16話 魔石

 神庭(かんば)で8時間ほどきっちり寝て、昨日の迷宮へのリベンジの為、気合を入れながら朝食を食べる。


「やっぱりこのパンサンドうめーなー、2個食べるのが普通になっちまってるよ」


 パンは小さめのフランスパンみたいに硬いのだが、そこに野菜とラギラビットと思われる肉にバーベキュー風のタレが絡んでとても美味い。さらに何のミルクだからはわからんが牧場で飲む牛乳みたいに、ちょっと癖はあるのだが口当たりがまろやかなミルクを飲み、満足げに余韻に浸る。


「いや~この牛乳? みたいのもうまいなぁ。匂いに癖があるがそれがまたハマるわ」


 またこの料理2つをセットで買い込む事を考えながら神庭の扉を出して、外の様子を見てみる。

 誰もいない事を確認して外に出て迷宮の入り口にやってきた。


 「さぁ、今日はちょっと深めに行ってみたいな、なんかソロは珍しいみたいだからあんまり人と会わないようにしたいな。会うたんびにいちいち「1人か?」なんてめんどくさくなってきた……」


 別にそこまで難易度の高い迷宮じゃないっぽいし俺自体は冒険者じゃないが、冒険者でもソロでいそうなもんだけどな。この世界は冒険者になるとパーティーってのが常識なのかね。

 それかよっぽど強いやつ以外はソロやらないとかか? まぁ冒険者の事情なんか知らんからどうとも言えないが、それでも迷宮で会うやつ会うやつにソロかどうか聞かれるってのはなぁ……


「仲間か……俺みたいに旅したいってだけのやつに付いてくる奴なんかいるのかねぇ。てか、みんなどうやって仲間とか作ってんだろう? 昨日のあのバカ男みたいに力で無理やりっていうのもあるんだろうけど、それ以外はどうやってんだ?」


 こうして考えてみると中々に仲間を作るってハードルが高いんじゃないだろうか?

 ちょっとこの先が心配になってきたな、俺って一生1人じゃないよね? 大丈夫だよね……?


「なんか不安になってきた……俺は別にずっと1人でいたいわけじゃないのよ?」


 どっかに女の人が降って来るとかそんなこと起きないかね………………チラッ??


「上見ても降って来る訳わきゃないわな、バカやってないで早く迷宮入ろっと!」


 ほんとに振ってくるかと期待したわけじゃないが、上を見てしまった自分が恥ずかしい……俺ってこんな妄想するやつじゃなかったのにな。異世界だっつーことで妄想メーターが振り切ってんのかな?

