第82話 私、今日は可愛い下着を身に着けてきたのよ!
「やっぱり世の中金なのよ」
「え?」
「これを見なさい。魚谷くん」
鳥山さんが……。
カバンから、金の延べ棒を取り出した。
「どうよ」
「どうよって……。なんでこんなもん、持ち歩いてるの?」
「ほらほら、これを見て?」
俺の質問を完全に無視して、今度は……。
……なんか、すごいギラギラしている腕時計を取り出した。
「これ、いくらすると思う?」
「……百万とか?」
「二億よ」
「二億……?」
「へへっ」
何笑ってんだよ。
二億の腕時計をつけた鳥山さんが、またしてもカバンから、何かを取り出す。
「じゃじゃん」
同じような腕時計が……。
五つ出てきた。
「合計十二億よ。十二億。わかる?」
「怖すぎるって」
電車の中で、やることじゃない。
なにかを察した乗客たちが、次々と遠くに離れて行った。
「魚谷くんが、どうしても私の好意に答えられないみたいだから……。もう、実力行使をすることに決めたわ。無限の富を、これ以上無いほど見せつけてやるんだから!!!!」
声高らかに、宣言した鳥山さんは、またしてもカバンを漁る。
「あの、鳥山さん。申し訳ないけど、いくらお金持ちアピールされたところで、何も……」
「そんなのわからないじゃない! 良いから黙って見てなさい!」
「……」
人の意見を取り入れるってことを、絶対にしないんだよな。この人は。
「どう? これ」
鳥山さんが取り出したのは、万年筆だった。
「高いの? これ」
「三十五億よ」
「三十五億」
聞いたことある数字が出てきたが、多分関係ない。
「かの有名な、オチャノミマス侯爵が使っていたとされる、万年筆なのよ!!」
「誰それ……」
「私も知らないわ」
「えっ……。なんか騙されてない? それ」
オチャノミマスって……。
ギャグ漫画の登場人物みたいだけど。
「見なさい! この滑らかな書き心地!」
書き心地は、見ても伝わらないと思ったが、とりあえず黙っておいた。
「反応が悪いわね……。じゃあこれ!」
次に取り出したのは、二角帽子だった。
ナポレオンがよく被ってるアレだ。
鳥山さんは、その帽子を被り、ポーズを決めている。
両腕に、三つずつ付けられた、ギラギラの腕時計との組み合わせが、何とも言えない。
本人は楽しそうなので、良しとしよう。
「これはね……。魚谷くん! あのナポレオンが、実際に被っていた帽子なのよ!」
「……は?」
「驚いて言葉も出ないのね! 価格は二十億円!」
オチャノミマス侯爵の万年筆より安いのか……。
……いや、それでも、二十億?
なんだか、ものすごく嫌な予感がしてきた。
「鳥山さん……。それってさ、どっちも同じ人から買ってる?」
「そうね。厳密に言うと、全く同じ人ではなくて、その人たち同士が、知り合いっていう感じらしいわよ」
カモにされてる!
「あの……。それさ、もう詐欺だから、買うのやめた方がいいよ」
「詐欺? あぁ~これだから庶民は! へっ!」
「ていうかさ、ナポレオンの帽子って、こないだオークションに出たっていうニュースを、どっかで見た気がするけど」
「え?」
俺はスマホで、ナポレオン、帽子、オークションで検索をかけた。
すると……。
「ほら……」
スマホの画面を鳥山さんに見せてみた。
……二十億とは程遠い数字が、そこには書かれている。
鳥山さんの目が泳いだ。
しかし、すぐに、首を何度も振って、現実逃避。
「こ、こんなの嘘よ! こっちの方が詐欺だわ!? インターネットの情報なんて、嘘ばっかりじゃない! 嘘は嘘であると見抜ける人でないと、インターネットを使うことは難しいって、ナポレオンも言ってたじゃない!」
「言ってないよ」
「ぐぬぬぬぬぅうう!! 絶対、騙されてなんてないんだから!」
「ちなみにさ、その腕時計は?」
「……」
黙ったんだけど……。
もう、うすうす気づいてるでしょ、この人。
「こ、ここまでのガラクタのことは、どうだっていいのよ」
ついに、ガラクタとまで呼び出した。
合計、六十七億円のガラクタ……。
「あのね魚谷くん。今日本当に見せたかったのは、これなのよ」
最後に取り出したのは……。
白い粉だった。
……え?
「鳥山さん。これはダメじゃない?」
「匂いを嗅ぐと、エッチな気分になる粉らしいのよ」
「おいおいおい」
「こんな少量で、二万円もしたのよ!?」
「価格的にちょうどアレっぽくない……?」
「アレってなによ」
「とりあえず、これはもうやめておいたほうがいいよ」
「やめないわよ!」
ジャラジャラと、ギラギラの腕時計を揺らしながら、鳥山さんが近づいてくる。
鳥山さんと出会って、結構な日数が経過してるけど……。
今日のこれは、マジでヤバいヤツだと思う。
「さぁ魚谷くん……。これを吸って、エッチな気分になりなさい! 私、今日は可愛い下着を身に着けてきたのよ!」
「一旦落ち着こう。ね? 金持ちはすごい。認めるからさ」
「金持ちじゃなくて、私を認めてほしいのよ!!!!」
主旨が崩壊してるんだけど。
ちょうどここで、駅に到着した。
俺は慌てて、ドアから脱出する。
「待ちなさい! 待たんかいこらぁ!!」
後ろから、ものすごい顔をしながら、鳥山さんが追いかけてくる。
あんなもの持って、怖い顔してたら……。
「あっ、君。ちょっと良いかな」
「え?」
鳥山さんが、警察に止められた。
そりゃそうだよ。
結局、中身はただの小麦粉だったらしい。
ちゃんとオチがついてよかった。
☆ ☆ ☆
「魚谷くん魚谷くん」
朝、昇降口で靴を履き替えていると、ニコニコしながら、虎杖先生が近づいてきた。
「どうしたんですか?」
「これ、見てよ」
虎杖先生が……。
小さい透明の袋に入った、錠剤を見せてきた。
「これを飲むと、すぐに痩せられるらしいの! こないだ深夜に、飲み屋街を歩いていたら、お兄さんがタダでくれたんだよ!」
「……はぁ」
数時間後、学校が大パニックになったのは、言うまでもない。
薬物はダメ! 絶対!
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