第45話 いっそ全裸で待機しておけばよかったわ。
朝、教室に入ってすぐ、黒服に捕まり、連行された。
「……ここですか?」
黒服が黙ったまま頷く。言葉を発したらいけない決まりでもあるのだろうか。
連行された先は……。女子更衣室だ。
ドアを開けろと、促されている。
とりあえず、ノックしてみよう。
「は~い! ようこそいらっしゃい!」
……まぁ、当然の如く、鳥山さんの元気な声が聞こえてきたわけですが。
ここは女子更衣室だ。
「鳥山さん。入っていいの?」
「早く入りなさい」
そして、黒服にもう一度確認。
やはり黙って頷いている。
俺はゆっくりと、ドアを開いた、すると、
「きゃあ~!!!!」
下着姿の鳥山さんが、そこに立っていた。
俺は慌ててドアを閉め、黒服に抗議の視線を――。送ろうとしたら、もうそこには、誰もおらず。
「ちょっと魚谷くん! なんで閉めるの!?」
「ドアを開いたら、巨乳の女子高生が、下着姿で立ってたからに決まってるでしょ」
「そうなのよ! 説明するから、入ってきてちょうだい!」
「服、着てる?」
「今、着てる最中なのよ。どうぞ入ってきて」
「一番入っちゃいけないタイミングじゃん」
しばらくして、オッケーサインが出たので、再び入室。
……とはいえ、女子更衣室に入るのって、めちゃくちゃ抵抗あるなぁ。
「ようこそ女子更衣室へ。肩の力を抜いてリラックスしなさい」
「今日は一体、どういうつもりなの?」
「わかるでしょう? ドアを開いたら、着替え中の女子生徒がいて……。きゃあ~! なのよ」
「……なんでそんなこと」
「最近刺激が足りないと思ったのよね。私たちの関係。なんだかマンネリしてると思わない? 夫婦関係が長引くと、やっぱりこうなってしまうものなのね」
鳥山さんがため息をついた。
「だから、王道のラッキースケベシチュエーションを試したのよ。でも魚谷くん。全然興奮してくれなかったわね。あと、あぁ見るつもりはなかったんだ! みたいな必死の釈明も無かったし」
「興奮とか謝罪とか、そんなことより、困惑しちゃったんだよ」
「いっそ全裸で待機しておけばよかったわ。反省ね」
「鳥山さんはさ……。恥ずかしくないの?」
「えぇ全く。だって、大好きな人に見せるんだもの。むしろもっと見てほしいわね。うん」
「……」
「なによなによその反抗的な目は! 魚谷くん、ひょっとして着衣じゃないと興奮できないタイプ!? うげぇ~自分の夫が特殊性癖だったなんて興奮するわね! もう! こんな朝っぱらから興奮したら、また血圧が上がって、医者に怒られちゃうじゃない!」
四十代のおじさんみたいな悩み抱えてる……。
あっ、もちろん、着衣に興奮するだなんていう、特殊性癖は持ってないので。
それだけは訂正させてもらいたい。
「そもそも鳥山さん。見せる側に恥じらいがなかったら、それはラッキースケベじゃなくて……。ただの露出狂なんだけど」
「じゃあそれでいいわもう」
そう言うと、鳥山さんは……。
徐に、服を脱ぎ始めた。
「おいおい。なにしてるの」
「私、自慢だけど、すごくスタイルが良いと思うのよ。魚谷くんが、そうやって澄ました顔してるのがムカつくから、興奮させてやろうと思って」
逃げようとした。
しかし、なぜかドアが開かない。おそらく、黒服がドアの向こうで、開かないように体重をかけているのだ。
「さぁ魚谷くん。下着姿の私をガン見しなさい? 目を逸らしたらお仕置なんだから」
エグいくらいマニアックなシチュエーションが出来上がってしまった。
女子更衣室、下着姿の女子生徒、戸惑う男子生徒。
……B級の同人誌みたいな展開だ。
「別に、私何もしないわよ?はぁはぁ」
「息が荒いって。そうだ、ルールを作ろう。鳥山さんは、俺の半径一メートル以内には近寄らない。それでいい?」
「いいけれど、私が下着を解放して、肌色面積百パーセント状態になろうとした時、あなた、止められないわよ?」
「ならないと誓ってください」
「無理ね。逆に考えてほしいのだけど、目の前に好きな人がいる。密室状態。これで、興奮しない人がいるのかしら。いないわよね。私のこの胸の高鳴りは、ごく自然な反応と言えるわ」
ラッキースケベは一体、どこに行ってしまったのだろうか。
現状、完全に変態の館状態なんですけど。
「鳥山さん。どうしたら許してくれるかな」
「許すってなによ! あなた、こんな美少女の下着姿を、一人占めできているのよ!? もっとありがたく思いなさい!」
「確かにそうだけど、でも、状況が異常すぎてさ……」
「女子更衣室という環境が良くなかったのかもしれないわね。体育館とかにするべきだったわ。開放感もあったし」
「マニアックすぎるでしょ」
「きっと広い空間を逃げ回る魚谷くんと、それを下着姿で追いかける私……。という構図が出来上がっていたでしょうね。面白そう!」
リアル鬼ごっこくらい怖いシチュエーションだ。
「で、どうしたらここから出してくれますか?」
「そればっかりなのね魚谷くん。だけど私も困っているのよ。今日は本当に、女子高生の着替え見ちゃいました的展開だけで、なんとかしようと思っていたから、この膠着状態は予想外なのよね」
……だったらなんで、閉じ込めたんだろう。
あそこで逃がしてくれたら、こんな意味不明な状況は、続かなかったのに。
「そうだ! 魚谷くんも脱げばいいんじゃないかしら!」
「……はい?」
「そうに決まってるわ! ほら早く脱ぎなさい!」
「嫌だよ。何言ってるの?」
「この密室空間で、私だけが下着姿だから、おかしな空気になっているんだわ。お互いの服の状態を合わせるべきだったわね」
「鳥山さんが着ればいいんじゃ?」
「……はぁ~」
鳥山さんが、アメリカ人みたいに、両手を広げ、こいつはわかってねぇなあみたいな顔をした。
……えっ。俺が間違ってるの?
「魚谷くんって、本当にあんぽんたんなのね」
「それでいいから、もうそろそろ解放してくれない?」
「下着を?」
「こらこら違う。この部屋からだよ」
隙あらば下着に手をかけようとする鳥山さんに、ヒヤヒヤしっぱなしだ。
「わかった。じゃあ最後の手段だ。性的なこと意外なら、なんでも一つだけ、鳥山さんの言うことを聞くよ。だから解放してくれ」
「……マジ?」
「もう一度言うけど、性的なことは無しね」
「あなたねぇ。私をセクハラおじさんか何かと勘違いしてないかしら」
……ほぼそれに近いようなことを、され続けてるんですけど。
「わかったわ。じゃあ今回は貸し一つね。ふふふふふ。何が良いかしら。何でも、何でもよね? あんなことやこんなこと。みひひっひひ」
何とか今日は、解放してもらえたけど……。
一体、どんな要求をしてくるのか、不安で仕方ない。
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