 こんなんじゃ迷宮で怪我するぞ、ほんとに。


 「よし、美味い飯食って気が緩(ゆる)んじまったな、痛い目見たくないから気合入れなおして進みますかー!」


 昨日と同じように5分10分はコウモリやモグラなどの小動物しか出てこず、魔物の類は一切出てこない。


「いくらなんでも出なすぎだろこれ……魔物ってこんな出ないもんか?」


 ようやくスケルトンが1匹出たがトロい事この上ない、剣の横薙ぎ一閃で首が飛び簡単に崩れ落ちる。

 今の所、冒険者ともほぼ会っていない。なんか迷宮ってこんなんなのか? と、疑問が浮かぶ。

 しかしここで戻るという選択肢は無い為、気を緩めないように注意しながら先に進む。


 「お? 明かりが見えたな。冒険者だろうかね?」


 入り口であった冒険者以外では2組目となるパーティーだ、ちょっと話聞いてみようかね。


 「お疲れさん、ちょっと聞きたい事あるんだけどいいかな?」

 「おう、おつかれ。なんだ?」


 男2人組みのパーティーみたいだな。なんだ2人組もいるんじゃないか。

 1人は上等な胸当てをつけている精悍な顔つきの男、もう1人は動きやすそうな服に軽めの防具を付けたほっそりしている男だ。


「ここって昨日初めて来たんだがこんなに魔物いないのか?」

「ん~、ここまでいないのは初めてじゃないか? 今までは入って5分もすりゃ魔物が数匹出てきたんだがなぁ。俺達もあんまりいないからもう帰ろうかと思ってたんだ」

「そうなのか、俺も昨日来てから魔物を数匹しか狩れてないからこんなもんなのかと思ってたんだが、やっぱり少ないのか」


 思った通り今は数が少なくなっているようだ。何が原因かはわからないらしいが、ここまで魔物がいないっていうのも珍しいようだな。

 そこで疑問に思ってた事を聞いてみることにした。


「迷宮っていうのはどうやって稼ぐんだ? 魔物とかも倒したら消えちまうだろ?」

「なんだ、稼ぎ方知らないのか? 魔物は消える前に使える部位だけを取ったりするんだ。あとはだな……」


 そう言って腰につけてある魔法袋からガラスのビー玉のような丸っこい物を取り出した。


「これ知ってるか?」

「いや? なんだそれ?」

「知らないか、これは魔石って言って迷宮の魔物しか出さない物さ」


 へー、迷宮の魔物だけが落とす物なのか、魔石っつーのは魔宝珠とは違うのか? 少し聞いてみることにした。


「魔石は魔宝珠とは違うのか?」

「魔宝珠は外の高ランクの魔物が持っているやつだな、この魔石はそこらの雑魚でも持ってるんだ。それに値段がそこそこするからな、強い魔物を狩るより迷宮で狩った方が稼げるってなもんだ。いわば魔石っていうのは魔宝珠の劣化版みたいなもんだな。」


 詳しく聞いてみると、迷宮の魔物なら誰でも持ってるらしい。だが確率がそれなりに低めだとか。大体100匹倒したら1個落とすくらいのようだ。落とすというのは魔物が消えた時に地面に残ってるようで、換金できる部位を取ったら消えるまで待ってるのが一般的なやり方のようだ。

 消えるといっても1・2分で消えるから、魔物が大量にいる場合は必要な部位を取れずに消える事もしばしばあるらしい。

 それに魔石は魔宝珠のように属性はないようで、魔力を溜めておけるだけのようだ。

 だがそれが重宝されているらしい。魔宝珠と言うのは産出量が結構少ない、なので杖に使われるのが一般的で、魔石などが砕かれて加工され様々な魔導具に使われるのだそうだ。なので魔宝珠より魔石の方が需要が高いという事だ。希少さでは魔宝珠の方が上なので値段は魔宝珠のが高いみたいだけど。


「なるほどねぇ、俺はまだ数匹しか狩ってないから出てこないのも頷けるな。(それに俺はアイテムボックスにすぐ入れちまってるから余計に出てこないはずだわ)」

「そうだな、まぁこれ1個で大銀貨1枚するからな、初心者が1日迷宮に籠って2・3個くらいが普通か。それ以上出たらラッキーって感じだな」


 大銀貨1枚っつーと1万ゴルドか。1日籠って2・3個か、それに他に換金できる部位があると1日で4・5万ゴルド程度にはなるかもな。そうするとパーティーで分けると4人組みだと一人1万ゴルド以上は稼げる計算になるか? 安全とは言わないまでも初心者ですらそれくらい稼げるとなると中々にいい収入になるんだな。


「この迷宮は中級くらいって聞いたが、ここだと今まででどのくらい稼げてたんだ?」

「中堅ともなるとここで金貨数枚は稼げてたな、俺らは2人組だから1人頭10~20万ゴルド稼げてたな」

「1日10万から20万ってかなり稼ぎがいいな、そんなにここは魔物が多かったのか?」

「そうだなぁ、大体8・9時間籠ればそんくらいにはなってたな」

「それが今ではいくらなんだ?」

「ここ最近は10時間籠っても前の1/5程度になっちまってるな、ここも潮時かも知れんなぁ……」


 そう言って遠い目をした。なるほどなぁ、1日10万以上も稼げてたのに今じゃ2・3万程度か。

 十分っちゃ十分だが一度美味しい思いするとその程度じゃ満足できなくなるよなぁ。

 だけどまぁ、迷宮での稼ぎ方が分かったのは大きいな。俺はまだ魔石を手にした事がないから早く1個でもほしいもんだ。


「魔物が減った原因ってわからないのか?」

「ん~……多分だがアリがここ最近増えた気がするな。そいつらが他の魔物を食ってる可能性もあるかもしれん」

「アリか……そういや第2休憩所辺りでわんさか出たのを昨日見たな」


 昨日俺をエサにしようとしたあいつらと行った時にこの狭い道に隙間無く犇(ひし)めいていたからな。あいつらが原因の可能性があるのか。


「やっぱりそうか……数日前からそこから先には行くなというやつらがいてな、そういう理由だったか……」

「アリってのは強いのか? まぁ弱くは無いだろうけど」

「アリ自体はそこまでではない、ただあいつらは群れる事が強さの1つになってるからな。単体ではD-程度だが群れたらD+からC-ほどになる、それもこの洞窟だからであって外に出て数十匹に囲まれるとC+まで跳ね上げるらしいぜ」


