第21話 じゃあ私の首を斬り落として、あなたの机の横に飾る。というのはどうかしら。

「見なさい魚谷くん」

「ん?」

「……全教科100点満点、達成よ!」

「うわ、すごいね」


 自慢気にテスト用紙を俺の机に広げる鳥山さん。確かに全部満点だ。頭良いとは聞いてたけど、まさかこれほどだなんて……。


「少しは私に惚れたかしら?惚れたわよね!?」

「惚れたというか、素晴らしいなぁって。純粋に感動してるよ」

「惚れてなかったら意味ないのよ!!」


 ブちぎれながら、テスト用紙をビリビリに破くと、俺の机を思いきり叩いた。怖いんですけど……。何?


「私の全ての行動は、魚谷くんに好意を持ってもらうためにやっているのよ!?そうでなきゃ意味がないじゃない!」

「そ、そっか……」


 人の体毛を欲しがったり、鉛筆を齧ったりしたのも、惚れてほしかったからなんだな……。到底わかり合える日は来なさそうだ。


「そもそも私、失念していたのよ。どうして魚谷くんと一緒にテスト勉強しなかったのかって」

「あぁ確かに」

「家に連れ込んで、合法的に監禁できる良い機会だったのに」

「合法的な監禁は世の中に無いよ」

「あぁ~あ。今度からはちゃんと誘うようにするわ?残念ながら私、テスト勉強を全くしないから、そういう発想に至らなかったのよ」


 本当に、その才能を他の分野へ活かすことができれば、とんでもなくすごい人になっていただろうな。この人は。


「魚谷くんはどうだったのかしら?テスト」

「うん……」


 鳥山さんの後で見せるのもなんだけど、俺もそこそこの点数は取っている。だいたい学年で二十番目くらいの成績のはずだ。


「なるほど。これは修行が必用ね」

「修行?」

「復習するのよ!できなかったところをそのままにするのは、とっても愚かなことだわ?」

「いや、それならもう終わって」

「じゃあ黒服に頼んで、頭を数回殴ってもらうわ。記憶が飛べば、それだけ学びの機会も」

「わかったわかった。復習しよう」

「わかればいいのよ」


 平気で武力をチラつかせるの、本当にやめてほしい。これでよく、全ての行動は好意を持ってもらうためにやっているのよ!なんて言えたなこの人。


「魚谷くんは……。なるほど。数学が苦手なのね?」

「そうなんだよ。暗記科目は得意なんだけどね」

「数学だって暗記じゃない。ルールを覚えたら、それに全部あてはまっていくんだから」


 数学できる人って、みんなそう言うんだよなぁ。猫居とかもそうだ。


「あら?魚谷くん今、別の女のことを考えたわよね?」


 すごい顔で睨みつけられている。エスパーか?


「いや、そんなことはないよ」

「そう。だったらいいのだけど」

「それよりもさ。もっとこう、具体的に数学の攻略法を教えてほしいんだよ俺は」

「具体的……。わからないわね」

「……そっか」

「でも、一つ良い方法があるわ」

「教えてよ」

「じゃあ、鳥山さんのことが世界で一番好きですって、十回言って?」

「……」


 十回言いました。


「じゃあ、ここは?」

「え、十回クイズだったの?」

「正解は、魚谷くんの制服の端っこをこっそりはさみで切ってそれを私の制服にバレないように縫い合わせた部分でした!」

「……え?」

「おっと。違うのよ?聞かなかったことにしなさい!良いわね!?」

「はい……」


 家に帰ったら、制服をちゃんと確認しておこう……。


「さて。その良い方法なんだけど……。魚谷くんは、こんなネットニュースを知っているかしら」


 鳥山さんが、スマホの画面を見せてきた。待ち受けが俺の寝顔だったことについては、触れないでおく。


「えっと……。あったわ。これね」

「……美少女の写真を見てから勉強すると、効率アップ?」

「どうやら科学的にも証明されてるそうなのよ」

「へぇ……。なんか嘘っぽいな」

「だから、これから魚谷くんは勉強する前に、私の顔を見なさい。それできっと得点二十パーセント増が見込めるわよ」


 自分が美少女だと言ってしまうあたり、鳥山さんらしい。確かにそうなんだけどさ……。


「……あなたまさか、他の美少女の写真で済ませようって気じゃないでしょうね?」

「そのつもりはないけど」

「もしあなたが、私の顔以外を見て成績を上げたら、とある力を使って、全部ゼロ点にしてやるんだからね!?」


 ヤバすぎるでしょ……。そんな堂々と言うことじゃない。まして、あなた全教科満点なんていう、色々疑われても仕方ないような結果を出してるんだから。


 せっかく賢いのに、そういうところには頭が回らないんだなぁ……。


「わかったかしら魚谷くん。じゃあ早速私の顔を見なさい」


 しばらくの間、見つめ合う。


 ……本当に、整った顔立ちしてるなぁ。


「……どうかしら」

「どうって……。どうなんだろうね」

「勉強してみなさいよ」


 数学の参考書を開く。


「……いや、俺が勉強してる間は、別に俺の顔見てなくていいと思うよ?」

「うるさいわね。魚谷くんの横顔フェチなのよ」

「そうですか」

「あ、ちょっと動かないで。今の角度。そうそう。あ~いいわね。そのままよ?」


 パシャパシャと、スマホのカメラのシャッター音が耳元で響いている。こんな状況で勉強できるわけがない。


「やっぱり今はやめておくよ。勉強は家で、なおかつ静かな場所で、一人でやるものだと俺は思う」

「確かに一理あるわね。じゃあ私の首を斬り落として、あなたの机の横に飾る。というのはどうかしら」

「……」

「……冗談よ!なんで笑わないの!?」


 もう少し、自分の普段からの振る舞いとか、思考とか、そういうのを加味してから発言してほしい。そう思ったとある日の休み時間だった。

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