第24話 魚谷くんと私の結婚式を盛り上げよう部よ。

「生徒最低五人以上。顧問の教師を要する。か……」


 鳥山さんが、一枚のプリントとにらめっこしている。


 俺の席で。


「おはよう鳥山さん。そこは俺の席なんだけど」

「はぁ?私の上に座ればいいじゃない。頭の回転が遅いのね。これだから人間は」


 ……人間じゃないのか?鳥山さんは。


 怖い冗談が飛び出したところで、結局鳥山さんは立とうとしないため、俺は諦めて、隣の席に一旦座った。


「何を読んでいるのか訊きなさいよ」

「何を読んでるの?」

「新しい部活の作り方ね。生徒最低五人。顧問一人」

「へぇ。部活ねぇ」


 ライトノベルの導入みたいだな。部活をつくるなんて。


「ちなみにどんな部活を作るつもりなの?」

「魚谷くんと私の結婚式を盛り上げよう部よ」

「……」

「略して魚盛部よ」

「大漁みたいな雰囲気だね」

「部員を集める必要があるのよね。私とあなたと猫居さんまでは確定なんだけど」

「ちょっと待とうか」

「待てないわ!」


 厄介な展開を迎えようとしてるぞ……?


「まず、魚谷くんと私の結婚式を盛り上げよう部ってなに。どんな活動をするつもり?」

「いちいちそんなこと訊かないでほしいわね!あなたはサッカー部という文字列を見た時、何をする部活なのか尋ねるの?」

「いや……」


 言葉の意味が理解できていないわけじゃない。


 どうしてそんな、気味の悪い部活を立ち上げようと思ったのか……。そういうことを訊きたかったのだ。


「俺が鳥山さんと結婚するかどうかなんて、わからないでしょ?」

「それに関しては心配いらないわ。もうしてるもの」

「その、もうしてるっていうセリフ、よく言うけど、本当に恐怖を感じるから、やめてくれない?」

「やめるもんですか!国から言語統制を受けようとも、絶対に止めない!」


 強い意思だ……。


「……それと、猫居がこっそり巻き込まれてるけど」

「猫居さんは簡単よ。金で動く女だもの」

「最低すぎるでしょ」

「やかましい!魚谷くんは黙って、残り二人の部員を集めればいいのよ!」

「だから、入らないって」

「魚谷くん。自分の言っていることがおかしいって早く気が付きなさいよ!チアリーディング部に、チアがいないなんてことあるかしら!?あなたの言っていることはそういうことよ!」


 ドヤ顔で、論破しました!みたいな顔をされてしまった。支離滅裂だな本当に……。


 ……まぁ、どっちみち残り二人が見つからないだろうし、適当にこの話は流してしまおう。


「わかったわかった。適当に友達に声をかけておくよ」

「あなた友達いないじゃない」

「鳥山さん、本当に俺のこと好きなの?」

「好きよ!私の好意を疑うの?今ここで全裸になって、あなたの顔を私のお腹に描いて、教卓の上で腹踊りしたってかまわないと思ってるわよ?」

「変な動物の求愛行動だと思われるからやめたほうがいいよ」


 この人なら躊躇いなくやる。間違いない。煽るのは危険だ。


「そうだね。鳥山さんの言う通り、俺には友達がいない。猫居も同じだ。残り二人は、鳥山さんで集めてもらうしかないよ」

「そのつもりだったのよ。でも、最近誰に話しかけても、妙に避けられているような感じがして……」


 そりゃそうでしょ。


 今もクラスメイトの視線が集中していることに、この人は全く気が付かない。強メンタルというか、なんというか。


「仕方ないわね……。こうなったら、アレを使うしかないわ」


 鳥山さんが指を鳴らすと、いつも通り黒服が教室に押し寄せてきた。


 その内二人が、何かロボットのようなものを持っている。


「一号、二号よ」

『イチゴウデス』

『ニゴウデス』


 ……うわ、喋った。


 ていうか、この声って……。


「どうやら気が付いたようね。そうよ。これは……。魚谷くんロボ、一号二号なの!!」

「……うわぁ」


 思わず声に出てしまった。


「普段からとうちょ……。録音させていただいた音声を合成して、プログラムしてあるの。例えば……。一号!私のこと好き?」

『ダイスキダヨ。トリヤマサン』

「きゃぁ~!!!そうよね!?ほら見た!?魚谷くん0号も見習いなさい!」

「なんで俺が試作機みたいなナンバリングをされなきゃいけないんだよ」


 しかし、その出来栄えは見事だ。一体いくらかかったんだろう……。


「二号!世界で一番美しいのはだぁれ?」

『ソレハモチロン、ランカサマデゴザイマス』

「そうよね!!ほら魚谷くん!みんなもそう言ってるわよ!?」

「あ~うん。で、なんでこの二体を」

「二人って言いなさいよ!ロボットだって生きてるの!」


 急に危ない科学者みたいなこと言い出した。


「ごめんごめん……。なんでこの二人を教室に連れてきたの?」

「あなた、本当に頭が悪いのね。そんなんだから、私に一生養われて、ベッドの上から一歩も動かないヒモ生活を送ることになるのよ」

「……」

「決まってるでしょう?魚盛部に入部させるの」


 ……イカれてる。今の彼女を止められるのは、おそらく法律という概念のみだ。


「これで部員五人ね。顧問は適当に意思の弱そうな人に無理やりやらせることにするわ。ふふふ……。楽しい学生生活の幕開けよ!」


 鳥山さんと出会った時点で、俺の楽しい学生生活は、幕を閉じていたんだろうな。そう思った一日でした。

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