 確かに……あの硬さからいっても結構苦戦するだろう、それが数十匹いるとなるとかなり厄介には違いないな。もしかすると俺が倒した血喰(ブラッドベア)い熊より厄介かもしれん。


「なるほどな、この迷宮はアリ以上に強いやつらはいないのか?」

「そうだなぁ……せいぜいがC-いくかいかないかって程度だろうな、なんせ中級ダンジョンだからな」


 中級というからBランクくらいいるかと思ったが、Bランクはもう上級に属するみたいだ。それにこの迷宮は中級でも手ごろだから人気があるみたいで、そこまで強いのは出ないらしい。

 だからか、彼らはランクにしたらCとC+あるにも関わらずここに籠ってるらしい。

 この世界は上級冒険者でもない限り高ランクの魔物には敵(かな)わない、なので中堅の冒険者でも簡単な迷宮に潜って稼いでいるらしい。


「中堅ですら稼げるのがここの迷宮なのか、なら俺も少し籠ってみるかな」

「ああ、ここは洞窟型だから敵に囲まれるっつーこともないしな、せいぜいが前後を挟まれる程度だ。しかも1・2匹くらいだな。他の迷宮は塔型だったりして土地が広い所もある。そっちのが稼げるがやっぱり危険度は高いからな、だから俺達は少人数でここに来てたのさ」


 確かにCランクのこの2人なら少人数でここに籠るというのは賢い選択かもしれない。たくさん稼げる所に行きたくなるが命がなくなったり、怪我して冒険者を続けられなくなるなら意味が無いからな。

 その点この2人は、そこそこの稼ぎを少人数にすることで分配を減らし儲けを出してたわけか。

 そう聞くと俺は1人でやれてんだから無理にパーティー組む必要もないな。

 そんな事を思うとなんだか気持ちが楽になった。無理に組まないとってさっき思ってたからな、焦る必要はない。焦って変なのと組んじまうよりは1人のがいいに決まってる。


 ちょっと心にゆとりが出来て焦りがなくなった所で、もう少し聞いてみることにする。


「冒険者ってのはパーティー組むのが普通なのか? 俺は冒険者じゃなく迷宮に興味があって来ただけなんだが」

「冒険者じゃなかったのか。そうだなぁ、大体はパーティー組むんじゃないか? でもソロもそれなりにいるぞ、まぁ大半が実力者だがな。やっぱりパーティー組むのは弱いから群れるわけだし、俺達もそうだな。まだソロだと危険性が高いからこいつと組んでるんだしな」


 そう言って2人はお互いに頷きあっている。なるほど、お互い実力は似たような物だから考えが一致して少人数でやっているわけか。ならずっと連れ添ってたわけじゃなく、途中からこのパーティーになったんだろう。


「おまえはここまで来れてるって事はそれなりに実力があるんだろう、ならソロでも問題ないんじゃないか? ただまぁピンチの時は誰も助けてくれないからそれを切り抜ける強さが必要だけどな」

「たしかになぁ、でも簡単にパーティーなんて組めないだろ?」

「まぁな……俺もこいつも何回かパーティーを変わったが人数が多ければ多いほど軋轢が生じるからな……だからこいつと出会えたのは運がよかったよ」

「ああ、俺もこいつと出会うまでは色々パーティーを変えてたからな、正直疲れた。当分はこいつと2人でやっていくだろうな」


 なるほどねぇ……やっぱり赤の他人だもんな、色々問題が生まれるか。俺がパーティー組むときはきちんと人を見るようにしないとな、面倒事を持ってくる、もしくは面倒を起こすやつは一緒に居たくないもんな。


