20話 迷宮攻略完了
迷宮攻略を始めて1週間と少しが経った。
アリを倒した数は数え切れないほどになる。それでもまだまだアリ達は湧いてくる状態だ。どこにそんなにいるんだとばかりの数になっている。
一番困るのは迷宮の形がアリ達によってどんどん変えられている事だ。掘削しまくり土の壁をどんどん壊していく。地下にある洞窟の迷宮というのはアリ達にとって住みやすそうだよな。だからこんなに数が多いのだろうか?
「ただそろそろウンザリしてきたな……どこを見てもアリアリアリ。周りにアリしかいねぇよ……」
さすがにこれだけのアリを倒していれば倒し方から緊急の際の対処法などもバッチリとわかっている。もうよほどの事がない限りしくじる事はないだろう。そして俺自身もこれだけずっと戦い続けるのは初めての経験だ。その為、自分で強くなってると実感出来るほどに成長している。
「そりゃそうだ。疲れて寝る時以外はずっと戦ってるんだもんなぁ。これで強くならない方がおかしい。もし強くなってなかったら泣くぞ本気で……」
男の泣き顔なんてみっともないだけなので簡単には泣かないが、それでもこれだけ戦ってて一切強くなってませんでしたなんてなったら少しくらい泣いてもいいだろう。だが幸いにして強くなっているのでちょっと安堵してたりもする。
「さすがにこんだけの敵を相手にしてるだけはある。魔石も随分貯まって来たなぁ、ウッシッシッ」
気色悪い笑みが出てしまったがそれが出てしまうほど魔石の数が上々だ。無くしたくないので魔法袋ではなくアイテムボックスに入れてある。もし今まで集めた魔石がなくなったと考えたらもうそれこそぶっ倒れるかもしれない。
「さて、見てみるか。どのくらい貯まったかなぁ?」
アイテムボックスのメニューを開き魔石を見てみる。すると104個と出た。
「おろ? もう3桁いってたのかよ。あ~あ、100個いったぞーー! って感動したかったのに」
感動する暇もないくらいに敵がどんどんと押し寄せて来ていたから仕方ないかもしれない。
本当はもっと多かったはずなのだがそれは危険になるので諦めるしかなかった。
どういう事かというと、アリ達は上下左右ありとあらゆる所から襲い掛かってくる。普段は掘削してくる音を聞いて判断するのだが、数があまりにも多いとそれも難しくなる。そうなるとどこからでも襲い掛かってきて逃げ道がなくなるのだ。
そんな時は倒したものからアイテムボックスに放り込んで退路を確保しなければいけない。洞窟という事で倒せば倒すほど、どんどん道が狭くなるので危険になるのだ。
「でもなんでか知らないがアイテムボックスに入れてまた取り出して地面に置くと、死体が消えるのは消えるんだが魔石が一切出ないんだよなぁ」
これは200~300匹ほど試したので間違いはないと思う。大体100匹も倒せば1個は必ず出るといっていいからだ。なので一度この迷宮以外の空間へ行ってしまうと魔石にはならないのではないかと思っているのだ。だから少し危険でもアイテムボックスには入れたくなかったのだが、ソルジャーアントに痛い目を見てからはすぐさまアイテムボックスに入れるようにしている。
「1度ケチってアイテムボックスに入れずに戦ってたらソルジャーアントがいて死にそうになったっけなぁ……」
魔石が欲しいあまりにアイテムボックスに入れずにいたらソニックブームが飛んできて逃げ道がなくそのまま食らってしまったのだ。気づいた時には左腕の肘から上が半分くらい切れてしまっていた。
だから魔石が地面に置いてもなくならないことを知っていたので、急いで神庭かんばに入り事なきを得たのだ。
