第59話 魚谷くんの顔面を舐めまわして、私の唾液で化粧水の役割を果たしたい!

 校門の前で、鳥山さんが立っているのだが。


 その手には、木刀が握られており。

 ロングスカートを履いている。


 昭和のヤンキー……。いわゆるスケバンスタイル。


 俺を見つけた途端、その木刀で、地面を思いっきり叩いた。


「おはよう!!! 魚谷くん!」


 うるさ……。


「おはよう。委員長だから、校門で挨拶してるの?」

「委員長?」

「え?」

「あ、あぁそうね。確かに私委員長よ? 委員長で~す!」


 完全に忘れてただろ……。この人。

 目が泳いでたもん。


「で、今日は何をしてるのかな」

「最近の学生はおとなしすぎるのよ。刺激が足りないと思って……。どう?」

「良いんじゃない。じゃあ、俺はこれで」

「待ちなさいよ」


 腕を掴まれ、引き戻された。


「なんでしょう」

「番長である私に、逆らうつもりなのかしら」

「そんなつもりはないですよ」

「じゃあ、今すぐここで、私とキスしなさい」

「……嫌です」

「はぁ!? あなたなめてるの!?」


 カァンっと、大きな音を立てて、木刀が地面とぶつかった。

 ……めちゃくちゃ怖いんですけど。


「通報されるよ? こんなことしてたら」

「上等よ。全員裁判所で相手してあげるわ」

「木刀使おうよ」

「魚谷くん……。この刀は、人を斬るためにあるものじゃないの……。人を守るためにあるものなのよ?」


 ドヤ顔してますけど。

 キャラ迷走してるよね? これ。


「今、魚谷くんの考えてることを、当てて上げましょうか?」

「うん」

「こいつ、キャラ迷走してんなぁ」

「ビンゴだよ」

「悔しいけど、その通りよ。私は、あなたの指摘したように、委員長という自分のステータスを、すっかり忘れていたの。でも、それを思い出した瞬間、こんな格好をしていることが、すっごく恥ずかしくなってきてしまって……」


 珍しく、反省し始めた鳥山さん。

 逆に調子狂うな……。


「ド○キでこの服を買った時は、これで魚谷くんを脅して、アレやコレをたくさんするつもりだったのに……」

「残念だったね」

「しかし! これで諦める私ではないわ!」


 鳥山さんが、またしても木刀で、地面を叩こうとした。

 しかし、良心が咎めたのか。その手を静かに降ろした。


「ズバリ! 悪かったあいつが更生して、委員長になりました~! 的な展開を目指せばいいのよ!」


 そう言って、木刀を置いた鳥山さん。


「バイバイ。相棒……。棒だけにね」


 うわしょうもな……。

 あと、木刀のこと、棒って言うのやめようよ。


「こんにちは。私は鳥山蘭華。更生したわ。キスをしましょう魚谷くん」

「言ってること変わらないじゃん」

「当たり前じゃない! 設定はね。悪をしていた私が、とある青年に惚れ、キスを迫るの。だけど青年は真面目だから、スケバンである私の発言を冗談だと思って受け流してしまう。どうしても好意が本物だと示したい私は、覚悟を決めて、スケバンをやめる決意をする。かつての仲間たちとの熱い戦い。そして、友情……。真面目な生徒として生まれ変わった鳥山蘭華と、青年がキスをする……! ディスイズ完璧シチュエーションじゃない! ねぇ!?」


 古くない……?

 もう、時代は令和に突入してるわけなんですが。


 鳥山さんは、目をキラキラとさせながら、俺を見つめてくる。

 ちょうどそこに、猫居が現れた。


「……あんたら、なにしとんの」

「猫居さん! ちょうどいいところに来たわ! ヤンキーを辞める私に、熱い言葉を送ってちょうだい!」

「ヤ、ヤンキー? あんた委員長だが」

「猫居。付き合ってやった方が、早く逃げられるぞ」

「……」


 猫居は、ため息をついた後、


「……ヤンキー辞めるなんて、言わんといてよ~」


 恐ろしいくらいの棒読みで、熱い言葉を送った。


「いいえ! 私は魚谷くんが好きなのよ! 魚谷くんの顔面を舐めまわして、私の唾液で化粧水の役割を果たしたい! そう思っているくらいには、本気で好きなの!」

「……」

「……ふっ。私の熱意に負けたようね」

「もういい?」

「えぇ。ありがとう」


 猫居、解放。


「さぁ魚谷くん。これで準備は整ったわ。キスをするわよ」

「しませんって」

「もおおおおおおお!!!!」


 再び木刀を持った鳥山さんが、地面をバンバンと叩き始めた。


「逆戻りしてるじゃん……」

「こうして、魚谷愛也にフラれてしまった鳥山蘭華は、また不良の道へと戻って行ってしまうのだった……。あ~あ。あなたのせいよ。一人の女の子の人生をめちゃくちゃにして。楽しい?」

「じゃあ、そろそろ教室に行こうか」

「教室なんて行かないわよ! ヤンキーだもの!」

「委員長」

「ぐああああ!!!」


 その言葉を受けた鳥山さんが、苦しみながらその場に倒れた。


 ……口裂け女かな?


「う……。ぐふっ。やるじゃない、妖怪ハンター魚谷くん」

「自分のこと、妖怪って言っちゃってるけど」

「ところでこの木刀、小学生の時に、修学旅行で買ったのよね」

「あぁ……。いるよね。木刀買っちゃう子」

「今、ロリな私を思い浮かべて、興奮したんじゃない?」

「しませんけど」

「しなさいよ!」


 理不尽な怒り。


「私はね! 魚谷くんのショタ時代を思い浮かべて、いけない妄想をすることが結構あるわよ! 例えば急に魚谷くんの体が縮んでしまって、そんな魚谷くんに、私がありとあらゆる悪戯をしちゃうっていう……。どうよ」

「どうだろうね」

「ふふ……。あ、なんだか捗ってきたわ私。今日は帰るわね」

「え?」

「木刀、あなたにあげるわ」

「おい」


 木刀を置いて、鳥山さんは去って行った。


 ……どうすんのこれ。


 ☆ ☆ ☆


【おまけ】


「プレゼント?」

「はい。そうなんです。いつも虎杖先生、頑張ってるので」

「ありがとう……。良い生徒を持ったわ。私」


 若干涙目になっている虎杖先生に。

 俺は木刀を手渡した。


 虎杖先生の目が、点になっている。


「えっと……」

「木刀です」

「わかるよ?」

「嬉しいですか?」

「小学生の時の修学旅行で、三本買っちゃったから……。もういらないかなぁ」

「なんでそんなに……」

「ほら、ワン○ースのゾ○の、鬼切がやりたくて……」

「……へぇ」

「あの、なんでそんな目で見るの?」

「あ、いや、はい」


 なんだろう。

 虎杖先生は、結婚できなさそうだなと思いました。

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