18話 初めての死の気配
神庭(かんば)から出た俺はキラーアントを黙々と狩っている。前に壁の中から襲撃を受けて危ない目に会ったので、今では常に周りの音に注意して壁から出てきそうになったら一旦来た道に戻り、奇襲を受けないようにしながら狩る事にした。
ここは完全にアリの巣になってしまっているようだ。キラーアント以外には一切出会っていない。しかも倒して2・3分もしたらすぐに複数匹が出るという数の多さだ。
それゆえに魔石がまぁまぁ貯まって来ていてほくほく顔で狩りをしている。こんな時が油断をしてしまうのだろうと気を引き締めるのだが、アリが魔石に見えてきてどうしても顔が緩んでしまう。
キラーアント自体は群れなければそこまで強くは無い。甲殻が硬いため普通の剣では関節を狙わなければ体を切断する事ができないので結構苦労するのだが、200万ゴルドもの大金を払ったこの魔力剣はスパスパと苦も無く硬い甲殻を切り裂いていく。
「いや~、ほんとこの剣買ってよかったなぁ。豆腐とまでは言えないがコンニャクくらいの感触でばんばんとアリっころを斬れるもんなぁ」
今では魔石がもう20個以上貯まっている。これは後で一纏(ひとまと)めに融合させとくかね。
注意を間違わなければもうこいつらに負ける事はないだろうと思いながらも、きちんと警戒を緩めずにサクサクと狩りを続ける。
もうこの迷宮でキラーアントを狩って3日ほどが経っているだろうか? それなのにまだまだアリは出てくる。
「ほんと、どっからこんなに出てくんだよまったく……嬉しいんだけどね」
これは延々とアリを狩れて魔石も取り放題か? なんて思いながら狩っているのだが、いかんせん変わり映えが無い為に飽きてくるのだ。そんな時が一番危ない為、即座に神庭(かんば)に戻り仮眠をしてからまた狩りを始める。もう正直、時間が正確には分からなくなっており、今は多分夜中の4時頃だろうと思う。そんな時間にも狩っているため、戦闘の音は俺1人しか聞こえない。他の冒険者もここら辺にはもう来ないので当たり前なのだが、ずっと真っ暗な洞窟に1人でいるとなんだか気が滅入ってくるのは仕方ない事かもしれない。
「今度はもっと明るい所の迷宮に行く事にしよう。 うん、そうしよう」
そう心に決め黙々とキラーアントを狩っていく。
すると前方に異変が生じた。
「ん? ……何か変だな? ……なんだ?」
特に音の変化はない、だが何かある、そう直感めいたものが俺に訴えかけてくる。
身体強化のレベルを上げ目に耳にそして鼻にも意識を集中して感覚を研ぎ澄ませて行く。そして前方の暗闇をジーっと見つめる。穴が空くほど見つめていく。
すると……
「何かいる……なんだ? キラーアント以外なにがいるんだ?」
体に緊張を漲らせ警戒度をMAXにしながらいつでも動ける体勢に持っていく。
ようやく前方に何かが見えてきた。
「え? ……アリ……か……?」
目の前には黒いアリがいた。なんだ、またキラーアントか……と思うのだが、どうにも違和感が拭えない。だがその一瞬の気の緩みを目の前のアリは見逃してくれなかった。
「なっ!? んなろ!!」
アリが顎を一瞬動かしたかと思うと何かが飛んできた気がした。それは今まで感じた事も無い程の死の気配を俺に強烈に与えてくる。やばい……と咄嗟に真後ろに神庭(かんば)への扉を丸い形に開き一気に後ろを向き飛び込む。神庭の中にまでそれが入ってくるかと思ったが、なんとか入ってくること無く逃げ込むことが出来たようだ。
「ふぅ~…………やばかったな、って痛っ!?」
背中に微(かす)かな痛みを感じ手で確認してみると手に血がべったりとくっ付いていた。
目で背中を見てみるとそこには横の一筋の線があるが如く、綺麗に薄皮1枚が裂かれており血が流れていた。
以前はドアノブの付いた扉を出してたのだが痛い目を見たので、次元の裂け目のような扉にしていたおかげで助かった。いちいちドアノブの付いた扉を開けて入ろうとしてたら死んでいたかもしれない。
「危なかったなこりゃ……扉の形というか入り方を変えといて大正解だったわ……」
背中を切り裂いたのは多分あいつのスキルだろう、そしてあの時見た事を思い出す。
それは神庭への扉を開くのと同時に目の前のアリに対して鑑定をしていたのだ。
