第107話 いつでもあなたの総理大臣、鳥山蘭華で~す!
「総理大臣になればいいんだわ……!」
昼休み、一緒に食事をしていたところ、鳥山さんが今日もクレイジーな話題を提供してくれた。
「一応聞いておこう。何のために?」
「それはもう魚谷くんのためよ」
「あのさ鳥山さん。大前提として、総理大臣は国民のために働かないと」
「そうかしら。私がニュースを見る限りでは、総理大臣が国民のために働いているとは――」
「ああ待ってなに言おうとしてる?」
慌てて、手元にあったコンビニおにぎりを、鳥山さんの口にねじ込んだ。
危なかったぞ。政治的発言だけは勘弁してくれ。
「ありがとう魚谷くん。まさか魚谷くんの方から、あ~んしてくれるだなんて思わなかったわ」
「ポジティブだね。それで……。俺のために総理大臣になるっていうのは、一体どういうことかな」
「総理大臣になって法律を変えれば、魚谷くんに何をしても捕まらないってことに気がついたのよ!」
「あっ……」
小学生みたいなこと言い出しましたね……。
「まぁその。頑張ってくれ。応援はするよ」
「応援演説してくれるの?」
「そういうことじゃなくて」
「ちょっと試しにやってみましょうよ選挙活動」
「は?」
鳥山さんが、教室の前に移動した。
「はい注目! みんな! 私今日から総理大臣を目指すことになったわ! 絶対投票してね!」
最短で選挙法違反を達成したなこの人。
「魚谷くん何してるのよ! さっさと前に来なさい! それか後ろの黒板の前に立って、私と魚谷くんでクラスメイトをサンドイッチにしましょう! これがサンドイッチ国会よ!」
どうしよう全然意味がわからない。脊髄で喋ってるよねあの人。
とりあえず面倒なことになりそうだったので、そのまま教室を抜け出した。
「さぁ行きましょう」
なんと、すでに鳥山さんが回り込んでいた。
そう。何を隠そうこの人、人間の限界を遥かに超える身体能力を有している。
俺よりも後で教室を出たはずなのに、なぜか回り込むことができているという。
ここに関しては触れると怖いので、もう受け入れることにしてます。
「放送室に行って、校内全体に、私の魅力をアピールするのよ!」
「勝手にしてください」
そして、放送室に辿り着いてしまった。
放送委員は、鳥山さんの顔を見た瞬間、一目散に逃げだしてしまった。
戦う意思を持ってくれ。若者。
「やっほ~! みんな聞こえてる? いつでもあなたの総理大臣、鳥山蘭華で~す!」
「アイドルの自己紹介みたいになってるよ」
「私が総理大臣になったら、パセリが嫌いだから、パセリの輸入を全面的に禁止するわ!」
「自分勝手すぎるでしょ」
「ちゅっ……ちゅっ……。あっ、ちょっと魚谷くん何? やめ、やめてぇ!」
「おいおいおい」
慌てて放送を中止させた。
「何してんの鳥山さん」
「い、いや。音声のみだから、魚谷くんに強引に身体を奪われた感じの演技をしようかなって……」
「総理大臣は?」
「飽きたのよ」
「多重人格なの?」
「そんな飽きっぽい私が、魚谷くんのことはずっと好きでいてられるの! これって運命よね? いや、それとも奇跡? あるいは幻!」
「頭使って喋ってくれない?」
「ちょっとちょっと! さっきの放送は何!?」
放送室は、生徒指導室の隣にある。
そのせいか、虎杖先生が慌てた様子でやってきた。
「あら、売れ残りんごさんじゃない」
「えっ。びっくりするくらい不名誉で失礼極まりないあだ名付けられてる私」
「ちなみに、熟れ、ともかかってるのよ」
「まだ熟れてない! 二十?歳だよ!?」
鳥山さんが、ひっそりとマイクの音量を上げている。
……性格悪いなぁこの人本当に。
「私が総理大臣になったら、虎杖先生の彼氏担当大臣を用意してあげるわ」
「本当? 絶対投票するね!」
「虎杖先生。ちゃんとツッコミやってもらえます?」
「ツッコミできるほど余裕ないよ私。本当に売れ残りなんだもん」
「……」
「あとできれば……。たくさん私のこと甘やかしてくれる大臣とかも欲しいなあ」
「甘えんじゃないわよ」
「急に突き放されちゃった」
虎杖先生は、何かを諦めたように去って行った。
「魚谷くん……。あぁならないうちに、あなたは早く私と付き合うべきだわ」
「勘弁してください」
「もし私が総理大臣になったら、絶対あなたを官房長官にしてあげるから! 新元号発表させてあげるからお願い!」
「そんなお願いの仕方ある?」
「ちなみに新元号について提案なんだけど……。私の苗字の鳥と、あなたの苗字の魚を使って、鳥魚っていう元号はどうかしら」
「ネットでボロクソ言われるよ」
「ネット禁止法を作るわよ!」
この人、総理大臣を、異世界転生最強主人公か何かと勘違いしてない……?
「はぁ~。やめやめ。総理大臣になる苦労をするより、あなたのお嫁さんになるための修行をした方が、よっぽど効率が良いわ」
「そういう修行の前に、常識を身に着ける勉強をした方が良いと思うよ」
「あら何言ってるの魚谷くん。私が学年一位ってこと忘れたのかしら」
「なんでそんなに学力があるくせに、常識が無いんだろう……」
「気になる? それはきっと、私と結婚して、夫婦生活を送るようになったら、いずれわかることだわ! だからまずは夫婦生活をしましょう! ね! ほら! 婚姻届け持ってきました!」
俺は放送室を後にした。
……これは一体、何ハラスメントになるんだろう。
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