15話 初めての悪意

 迷宮に入り1時間ほどが経った、その割りにまだ数匹の魔物しか遭遇していない。

 しかもどれも雑魚ばかりだった、ゴブリンにコウモリ、後はモグラっぽいやつしか出会っていない。


 やはりそれなりに冒険者がいたからか、奥まで行かないと魔物がたくさんいないのだろう。

 まぁたくさん居たら居たで困るのだが。


「それにしても全然いないなぁ、もう少し出てきてもいいんじゃないのか?」


 そんな事を思いつつ奥へと入っていく。

 さっき冒険者から奥へ行くなら気をつけろと言われたからな、あまり奥に行きたくはないんだが、これだけ魔物がいないと迷宮に来た意味がないからなぁ・・・どうするかね。

 そんなことを考えながらもう少しだけ奥に行く事にした。


 そしたら1匹のアリだろうか、魔物っぽいやつが出てきた。

 しかしそれが……


「おいおいおい、こいつでかすぎねぇか……?」


 そう、人間ほどの大きさのあるアリが目の前から出てきたのだ。

 高さは1mほど、しかし全長は2m近くあるのではないだろうか。

 アリだからと嘗(な)められない、あのどでかい顎に噛まれたらチンケな防具なぞひとたまりもないだろう。


「おいおい、いきなり強敵か?立ち止まってるうちに鑑定しとくか」





 名前 キラーアント

 Lv D-

 性別 オス

 年齢 3

 種族 魔物


 体力  178

 魔力  35


 攻撃力 35

 防御力 55

 精神力 31

 素早さ 34

 器用さ 11


 スキル 掘削(エクスカヴェイション)、、酸攻撃(アシッド・アタック)(微)





 うわ、酸って……やっぱりあるのかって感じだな…… 食らったら溶けたり爛(ただ)れたりするんだよなきっと?

 ここは慎重に事を運ぶ事にしよう。


「まずは、出方を伺うか…… って突撃してきやがった!」


 一気に迫ってきてその凶悪な顎で俺を食いちぎろうと迫った来た。

 だが俺は狭い洞窟内だが一気に身体強化をしてアリの上にジャンプする形で剣を一閃する。


 「ふっ!!」


 首を真横に薙(な)いだ為、ちょうど間接の隙間に剣が入り込み簡単に切断する事が出来た。

 狙ってやってみたのだがこれがあまりにも上手くいった。首を跳ね飛ばしたのだが未だに少し足がピクピクしてるがそのうち停止するだろう。


「すげー、自分に驚きだぜ……今のは剣に魔力注いでないのにな」


 そう、魔力剣を使ってるのだが魔力を使わずに切ってみたのだ、試し切りで効かなくてもいいやという気持ちで斬り付けたのだが、うまいこと間接の弱い部分を斬る事ができた。

 やはり間接はアリにとっては弱点なのだろう、僅(わず)かな隙間しかないが狙ってやれない事はないな。

 ただ数が多いとそれも難しいだろうと思い、念のために動かなくなったアリの甲殻に剣を振り下ろす。

 すると、ガンッと音がして、傷が薄っすらと入った程度しかならなかった。


「なんだこれ……こんなに硬いのかよこいつの殻って……」


 確かに防御力が結構あるとは思ってたけど、アリの甲殻ってここまで硬いのかよ……

 そう思いながら次は剣に魔力を注いで斬ってみる事にした。

 すると、スパッと斬る事ができた。


「おおっ! すげー簡単に斬れたぞ!? 魔力ありとなしじゃここまで差が出るのかよ……」


 現金なもので、ここに来るまでに魔法をぶっ放して、魔力剣買わなけりゃよかったーーー!! なんて思っていたのに、

 それが今では、やっぱり買ってよかったーーー!! っと思ってるんだからな、困ったもんだ……


「よし、魔力剣やっぱ最高!」


 買わなけりゃ云々(うんぬん)はもう忘れる事にして、改めて魔力剣の凄さに感動しつつアリを見ていたら、スゥーっと姿が消えていった。


「え? 消えた……?」


 目の前には何も無くなってしまった。

 ドロップアイテムがあるわけでもなく、全てが綺麗に消えていたのだ。


「ど……どういうことだ?……ドロップもなんもなし? 迷宮の魔物だからそのまま迷宮に還ったって事か?」


 それ以外に考えられないが、他にも理由があるのだろうか?

