポートと煮汁を使って梅ゼリーを作っても美味ですよ。結構おすすめです。

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お菓子作ってみませんか? 鬼無里 涼 @ryo_kinasa

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