ずっと違和感が拭えなかった、だから鑑定を使った。しかし今思えば見えた瞬間に鑑定をしとくべきだったと悔やむ。
なぜか? それはこういう事だ。
名前 ソルジャーアント
Lv B
性別 オス
年齢 5
種族 魔物
体力 450
魔力 125
攻撃力 149
防御力 155
精神力 64
素早さ 87
器用さ 49
スキル 掘削(エクスカヴェイション)、酸攻撃(アシッドアタック)(普)、毒針(アシッドニードル)、ソニックブーム
見た目は普通のキラーアントっぽいこのアリなのだが、レベル、それに能力が全く別物であった。
ついにステータスが100越えの魔物が出てきた。
今思えば顎が鋭く体が大きかった気がしたが、そこまでじっくり観察する暇はなかった。なら鑑定できただけでも御の字かもしれない。
そして俺に死の匂いを感じさせ、背中に一筋の傷をつけたのはこのソニックブームというスキルだろう。多分だが、これはスキルと書いてあるが魔法でもスキルでもない気がする。
見た所、一切の魔力を感じなかった。ただ単に顎(あご)を閉じただけだ、それも高速で見えるかどうかの速さで。
見えるかどうかと言ったが、これがとんでもないことだ。俺は身体強化のレベルを上げ、目にも魔力を通している。それでも顎が一瞬ブレたようにしか見えなかった。それだけの速さで閉じられた顎によって出来た音速の衝撃波を俺に向けて放ったのだろう。
そりゃ色もなんもないんだもん、見えるわけ無いわな。体に感じる恐怖とでもいうのだろうか、それに従い一目散に逃げ出して正解だっただろう。それに……
「なんだよあいつ……Bランクもあんのかよ……」
前に倒したアサシンドッグ、そいつの攻撃力の倍以上はあるんじゃないのだろうか。そこから発せられた衝撃波だ。そのまま突っ立ってたらいくら身体強化した体とはいえただでは済まなかっただろう……
そう考えるとアサシンドッグを倒していい気になっていた自分が情けなく思えてきた。それにこんな所でこれだけの強敵が出てくるとは一切予想すら出来ていなかった。
「なるほどね……腕利きのやつらが帰ってこないとか言ってたが、ちょっと疑問だったんだよな。こういうことか……」
こんなやつがそこらのキラーアントに混じっていたらそりゃやられるわな……俺は運よくあいつが1匹だけ出てきてくれたからよかったが、もし他のキラーアントと一緒に混じってこられてたら、さっきのソニックブームで体を真っ二つにされて終わってたかもしれん。ほんと運がよかった。
それにあれを避けられても俺みたいに異空間や転移があるやつじゃないと逃げるのも大変だろうしな。そう考えると腕が立つやつでもBランク以上、いや、下手したらAランク以上必要になるな。
スキル1つがこんなにも厄介なのか……
「ただ俺の直感も対したもんだな、あいつが来る前に何かを感じてたからな。しかしなんなんだろうな、あいつの放つ氣とでもいうのかオーラとでもいうのか……」
強者特有のオーラでもあるんだろうか、目に見えない、しかし確実に何かを訴えかけてくるような物があった。
「他のアリ達と何が違ったんだ? ……態度? 身のこなし?」
多分だが自分が絶対の強者であるという雰囲気を醸(かも)し出していたのかもしれない。自分が負けるわけが無い、自分以外はすべて弱者であると。そういう態度が表に出ているから、こちらに気づいても決して慌てる事無く、ゆっくりと近づいてきたのだろうか。
「くっそ~……そう考えるとアリのくせに格好良いじゃねぇか……」
命を脅(おびや)かされた腹立たしさはあるのだが、強者としての振る舞いに少しだけ感じる物がある。ならば俺はそいつを乗り越えなければいけないな。
「あいつが強者ならそれを倒す俺はもっと強者になるはずだ。絶対にぶっ倒してやる……」
本来の負けず嫌いの性格が出てきて、アリ如きに負けてなるものかと自然と力が入ってくる。
だが今のままでは負ける。この狭い洞窟であの音速の衝撃波を避けるのは不可能に近い。ならどうする? どうやったらあいつに勝てる? 先制で魔法を使うか? いや、こちらも剣で音速を超える剣戟(けんげき)を振るうか? それで相殺出来た瞬間にあいつを切り刻むか? でもあの防御力を果たして超えられるか?