 しっかしドロップの1つも残さないってどんだけマゾいんだよこれ。


「これでどうやって冒険者達は生活立ててるんだろうな」


 試しにコウモリをアイテムボックスから出して地面に置いてみる。

 すると2分程だろうか、時間が経ったらまた、

 スゥーっと消えていったのだ。


 さっきまでに倒した魔物たちは、倒したらさっさとアイテムボックスに放り込んでたから気づかなかったが、どうやら迷宮の魔物は、というか迷宮に魔物や動物の死体を放置すると、迷宮が魔物を吸収? するみたいだな。


「さすが迷宮ってことか、迷宮が魔物を生み出してるのかね? それとも外から来た魔物や動物を吸収して成長してるのか」


 うーん、謎だ……でもここで考えてても意味がない、ということで思考に沈む前にもう少しだけ進む事にした。


 そして5分ほど歩いた頃だろうか。


「おい、おまえ一人か?」


 前から歩いてくる冒険者たち、数は4人だろうか、そいつらの中のリーダーらしき1人が声を掛けてきた。

 見た所俺と同じくらいの身長(180cm)にそこそこのガタイをした鉄鎧を着込んだ男だ。


「ああ、そうだが?」

「おいおい冗談だろ、ここに一人で潜るやつは初めて見たぜ」

「やっぱそうなのか、試しに来てみたんだ」

「試しでここの迷宮かよ、死にてーのかおまえ?」

「死ぬ気はないな、危なくなったらすぐ帰る予定だ」

「すぐ帰るってここは結構深いところだぞ、洞窟型だから階層なんてないが、1/5くらい来てんじゃねぇか?」


 なに? そんなに来てたのか? まぁ確かに数時間は潜ってる気がするが、でも全然魔物がいないからなぁ。なんか潜ったって感じが全然しないんだが。


「そうなのか? 魔物がいないからもっと奥まで行かないとダメかと思ってた」

「まぁ最近は魔物が少ないな、ここは人気があるから第2休憩所辺りまではあまりいないんだ」

「そうなのか、初めて迷宮来たからよく知らないんだ」


 そう言うと男は少し口元に嫌な笑みを浮かべた、その笑みを俺は見逃さなかった。


「なら俺達が中間地点あたりまで連れてってやるよ、なぁ、みんなもいいだろう?」


 そういうと後ろにいた男1人と女2人が頷いている。

 構成としては、こいつが剣士でもう1人の男も剣士か、そして女の1人が魔法使いのようだ。

 もう1人の女は盗賊(シーフ)だろうか?