「色々参考になったよ、ありがとう」

「いいって事さ、俺も休憩所より先に行くなって言う理由がわかったしな、明日にでも行こうと思ってたから危ない目に会ってたかもな。おまえに会ったのも運がよかったさ。」

「お互い意味のある出会いでよかったよ、それじゃ俺はもう少し先に行ってみる」

「ああ、あまり行き過ぎないようにな」

「ありがとう、ご忠告に従うさ」


 お互いがお互いの方向へ歩き出し別れていった。

 それにしても俺が来る少し前から魔物が減ってるとか運がないなぁ。でも彼らからは有意義な話が聞けたな。

 それにしてもどうやって稼いでるか気になってたが、まさか魔石っつーのをドロップするとはね。

 透明なガラスのビー玉のようだったなぁ……あれが魔力が溜められる物なわけだ。

 ということは、俺のこの魔力剣にも配合されてんのかね? 今度街に帰ったら武器屋のオッチャンに聞いてみるかな。


「よし、そうと決まれば今は魔石をゲットする為に先に進みますかねぇ、昨日のあの場所よりは進まないようにして、それまでに出てくれりゃいいな」


 昨日のあのポイントまでの間に魔物達を狩って狩って狩りまくる事に決め、先を進んでいく。

 確かあの場所までは6・7時間くらい掛かってた気がした。そう思ったら昨日は砂時計セットしてなかったわ……今日もセットしてないから今からでもセットしてみるか。

 洞窟とか迷宮は時間経過がわからないから時間を計るのは命綱のようなもんになるかもしれないな。

 これからは忘れないようにしないとやばそうだ。気づけたのが今でよかった。


「さて、時間もセットしたし、12時間用の砂時計が半分くらいになったら帰るかね。6時間用でもいいんだけど全部落ちたら正確な時間わからないからやっぱ12時間用がわかりやすくていいな」


 2つセットすりゃいいんだけど12時間用でも大体でわかるから1つだけにしといた。そこまで分単位で知りたいわけじゃないしな。

 そう考えると地球で分単位で働いてたり行動するってすんごい窮屈な生活してたんだなぁ……

 もっとルーズに生きてみてもいいかもしれないな。俺ってば結構几帳面だからそういうとこユルくできないんだよなぁ。でももう違う世界に来たんだしちょっとは気を抜いてもいいな。どうせ1人で自由気ままに動くんだ、そこまでキツキツにしなくていいだろう。


「さてと、そろそろ魔物が出てくる頃かね。そういやこういう所でお決まりのゾンビとかがいないな、ゾンビって冒険者とか人が死んだのがなるのかな?」


 スケルトンは数匹見たがまだゾンビは1匹も見ていない。なんか匂いと見た目が嫌そうなのでいなくていいんだけどね。


「ん? なんか音が聞こえるな。さっそく何か来たか?」


 なんだか遠くから音が聞こえる。ゆっくりゆっくり何かが動いている音だな。そう思い暗闇の中をじっと見つめていると……


「うおっ!? なんか飛んできた!?」


 白っぽい何かが飛んできた。それを間一髪右側に飛んで避ける事ができた。しかし左手に若干当たってしまう。

 それを見てみると、何やらネバネバした糸っぽい何かがくっ付いていた。


それを取ろうとするがくっ付いて全く取れない、剣で斬ろうとしてもなかなか斬る事ができない。そうしている間にも敵がこちらに寄ってきて、ついには姿を現す。


「まんまクモじゃねぇか、てことはやっぱりこれは糸だったのか」


 その姿はタランチュラをでかくしたようなクモだ。高さが1mはあるな、後ろは見えづらいが2m近くあるんじゃないか? なんて冷静に観察してる場合じゃない、また糸を吐いてきた。しかも連続で出してきやがったぞこいつ。


「あぶねっ!? 連続かよ、おい! これまともに食らったら簀巻(すま)きにされっぞ!?」


 糸でくるくると巻かれる姿を想像して背筋を冷やす。それはやだ、絶対やだ。なぜならそんなマヌケな死に方したくないからだ。そんで簀巻きにされたら巣に持ってかれてチューチュー吸われるんだろ?


