第58話 さぁ拾いなさい! 私の脳みその肉片を! 

 放課後、鳥山さんに呼び出され、現在使用されていない部室を訪れた。


 ドアに……。ノックをしてください。と書いてあるので、ノックをしてみる。


「どうぞ。お入りください……」


 ……ちょっと低めの、鳥山さんの声が聞こえた。

 今日は……。何をするつもりなのかな。


 ゆっくりとドアを開けると、中は薄暗かった。

 鳥山さんは、ローブのようなものを着ている。


「ようこそ。占いの館へ」


 机の上の水晶を撫でながら、不気味に呟いた。

 ……あぁなるほど。そういう感じね。


「どうぞ、目の前に立ってください……」

「えっ。椅子は?」

「うるさいわね……」


 立つスタイルの占いなんて、初めて見たんですけど。鳥山さんは座ってるのに。

 あと、低い声のまま、いつものクレームをつけてくるの、結構面白いからやめてほしい。


「お名前と、年齢は?」

「う」

「魚谷愛也。十七歳」

「はい」

「好きな女性のタイプは?」

「えっと」

「鳥山蘭華」

「……」

「なるほど。わかりました」


 鳥山さんが、忙しく水晶を撫で始めた。


 やがて、その手がピタリと止まった。


「……ズバリ。あなたは鳥山蘭華と結婚するべきでしょう」

「占いしてくれる?」

「したじゃない……。なによ……。文句があるなら……。弁護士を通してちょうだい……」

「ぷふっ」

「何笑ってんのよ……。水晶投げつけるわよ……」

「死ぬから」


 どうやら、笑ってはいけない占いの館らしい。

 まだ、年末は遠いけどなぁ。


「では……。次は、タロットカードを使っていきます」

「はい」

「この中から、一枚引いてください」


 鳥山さんが、カードの山を見せてきたので、一枚引かせていただいた。


「あなたが引いたのは……。これですね?」


 そう言いながら、スマホの画面を見せられた。

 確かに……。あってるけど。


 えっ。マジック見せられただけ?


「鳥山さん。占いは?」


 俺がそう尋ねると、再び水晶を撫で始め……。


「ズバリ、あなたは鳥山蘭華と結婚しています」


 おかしなことを言った。


「してませんけど」

「カードで指切るわよ」

「地味に痛いヤツじゃん。やめてよ」

「では、カードを返してください」

「うん……」


 俺の手渡したカードを、


 鳥山さんが、パクりと咥えた。


「なにしてるんですか?」

「んっ……、しゃぶっ……。れろっ……」

「おい」

「魚谷くんの手垢が……。じゅるっ……。もったいないじゃない」


 地獄かな?

 助けてくれ。なんだこの変態の館は。


「次の占いは……。動物占いよ」


 急に可愛いのがきたな。


「魚谷くんは……。魚ね」

「あれ。そういう風だっけ。動物占いって。もっとこう、複雑な感じだった気がするんだけど」

「私は……。じゃなかった。鳥山蘭華は、鳥」

「はぁ」

「魚は……。鳥に、食われる運命なのよ……」


 ……占い?


「つまり、鳥山蘭華の言うことをちゃんと聞いて……。式場は、海外にするのがいいわね……。あと、新婚旅行は」

「あ、もう大丈夫ですよ」

「最後まで聞きなさいよ……。あなた、呪われたいの……?」

「占い師だよね?」

「この水晶を使えば……。あなたに呪いをかけることだって、できるんだから……」

「……こわっ」

「ええええええい!!!!」


 いきなり鳥山さんが、水晶を叩き始めた。

 怖い怖い。何が始まった?


 そして、明かりが消え、真っ暗に……。


「ばぁっ」

「うわぁ!」


 真っ暗闇の中で、いきなり目の前に、鳥山さんの顔が現れた。

 懐中電灯で、下から顔を照らすという……。2020年現在、ほぼ絶滅したと言われている、怖がらせ方。


「……驚いたでしょう?」

「そりゃあね……」

「私に逆らうと、こうなるのよ……。黙って占いされなさい……」

「……はい」

「最後は……。花占いよ」


 占い師がやるやつじゃないでしょそれ。


「ここに、四葉のクローバーがあるでしょう?」

「罰当たりすぎるでしょ」

「まず、あなたから引き抜きなさい。好き、と言いながらね」

「……好き」


 心を痛めながら、四葉のうちの一つを、引き抜いた。


「もう一回、好きって」

「……え?」

「早く」

「……好き」

「もう一回」

「好き」

「ラストよ」

「好き……」

「魚谷くん! あなたどんだけ私のこと好きなのよ! あぁ~幸せ! 幸せ過ぎて脳みそ大爆発よ! さぁ拾いなさい! 私の脳みその肉片を! そして食べなさい! 魚谷くんの胃袋の中に、私の」


 俺はすぐに、部室から逃げ出した。


 ……いや、怖くない?


「あれ? 魚谷くん」


 すると、廊下に虎杖先生がいた。


「どうしたんですか?」

「えっと、鳥山さんがね? 占いを始めたって聞いたから……」

「何か、占ってほしいことが?」

「うん。私、いつ結婚できるのかなぁって」

「ははっ。頑張ってください」

「なんで半笑いなの? 魚谷くん? お~い」


 虎杖先生には申し訳ないが、生贄になってもらうことにした。


 ……やっぱり二十代後半って、焦り始めるのかなぁ。


 ☆ ☆ ☆


「あら、虎杖先生じゃない」

「うん。ねぇ鳥山さん。私って、何歳ごろに結婚できそうかな」

「知らないわよ。教え子にそんなこと質問してる時点で、到底結婚なんて無理そうね。虎杖先生みたいなタイプって、容姿こそいいけれど、これと言ったアピールポイントがないから、婚活市場であまりがちなのよ。多分、学生時代は結構モテていたんじゃない? だからプライドもすごく高くて……」

「もう、もうその辺にしてお願い」


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