14話 初めての魔法、そして迷宮突入


「さーてと、迷宮に行きますかー!」


 一人心の中で気合を入れて、いざ、迷宮へ! と馬車に乗り込んだ。



 朝、目が覚めてから俺が何をしたかと言うと、まず朝食を食べ、次にアイテムボックスに溜まりに溜まっていた動物や魔物を買い取ってもらう事だ。


 冒険者ギルドの横にある買取場に持って行き、買い取ってもらったのだが、かなりの量があった為、一気に持ち込みすぎと職員に文句を言われてしまった。

 仕方ないじゃないか、前の村からこの街まで2週間以上を徒歩で来たんだからさ。

 まぁ、ブーたれながらもきちんと処理してくれたからよかったけどね。

 それで買取金額だが、これがまぁまぁの金額になった。

 動物が金貨4枚に銀貨2枚、魔物が大金貨1枚に金貨2枚、大銅貨8枚と、3週間未満でこれだけ稼げれば、生活に困る事はないくらいのお金だな。まぁそれもゴブリンの巣みたいな所とかを潰したせいかもしれないんだけどね。


 お金を全部カードに入れてもらって次の予定に向かうことにした。

 さて、次の予定は簡単だ。


「初めての迷宮に行きますかね~」


 ということで、異世界で初めての迷宮に行く為に、昨日、魔導具屋のお婆さんに言われたように、最初は馬車で行き、途中で降りて魔法のチェックをする為に魔物相手に試すという形を取る事にした。

 てことで早速馬車を見つけ、迷宮に連れて行ってもらう事にする。

 金額は大銀貨1枚と中々に高い。


「1万ゴルドって意外と高いなぁ……馬車のくせに」


 お金の価値は日本と変わらんからバスに1万払う事と同じだろうか、そう思うとやっぱり高いな。

 それとも深夜バスみたいな感じで遠くまで行くから高いのが当たり前だろうかね、でも高いよな。

 まぁ仕方ないと諦めて早速馬車に乗ることにする。


 そして出発したら驚いた、振動がほっとんどないのだ、なんだこりゃ? どんな魔法使ってんのかね?

 馬車っていうと尻が痛くて痛くて仕方なくなるっていうイメージを持ってたんだがこりゃすげーや!!

 少し良い気分になりながら、ふと周りを見てみる。

 俺以外にも2組ほどのパーティーが乗っており、みんな冒険者のような格好をしている。


「やっぱりみんなパーティーを組んでるよなぁ」


 俺だけがソロでいるので話し相手が全くいない、別にお喋りでもないからいいんだが、パーティー毎に集まっている中で俺だけポツンといるのはなんか寂しいな。

 かと言って知らないパーティーに近寄っていって話し掛けるっつーのも図々しいしな。


「まぁもうすぐ降りて魔法のテストだ、話し掛けてもすぐ別れるんだから意味ないか」


 そう思ってる間に、もう迷宮への道程の半分くらいに来ただろうか。

 馬車に乗るときに御者さんに言っていたからお呼びが掛かり、礼を言って馬車から降りる。

 あらかじめセットしていた6時間用砂時計を見てみる、大体4時間って所か、半分くらいの所で降ろしてくれって伝えたから、迷宮までは馬車で約8時間かかるってわけだな。

 馬の走り自体は俺達が乗った車両を引いた速度からしても、多分一般的な速度だろう。人が結構早いジョギングをした程度だ。ただそれを何時間も続けられるなら早いか。でもそれなら俺が身体強化した走りのが早いなこりゃ。まぁ、そんな速さで走ってたら目立つだろうから馬車で我慢するけどさ。

 そうした事を考えてると馬車が見えなくなっていった。


「さぁ、ようやく魔法が使えるぞ!楽しみだなー」


 ようやく念願の魔法が使えるときが来た、身体強化なんかは使ってたのだが、この世界の常識から言うと、身体強化は魔法じゃないらしいからな。

 なので、異世界に来て3週間近いというのに未だに魔法を使った事がないからワクワクする。


「さて、まず最初は定番の魔法から行きますか!」


 そう思い魔法の杖を掲げ、大声で魔法の名を口にする。


「ファイアーーーーー!!!」






 ―― シーーーーン………………







 …………あれ?


 おかしいな……出ないぞ?


「も、もう一回、ファイアーーーー!!」




 うん、出ない。


 あれ? 何故出ないんだ? ファイアっていう魔法はあるはずだ、なのに出ない。

 魔力は十分あるはずだ、そして魔力を魔法に流すのもしている、なのに魔法が発動しない、なぜだ?