 もうこいつの中では俺が付いていくのは決定事項のようだな、いるよなこういうわがままなやつ。

 さて、どうするかね……なんか嫌な感じがするが、まぁ誘いに乗ってみるか。

 こういう輩は自分の思い通りにならないと余計に絡んで来るんだよな、魔物よりもこいつらのが要注意だろう。いつでも咄嗟に何かされてもいい様に準備だけはしておくか。

 そう思い誘いに乗ることにした。


「じゃあよろしく頼むよ」

「おう、まかしとけ、第2休憩所まであと1時間ちょっとくらいだ、すぐに付く」


 そう言った男は今来たであろう道に戻っていった。


 そうなんだよ、こいつはさっきまで出口に向かっていたはずだ、なのに俺を誘ってまた奥まで行くという不可解な事をしている、これだけでも何かやるってわかるもんだ。

 まぁ誘いに乗った俺も俺だ、何かある前に対処しないとな。

 そう思いながら俺はこの冒険者達の後をついていくことにした。


 何も無意味に付いて行く事にしたわけではない、一般的な冒険者の実力を間近で見たかったからだ。

 特に魔法使いの女、あいつの魔法を間近で見たいと思った、なぜなら俺の普通に使う攻撃魔法が強すぎるからだ。

 だがあれが普通の威力なのか、それとも強いのか弱いのか、それを知りたかった。

 なので危険だとは分かっていながらも用心して付いて行く事にしたのだ。


「そこの魔法使いの女はどんな魔法を使うんだ?」

「あー、あいつは火だな、ファイアボールとアローくらいしか使えないが、まぁ魔法は便利だからな」


 道具としか見てないような言葉だが、まぁ俺には関係ないな、とりあえず魔法を見せてくれるように頼んでみるか。


「次の戦闘のとき魔法を見たいんだが、見せてくれるか?」


 そう女に頼むと、コクリと頷いた。

 無口な女だな、ローブのフードを深々と被って顔があまり見えないが、魔法を見せてくれるというなら有り難く見せてもらおう。


 しばらく歩くと、スケルトンだろうか、1匹だけゆっくりと歩いてやってきた。

 そこに女が魔法を使う。


「ファイアボール」


 すると指の先から火の玉が出てスケルトンを襲う。


 火の玉を食らったスケルトンはそれなりに勢いよく弾け飛びバラバラに砕け散った。

 なるほど、一般的な威力はあの程度なのか。

 あの威力なら俺の魔力3程度しかないな、やはり俺のやつは威力が強いのかもしれん。

 一概には言えないが、あの女の威力が普通ならば俺は恵まれてる方だろうな、何が原因か知らんが威力が高いならそれに越した事はない。

 そう思いながら女に感謝を口にする。


「魔法を見せてくれてありがとう、指から出せるとはすごいな」

「いいの、普通の事」

「その杖は何で持ってるんだ? 今使ってなかっただろ?」


 そう、この女は杖を持っている、なのに今は使わなかったのだ、それをなぜか聞いてみる。


「これは水属性の杖、私は水魔法が使えないからこれ持ってる」

「なるほどな、火は自分が、対(つい)になる水は杖でってことか、考えてるな」


 なるほどねぇ、そういう理由で杖を持ってたのか、その後で少し聞いてみたがどうやら杖には属性魔法の杖と、増幅の杖があるらしい。

 属性魔法の杖は自分に適正のない魔法も使えるようになる、ただし扱いづらく難しいらしい。

 増幅の杖は自分に適した属性の魔法の威力を高める物らしい、これは1つ持ってれば自分に適正のある魔法ならどれも同じ効果を発揮するみたいだ、便利な物があるもんだ。

 しかし魔導具屋の婆さんはそんなの紹介してくれなかったけどな、あまり売ってないのかもしれないな。


 そんな感じで進んで行き、第2休憩所に差し迫ろうとした時だった。

 不意にリーダーらしき嫌な笑みをした男が緊張した面持ちになった。

 俺はすぐに感づく、ここからこいつが何かするんだろうなと。


 すると、ガサガサと音がしてきた、最初はカサカサカサという小さな音だったのだが、次第に複数の音が聞こえてきて、ガサガサガサとすぐ近くにまで聞こえるようになった。

 すると男が不意に俺の後ろに寄ってきた。


「(ちっ、ここで何かやるつもりだな、なんの魔物だかわからんと対処の仕様がないな)」


 そう考えていると、目の前にさっき俺が倒した魔物とそっくりのやつが現れた、それも複数匹。


「で、でた!キラーアントだ!!」


 話をした事のないもう1人の男が怯えた感じでそう叫んだ。

 なるほどな、こいつらの囮にしようとしてたのか、こういう事をするって事はこいつらはこのアリ共を倒す事ができない、だから俺をエサにして倒そうと思ったわけか。

 そんな事を考えていると俺の後ろにいた男が急に襟首を掴みアリ共の中に投げようとしてきた。


「そうら! 行って来いや!!」


 全力で俺を投げようとしてるんだろうが、俺はあらかじめ予測していたこともあってすぐに身体強化をした。そして男の力に負けないように踏ん張る。


「う、動かねぇだと!? こっのぉおお!!」


 全く動かない為に必死になって俺を投げようとしてくる男の足を思い切り踏みつけ、顔が下がった所で肘撃ちをぶちかます。


「ぐっ!? がっ!? て、てめぇええ!!」


 そのまま男の襟首を持って俺にしようとした事をこいつにしてやる。


「や、やめろ! やめっ――――うわぁあああ!!」


 そのままアリ共の中に放り込むとアリ共は一斉にそいつを貪り食おうと集まってくる。

 その様子を一瞬だけ見た俺はすぐさま来た道を引き返し駆けていく。

 ――すると他の仲間達は


「た、たすけてくれ~~!」

「いや~~! だから無理だって言ったのよ~~~!!」

「っっ!!――」


 と、俺が放り投げたリーダーらしき男を助けもせずに俺と一緒に一目散に逃げ出してきた。

 やっぱりな、どうせ力で脅して付いてこさせてたんだろう、だから助けられもせず見殺しにされるんだよ。

 俺はこいつらを薄情とは思わない、その程度の信頼関係すら築けないやつだったのだ。なら見殺しにされても文句は言えないし、こいつらもきっとウンザリしてたんだろう。

 そうだったなら俺だって見捨てるし、その前にさっさと縁切りするだろうがな。


 そんな事を考えながらも周囲に気を配っていると、なにやら壁の方から音が聞こえてきた。

 まさか? ……と思いながらも万が一に備え警戒してると、


 ――ボガンッ!! と、急に壁の中からアリが出てきたのだ。

 多分さっきいたアリではなく、この近くにいたアリが俺達の足音を聞きつけやってきたのだろう。

 ここでこいつの相手をしてる暇はない、そう思い一気に加速しアリの脇をすり抜けるように通り抜ける。

 俺はなんなくすり抜けたが後ろはどうだ……?