延々と強敵、ソルジャーアントへの対策を考えているといつの間にやら時間があっという間に過ぎていった。気づけば12時間用の砂時計の砂はすべて落ちており、どのくらい時間が経ったのかわからなくなる。だが今は時間なぞどうでもいい。そう思い眠くなるまでソルジャーアントを倒すシミュレーションをしていくのだった。
「んぁ? ……あぁ、寝ちまってたか」
俺は強いと自信満々に歩いてきたあのアリッコロを倒すシミュレーションをしていたら、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
一瞬しか見れなかったが、自分が負けるわけが無いと確かに歩いてきた姿が思い出されてきた。それを熱さで唸(うな)る頭を冷静にしながら色々と考えていたのだが、1度寝たら何やらすっきりとしているみたいだ。
「なんだかあまりにもあいつを倒す事に必死になりすぎてたみたいだな、考えてみたら何回でも挑戦すりゃいいんだから焦る事もないのにな」
やはり死をギリギリで免(まぬが)れたからだろうか、知らず知らず興奮していたのかもしれない。
そこでもう一度改めて対策を考えてみる事にした。
「あのソニックブームを飛ばすだろ? しかも連発してくると思う、だがそれは多分だが感じる事ができるはずだ。なら目を逸らさず見ていればなんとかなりそうな気もする」
それに他のキラーアントと混ざって出てきても、醸し出す雰囲気が全く違う。これなら簡単に見分けが付くと思う。ただ安心はできないが……
「でもまぁ、なんとかなりそうな気もしてきたな、魔力のないただの衝撃波なんだから、魔力剣でぶった切れるはずだ。なら何発来ようがいけるんじゃないか?」
注意するべき点は複数で来た場合だろう。それも洞窟というのが味方してくれるかもしれない。
余裕を持ちすぎるのも危険だが、相手をあまり過大に見過ぎるのもいけない。だから程よい緊張感を持ちつつ、いつでも奴との再戦を出来る準備だけはしておこうと決め、持ち物をチェックし神庭(かんば)から出る。
「よし、周りにいないな。まずはキラーアントとソルジャーアントの違いを見分けないとな」
そう思い最下層目指して歩いていると1分もしないうちに複数匹のアリ達が出てきた。それを慎重に見極めていきすべてがキラーアントと選別した。それをなんなく斬り捨てまた歩き出す。
それを幾度目か終わった時だろうか、不意に体に悪寒が走った。それに従い今いた場所から後ろの思い切り飛び退(すさ)った。すると目の前にいたキラーアント達が一瞬で真っ二つにされていく。そして俺の足元を何かが通過していった。
「なっ!? アリが……何が起きやがった!?」
数秒ほどだろうか、時が経った時に目の前から悠然と姿を現す1匹のアリ。
そう、ソルジャーアントだ。こいつは仲間であるキラーアントもろとも俺を殺そうと音速の衝撃波で切り裂こうとソニックブームを放ってきたのだ。
「この野郎……仲間すら犠牲にしてでも俺を仕留めようってか……」
多分俺の予想ではキラーアントはただの働きアリではないだろうか? そしてこのソルジャーアントは精鋭部隊の一員なのだ。働きアリは変わりはいくらでもいる、だからそいつらが犠牲になっても敵を仕留められればこいつらにとっては良い事なのだろう。
「やっぱり動物や昆虫の考えはわからねぇな……知能が高いのか、はたまた低いのか……考えの違いでしかないのか?」
そんな意味のない事を考えているとまたもやソニックブームを放ってくる。そこで魔力剣に魔力を通し全力でその衝撃波に剣を叩きつける。