「絶対やだぞそんなの! んなアホな死に方する為にこの世界に来たわけじゃねぇ!!」


 そう思い発奮し、糸なら火でなんとか出来るんじゃないかと思い火の杖をリュックから引っこ抜く。そしてそのままファイアボールを連続して打つ。


「糸じゃなく本体を狙い撃ってやるぜ!」


 どうせ糸は本体から出てるんだ、なら本体を狙った方がいいに決まってる。そう思い3つ4つと魔法を連射していく。

 すると、あまり強い魔物ではなかったのか2つほど当たった頃には抵抗を無くしており、4つ当たる頃には黒焦げになりそのまま焼き蜘蛛になっていた。


「ふぅ……ちょっと焦って魔法を無駄撃ちしちゃったな……でも仕方ないよね! だって気持ち悪いんだもんこいつ」


 そう、このクモはなぜか尻の方から糸を出さず口から糸を出してきたのだ。口から糸って……毒液じゃねぇんだからさ……まぁ理には適ってる気もするけど……

 とりあえずこいつの換金できる部位なんて知らんから体に付いた糸を取りながら消えるのを待つ事にする。


「魔石出ないかな~?」


 ワクワクと期待するが、まぁそんな簡単に出るわけないよね……魔石って聞いてから欲が出ちゃうのは仕方ない事だろう。

 そんな事を思いながら魔石探し、もとい魔物狩りを続けることにする。今度はクモが出ても冷静に対処したいもんだ。


 数分後にはまたクモが、そして続けざまにスケルトン、ちょっと気色悪い色したヘビが出てきたが、全く魔石を落とさなかった。

 そこでがっくり来てると足に痛みを感じた。


「いてっ! なんだ? ……うおっ!? このヘビ野郎、頭だけで俺に噛み付いてやがる!!」


 ヘビがしぶといのは知ってたがまさか頭だけになっても生きてるとは思わなかった。

 そのせいで怪しい色したヘビに思いっきり踝(くるぶし)の上辺りを噛まれてしまった。


「まじかよ~、そういやブーツ買ってたのに履き替えてなかったわ……なんてマヌケ具合だよ全く……」


 そう思ってるとなんだか気持ち悪くなってきた、そしてフラフラと風邪を引いたように視界が揺れる。


「う~、気持ち悪い……なんだ? まさかこれって毒か……?」


 そう思い魔法袋から取り出した毒消しポーションを飲んでみる。すると徐々に体調が戻ってきた。

 さっきまで倒れそうなほどフラフラしていたのに、今では何でも無かった様にピンピンしている。


「毒消しすごすぎだろ……」


 その効力にちょっとビビりながらも素直に治った事を喜ぶ事にする。

 しっかしどういう成分が配合されてんだ? 大抵の毒が治るとか聞いたけどちょっと地球では考えられないなぁ。普通ヘビに噛まれたらその毒の血清とかで対処するんじゃないのか? でも今はこの毒消しを飲んだだけで治ってしまった。こりゃ医学? と言っていいのかしらんが、こっちの世界のが進んでそうだなぁ。

 まぁ重症がすぐさま治るんだ、間違いなく地球よりは進んでるよな。地球にもポーションありゃよかったのにね。


「とりあえず毒消し持ってて助かった、意外と毒って効くの早いんだな……ちょっと侮(あなど)ってたわ」


 そう思い靴を魔獣の皮を使ったブーツに履き替えながらヘビを見てみるとちょうど消える所だった。

 そしてその後には……


「お? 胴体があった所に何かあるな……あれ? まさか!?」


 そう、透明なビー玉のような物が転がっていたのだ。迷宮初めての魔石をゲットしてしまった。


「こりゃ毒受けた甲斐があったってもんだ!」


 ほんとは毒を受けなくても出ただろうが、まぁそこは倒したと思って油断したら噛まれたという情けない記憶を上書きしたいから良い方向に考えようじゃないか!