「もう少しズレてたら腕が切断されてたかもしれない。そうなったら自己治癒で治るのかね?」
上級回復ポーションだと切断されてもあまり時間が経っていなければ治る様な事は本に書いてあった。だがそんな物は今は持っていない。なので試したくても試せないでいる。
「ただまぁ無闇に切断はしないよ? だってすっげ~~~~痛いんだもん!!」
誰も痛いのは好きではないだろう。特殊な人を除いてな。俺は特殊ではないからそんな事を試したくはない。だがもし自己治癒で治る事が出来るのであればそれに越した事はないからな。
危険が近くにある今の生活をするならそこら辺を早い内に見極めたいが仕方がないかな。
「さて、今日も順調に進んでるけど一体どこまでこの迷宮は深いんだろうな……」
洞窟の中が薄暗く歩みが遅いといっても1週間以上も奥へと潜っているのだ。ならそろそろ最深部へ到達してもいい頃だと思うのだが、その気配が全く感じられない。
「下へ下へ行ってるつもりでもアリ達が作った穴を歩いて全然最深部と違う場所に行ってたりとかもあったからなぁ。何回も行き止まりとかあったし」
終わりが見えないというのは精神的に嫌~なストレスを与えてくる。それと反対に食料や水には終わりが近づいてくる。これは結構危ないかもしれないな。行きで全部の食料を使ってしまうと帰りが全く飲まず食わずで帰ることになる。そうなると死ぬ可能性もあるだろう。
「あ~、もっと食料買っときゃよかったかなぁ? 失敗した~!」
残りは非常食を合わせても1週間くらいの食料が残ってるだろうか。1日2食ならまだまだいけるだろうが寝る以外は常に戦っているのでそれだと体力が持たないかもしれない。そうなると今回だけでの迷宮の踏破は厳しくなってくる。
「ん~、どうするかな……撤退の勇気も必要だと思うがなんとなくいけそうな気もするんだよなぁ」
俺は結構、直感という物を当てにしている。それは今までその勘に頼って失敗する事が少なかったからだ。やはり本能というのは知らず知らずに色んなことを見極めているのではないだろうか? 考えるのではなく察する、感じる。これらの本能は特にこの世界では生きる為に必要な物だと思うから、それに従って失敗したならそれはそれで諦めがつくと思う。なので今回はその本能に従い歩みを進めようと思う。
そう考えている間も次々とキラーアント、そしてその中にソルジャーアントも混ざって俺を倒そうと襲い掛かってくる。それらを慣れた感じで倒していく。
上下左右、そして前後から襲われる事もたびたび遭ったがそれでもなんとか機転を利かせて乗り越えていく。
危ない時ももちろんあった。そんな時は即座にリュックから杖を引き抜き一気に自分の周囲の空間を氷らせた事もあったな。だがそれだと自分も酸素がなくなってきて苦しくなってきたなんてこともあったな。
「やべ~死ぬかも!? なんて思ってたが冷静に考えたら普通に神庭かんばに入ればいいだけでしたってな」
ほんと焦った時ほど馬鹿になるってのが理解できる場面だったわ。まぁそんなこんなで段々と深層へ向かっていく。
……と、不意にこの先は危険と本能が訴えかけてきた。
「これは何かあるな……なんだ? ボスか?」
慎重に足を進めると少し開けた場所があった。どうやら200㎡ほどの大広間のようだ。だがその広間にはビッシリとソルジャーアントだけが埋まっている。
そう、下位のキラーアントが一切いないのだ。これは嫌でもここが最深部だと理解させられる。
