第37話 鳥山蘭華を女にしろ!鳥山蘭華をメスにしろ!
「動かないで」
昇降口で、靴を履き替えていたところ、いきなり背中に……、何かを突きつけられた。
「お、おはよう鳥山さん」
「動いたら打つわよ」
「俺、何かした?」
「かっこよすぎ罪で逮捕よ」
「……」
「と、いうのは冗談ね。こちらを向きなさい」
振り返ると、鳥山さんが手に持っていたのは……。人参だった。
「あ、今あなた、人参かよって思ったわよね?人参の殺傷能力を舐めちゃダメよ?これで今まで何人も……。おっと、口が滑ったわね」
何人も……?
気になったが、それよりもその人参を、胸の谷間に収納したことの方に、目がいってしまった。四次元ポケットなのか?
「さて、じゃあちょっと来なさい」
ナチュラルに手を握られ、空き教室へと連行された。
そこには黒服が待ち構えていた。なにやら……。色々な物が用意されている。
「なにこれ。マネキン?」
机の上に、生首のようなものが置いてあった。
「それはダミーヘッドよ」
「ダミーヘッド?」
「まぁ黙ってそこに座りなさい。悪いようにはしないから」
悪いようにする人の目をしていた。
とりあえず、怒鳴られたくないので、指示に従うことにする。
するといきなり、ヘッドホンを装着させられた。
「ちょっと?」
「ようこそ魚谷くん。夢の世界へ」
「……怖いんだけど」
「いいのよ怖がらなくて。あなたにこれから、最上級の癒しをお届けするわ……」
鳥山さんが合図をすると、黒服がたくさんやってきて、教室が一瞬にして改造された。まるで映画館のような暗さに。
「魚谷くんは、ASMRって知ってるかしら」
「あぁ……。名前は知ってるけど、実際に聴いたことはないかな」
「ふんっ。でしょうね。私が教えてあげる。ASMRってのはね……。えいっ」
「うわっ」
いきなり右耳に、実際に触られているかのような感触が……。
「このダミーヘッドはね?リアルな音をあなたにお届けすることができるのよ!例えば……。こんにちは魚谷くん」
すごい……。まるで耳元で囁かれているかのような感覚。
……だけども。
「……すごいけどさ。別に、これである必要なくない?直接囁けばいいんじゃ」
「細かいことはいいのよ!」
「うわっ!ちょっと、大きい声出さないでくれよ」
「今日はあなたを洗脳することが目的なのよ!目を閉じて、まるで私が隣にいるような感覚を味わいなさい」
多分だけどこれって、その場にいないのに、耳元から音がするから、すごいってことなんじゃないのか?
……まぁいいか。それよりも、洗脳ってなんだろう。
「右耳からは、私が声を。左耳からは……。この音声を流すわ」
『鳥山蘭華のことが好き鳥山蘭華を世界一愛してる鳥山蘭華がいないと生きていけない鳥山蘭華と赤ちゃんを作って幸せな家庭を築きたい鳥山蘭華――』
そういうことか……。
「ふふふふふ。行くわよ魚谷くん」
音声の再生が始まるとともに、鳥山さんの呪詛も始まった。
「魚谷くん好き。大好き。あなた無しでは生きられない。好き。あなたが欲しい。早く婚姻届けにハンコを。両親に挨拶を」
『鳥山蘭華は世界一良い女鳥山蘭華は生涯をともにすべき女鳥山蘭華は完璧な女鳥山蘭華はあなたを応援します』
……帰りたい。
洗脳というか、やっぱり呪いにしか聞こえないんだよな。
「どう?魚谷くん。私のこと、好きになってきた……?なってきたわよね。早く私の好意に追いつきなさい……。好きでしょう?好きなのよ。嫌いじゃないなら好きってことだわ。あぁ……。ジュルリっ!」
「……」
「あむっ……」
いきなり、ポリっという、何かを齧る音が聞こえた。
「どう?咀嚼音よ……。んん……。聞こえるかしら?今、私の口の中で、人参が踊っているの……」
人参が登場した時点で、お笑いにしかならない。それをこの人は、どうやら理解していないらしい。
あと……。これっていわゆる、クチャラーが苦手な人にとっては、最悪だよな。俺もそれに該当するわけで……。なかなかきつい。
『鳥山蘭華を女にしろ!鳥山蘭華をメスにしろ!』
録音した音声も、なんか変なフェーズに突入してるし……。
俺はヘッドホンを外した。
「ちょっと!?まだ洗脳の途中よ!?あと二十七時間これを続けるんだから!」
「フジ○レビじゃないんだから」
洗脳以前に、精神的な問題が生じるでしょ。
「魚谷くん……。なかなか私の思う通りに動いてくれないわよね!私のこと嫌いなの!?」
「いや、あの」
「好きか、大好きか!はっきりしなさい!」
「嫌いが選択肢から消えたんだけど」
「当たり前よ。あなたに嫌いなんて言われたら私、犯罪者になってしまうわ」
今も結構犯罪スレスレのことをしてる気がするんだけど……。自覚は無いみたいだね。
「悔しいわね。このダミーヘッド、いくらしたと思うの?百万円よ?百万円。あなたわかる?確かに百万円は、私にとってははした金だけど、魚谷くんのような一般家庭であれば、かなり大きな額になるはずでしょう?」
「そうですね……」
「……澄ました顔して。ムカつくくらいかっこいいわね。ちゃんと手足も縛って拘束して、顔面をペロぺロ舐めてやればよかったわ」
真顔で怖いこと言われたんですけど。
「あの、じゃあいいかな。一限始まるからさ」
「待ちなさい」
「……なんでしょう」
「まだ、私の番が終わってないじゃない」
鳥山さんが、ヘッドホンを装着し、椅子に座った。
「さぁ魚谷くん。始めてちょうだい」
「……え」
「私をメロメロに洗脳しなさいよ!!!とは言ってもすでにメロメロ状態だから、効き目なんて無いでしょうけどね!!」
「……」
「もちろん手足は拘束してもらうわ!その方が興奮するもの!抵抗できない状態で、いつもとは立場が逆転したことにより、魚谷くんの秘めたる残虐性が!」
黒服が鳥山さんを拘束し、アイマスクをつけたので、俺はその隙に逃げ出した。
……暗さも相まって、ただのお化け屋敷だったな。
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