第50話 あなたって本当に無神経で鈍感であんぽんたんよね!

【49話の続きです】


「あの、私、授業が……」

「虎杖先生。あなただったのね……。猫居さんをこんな目に遭わせたのは」

「こんな目……? すやすや眠ってるけど」

「そうよ! 安らかに眠ってるのよ! 綺麗な顔してるでしょう!? 死んでるのよこれ!」


 虎杖先生がため息をついた。


「あなたは……。魚谷くんの妹さんだよね。授業、大丈夫なの?」

「逮捕します!」


 加恋が、虎杖先生に手錠をかけた。


「えぇ~……?」

「虎杖先生。あなたは今、ダイエットしてるわよね?」

「……何で知ってるの?」

「昼休み、よくランニングしてるじゃない。ドタドタと」

「ドタドタは言わなくてもいいよね?」

「もちろん、糖質制限、してるわよね?」

「……してない」

「は?」


 鳥山さんの目が、点になった。

 そして、すぐに加恋の元に。


「しまったわ。糖質制限をしている虎杖先生。つまり、否糖いなとうの虎杖先生が犯人。という脚本が……。たった今、あの不摂生なアラサー腐女子のせいで、台無しじゃない」

「聞こえてるよ~?」

「ここはもう、猫居さんが実は生きていた。という展開にするしかないんじゃないですか?」

「そうね。寝起きドッキリに切り変えましょう」

「はい」


 はい?


 状況はよくわからないが、二人が猫居の耳元で、腰を下ろした。


 しかし、これだけうるさい中で、よく眠り続けられるな……。


 鳥山さんが、加恋に目で合図した。

 ……加恋が、ラジカセのスイッチを押す。


 爆音で、音楽が流れ始めた。


「うああああ!?」


 猫居が飛び起きた。

 そして、周りをキョロキョロしている。


「な、え? なんで。ウチ、家で寝とったのに。え? え?」


 パニック状態。当たり前だ。

 起きてる俺ですら、パニックなのだから。


「おはよう猫居さん! 良い朝ね!」

「どこがぁ! って、あんたなんでそんな恰好しとんの」

「猫居さん。おはようございます」

「……加恋ちゃん。警察? 今日ハロウィンだった?」

「猫居さん。あなた、パジャマ可愛いのね」

「なっ……」


 布団を被り、身を隠す猫居。


「これにて一件落着ね!」

「どこがだよ」


 ようやくツッコむことができた。


「あら魚谷くん。どうしたのよそんなところで突っ立って。猫居さんの寝起きの顔、もっと近くで見なさい?」

「見んといて!」

「あはははっ。これぞ寝起きドッキリよね~」

「鳥山さん。そろそろ手錠を――」

「虎杖先生。あなたが太ってるくせに、ちょっと走ったから、今日は大丈夫~なんて言いながら、いつまでも昼ご飯はキング牛丼を食べてるせいで、こんなことになってしまったのよ?」

「うわぁすごい。令和の時代は、生徒からパワハラを受ける世の中になるのね」


 虎杖先生は、何かを諦めたような顔になっている。

 別に、太ってないと思うけどな……。うん。

 いつの世も、男と女の体系の好みのズレは、生じてしまうものだ。


「でもね? 最近はちゃんと、特盛で我慢してるの」

「虎杖先生。つべこべ言ってないでいいから、授業に戻ったらどうかしら」

「ふふ」


 加恋に手錠を外してもらってから、半泣きになった虎杖先生が、去って行った。


「猫居。いつまで布団被ってるんだ」

「あんたに顔見られたくないもん」

「見ないから。さっさと一旦帰って、制服に着替えてこいよ」

「魚谷くん。私の起きたてフェイスだったら、いつでも見せてあげるわよ?」

「結構です」

「そうよね。だって結婚したら、毎朝見られるんだもの」

「あの、鳥山さん。私、戻ってもいいですか?」

「いいわよ。お疲れ様加恋ちゃん。ノートは放課後、渡すわね」

「はいっ!」


 しっかりとテープを回収してから、加恋も出て行った。

 さて。後は猫居だけだ。


「猫居~」

「嫌」

「だいたい、あんなうるさいのに、よく起きなかったよな」

「いつも、猫の鳴き声ASMRを聴きながら寝とるもんでかな」

「寝れるのか……?それ」

「次回は、死んだはずの猫居さんが、ゾンビとして蘇って、周りの生徒を食い散らかす……。なんて展開もありかもしれないわね」

「ゾンビ、こないだやって、痛い目見た35話参照じゃん」

「あっ……」


 鳥山さんの顔色が悪くなった。


「……そうね。虎杖先生が、ガリガリになるまで部屋から出られない企画とか、ありかもしれないわ」

「死んじゃうって」


 酷い八つ当たり。


「じゃあ、そろそろ解散で良い? 長かったなぁ」

「何言ってるのよ。これからが反省会よ。次回はもっと、ちゃんとしたストーリーを考えないと」

「反省会……?」

「えぇ。猫居さんにも付き合ってもらうから」

「アホなこと言わんといてよ」

「何よ! 二人して! 私を虐めるつもり!? 教育委員会に訴えてやるんだから!」


 授業を妨害する委員長に、勝ち目なんて無いと思うけどな……。


「おらぁ! いつまで布団に籠ってるのよ!」


 鳥山さんが、猫居の布団を奪った。


「うぅ……」


 顔を隠す猫居。


「猫居……。正直、お前の寝起きの顔なんて、小さいときに何回も見てるから、今更気にすることないだろ」

「小さい時と今は違うがね! 本当に無神経!」

「猫居さんの言う通りよ! あなたって本当に無神経で鈍感であんぽんたんよね!」


 ……なんで二対一になってるんだ?


「さぁ~て! 猫居さんも起きたことだし、早速反省会を始めるわよ。まずは――」


 結局そこから、一日中反省会が行われ。


 結論、全部虎杖先生のせいになってしまった。

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