「こりゃこの部屋が最後だな。しっかしこの数……どうするかねぇ」
至る所にソルジャーアントが埋まっている。その数は全く分からない。それはすべてが真っ黒で明かりが一切ないからだ。だが感じる気配は優に100匹以上は居るのではないだろうか。さすがにこの数を一遍に相手をするのは無理だろう。だが魔法を使えばどうだ? でもそれで倒しきれなければこちらに残りの全てがやってくるだろう。だがチマチマ1匹づつ狩ろうにもこの密集具合だ。引っ張ってこれる気がしない。
ならばここは覚悟を決めて行くべきだろうか? こうして悩んでる間にもやつらはこちらを見つけるかもしれない。それに悩んでも答えはあまり出ないだろう。俺には選択肢が少ない。なら覚悟を決め出来る事からやってみるか。
「よし、こうなったら魔力の2/3ほど使い火魔法をぶち込んでやるか!」
準備の為にマナポーションを1瓶呷あおり魔力を全快にする。水魔法でこの部屋全部を水で埋めてやろうと思ったがこいつらは壁を掘れるから下手したら1匹も倒せずにこちらに向かってくるかもしれない。それだけは頂けないだろう。なら俺が撃てる最大の火魔法でもってこいつらを出来る限り葬ってやろうじゃないか。
「さて、俺が使える最大の火魔法はなんだろうな? どでかい火の玉か? いやそれだと最初のアリ共に当たり消えてしまうか……」
色々と考えてみるが選択肢が少ないだけじゃなく初級魔法という威力の弱い魔法しか使えない為、さらに出来る事が限られることになる。
考える時間が進めば進むほどアリ達に襲われるかもしれない、だが良い案が浮かばない。そこで一旦、神庭へ戻ろうと思った時、ふと閃いた物がある。
「あっ!? そうだよ! 俺なら杖が壊れるリスクはあるけど1回だけ中級魔法が使えるじゃないか!!」
以前に魔導具屋のお婆さんが言っていた事を思い出す。それは魔力操作が長けていると杖の魔宝珠が壊れるリスクはあるが、初級魔法の杖で1回くらいは中級魔法が使えるだろうと言っていた筈だ。ならばその時が今ではないだろうか? そうと決まれば威力を更に上げる為に使い捨ての初級風魔法の杖を取り出す。
これは1回限りしか使えない杖だが使わないよりはマシだろう。
「火と風とくればあの魔法しかないよな!!」
中級魔法で大多数を相手に使う汎用性の高い魔法である、火炎嵐ファイアストームしかないだろう。本来ならば火魔法だけで事足りるのだが今回は風魔法も併用して威力の底上げを図る事にする。
不安は若干ある。だが2属性の魔法を同時に展開出来るかどうかはすでに実証済みだ。アリに試したわけじゃなく神庭の中で火を起こしながら水を出したりと、生活魔法みたいな使い方を同時に何度も使っていたのだ。しかし今回のように威力の高い魔法を同時に使った事はない為、出来るかどうかはまだ分からない。だが自信はある。俺の本能がやれると訴えかけているのだ。何を根拠に訴えてくるのかわからないが威力を上げるだけなら簡単だと言っている。
今までは威力を抑える方向で使っていた。しかし正直威力を上げるより抑える方が難しい。これは呼吸を大きく早くするのと小さくゆっくりするのと似ているのかもしれない。小さくゆっくり呼吸をすると、これが何気に疲れるのだ。だが本来より大きく呼吸するのは頭がクラクラするかもしれないが、簡単に出来るはずだ。
ならば魔力量をただ単に上げるだけの簡単作業だ、細かい操作などいらない。それに今回のはどでかい威力のある魔法をぶっ放すだけ。余裕余裕!! 等と気を抜かないように、でも気負う事もせずにやってやろうじゃないの!!
