第17話 魚谷サウナ!本日開業いたしました!
「見て見て!魚谷くん!コオロギよ!」
今日も家の前で待ち伏せされ、一緒に登校することになったんだけど。
……挨拶の前に、コオロギを見せられるとは。
「おはよう鳥山さん。今日も元気そうだね」
「元気よ!あなたに会えたんだから!」
「あはは~」
「なによその適当な反応!親の前でボコボコにしてやるわよ!?」
「ごめんごめん」
家族に鳥山さんを見せたくないので、俺はさっさと出発することにした。
「いい天気ね。こんな日はやっぱり魚谷くんを愛するに限るわ」
「そうなんだね」
「もちろん、雨の日も風の日も嵐の日も……。私は魚谷くんを全力で愛することを誓います」
誓いの言葉みたいなことを言われてしまった。
「でもね?私からすると、雨の日なんか特に素敵だなって思うのよ」
「なんで?」
「だって、魚谷くんと……。
「……相合合羽?相合傘じゃなくて?」
「相合傘なんて時代遅れよ。たまに街中でやっているカップルを見ると、しかりつけたくなるわね」
「厄介すぎるでしょ」
「相合合羽は読んで字の如くよ。一つの合羽を、二人で着るの」
「……無理じゃない?」
「見せてあげるわ」
鳥山さんが、カバンから……。大きめの合羽を取り出した。なんで持ち歩いてるんだよ。
「ほら。これなら二人で入ることができるわ」
仕組みとしては、かなり横に広い作りになっている。つまり、片方の手が外に出る形。頭を出す場所が二か所ある。ちょうど合羽二つを切って繋ぎ合わせたような作りだ。
「ビジュアル的に、いかつい感じになるよねこれ」
「何よ。文句を言うの?使っても無いのに!」
「ある程度想像がつくじゃん……」
「その偏見が失敗を産むのよ!私の夫になる人が、そんなに視野の狭い人だと、恥ずかしくなってしまうわ!」
視野の狭さを鳥山さんに指摘されるとは思わなかった。あなた一番一つの方向に視点が固まってるでしょうに。
「そこまで言うなら使ってみましょうよ」
「そこまで言ってないよ……。やめとこう?」
「いっぱいあるのよ!相合合羽のメリットは!黙って着なさい!」
断ると殴られそうな剣幕だったので、俺は諦めて指示に従うことにした。
右側が俺、左側が鳥山さんという形で、合羽着用。
「まずね?こうすると、私たち片方の手が空くじゃない?」
「そうだね」
「それを繋ぐのよ」
「……えぇ」
……コオロギ触った手を?
「もしかして魚谷くん。また私の手が汚いと思っているのかしら」
「いや、その」
「あのね?私たちは将来一緒に暮らす関係なの。同じものを共有するのだから、私の手はあなたの手だと思って動くべきだわ。これは予行練習なのよ。確かに魚谷くんが、私のような超絶美少女と手を繋ぐことを恥ずかしがる気持ちはわかる。でもね?安心しなさい。私はちゃんとあなたのことが好きよ。この気持ちに嘘偽りはない。まっすぐな愛なのよ。ただあなたはそれを受け入れればいい。心に器を作って待つだけ。まるで餌を待つひな鳥のようにね。ちょっとキスしてもいいかしら」
「ダメだよ」
どさくさに紛れて、顔を近づけてきた鳥山さんから、距離を取ろうとしたが、合羽を着ているせいで、うまく動けない。仕方なく、右手で鳥山さんの顔を押さえつけた。
「あなたねぇ!人の手をばい菌扱いしたくせに、自分はこんな最強美少女の顔に平気で触れるのね!」
「有事だから……」
「もう怒ったわよ?堪忍袋の緒がこなごなになったわ!」
元々無いでしょ。
「この合羽の最大のメリットはね……」
鳥山さんが、いきなり合羽を脱ぎ始めた。しかし、合羽の外に出るわけではなく、中に残っている。
そして……。そのまま俺に抱き着いてきた。
「と、鳥山さん!?」
こ、これはマズい!鳥山さんの二つある巨大な武器が、完全に密着する形になってしまったぞ。
「どうかしら。普通は抱き着こうとしても逃げられるけど、この合羽の中では不意打ちが可能だわ!しかも身動きができない!」
「わかったから!もうやめよう!」
「はぁ~すごい!魚谷くん!この合羽の中、魚谷くんの匂いで満ち溢れてるわ!サウナみたいなの!魚谷サウナ!本日開業いたしました!」
変態だ……。
「こんな濃厚な空間にいたら、私気絶しちゃうわよ?そのまま死んじゃうかもしれない!そうなったら業務上過失致死に該当するわ!それがわかってるのかしら!?」
「知らないよ!出ればいいだろ!?」
「出るわけないじゃない!すぅはぁ~!!」
鳥山さんが興奮して、暴れ始めたその時だった。
合羽のつなぎ目から、ビリビリと音がして――。
綺麗に破れてしまった。
その隙を見て、俺は鳥山さんのハグ攻撃から脱出。どうやら神は俺に味方したようだな……。
「あ~あ。壊れちゃったじゃないの。どうしてくれるのかしら?罰金よ罰金」
「鳥山さんが壊したんじゃないか」
「人のせいにするのね!?元はと言えば、あなたがイケメンでかっこいいのに、匂いまで抜群にエッチで最高なのがいけないんじゃない!」
「とりあえず、遅刻するから、登校しよう?」
「待ちなさい。合羽はもう一つあるの。こっちは普通の合羽を少し大きくしたものね。さっきの状態を作ることに特化した……。魚谷サウナ専用合羽よ!」
神様……。もうひと仕事、お願いします!
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