「ん~? 何がおかしいんだ? ちゃんとやったはずなのに……魔力を注いで変化は杖が勝手にやってくれる、そしてイメージをしっかり持って魔法名を口にして……あっ」


 そこでようやく思い至った、魔法が使えない理由を。


「ゲームみたいに魔法の名前を言えばいいって思い込んでたな、イメージしないとダメって本にも書いてあったじゃないか」


 そう、ゲームみたいにコマンドを選択して使えば勝手に出るとばかり思ってた。

 でも魔法書にはきちんとイメージが大事と書いてあった、意思がその魔法の存在を可能にするとかなんとか。

 なら今度は意思を明確にしてやってみることにする。


「ファイアは火が燃える感じだろ、ならファイアボールのがイメージしやすいかな」


 その場にいきなり火が燃えるより、火の玉を目の前に出す方がなんとなく楽だと思い、そっちを使う事にする。

 イメージをしっかり持って……


「よし、行くぞ……ファイアボーーーーール!!!」


 ――ボンッ!! と音がした。


 すると、目の前にサッカーボールほどの大きさの火の玉が出た。


「お!? 出た~!! やったーーー!! ってあっつ!?」


 目の前にイメージしたからかほんとに目の前に出てしまって、物凄い熱気が顔全体に感じ集中を切らしてしまう。

 するとそのまま足元に火の玉が落ち、地面に接触した瞬間にちょっとした爆発を起こし、火の粉が飛び散った。


「ぬお~~~!? あっちあっちぃぃぃいいい!!」


 すぐさまそこから飛び退いてバタバタと手足を振り回しながら、熱さを和(やわ)らげるのに必死になる。


「あっちぃ~~~……おいおい聞いてないぞこんなの……何が熱さを感じないだよあの本め……」


 そう、魔法書には術者が出した火属性の魔法は、術者自身には熱さを感じさせないと書いてあったのだ。

 なのにめっちゃ熱さを感じた、火傷したんじゃないかというくらい熱かったわ。

 その証拠に地面が真っ黒になってるじゃないか……


「あの本が間違ってるのか、俺が間違ってるのかの判断がつかないなぁ・・・次は熱さを感じない火をイメージしてみるか?」


 たしかナフサっていう油を使ったライターオイルの火は、たいした熱さにならないらしい。

 俺はタバコは吸わんがそのオイルで試した事がある、熱いっちゃ熱いが我慢できないほどじゃない熱さだった。

 それをイメージしてまたファイアボールを作ってみる。


「熱くない火だぞ、熱くないやつだ……ファイアボール!!」


 ――ボンッ!! と、先ほどと同じ音がして、また目の前に火の玉が現れた。

 しかし先ほどと違い熱をほとんど感じない。


「お? ……成功か!?」


 そう思い勇気を出して火の玉に触ってみる。

 すると……



「おおおお! 熱くないぞ!!」


 どうやら無事成功したようだ、よし今度はこの火の玉を近くの木に向けて発射してみる。


「あの木でいいな、よし、いっけーーー!」


 結構な速さで飛んでいった火の玉が木に当たる。

 すると小さな爆発音がなり、火の粉が飛び散る。

 しかし、全くといっていいほど木にダメージが通ってなかった。


「あれ? 無傷ってか? おっかしいな……ファイアボールに当たったら耐性がないと焼け爛(ただ)れるほどのダメージになるはずなんだが……」


 どうやらまた何か間違ってたのかもしれない。

 そう思い考えると、ある考えに至った。


「そりゃそうだわな、熱くない火をイメージしてんだからな、ダメージなんか出るわけないわ……」


 そう、焼け爛れるほどの熱さがなければダメージには至らない、でも俺が出した火は手で触ってもほとんど熱くない火だ、これじゃあダメージなんて期待できるわけがない。


「失敗したなぁ……熱さを感じない火じゃなく、自分には熱くない火をイメージしないとダメだったんだろうなきっと」


 そう思い、またイメージし直す。


「真っ赤に燃え盛る火で近寄るだけでも熱いほどの火だ、それでいて俺だけには一切熱さを感じない火をイメージだ」


 そうしてイメージが固まり、もう1度、魔法を発動させる。


「今度は成功してくれよ……ファイアボール!!」


 ボンッ!! と、聞きなれた音がして3度目となる火の玉が作り出された。

 また手を出して触ってみる、うん……熱くない。

 ではさっそく、先ほどの木へ向けて発射してみる。


「いっけえーーーー! 今度はどうだ!!」


 ――ボガーンッッ!! と、小さな小爆発を起こし、黒い煙がモクモクと上がっている。

 今度は確かな手応えがあると感じ、煙が収まるのを待った。

 すると……


「お? ……うお!? えぐれてるじゃねぇか!! しかも当たった場所周辺が真っ黒だ!!」


 今度は成功したようだ、てか大成功だな……ただのファイアボールだぞ? 初級魔法の。それがこんなに威力あるのかよ……


「こんだけ威力があると人間なんか簡単に死んじゃうだろ……どうなってんだよこの世界は」


 あまりの威力に呆然としてたが、こんな強い威力があると薄ら寒く(うすらさむく)なってくるな。

 他の冒険者の戦いを見たわけじゃないからなんとも言えないが、こりゃ剣なんておまけ程度にしかならないんじゃないか?

