第49話 彼女の裸は、見たことあるのかしら。

【50話記念】49話と50話は二話完結です。


 ☆ ☆ ☆


 いつも通り登校したところ、教室の前に人だかりができていた。

 何事かと思い、覗き込むと……。


 そこには、殺人現場でよく使われる、立ち入り禁止と書かれたテープが、張り付けられていた。

 そのせいで、教室に入れなくなっている。


「あら。どうしたのかしら。この騒ぎは」


 後ろから現れた鳥山さんが――。


 探偵っぽい帽子を被り、探偵っぽい服装をしていた。


「魚谷くん。なんだか事件の香りがするわよ」

「すごい人数が迷惑してるから、こういうのはもっと人のいない場所でやったらどうだろう」

「行くわよ。ワトソンくん」


 鳥山さんとの付き合いが長いから、俺は察した。

 今日、多分長いねこれ。


 立ち入り禁止のテープをくぐり、俺たちは教室の中に足を踏み入れた。


「あぁどうも。こんにちはランカーさん」


 スーツを着た加恋が、待ってましたと言わんばかりに、こちらに近寄ってきた。

 ……また妙な役割をさせられてるな。


 あと、ランカーさん?


「いやいや、カーレン刑事。被害者はどこに?」


 カーレン刑事。

 この程度でツッコんでたら、多分喉いわすなこれ。


「こっちです」


 教室のど真ん中で……。猫居が寝ている。

 それはもう、ぐっすりと、幸せそうな表情で。


 鳥山さんが、手を合わせ、目を閉じた。

 いや、生きてるじゃん。どう見たって。


「全く! 犯人が許せないわね!」


 キャラ統一しようよ。


「カーレン刑事。状況を教えてちょうだい」

「はい。被害者は猫居。高校二年生の女子生徒です。今朝、掃除を担当していた用務員が発見した時には、すでにこの状態だったとか」

「なるほど……」

「死亡推定時刻は、昨日の夜十九時から、今朝の五時」


 もうちょい絞れるでしょ……。


「ウオータニ―くん」


 無理に海外の推理小説っぽくしなくていいから。


「なに?」

「彼女は、あなたの知り合いよね?」

「そうだけど」

「こんなことを訊くのも、ちょっと非常識かもしれないけれど……。彼女の裸は、見たことあるのかしら」

「非常識すぎてびっくりした」

「あるのかって訊いてんのよ」

「ないよ」

「なるほど。だけど、これだけは覚えていなさい。被害者が例え、知り合いだったとしても……。私情を挟んではいけない。それが探偵の務めよ」


 ドヤ顔、頂きました。

 あの、もうそろそろ一時間目が始まるんだけどなぁ。


「さて。じゃあ推理といこうかしら。ウオータニ―くん。私の右手の小指を舐めなさい」

「は?」

「は? じゃないわよ。それで推理力がアップするっていう設定なの!」


 設定って言っちゃってるじゃん。


「全くもう。使えない助手ね。顔だけよ。顔だけ。あと性格。本当に優しい。王子様みたいな助手。かっこいい……。いつまでも眺めていたいわね。ところで、何か被害者のメッセージは残されていないのかしら」

「あります」

「……これは!」


 鳥山さんの後ろから、覗き込むと……。

 そこには、大文字で、UOTANIと書いてあった。


 ……うわぁめんどくさ。


「そんな……。まさか。私の助手の、ウーオターニくんが?」

「伸ばし棒の位置変わってない?」

「兄さ……、ウーオータニさん。まさか、あなたが猫居さんを?」

「加恋。もうそろそろ、鳥山さんの言いなりになるのはやめた方がいいぞ」

「黙りなさい!」


 いきなり鳥山さんに、お尻を叩かれた。


「痛いんだけど……」

「このっ! お仕置よっ!」


 特殊なお店か……?


「ランカーさん。きっと、ウオタニーーくんにも、何か理由があったんです。聞きましょう」


 加恋がそう言ったあと……。

 ラジカセを手に持ち、音楽を流した。


 ……もう令和なんだけど。スマホで流そうよ。


 犯人の自供シーンみたいな音楽と共に、いつのまにか鳥山さんが、涙を流していた。


「ううぅ……。ウーーオタニくん。ごめんなさい。私があなたの殺意に、もっと早く気が付いていれば……」


 せっかくここまで張り切って、セット作ったり、コスプレしたのに。

 推理シーン。ほぼなかったですね。

 もう面倒なので、適当に合わせることにする。


「そうですね。俺も、もっと冷静になるべきでした」

「ウオーータニくんは悪くないわ。捕まえるなら私を捕まえなさいよ!」

「そろそろその、ウオタニと伸ばし棒二本の順列やめない?」

「一限は数学の授業なのよ。ちょうどいいでしょう?」

「国語の授業だよ~?」


 廊下から、虎杖先生の声が聞こえてきた。

 どうやら空き教室に移動して、一限を行うらしい。

 めちゃくちゃ申し訳ないけど、誰か一人くらい、文句言ってくれても良かったのに。

 もはやこの学校に、鳥山蘭華を止めるものはいないのだろうか。


「えぇ~っと。午前八時四十一分! ウオターーニくんを逮捕します」


 手錠をかけられてしまった。


 まぁでも、これでようやく――。


「……ちょっと待ちなさい?」


 鳥山さんが、涙を拭いて、再びメッセージに目を向けた。


「どうしたんですか。ランカーさん」

「……このメッセージは、逆から読むんじゃないかしら」

「逆から……?」


 音楽が、推理パートっぽい奴に変わった。

 ……これ、間違いなく、名探偵コ○ンのサントラ使ってるな。


「UOTANIという文字を、逆から読むと……。INATOU……。いなとうになるのよ」


 黒板に、いなとう。と、大きな字で書かれた。

 まず、死の間際に残すメッセージを、逆から書かないでしょ。って思ったけど、もういいや。


「いなとう……。もしや!」


 加恋もチョークを持ち、何やら書き始める。


「……否糖」

「そうよ! 犯人は、ーーウオタニくんではなくて、糖分を嫌がっている人だわ!」

「なるほど! すぐにーウオタニーくんを解放します!」


 手錠が外された。

 俺、いつまでこの茶番に付き合わないといけないんだろう。


【続く】

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