「アリが前から出やがった!?」

「うそでしょ!?」

「っ!? ファイアアロー!」


 後ろの3人は俺より反応が遅れたが、魔法使いの女は咄嗟(とっさ)に攻撃魔法を展開した。

 対したもんだ、この女ならもっとマシなパーティーに入れただろうに……

 そんな事を思いながらも後ろを振り返ってみる。


 男はなんとかすり抜けたようだ。魔法使いの女も自分が魔法を撃った隙をついてなんとかローブを切られた程度で済んだようだ。

 ただ、盗賊(シーフ)の女はちょうどアリの触覚に引っ掛かり体が九の字に曲がり、そのままアリの餌食になってしまう。


「いやぁぁぁああ!! た、たすっ――――助けて~~~~~~!!?」


 女の悲鳴が聞こえるが構ってる暇はない、今立ち止まればきっとアリ共が大挙をなして押し寄せてくるだろう。そうなると俺もかなり命が危なくなる。

 あの女には特に恨みはないが、助けるほどでもない、なのでここは見捨てる事にした。


「おまえらはあいつを助けなくていいのか?」

「バカ言うな! 自分の命がかわいいに決まってんだろ!?」

「はっ・・・はっはっ・・・・」


 男はそう言い、魔法使いの女は喋る事も出来ないほど呼吸を乱していた。


「まぁそうだな、ここで立ち止まればアリ共が襲ってくるだろうからその方が正解かもな」


 俺は特にこいつらを攻める事をせず、さっさと出口を目指して走る。

 こいつらはある意味正しいのだろう、俺なら仲間だと思うやつだったら自分の命の危険が分かっていても助けてしまうかもしれない。

 だがそれは無謀でしかない、助かれば英雄だが死んだらただのバカだ、なら助けず自分だけが生き残れればいいと思うのも正しい選択の1つだ。

 俺はこいつら見たく自分優先でいられるかね? その時になってみないとわからないな。


 そんな事を考えながら走っていると、魔法使いの女のペースが遅くなってきた。

 まぁここまでよく持った方だ、それにもうすぐ出口だ、ここで歩いてもさしたる危険はないだろうが、念の為、俺はペースを落とさず出口に向かう事にする、その方が女も最後まで気を抜かずに頑張れるだろう。


「ほら、もうすぐ出口だ、気張れよ」


 男も女ももう喋る事が出来ないくらい疲れ切っているが、もうすぐ終わりだと踏ん張っているようだ。


 そうしていると、出口の明かりが見えてきた、ここまで薄暗い洞窟をよく迷いもせずに帰って来れたもんだ、自分を褒めてやりたいね、ほんとに。


「ふぅ……帰ってきたな、おまえらもお疲れさん」

「がはぁっ……はぁぁ……はぁ……はぁ…………」

「こひゅ~っ……こひゅ~……」


 男はまだいい、この女の方は呼吸がなんかやばくないか!?

 ま、まぁだいじょぶだろう……うん、そう思うことにする。


 そうして俺達は無事迷宮の出口を通り、外に出ることができた。

 正直魔物とあんまり戦ってないが、あの馬鹿男のせいでなんか台無しになってしまったな。

 だからといってもう一度今から潜るって事もしたくないしなぁ……

 はぁ~あぁ、やっぱ付いて行かない方がよかったな、でもどうせぶっ倒す事になったろうからおんなじか。

 絡まれた段階で面倒なことになるのは確定だったかもな、そう思うことにして今日はもう休む事に決めた。

 明日の為に近くの道具屋で毒消しを少し買っておこうかね。そう思い歩き出すと男が話しかけてきた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、その……すまなかった」