「よ~し……こうなりゃいっちょ派手な花火をぶっ放してやるぜ!!」
すぐに決行しようとリュックに横に刺してあった杖の中から火と風の2本の杖を引き抜き、出来る限り明確なイメージをして一気に2/3もの魔力を注ぎ込む。そして発生場所を部屋の真ん中辺りに決め……
「いっけーーー!! ファイアストーーーーム!!!!」
今まで注ぎ込んだ事のないほどの魔力を杖に流し込む。一瞬だが太陽が降り注いだかと思うほどの閃光を残し一瞬で2本の杖の魔宝珠が砕け散った。
その眩しさと魔宝珠が砕けた破片で目を開く事が出来ずどうなったかは全く見れなかった。だが確かに魔法が発動した感触があった。
その証拠に物凄い炎の音と風の巻き上がる音が重なり、そしてアリ達すべての痛々しく苦しそうなギチギチとした鳴き声聞こえてきた。
魔法を発動した瞬間にすぐさま部屋との距離を取っていたので熱さをあまり感じる事無く目も眩しさからすぐに戻ってきた。そしたらもう目の前の入り口付近にいたソルジャーアントがこちらに向かってくる。
「もうやるしかない! いくらでもかかってこいやーーー!!」
気合を入れる為に雄たけびを上げ、これから始まるであろう死闘に身を投じていく。
身体強化を体が軋むギリギリまで施し、魔力剣にもすぐに尽きないほどの魔力を注ぐ。そうして準備万端にして迫り来るソルジャーアントを1匹1匹確実に葬っていく。
今は魔石を気にせずに1匹倒してはすぐさまアイテムボックスに放り込み、襲撃が厳しくなってきたらわざと死体をそのままにして後ろに下がっていく。そうなるとバンバン壁の中からソルジャーアントが現れてくるがそれも聴覚を強化して土を掘り進む音を聞き逃さないようにして確実に対処していく。
身体強化が切れればすぐさま掛け直し魔力剣に溜め込んだ魔力が尽きればまた注ぐ。これを延々と繰り返していく。それでもまだまだアリ達は出てくる出てくる。
魔法が全く効いてなかったのか? と、思わせるほどの数をすべて確実に葬っていく。傷を負うと自己治癒で止血し致命傷を負えばすぐさま回復ポーションで治す。
魔力が尽きればすぐにマナポーションを飲み身体強化と魔力剣に魔力を回す。危機に瀕したら刹那の閃きでそれを回避し、チャンスがあれば確実に物にする。
そんな永遠に続くかと思われる時間の中で俺は得えも言いわれぬ感覚を味わっていた。
「――苦しいっ…… だけどなんだか心地心良い…… まるで空を漂っている浮遊感のようなものを感じる……」
現在進行形で命のやり取りをしているのになぜかこの感じが気持ちよいと感じてしまう。これはなんだろう? 今まで戦ってきてこんな事を感じた事はない。だが確実に俺は気分が良いだろう。
確実とは言えないがなんとなく理由は分かる。自分の命が危ない、だがその命のやり取りをギリギリの所で回避するのが楽しいのかもしれない。それは死に向かうものではなく限界ギリギリのスリルを味わっているような…… 一種の麻薬にも似た感覚だろうか……?
「もちろん麻薬なんてやったことないけど……さ!!」
正確に命を刈り取る一撃を迫り来るソルジャーアントに叩き込んでいく。そして楽しい時ほど終わりというものは早く感じる物だ。
永遠に続くかと思われたこの時間は、実際には数十分しか経っていないかもしれない。しかし俺にはそれでも十分だった。
目の前の敵を葬る事だけに集中する。他は一切考えない、きっとこれがゾーンってやつか…… と、無駄な事を考え始めた時が終わりが見える時だろう。
「――はっ…はっ…はっ…… ふぅ…… アリ共が来なくなったな」
こちらの集中が切れそうになった時、ふと周りの音が止んだ。それは戦いの終了の合図だったのかもしれない。
どれほどの道を進み、また戻ったのだろうか? 時間間隔すらも一切わからず戦いにのみ集中していた為に現在地がわからず、アリ達の襲撃によってあちこちの壁が崩れボロボロになっており下手したらこのまま生き埋めになるのではと思わせるほどの惨状だ。
「やばいなこれ……現在地を確かめたらちょっと壁を補強しとくか」
使い捨てだが2本の土属性の杖が残っている。ならばこのまま生き埋めにならない為にもここは惜しむ事無く使っていくしかないか。そう思い洞窟の土の壁を魔宝珠が壊れるまで使っていく。
そしてちょうど2本目の魔宝珠も壊れた時にようやくあの部屋にたどり着いた。
「ふぅ~。どうやらまたここに戻ってこれたな……うわっ! くっさっ!?」
生きていた者が煤すすにでもなる程の熱で焼かれた強烈な焦げ臭い匂いが鼻を突く。それもそのはずだろう。先ほど大量の魔力と引き換えに火炎嵐ファイアストームを放ったのだ。
当然それで焼き殺されたソルジャーアントも多数出ている。あまりの火力にアリ達の体がボロボロになっており正確には分からないが、おそらく4・50匹は死んでいるのではないだろうか? そこでふとある事に思い至った。
「あれ? ……なんで死体が残ってるんだ? もう1時間は余裕で経ってるよな?」
時間が経ったのに死体が残っており数が数えられる。これは今までなかったことだ。それによく見てみると魔石も落ちているようだ。しかし死体が残っているのは吸収できない程にアリの体を焼きすぎたのか、それとも焼いた事でアリの体に残っていた魔力が霧散してしまったのだろうか?