 そんなことを思いながらまじまじと魔石を観察する。


「じーーーーー………………うん、ほんのちょびっと魔力が感じられるな」


 出来立て? 落としたて? だと魔力なんて無いと思ってたが、ほんの少しだけ魔力が魔石の中に入っていた。

 これってどの程度魔力が入るのかね? 色々試してみたい。だがここはまだ迷宮の中だ、だから安全な所まで気を抜けないので、後で実験をしてみる事にして、名残惜しいが今は探索を進める事にした。


「さてと、じゃあもう1個くらい取っちゃいますかね~」


 意気揚々と注意ポイントまで行かないようにしながら、また魔石取りを開始する。もう狩りですらない気分だな、宝探しみたくなってきた。


「やべ……たかが魔石なのにめっちゃワクワクすんだけど……」


 これが川から土をザルかなんかで救い上げて、土を落としたら砂金が出てきたっていう気持ちなのかしら? などと全くトンチンカンな事を考えながら歩を進めていった。

 そうして5時間と少しが過ぎた頃ちょうどキリがいいと思い戻ろうかと思ったが、気持ちが逸(はや)るもんで、ここで神庭(かんば)への扉を出して中に入り魔石いじりをすることにした。


「さーてと、今日の収穫は~……魔石が2個です!」


 運よく切り上げる前に1個ぽろっと落ちたので今日の収穫は2個となった。試しに今まで倒してアイテムボックスに入れてた魔物を地面に置いたが魔石は落とさなかった。

 一度迷宮から魔物を出すと出ないのか、それとも外から迷宮に持ち込んでも出るのか、そこら辺はわからないが、なんとなく前者の気がする。迷宮の魔物しか魔石は落とさないらしいし、外にいるやつは強くない限り魔宝珠が出来ないみたいだからな。


「とりあえずこの魔石をどうするかね? ……よし、これちっちゃいから2つ合わせられるかやってみるか」


 多分だが2つを1つにまとめる事が出来そうだと思いやってみる。2つの魔石が溶け合わさるように念じてみた。

 すると、2つの魔石の接合部が液体のように流動的になりながら徐々に合わさっていく。そして全部が融合すると元の魔石より2周りほど大きいだろうか、ゴルフボールよりは小さいくらいの大きさの魔石になっていた。


「やっぱり出来たな……なんかよく分からんが試験管の時にガラスをグニグニ粘土の様に操れたからな、できるとは思ったけどこうも簡単にいくとは……」


 これが魔力操作が長けているからなのか、はたまた神力による物なのかそこら辺がまだはっきりしない。今はまだ無から何かを作り出そうとしても作れない、しかし現時点でも無から有は作り出せなくても有から有へのちょっとした事ならできるみたいだ。この魔石を融合させたように。

 まだこの魔石を他の物質にしたりとかはできないが、形を変えるくらいには出来るようにはなったと思っていいかもしれないな。


「これが何が原因かはわからない、多分神力だろうと当たりをつけているんだが、如何(いかん)せん神力を使おうと思っても実際に使ったとしても数値が∞だから減らねぇ減らねぇ……」


 だから何が出来て何が出来ないのかはまだまだ手探り状態だ。しかも魔力操作が上手いから出来てるっていう線も残ってるからなぁ……ほんとよくわからん世界だよ。

 まぁ仕方ないよな、魔法なんてない所からやってきたんだ。魔法で何が出来るのか、一体どんな魔法があるのか全くわかってないしな。


「しかも俺、無属性だから本能的にこういうのが出来るっつーのが一切わからないんだよねぇ……」


 やっぱりラウル様に力を……なんて考えた事もあるがもう遅すぎる事だ。連絡の取りようも無いし、今さらやっぱ力くださいなんて言ってもくれるわけなさそうだし、もう自分で時間を掛けて探るしかないんだろうな。

 まぁ幸い俺はまだ若い、これが50とか60超えてたら焦るかもしれんが、まだ18だ、ピッチピチだぜ! ……まぁ男にピッチピチって使うかどうかわからんけど、とりあえずまだまだこの世界に来て一月(ひとつき)も経ってない。焦らずゆっくりじっくりねっとりこの世界を堪能していけばいいよね。


 そう自分に言い聞かせるように今日は疲れたのでこのまま寝る事にする。


 あ、これは余談だけど魔石に魔力がいくら入るか試したら50ほど魔力を流し込んだら見事にパリンッてな具合に壊れたわ。ビビッたけどすぐ欠片集めて融合させたら元に戻ったので一安心した。

 多分魔石1個に付き25の魔力を溜めておけると思う、そこら辺もちょっと色々と探っていきたい所だ。


 てことで寝ようかね、この神庭(かんば)にある布団も高級な布団に変えようかな? なんて思いながら意識がゆっくりと沈んでいくのを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る