すると、僅(わず)かな抵抗の元、なんなく切り裂く事に成功した。そしてその切った周囲の衝撃も打ち消す事ができることもわかった。銃弾を切ると少しだけズレるが体には当たるであろう。それを懸念していたがその心配も要らないとわかり、これなら1匹だけならソルジャーアントに勝てそうだと考える。
そして勝負をする為にもう1発放ってきたソニックブームを切り裂き、切った瞬間に一気にソルジャーアントに近づき魔力剣を振り下ろす。一番近かったアリの顔面へ剣を叩き付けると、鈍い音を上げながら甲殻を切り裂いていくが途中で剣が止まりそうになる。それを無理やり力を込め一気に切り裂きに掛かる。
「ん……なっろぉおお~~!!」
雄たけび一閃で最後の甲殻を見事に切り裂く事に成功した。だがその瞬間、不意に顔に何かが付着した感触がした。その直後……
「ぐっ!? なんだ!? あっちぃぃい!!」
左の頬と耳の辺りが焼けるような痛みに晒される。思わず追撃の剣を収め一気に後ろに飛び退ってしまう。痛む顔を触ってみると手に血と若干濁った透明な液体が付いていた。
そこで思い出す、こいつにあったもうひとつのスキルを……
「この野郎……酸攻撃(アシッドアタック)してきやがったのか……?」
顔を触った瞬間、肉と微かな骨の感触がした。多分皮膚が溶けたのだろう。なら考えられる答えは一つだ。スキルにある酸攻撃(アシッドアタック)を俺が近づいた時に使ってきたのだろう。
これは厄介だ、何が厄介だというと今の攻撃がどこからしてきたのかわからなかったのだ。これはいただけない……敵に分からない部分があるのは仕方ない、だが強敵の攻撃にわけも分からずやられるのは避けたい。ならこれからの選択肢はこれまた1つしかない……
「チッ……さっき言ったばっかなのにもうかよ」
先ほどいつでも再戦が出来ると言ったばかりだ。そしてようやく再戦したばかりなのにもう引くのかと心が体を押し止める。しかし理性は引く事を訴えてくる。
迷う頭で冷静にソルジャーアントを観察する。やつはまだまだ動いている、若干動きが鈍くなったが顔を斬られたというのにこちらを食い殺そうと迫ってくる。
「くっ……これは危険だな……仕方ない、一旦下がるか……」
また負けたことに悔しさを覚えるが生きているのだ、これは敗北ではないと言い聞かせながらある程度距離を離し神庭(かんば)へと入る事にした。
せっかくソニックブームを無効化できたというのに今度は酸攻撃(アシッドアタック)だ。次から次に厄介な物を使ってきやがる。
「くっそ~~……あの野郎、ほんとつえーな……って、痛って~……」
治す事の忘れていた顔が疼いて急いで魔力を顔に集中させ自己治癒を施す。すると瞬時に痛みが引き、顔を手で触ってみるが元に戻った感触がした。さっきは骨を触った感触があったが今はきちんと皮膚がある。そこでこの迷宮に来る直前に買った大銀貨1枚もする鏡を使い顔を見てみる。
「おっ? ちゃんと治ってるな、よかった~……」
顔がきちんと完治している事に安堵した。やはり顔に傷が残ったままだと少なからずショックを受けるだろうからな、シミ1つなく綺麗に治ってよかった。
しかしそう考えてみると改めてあの酸攻撃(アシッドアタック)の強力さに少し震えが来る。
「ちょっと付いただけでこれだもんな……目に付いたら一気に殺られそうだなこりゃ……」
そうなると対策を立てざるを得ないな……どうするか。今思えばキラーアントも酸攻撃(アシッドアタック)を持ってたな、だが1度たりとも食らった事がない。なぜならキラーアントなら瞬時に倒せてしまうからだ。だから攻撃を食らう暇がない。しかしこうなると1度食らっておけばよかったと思ってしまう。