魔物の死体というのは死んだ後でも一定時間は魔力が残るのだ。それが消えた後に迷宮が死体を吸収するのではないかと思っている。だが今回は一瞬で体を煤すすにした為、殺した瞬間から魔力を霧散させてしまったのだろうか。そうなると生き物が死んだという認識ではなく最初から魔力の持たない物体と迷宮が認識したのではないか?
「まぁ迷宮の事なんて分からないから本当はどうなのか知らないけどね、まぁあくまで憶測の域を出ないけどね」
とりあえず100匹以上いただろうソルジャーアントを倒し己の身も無事である。これ以上何を望むのか? そんな事を考えながらもやっぱりガックリと来る。
「だってあれだけ倒して魔石が2個だもんなぁ……やっぱり強い魔物でも100匹に1個程度なのかね?」
100匹ちょい倒して魔石2個なら運がいいだろうし、命がある。それはそれで喜ばしいのだがなぜかちょっぴりガッカリしてしまう。だが命が無事であれだけの死闘を制したのだ。これは得がたい経験をしただろう。そう思うと段々と喜びが湧いてきた。
改めてあの数のソルジャーアントを相手に生き抜いた事がどれだけ凄い事かを感じ始めてきた。最初はどれだけの事をしたのか実感が湧かなかったのだろう。だが時間がたてばたつほどに肌で、脳で感じ始める。
あの死線を何度も潜くぐり抜ける感触を。潜り抜けた瞬間から相手を絶命させる一撃を。その一撃を放つ腕の感触を。
気持ちのよい夢現ゆめうつつな状態から徐々に覚醒していき、己の瞳が現実を見つめ始める。
「あれ? 極度の緊張をしていたせいか、妙に冷静になってたな…… 魔石なんてどうでもいいじゃんか。素直に生きてることを喜ぼうじゃないか」
ようやく意識が現実に戻り周りを見渡し、改めてこれだけの大魔法とも言える魔法を使ったのだと思うと少しだけ背筋が寒くなってくる。いくら洞窟といえどこれを人に放つととんでもないことになるな。
ソルジャーアントよりも脆い人間がほとんどだろう。なのにそのソルジャーアントの死体を塵の如く真っ黒こげにしてしまうのだ。自分の放った魔法の威力が高くて嬉しい反面、これは使い方を間違っちゃいけないと自分を戒める事にした。
「だけど使い時を間違わないようにしながら使わずに後悔する事もなしにしたいもんだな」
そんな事を考えながら回収できる物がないかと思い焼け焦げて煤すすになっているアリの死体を1箇所に集め部屋の端っこに置いておく。
そして部屋を見渡しこの部屋には何があるのかとじっくりと探してみる事にする。
明かりが全くないかと思ったのだが少し光り輝く物があった。それは壁に埋め込まれたハンドボール程の大きさの透明で綺麗な珠であった。
「なんだこれは? ……微かすかに魔力が感じられるがそれ以外は何も分からないなぁ」
よく観察しても全く分からない。そうして暫く使ってなかった鑑定を使ってみる事にした。
「――は? ……迷宮核(ダンジョンコア)だと!? これが??」
迷宮の本を読んでないので詳しくは分からないのだが、多分この核コアが迷宮を形成しているのではないだろうか?
