第20話 私の唾液をたっぷり含んだタピオカを飲むくらいなら、死んだ方がマシって言いたいの?

「こないだ女子高生の会話を盗み聞きしてたのよ」

「はぁ」


 いきなり犯罪者めいた発言をされてしまった。ちなみに今は昼休みの教室なので、周りにたくさん女子高生がいる中での発言である。勇敢というか、すごいバカというか。


「そしたらね?どうやらタピオカ?っていう飲み物が流行っているらしいわ」

「あぁ……。正確には、タピオカミルクティーだね」

「は?私に口答えするのかしら?」

「間違いくらい訂正させてよ」

「いいけど、訂正一回につき、魚谷くんの耳の裏を十回撫でるわよ?」

「じゃあいいです」


 今日は鳥山さんが弁当を作ってきてくれたので、それを食べているんだけど、相変わらず量が多い。


 あとたまに、俺が一回箸で掴んだ料理を奪い去って、「ふふ。魚谷くんの唾液がついた箸で掴んだ料理は格別ね」とか言いながら頬張るのが本当に気持ち悪いので、そこだけ改善してほしいですね。


 ……なんて言ってる間に、また奪われてしまった。卵焼きだ。


「もう少し効率的に唾液を摂取したいわね……。今度は睡眠薬を弁当に混ぜようかしら」

「聞こえてるけど」

「え!?あなたね……。女の子がちょっと可愛い発言をしたら、聞こえないフリをするのが筋ってもんでしょう!?」

「ちょっと可愛い発言じゃなかったからね」


 だいぶえげつない発言だった。


「それで魚谷くん。私タピオカを飲んでみたいのよ。やっぱり魚谷くんに惚れてもらうためには、今時JK的要素を取り入れる必要があると思ったのよね」

「うん」


 さっきみたいな発言をやめてくれたら、すぐにでも惚れてしまいそうなんですけどね。容姿二億点。性格マイナス三億点で、現状総合得点はマイナス一億点だから。


「だから早速行きましょう?」

「え?」

「大丈夫よ。ちゃんと教師陣は脅しておいたから!」

「……」


 断ることは、死を意味する。


 俺は鳥山さんに手を掴まれ、タピオカ店へ向かうことになった。


(余った弁当は黒服が美味しくいただきました)


 ☆ ☆ ☆


「買ったわね。タピオカ」

「買ったね」


 商店街で一番美味しいと評判のタピオカ店に行き、無難に人気商品を頼んだ。


 実は俺も初めてなんだよなタピオカ。ちょっと飲んでみたかったんだよ。


「じゃあ魚谷くん……。ここで、タピオカ争奪ゲーム!」

「は?」

「はい没収~」


 いきなり黒服が現れて、俺のタピオカが奪われてしまった。いや、付いてきてたのかよこの人たち。


「ルールは簡単よ。私の好きなところを十個言えたら魚谷くんの勝ち!ご褒美はタピオカ!言えなかったら……。東京湾に沈んでもらうわ」

「そっち系の人の殺し方だよねそれ」

「言えないの!?」

「い、言えるさ。十個くらいなら」


 これだけ容姿が優れていて、基礎的な能力は高い人だから、十個くらいなら余裕で……。


「あ、容姿とか、能力とか、そういうのは無しよ?性格限定!」


 希望が絶たれた。一つもねぇよ。


 マズいな。このままだと体を四つくらいに分断されて、コンクリートに結び付けられて沈められてしまう。考えないと。


「……えっと。すごく尽くしてくれるところ」

「いいえ。まだまだ尽くし足りないと思っているから、それはカウントできないわね」


 激ムズゲームかよ。終わったなこれ。


「じゃあ……。なんだろう。すごく真面目なところとか?」

「いいえ真面目じゃないわ。夜更かしして、あなたのことばかり考えているもの。今日だって!あなたと結婚したとして、もしペットを飼うとしたら犬がいいか猫がいいかで悩んで、二時間しか眠れなかったじゃない!」

「知らないよ」

「ちょっと待ちなさい?そこは、俺たちはもう結婚してるだろうが!ってツッコむところじゃないのかしら」

「してないじゃん結婚……」

「はい。東京湾ポイント1」

「何その怖いポイント」


 鳥山さんが不敵な笑みを浮かべた。なにこれ。マジで殺されるんですか?そのための黒服なんですか?


「ふんっ。どうせあなた、全く思いつかないだろうと思っていたから、私が救済措置を考えてきたわ」

「是非教えてください」

「このタピオカをね?私が噛むのよ」

「うん」

「そしてそれを、ミルクティーに戻す」

「……うん」

「それを魚谷くんが飲む!ここにタピオカは二つあるから、これを二回繰り返すの!どう?」

「いいよもう。東京湾で」


 さすがにドン引きしてしまった。黒服も、眉毛が困ったような形になっている。見たことないよ黒服着てる人が困ってるところなんて。前代未聞の出来事が起こっている。


「……魚谷くん。私の唾液をたっぷり含んだタピオカを飲むくらいなら、死んだ方がマシって言いたいの?」

「しっかり言葉にしてくれてありがとう。まさに今言った通りだよ」

「あぁ……。傷心だわ傷心。傷だらけの心と書いて傷心!あなたね!少しは乙女の気持ちも考えなさい!」


 そっくりそのまま、言葉を返したかった。俺の気持ちを、この人は少しでも考えたことがあるのだろうか。


「じゃ、もう、はい!わかったわかった!容姿!容姿を十か所褒めなさい!それで許してあげる!あなたを殺せるわけないじゃない!世界で一番大好きな人なんだから!死ぬときは一緒よ!}


 容姿。これならなんとでもなる。


「まず目。キリっとしててかっこいい。次に鼻。スーッと筋が通ってて高い。それから肌。綺麗だよね。えっとそれで口。いつも口紅を薄く引いてるけど、主張過ぎず薄すぎずっていう絶妙なバランスを保っていると思う。えっと後は」

「魚谷くん」

「ん?」

「……照れるじゃない。馬鹿ッ」

「……」


 ……可愛いんですけど?

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