1度食らえば覚えていたはずだから今回のような事にはならなかった可能性が高い。しかし今さら愚痴っても仕方が無いな、ならさっさとやれる事をやるか。ソルジャーアントは危険すぎるのでキラーアントが酸攻撃(アシッドアタック)をどの部位から仕掛けてくるのか見てみる事にする。同じアリ同士だ、構造は一緒だろう。これで違ったらまたやり直しだが今はやるしかない。
わざわざ食らう必要もないが、1度キラーアントの酸も食らってみて、ソルジャーアントとどの程度違うのか分析してみたいな。
やつは酸攻撃(アシッドアタック)が(普)だったはずだ、キラーアントよりも2段階上になる。その2段階でどれだけ違うのか見てみようと思う。それで他のスキルの2段上がどれだけ違うのかの参考にもなると思うから、この実験も今後の事を思えば大事になるだろう。
「でもなぁ……俺マゾじゃないから痛いの大っ嫌いなんだよなぁ……」
酸でまた皮膚を溶かすのかと思うとウンザリするが今後の為だ、そしてあの「憎(に)っくき」ソルジャーアントを倒す為には仕方ない事だと言い聞かせ、先ほどまでと逆の上層へと向かう事にする。
下層に行くにつれソルジャーアントは出てきた。だからキラーアントだけを相手にするなら上層に行った方が無難だろう。今はまだソルジャーアントを相手にするのは危険だからな。いずれ倒すまで首を洗って待っていてもらおう。
「ま、負け惜しみじゃないぞ! ……うん、これ以上言うと小物っぽくなるから言わないでおこう」
なんて、だいぶ余裕が出てきたので準備を整え神庭から出て上層へ向かう。
戦っていて思ったんだが、余裕がある時は魔力で回復した方がいいだろうが、余裕がないとポーションでの回復の方がいいのだろうか? でもポーションを掛けてる暇がなければやっぱり自己治癒での回復になるだろうからやっぱりケースバイケースになるか。
「実はポーションのあの殺人的なまっずい味が俺に忌避感(きひかん)を強烈に与えて来るんだよなぁ……」
実はあの一件以来、ポーションをなんだか体が受け付けないのだ。掛けるだけだから味は関係ないんだろうけど、やっぱり体に悪いんじゃないかと思うところがある。一応ちゃんと治ってるから大丈夫なはずなのだが、それでもやっぱり体に……なんて思ってしまうんだよな。でもこのままポーションを使わないなんて事はこの先ひどい目に会いそうなので、今のうちに改善したいなぁ。
「よし、決めた。やっぱり味の改善をしよう。体が弱りまくってていざという時、不味さのショックで気を失い死んじゃったなんて目も当てられないからな」
内臓がやられたら飲まなければいけない、なのに弱ってる時にあれを飲むのは酷(こく)だろう。ならばやはり味を変えるしかない。ただ薬学の知識が全く無いからここら辺もちょっと勉強しないといけないな。
「ま、とりあえずはアリ退治が先だ。街に帰るまでは出来ない事だから今は闘(たたか)いに集中しますか」
辺りに注意を払い神庭を後にする。そして上層目指しているとすぐにでもキラーアントが出てきた。ここで実験してもいいがソルジャーアントが出そうなのでさっさと倒してもう少し上層を目指す。
「う~ん、やっぱり酸を使う様子は無かったなぁ……もしかして酸が弱すぎて使っても意味ないとか?」
その考えは当たっていたようだ。ある程度上層へ行き数匹出てきたら残り1匹になるまで倒し、後は酸を使うまで攻撃を回避し続けた。だが全く酸を使う様子を見せない。なのでキラーアントの顎を切断して様子を見ていたら、ようやく液体らしき物をこちらへ飛ばしてきたのだ。
