第108話 なんでまだお〇っこしてないのよ!

「NGワードゲームって知ってるかしら」


 珍しい。今日は比較的まともな話題だな。

 ……ここが男子トイレじゃなかったら。


「あっ、いいのよ全然。お〇っこしてちょうだい」

「するわけないじゃん」

「はぁ!? トイレに来たのにお〇っこしないの!?」

「はい、外に出ましょうね~」


 さすがに他の男子生徒がビビってるので、鳥山さんと一緒に外に出た。


「あのね魚谷くん。あなたがトイレに入る姿が見えたから、性器を露出する瞬間……。まさに! 『世紀の瞬間』を見届けるチャンスだと思って来てみれば……! なんでまだお〇っこしてないのよ! 本当に意味がわからない! PTAに相談させてもらうわ!」


 俺が相談したいんだけど。


「あの……。それはもういいからさ。NGゲームの話でしょ?」

「話題を逸らすのが上手いわね」

「鳥山さんの持ってきた話題に合わせたんだけど」

「仕方ないからあなたの話に付き合ってあげるわ」

「……」

「そう、NGワードゲームをあなたとしたいのよ」

「早く終わらせよう」

「じゃあこの紙に、NGワードを書いてちょうだい」


 何にしようかな……。


 適当に、洗濯機でいいか。


「さて。書き終わったわ。それじゃあ、よ~い」

「あっ、待って。罰ゲームとかどうせあるんでしょ?」

「あるわよ? さぁそれじゃあゲームスタ――」

「はいストップ。ちゃんと内容も教えてよ」

「……クソッ」


 鳥山さんが地面を蹴った。

 この人は本当に……。油断も隙も無い。


「罰ゲームは……。私と結婚することよ」

「自分との結婚を罰ゲームにするのはどうなんだろう」

「なりふり構ってなんていられないわ! 結婚したいんだもの! あ~すぐしたい! 日本の法律が早く変わらないかしら!」

「鳥山さんが考えを変える方が早いと思うよ」

「じゃあ罰ゲームも確認したし、さっそく――」

「待て待て」

「うぅううう!!!!」


 顔を真っ赤にして、鳥山さんが地団太を踏んでいる。

 子供かよ……。


「多分だけどさ……。これ、NGワードを『結婚したくない』に設定してるでしょ?」

「……」

「そうすれば、俺に対して、結婚したい? って聞いて、結婚したくない。って答えたら、罰ゲームで鳥山さんと結婚することになるし、逆に結婚したいって答えたら、ゲーム関係無しに結婚することになるし」

「……」

「……でしょ?」

「……ははっ」


 なんか笑い出したんだけど……。


「さすが魚谷くんね。頭良いじゃない」

「じゃあもう、解散でいいかな……」

「待ちなさいよ。尺が足りないわ。尺が」

「だいたいこのゲームってさ、二人でやらなくない?」

「そんなことないわよ。声優さんがラジオで二人でやっていたもの」

「ラジオはほら……。聞いてる人が一緒に楽しめるから良いけど。これって鳥山さんしか楽しくないしね」

「……そこまで言うなら、やめるわ。悪かったわね」


 鳥山さんが、トボトボと去って行った。

 今日はやけに素直だったな。

 さて……。じゃあトイレに……。

 

 入ろうとしたところで、視線を感じた。

 一旦トイレに入り、しばらく待機していると……。


「なんでまたお〇っこしてないのよ!!!」


 鳥山さん、再登場。

 

「ごめん鳥山さん……。それさ、小学生のノリじゃない?」

「小学生です!」

「高校生でしょ」

「小学生です! お兄さんこんにちは!」

「……あのさ、勘弁してよ。めちゃくちゃ非常識なことしてるっていう自覚ある?」

「小学生だから自覚とかそういう難しい言葉はわからないです!」


 ダメだこいつ。

 廊下に戻ると、ちょうどいいところに猫居がいた。


「猫居。ちょっと来てくれ」

「なにぃ」

「鳥山さんがしつこくて、漏らしそうなんだ」

「は、はぁ!? あんた何言っとんの!」

「猫居さん! 魚谷くんがお〇っこするところ、見たいわよね!?」

「あんたも何を言っとんの!?」


 すまん猫居。この状況を突破するためには、ツッコミが一人では足りないんだ。

 

「よくわからんけど……。トイレくらい行かせたりゃぁ……」

「猫居さんは卑怯よね」

「何が」

「だって……。あ、あなたたち、幼馴染なんでしょう? お互いの性別を理解する前から仲良しだったわけじゃない。つまり……。その、一緒にお風呂に入ったことだってあるわよね!?」

「……」

「……」

「なんで二人とも黙るのよ! あるでしょう!?」


 ある。 

 けど、少なくとも廊下で話す話題じゃない。


「猫居さん! 答えなさい!」

「知らん……」

「魚谷くん! 今と変わらないサイズの、猫居さんのおっぱいを見たでしょう!?」

「今と変わらないサイズって言った?」


 猫居が怖い顔をした。


「仕方ないわね……。ほら猫居さん。いつもの奴よ」


 鳥山さんが、猫居に……。高級猫カフェのタダ券を渡した。

 これを渡されると、猫居は鳥山さんの言うことを何でも聞く裏切り者になってしまう。


「小学校五年生くらいまでは一緒に入っとったよ。ウチはもう嫌だって言ったのに、こいつは全然そんなこと気にしんかった」


 うわぁ恥ずかしいです最悪です。誰か助けてくれません? 猫居なんか呼ぶんじゃなかったよ。


「なるほど……。魚谷くん。それってたった五年ほど前の話よね? 猫居さんの裸とか、頭に残っているんじゃない?」

「残ってないよ……」

「それはそれでムカつく!」

「えぇ……」

「ほら猫居さん! チケットどんどんあげるわ! もっと魚谷くんの恥ずかしい過去を教えて!」


 その後も、タダ券と引き換えに、俺の恥ずかしい秘密が次々と暴露されていった……。

 もう転校しようかな。本当に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る