第57話 怪盗鳥山。ただいま参上!

 昇降口で、上履きに履き替えようとしたら……。


 上履きの代わりに、一枚のカードが入っていた。

 表面はハートのエース。

 裏面には、何やら文字が書かれていた。


『怪盗鳥山。ただいま参上! 上履きを返してほしくば、視聴覚室まで来るべし! 必ず一人で!』


 ……上履き盗んだら、それはもうただのいじめだと思うんだけど。


 正直、無くても過ごせるので、俺はそのまま教室に向かうことにした。


 そして……。教室に入り、すぐに異変に気が付いた。


 俺の机が、なくなっているのだ。

 本来、あるはずの場所には……。

 またしても、ハートのエースが落ちている。


『怪盗鳥山。ただいま参上! 机を返してほしくば、視聴覚室まで来るべし! 必ず一人で!』


 さっきから、いじめを受けているとしか思えないんですが。


 まぁでも。机も……。空き教室から、持ってこればいいわけで。


 しばらくして、一限が始まった。


 しかし……。一限の国語の授業を担当するはずの、虎杖先生が、いつまで経ってもこなかった。

 俺はまさかと思い、教卓を確認。


 その上に……。やはり、ハートのエースが乗っていた。


『怪盗鳥山。ただいま参上! 虎杖先生を返してほしくば、視聴覚室まで来るべし! 必ず一人で!』


 ……で、でも。授業は自習になるだけだしな。


 たまには抵抗の意思を見せなければ。


 一限が終わり、二限は体育だった。

 当然、体操服は、鳥山さんに盗まれており。


 俺は見学をすることにした。


 四限が終わり、昼食の時間。

 持ってきたはずの弁当が無い。どうやら体育の時間の間に盗まれたようだ。

 そして、いつのまにか財布も盗まれている。


 いよいよただの犯罪じゃないか。これ。

 だけど、ポケットに百円玉が一枚だけあったので、それでパンを買い、なんとか事なきを得る。


 ――ついに、放課後。

 靴箱からは、当たり前のように靴が消えていたが。


 別に、裸足で帰れないことはない。


 足もとに注意しながら、何とか帰宅。


 すると、加恋がドアの前で、立ち尽くしていた。


「どうした? 加恋」

「……家に、泥棒が入ったみたいです」

「……」


 俺はすぐに、中に入った。


 なんてことだ……。

 家具が、全て失くなっている。

 まるで、引っ越しの荷物を全て運び終えた後みたいな状態。


「ポストに、こんなカードが……」


『怪盗鳥山。ただいま参上! そろそろ困ってるでしょう!? いつまで意地を張ってるつもりなのよ! 視聴覚室まで来るべし! 必ず一人で! 怪盗のコスプレ、めちゃくちゃ熱いんだから! 早く来なさい!』


 ……はぁ。


「加恋、友達の家に泊まるとか、できないか?」

「今日くらいなら、何とか……」

「……たまにはさ、やりすぎだってことも、忠告しときたいんだよ。鳥山さんに」

「兄さん……。わかりました」


 ここまで来たら、最後まで戦わせてもらおう。

 俺が負けるか――。

 鳥山さんが負けるか――。


 俺はすぐ近くにある、猫居の家を訪れた。


「……金?」

「あぁ、そうなんだ」


 事情を説明すると、猫居は呆れたようにため息をついた。


「あんたら……。いつまでそんなアホなことしとんの」

「なんとでも言ってくれ。俺はあの人に勝ちたい」

「倍にして返すなら、いくらでも貸したるわ」

「ありがとう猫居」

「そんなことより、ウチの家に泊まってったらいいがね」

「えっ……。いや、さすがにそこまでしてもらうわけには」

「……別に、たまにはいいが。昔みたいに、二人で夜更かしして」

「猫居……」


 なんとなく、しおらしい様子の猫居に、なんだか昔の面影を感じていたところ――。


 いきなり、黒服の男たちが、姿を現した。


「なっ、なにぃあんたら!」


 そして、あっという間に、猫居が連れ去られてしまった。

 黒服が、俺にカードを手渡してくる。


『私も悪かったわよ。もうお腹空いたの。頼むから視聴覚室に来てちょうだい。夕方はクーラーが使えないから、ヤバいのよ。お願い早く……』


 ……引き分けか。


 俺は急いで、視聴覚室に向かった。


 ☆ ☆ ☆


「反省会をしましょう」


 視聴覚室にいたのは。


 まず、怪盗っぽい服装をした鳥山さん。

 水着を着て、手足を縛られている虎杖先生。

 そして、立ち尽くす猫居。


「反省会とは」

「まずね。私は魚谷くんが好きなのよ」

「はい?」

「聞こえなかったのかしら。私は魚谷くんと結婚しているのよね」

「セリフ変わってるじゃん」

「だからこそ、魚谷くんにかまってほしくて……。こういう、ちょっとした劇を頻繁にやっているのね。つまり、こうなったのは、あなたにも責任があると思うのよ」

「もう少し平和的に行動しようとか、思わないの?」

「だって……。こないだの金ロー、名探偵コ○ンだったじゃない。影響されたのよ」


 ……なんか、前もそういうことなかったか?


「とりあえず、虎杖先生の顔が死んでるから。早く解放したらどうだろう」

「魚谷くん。その前に、この格好にツッコんでほしいかも」

「あぁ。えっと、どうしてそんな恰好してるんですか?」

「クーラーがね? 放課後になると、使えない仕組みになってるの」


 カードにも、そんなようなことは、書いてあったけど。


「私は言ったのよ? はしたないからやめなさいって」


 鳥山さんは、俺の前で脱ごうとした前科が、何回かあったような……。


「まぁ、それはいいや。もう俺、来たしさ。解放してあげてよ」

「もし。猫居さんが先に捕まっていたら、あなたはもっと早く、助けに来たのかしらね」

「そりゃそうだろ」

「へっ?」


 猫居が、驚いたような表情を浮かべている。


「いやだって。猫居がいなかったら、家の物が差し押さえられた時点で、ここに来る必要があったからな」


 まぁせいぜい、五分程度の差でしかないけども……。


 ……って、アレ?

 なんで三人とも、ため息をついてるんだろう。


「魚谷、あんたが悪いわ」

「え?」

「そうだよ魚谷くん」

「はい?」

「魚谷くん。罰ゲームは、三十分ハグ攻撃ね」

「自分で罰ゲームって言うんだ」


 理由はわからないが。


 なぜか最終的に、三対一になってしまった。

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