最初はどこから出ているかわからなかったが、何度か確認した所、どうやら尻のあたりから飛ばしているようだ。足を使い蹴ったり踏み潰してきたりするからよく見えなかったが、やはり尻の辺りで間違いはない。場所さえ分かったなら対処は簡単だ。
「とりあえず尻を切ってみてどこの穴から出るのか見てみるか」
そう思いまずは首を切断し息の根を止める。そして尻の先端に近い部分からまた切断し、よ~く確認することにした。
すると先端部分ではなくそこに程近いお腹の部分に小(ち)~さな穴らしきものがある。多分ここから出しているのだろうと見ていたらスゥーっと持っていた部分が消えてしまった。
「あれ? 魔物や動物って手に持ってても消えるのか? どうなってんだ迷宮ってのは……」
今までは地面に置いていたからそれを迷宮が感知して吸収していたと思っていた。だが俺の手に持っていても勝手に消えてしまった。これは地面にアリの他の部位が転がっていたからか? それとも命ある者が死んだら無条件で吸収してしまうのだろうか?
「いやはや、なんともファンタジーですなぁ」
なんて爺臭(じじくさ)い事を言いながら、もう少し観察がしたかったので次のキラーアントを狩りに行く事にした。
その結果やはり尻に近いお腹の部分から酸を出すようで、先ほど試し忘れていた酸を浴びるという事も意を決して試してみる。すると……
「あ、やっぱりあんま強くはないんだな。少し日焼けしてヒリヒリする程度だ」
ソルジャーアントより2ランクも威力が弱いがここまで変わるのか。これなら使うよりも顎や足で攻撃した方がいいだろうな。運よく相手の目に当たれば失明までは行かないまでも視界を一時的に奪う事が出来るだろうが、尻の辺りから飛ばすから体勢が赤ちゃんにオシッコをさせるように尻を前に突き出さないとダメだからな、だから酸を飛ばす時は結構な隙が出来る。
「今にして思えばソルジャーアントを斬った時、顔が上に向かっていて尻がこっちに出されていた気もする」
一瞬の事であまりよく覚えてないのだが、なんとなく尻を足の下からこちらに向けていた気がした。
きっとソニックブームが効かないと瞬時に判断して、あの強力な酸を使ってきたのだろう。もしかしたら酸を使う所を俺が迫っていってしまったという事だろうか?
「だとしたらバカやっちまったなぁ……でも命あるだけマシか、こうやってまたリベンジできるしな!」
仕組みさえわかってしまえばもう怖くは無い。複数匹いたら大変だろうが1匹にはもうやられない自信が出てきた。きちんと魔力剣も通用したしソニックブームも対処できる。なら酸を出す時、よーく見てそれを避ければいいだけだ。
残念な事に盾の類を持ってないので防ぐ事は出来ない。きっと服もあっという間に溶かして皮膚まで到達するだろう。だからなんとかして避けなければいけないが、出す場所さえわかったならそこを注意していればなんとかなるだろう。
「よ~し、対処法が分かった所でリベンジに行きますかー! ……2度目だけど」
でも命さえありゃ何度リベンジしようがいいじゃない! なんて気楽な気持ちで行ったら殺られるから気を引き締めたい。それに負け癖なんて付いたら目も当てられない。
次はなんとしてでも倒す、そう決意をしてまたソルジャーアントの居場所へと歩き出す。
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