「ん? なにがだ?」

「いや……俺達のリーダーがよ、あんなことしちまって」

「いやいいさ、どうせこうなるだろうってわかってたしな」

「そ、そうか……でも俺も止められなかったからよ……」

「何か弱みでも握られてたのか?」

「いや……弱みはないが、あいつはすぐ暴力振るうからな、俺達3人はいつ辞めようって話してたからな」


 やっぱり思った通りだな、ああいう馬鹿はすぐ暴力で訴えるんだ、それで自分がやられる事なんか微塵も考えてないおめでたち馬鹿なんだ。

 なのにどうして自分が助けてもらえると思ってるのかね? ほんと不思議で仕方ない、きっと一生分からない事なんだろうな。


「まぁおまえらも同罪といえば同罪かもしれんが、実際にやられたのはあいつからだけだから、別におまえ等に八つ当たりなんかしないから安心しろ」

「そ、そうか……そう言って貰えるとありがたい……」

「ご、ごめんなさい……」


 ようやく女が息を吹き返したな、さっきまで呼吸が危なかったがそこまで体力がないのだろうか?

 それとも魔法をメインにするやつは体力が少ないのが定番なのだろうか?


「気にすんな、ただまぁ、また俺にちょっかいを出すなら手加減はしないからな、それだけは覚えといてくれ」

「わかった、あんたの事は何も言わねぇ、それにあんた冒険者ですらないんだろ? ならギルドにもあんたの事を言わないさ」

「うん……ある意味助けてくれた人だから絶対に言わない」


 そうか、と言い何もしてこないならそれに越した事はないからな、俺はそれで今回の事を終わらせる事にした。

 こいつら2人は、死んだであろう2人の事をギルドに説明してパーティーを解除するらしい。

 わざわざギルドにパーティーを申請したりとかすんのか、冒険者ってのはめんどいんだな、自由なイメージがあるんだけどな。

 この後2人はまともなパーティーを探すみたいだが、それは俺には関係ないから、こいつらともここまでにすることにした。

 そうして少しだけ話をして、俺はここを後にすることにした。


「あいつらが何かするとは思えないが、信用はできないからなぁ……なんか監視みたいのができればいいんだけどそんな魔法ないもんかねぇ、まだまだ魔法を知らないからな、色々とこれから学ばないとな。折角魔法が使えるようになったんだ、使わな損損ってな。」


 そう思いながら、先ほどの予定通りに道具屋で毒消しを買い(ちょっと割高だったが仕方ない)、人がいない所でゆっくりしたい為、辺りを確認して人がいない事を確かめ、神庭(かんば)への扉を開いて中に入る。


「ふぅ~……ようやく一息つけるな……ここは誰もいないし絶対に誰も入ってこないだろうからな、思う存分気が抜ける」


 初めての迷宮ということで、意外と疲れてたみたいで体が結構ダルい感じになっている。

 それに余計なやつもいたしな、どこにも馬鹿なやつはいるもんか。

 魔物にもあんまり会わなかったし、今回の初迷宮探索は碌でもない結果に終わったなぁ……


 そう思ってみると、人の悪意に触れたのは今日が初めてかもしれないな。

 今までの異世界人はみんなが割と親切にしてくれてた。

 あいつがこの世界に来てから初めての「人でなし」だったわけだ。

 そう思うと他の人達に感謝したくなってくるな、人の善意が当たり前になってた。

 そうだよな、本来人間っつーのは悪どいやつらも多いもんな、ちょっと異世界来て浮かれてたわ。

 改めてそんな事を考えてみた。


 この世界で危ない目に会ったのは魔物だけだったが、人間も危ないという事を直(じか)に経験出来たのはよかった事だったのだろう。そして直接俺が殺したわけではないが間接的には俺が原因で死んだ人間が出たわけだ。でも全く心の動揺はないな。よっぽど前の3人の冒険者を助けられたかは別にして、助けようとしなかった事の方が堪えたな。やっぱり人に害をなす奴には心は揺れないようだ、なんとなくだがそれは分かっていた。だが直接それを確認出来ただけでもあの馬鹿な男にも少しは感謝してみても良いかもしれないな(勿論しないけど)。


 とりあえず、これでどんなやつがどういう事をするか少しは分かる気がする。

 なら今度からはその人となりを見極めなければな。

 善意だけの人なんてあまりいないって事を思い出さなければいけない。

 平和なとこにいると平和ボケするし、危険な所にいると危険が当たり前になってしまう。

 それはどちらも良くない事なのかも知れない、なら両方を適度に意識しつつ暮らしていかなければいけないな。


そんな事を考えながら、今日の迷宮探索を振り返り、また明日、迷宮にリベンジをすると誓いながら神庭(かんば)に敷いてある布団に入り、眠りにつく事にした。

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