第104話 魚谷くんの入浴時間と、それに伴うパンツ強奪可能タイムの研究。

「魚谷くん好き好き好き!」

「どうも……」

「好き好き! 大好き!」

「はい……」

「好きよ~! あっは~ん!」


 あっは~ん……?


 頑張って無視しようとしたけど、さすがにそろそろ、ツッコミをした方がいいだろう。


「鳥山さん。図書室だからさ……。静かにしよう?」

「好き~!!!」


 ダメだこりゃ。


 気が付くと、図書委員も含めて、俺たち以外誰もいなくなっていた。


 たまには誰か、助けてくれよ……。


「好きで~す! 現場の魚谷く~ん!」

「リポーターかな?」

「大好き~!!!」

「ごめん鳥山さん。それって、文化祭の出し物を考える時に、もうやったよね」

「大好き~!」

「おい。聞いてんのか」

「は? ぶん殴るわよ?」


 なんだこいつ……。


「魚谷くん。私ね、これまで隠していたんだけど……。魚谷大好き星から来た、魚谷リンなの!」

「語呂悪くない……?」


 ボーカ〇イドみたいになっちゃってますけど。


「魚谷リンって、気軽に呼んでちょうだいね!」

「普通そういうのって、自分の名前から取らない? 鳥山さんだったら、蘭華リンとかさ」

「何を言ってるのよ。私と魚谷くんは結婚しているのだから、苗字が魚谷でしょう? 魚谷リンでいいじゃない? ダメなの!?」

「もうわかった。わかったから大声出すのやめて」

「大好き~!」


 まさかこれ、返事が大好きになってるのか……?


 今日は相当、めんどくさそうだな。


「魚谷大好き星の住民はね? みんな魚谷くんのことが大好きなの!」

「そうですか……」

「魚谷くぅ~ん! 大好きでぇ~す!」

「自分で言っててさ、恥ずかしくない? 色々と」

「全然。あなたへの愛を叫ぶことの、何が恥ずかしいの?」

「うん……」

「あっ、もしかして照れた!? 照れたわよね! ね!?」


 照れてないんだよなぁ……。引いてるんだよ。ずっと。


 しかし、どうやら鳥山さんは気を良くしたみたいで、さらに動きが激しくなった。

 図書室の長机の上に立って、謎の踊りを踊っている。


 ……MPが削られそうだなぁ。


「う~お~た~に~くんっ! 大好きで~す! ふっふふっふ~!!!!」

「頼むから、机の上に乗るのはやめてよ」

「やめませ~ん! うふっふふっふ~!!!」

「こんなことするなら、図書室じゃなくても良かったじゃん」

「それがね、ちゃんと理由があるのよ」


 鳥山さんが、グルグルと回転しながら、机から飛び降りた。


 相変わらずの身体能力。


「こっちに来なさい」


 鳥山さんに命令されて、奥の棚へ移動。


 そこにある、一冊の本を手に取り、俺に見せてきた。


「……なにこれ」

「魚谷大好き星の本よ!」


 明らかに自作と思われる本だった。


「無駄にお金かけるのやめようよ……」

「見なさい。あなたの寝顔が表紙よ!」

「すごい嫌なんですけど」

「帯のコメントは、西加〇子先生にお願いしたわ」

「なにやらせてんの本当に」


 お金の力は恐ろしいなぁ……。


「ほら。中を見なさい? 魚谷大好き星での生活を、一緒に覗いていきましょう?」


 鳥山さんに促されたので、仕方なく本を開いた。


 目次が目に入った途端、閉じようと思ったが、鳥山さんがそれを防いできた。


「何やってるのよ魚谷くん。早く読みなさい?」

「無理無理。嫌だよこんなの」

「どうして? 最初の、魚谷くんの入浴時間と、それに伴うパンツ強奪可能タイムの研究。を読みなさいよ」


 第一章から犯罪の手法を書いてる本、初めて見たんですけど。


「だいたい、これはその……。なんだっけ」

「魚谷大好き星ね」

「そうそう。そこの人たちが読んでる本なんでしょ? なんで俺が読むのさ」

「魚谷くんって、細かいところあるわよね……。はぁ」


 なんか、呆れられたんですけど。


 これ、俺が悪いの?


「せめて、第八章の、魚谷くんの遺伝子採取を科学する。だけでも読んでちょうだいよ」

「一番読みたくない章なんだけど」

「文句ばっかり! 魚谷大好き星のみんなに、申し訳ないと思わないの!?」

「じゃあ、連れて来てよ。他の住民を」

「……は?」

「いや、は? じゃなくて。謝るから、連れてきてみなよ」

「……ちょっと待ってなさいよ?」


 鳥山さんが、図書室を出て行った。


 ……帰ろう。


 俺は荷物をまとめ、昇降口に向かった。


「残念だったわね! あなたの行動は全部まるっとお見通しよ!」


 ……昇降口にある、靴箱の上から、鳥山さんが飛び降りた。


「……見つかりました? 他の住民の方は」

「さっき、速報が入ったわ。魚谷大好き星は、爆発して、なくなってしまったそうなの」

「……」

「でも! 私が魚谷くんを大好きであることに、変わりはないわ! レッツ結婚! レッツ遺伝子残し! 私たちで、この世界を幸せにしましょう!」

「あの、それで、帰ってもいいよね?」

「大好き!」


 はい、か、いいえか、全くわからないから、その返事の仕方やめてほしいんだけど……。


 まぁ、はい、とか言う人じゃないことはわかってるけども。


「……これだけ、大好きと言われて、全然照れてくれない魚谷くんサイドにも、問題があるんじゃないかしら」

「どうしてそうなったのか、一度自分の行動を振り返ってみると良いと思うよ」

「もしかして、魚谷くんはドMで、嫌いって言われた方が、萌える感じなのかしら」

「……」

「大嫌い!」

「……はい」

「あ~違う違う! ごめんなさい! 違います! 許してください大好きです! あぁ~~~~~!! 好きなのよ~~!! 怒らないで~!!!」


 鳥山さんが、土下座をしている。


 ……そうやって、普段から素直に謝ってくれたら、もう少し関係が進むと思うんですけどねぇ。

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