「こんな小さな珠1つでこれだけ大きな迷宮を作るってすごいな」
ここに来るまで一直線ではないし暗い道で敵と戦いながらだったのだが、1週間は優に超える日数をこの迷宮で過ごし歩き続けている。それでようやくこの部屋に到着できたほどの大きさだった。それをこの核1つでとは…… ほんとこの世界は得体が知れないわ。だからこそ楽しいんだけどね!
そして核コアを触ったり叩いたり引っこ抜こうとしてみるが抜けず何も起こらなかった。
「ん~、とりあえずこれが迷宮核ダンジョンコアだという事はわかった。けどそれ以外にはなんもないなぁ」
明かりが魔力ランタンと微かに光るこの迷宮核ダンジョンコアしかない為、部屋全体としては薄暗いものとなっている。なので注意深く見渡してみてもお宝らしい物は1つもない。
「もしかしてこの迷宮はハズレなのだろうか? じゃあもうここにいても意味ない。んじゃ帰ろ……あれ?」
部屋の隅っこは魔力ランタンで照らせなかったがちらりと何かが見えた気がした。どうにも気になって仕方ないので近づいていくと……
「お? おお!? 杖かこれ? 何の杖だろう? …………出た~~! 中級の風属性の杖だ!!」
なんと地面に刺さっていたのは杖のようで、異世界で初めて中級魔法の杖をゲットしてしまった。未だ実感がわかないが紛れもなく中級魔法の杖だ。鑑定で出てるんだ間違いないだろう。これは嬉しいな、今まで風属性の杖は使い捨てしかなかった。そのうち1個は使っちまったからな。
「うわ~めっちゃ嬉しい!! これでもしかしたら空とか飛べるんじゃないか? 夢が広がるなぁ!」
そう、風属性と言えば浮遊魔法だろう。これは期待したい。まぁ浮遊魔法が中級で使えるかはわからないが、多分いけるだろう。そして地面から引き抜いた杖をさっそくリュックに横向きに刺した。
「しっかしこれなんでこんな所にあったんだろ? 迷宮がお宝として置いたのかな? それともここに来た人がわざわざ置いてったとか?」
迷宮に詳しくないので全くわからないのだが、まぁ分からない事を考えてても仕方ないので今は素直に喜ぼう。
そして初めて迷宮踏破を成し遂げ、結構苦しいものであったのだがやはり楽しい時間でもあった。なのでまた違う迷宮があれば行ってみたいと思えた。
「なんていうのかな……充実感というかなんというか……でも素直に来てよかったなぁ」
少しの間、感傷的になりながら、この迷宮を後にする事にした。
これからの帰りもまた危険が伴う。食料も行きよりも少ない量だ。早めに戻らなければいけない。だがなんとかなる、そんな気がしている。だから焦らず、そして急いで迷宮を出ることにする。
「いや~、大変だったなぁ。でも楽しかったのも事実だ。だけどこれからもきっと楽しい事があるはずだ。もっともっと楽しい事を沢山したいもんだな!」
今は迷宮から出ることを優先する。そして迷宮から出たらまずはゆっくり休もう。それで次の目的である魔法船に乗ろうかな。一体どんな物なのか楽しみだなぁ。
これからの未来に希望を抱きながら迷宮の出口を目指して歩いていった。
明日はどこへ行くのか。きっと楽しい未来を想像しているに違いない。
-------第一部完結--------
無属性+神力=???? テトとジジ @tetotozizi1
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