第109話 だったら私が脱ぐわ。

「うひぃ……。はふぅ……」


 鳥山さんが、教室の後ろに用意されたマットの上でうつ伏せになっている。

 そして……。虎杖先生にマッサージをしてもらっていた。

 ちなみに例の如く、授業中である。


「気持ち良いわね……。さすが虎杖先生」

「うん……」


 なぜこんなことになったのかというと、話は二分前にさかのぼる。

 一限は国語の授業。担当教師の虎杖先生がやってきたのだが、いきなり鳥山さんが……。百万円をつきつけたのだ。


 いや、そんな脅迫聞いたこと無いから。

 と、ツッコむまもなく、マッサージをしろと要求。

 今に至る。


 俺は知らなかったが、虎杖先生は大学時代、マッサージ店でバイトしたことがあるらしい。


「ちょっともう……。素晴らしい腕前よ……。さっさと教師なんかやめて、マッサージ師になった方が絶対良いわよ?」

「はは~。そうだよね~。いきなり自分の授業ぶっ壊されて、生徒にマッサージさせられてるんだもん。教師向いてないよね~」


 被害者みたいな言い方してるけど……。一応あなた、百万円もらってますからね?


「虎杖先生。百万は何に使うつもりなのかしら」

「ホス……。えっと、寄付かな」

「無理あるでしょ」


 とうとうツッコんでしまった。


「あら魚谷くん。羨ましいでしょ? お金持ちだと、適当に札束を投げておけば、誰にでもいきなりマッサージしてもらえちゃうの」

「性格悪っ……」

「でも! 私が魚谷くんをマッサージするとなれば、話は別よ! いやむしろ私がお金払う! 払わせてちょうだい!」

「みんな自習してるから、静かにしてあげて」

「自習なんかしないといけないくらい勉強の進度が絶望的な奴に未来なんてないわよ」

「おい」


 数人の生徒が、咳ばらいをした。

 学年一位が言うと、威力が違う。


「虎杖先生。ちょっと痛いツボとかないんですか? たまにはやり返してやってください」

「えっと……。じゃあ、胃腸のツボを押してみようかな」

「いいわよ。私、外見だけじゃなくて、内面も綺麗なんだから」


 虎杖先生は、次々と内臓系のツボを押していくが、鳥山さんは平気らしい。


「ふふんっ。いつだって魚谷くんと結婚する準備はできているのよ。体調を崩してしまったら、元気な赤ちゃんを孕めないかもしれないものね」

「虎杖先生。頭のツボもちゃんと押してます?」

「一番強く押してるよ?」

「いやぁ~気持ちいいわね……」


 サイコパスだから……。知能は高いんだろうな。


「ふぅ。気持ち良かったわ。じゃあ魚谷くん。約束通りあなたにマッサージをしてあげる」

「いつそんな約束したんだよ」

「ほらこっちに来なさい? ほらほら。三百万あるわよ?」

「虎杖先生にあげたら?」

「虎杖先生、ほしい?」

「ほ……。んぐっ」


 教師としてのプライドを保つためだろうか。

 無理矢理言葉を飲み込んだ。


「じゃあ魚谷くん。服を脱いでちょうだい」

「嫌だよ」

「服を脱がずにマッサージを受けるつもりなの? もったいないわよ」

「鳥山さん。全年齢対象のマッサージだよね?」

「そうよ? どんな年齢の人でも気持ち良くしてあげられるマッサージ」


 全年齢の意味を間違えてるな……。


「わかったわ。人前で脱ぐのが恥ずかしいのね。だったら私が脱ぐわ」

「おいおい」

「あと、虎杖先生も脱ぐわよ?」

「え? なんで?」

「ほら、三百万」

「脱ぎます」

「虎杖先生。教育委員会に報告しますよ?」

「でも三百万あれば……。ホストと一晩遊べるからなぁ……」

「キャバ嬢みたいな金の溶かし方しないでくださいよ」


 俺の制止もむなしく、鳥山さんがまず制服を脱いだ。

 ちゃんと下に水着を着ていたらしい。


「あらあら魚谷くん! 残念だったわね! 私のおっぱい見られると思って期待したんでしょ? でも残念! スク水でした!」

「なんでスク水……?」

「その方が魚谷くんが興奮できるだろうなって思ったのよ」

「特殊性癖じゃないから……」

「ちなみに虎杖先生もスク水を着ているわ」

「え」

「き、着てない着てない!」


 びっくりした。

 変態教師かと思ったよ。

 

 鳥山さんが、何かをカバンから取り出した。

 

「ほら虎杖先生。スク水よ。着替えてきなさい」


 おかしい。 

 さっきまでマッサージがどうとか話してたのに、スク水が話題の主導権を握っている。

 

「えっ? でも私、スク水なんて……」

「いいから着てきなさいよ! 五百万あげるから!」


 鳥山さんは……。

 虎杖先生に手渡したスク水の上に、札束を五つ乗せた。

 

「行ってきます!」


 教師、虎杖雫……死す。


「ただいま!」


 すぐに虎杖先生が戻ってきた。

 うん……。

 ……わかってたけど、二十代後半女性のスク水はキツイ。

 サイズがあってないせいで、妙にエロい感じになってしまってるし。


「魚谷くん! 見ちゃダメよ! あんな変態!」

「ちょっと!?」

「鳥山さん……。自分で着せておいて、それは無いでしょ」

「……だって、思っていたよりも、なんかいかがわしい感じになってしまっているもの! あんな変態教師見ちゃだめ! 私を見なさい!」

「私、泣いてもいいよね?」

「札束で涙を拭くといいわ」


 何だこの会話。


「でも……。久しぶりにスク水着て、昔を思い出したかも。私にもこれを着ていた時代があったんだよね……」

「悲しいオチつけないでもらえます?」


 

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