 そう思ったら大金貨2枚もした剣を買ったのは大失敗だったかもしれない。


「あ~~!! 剣買ったの失敗したかも~~~~!!」


 近くの敵には剣が必要だ、今回のダンジョンは洞窟型、なら剣が必要だが今までの剣でも良かったんじゃないかと思う。

 ここまでいい剣を買う必要がなかったと後悔した。

 ついさっきまでは良い物はいくらあっても困らないとか言っときながらこれだ。

 やっぱやった後悔もやらない後悔も嫌だわ……


「まぁ仕方ない、確かにあっても困らないもんな、お金もたくさんある、ならやった後悔だがいざという時には役立つだろうから、やらない後悔よりはマシかな」


 そう思いなおす事にして、魔法の実験を再開することにした。

 火魔法の初級の魔法を数種類、何回か試すが改めて感じる。

 火魔法、アブネェよと……


「よし! 火魔法は条件が揃ったとき以外は使わない事にしよう」


 あまりの威力の高さに周りに被害が及ぶ可能性が高いと分かったので、周りに被害が出てもいい状況、もしくは被害が及ばない場所以外はあまり使わない事にした。

 もちろん緊急を要する場合は例外だが、ポンポン使っていいものじゃない事は分かった。


 続いて水魔法だが、


「こっちも威力たけ~~……」


 そう、水魔法も同じような威力があった。

 さすがに水なだけあって周りへの被害はなかったが、簡単に人が死ぬくらいの威力がある。


「木が抉(えぐ)れて倒れるって、人に当たったらよほどのやつじゃないと死ぬよな……?」


 これじゃ魔物以外に魔法が使えないじゃないかと思ったのだが、ふとある事を思い出した。


「あれ? これって身体強化と同じで魔力を調整できるんじゃないのか?」


 そう、身体強化は魔力の注ぐ量を自分で調節できる、なら属性魔法もできるんじゃないかと考えてみた。


 まずは魔力チェックから、


「今は207か、じゃあ試すか……ウォーターボール!」


 木に向けた杖の先から水の球が現れ、指定した木に向かってぶっ飛んでいく。


 ――バガァァアン!! と、轟音を残し木が抉れ、というよりも穴が空くと言った方が近い抉れ方をして、そのまま音を立てて倒れていく。

 そしてステータスを見ると、


「202か、身体強化と同じだな、意識しないと5しか使わないのか、てか、たった魔力5でこの威力ってやばいだろ……」


 魔物にはこの威力でもいいだろうが、もし人間相手だとすぐ死んでしまうだろう、万が一生け捕りにしたいときにはこの威力だとまずい、なので1づつ下げていき、ちょうど良い威力を探ったほうがいいだろうな。

 てことで、1づつ威力を下げ、どの程度が一番良いか試してみる。


「次は4か、ウォーターボール!」


 まだまだ威力が高い、なら次は3だ。

 ウォーターボール!  このくらいか? でもまだ高いな。


 次は2だ、ウォーターボール!

 そこそこになったな、最後だ魔力1もやっとくか。


 ――ウォーターボール!


 うん、これはかなり弱いな、一般人であまり怪我を負わせない程度なら1でも十分だが、鎧なり武装しているやつらには2か、いや3くらいの魔力を注いだ方がいいかもしれんな。

 魔力4だと万が一の場合、鎧などがへこみすぎて死んでしまう恐れがあるな、なら3で1撃で死なないように戦闘不能にしたほうがいいか。


「よし、人に向けるときはまずは3からだな、一般人だと思ったら1でもいいや」


 そんな感じで水魔法の特にウォーターボールに関してはこれで良しとした。


「さて、水はこれでいっかな?まだ他にもあるけど、まぁ初級だからみんな似たようなもんだろ」


 てことで、次は火魔法の調整をやる事にする。


「次は火だな、まずは……ファイアボール!」


 ――ボガァァアン!! と、小爆発を起こし木が抉れ倒れていく。


「魔力はっと……あれ? これも5だな……なんだ? 無意識に使う魔法はいっつも消費5だな、何かあるんだろうか?」


 色々考えてみるが思いつかない、多分自分にちょうどいい消費量がこれだと思うだが、よくわからないので気にしないことにした。

 今は調整が先だ、次は4からだな。


「ファイアボール!!」


 と、水魔法のときと同じく、魔力消費1までを繰り返した。

 それで出た結論が、


「うん、水魔法と似たような威力だな、なら一般人には1、武装してたら3だな、それ以上は状況に応じてだな」


 とりあえずの攻撃魔法の威力の確認と調整が終わり、程よい疲労感が襲ってきたので休憩することにした。


「ほんとは土と風も使いたいが、この杖は使い捨てだからなぁ……しかも2本づつしかないからおいそれと使えないのが辛い」


 試したいのは山々だが仕方ないと気分を直しアイテムボックスから水を取り出し、甘い物がほしくなったので、露天で買ったチョコみたいなのが乗った、バナナっぽい物を食べる。


「ん~、チョコバナナみたいな味がするな、形も似てるから似たような物なんだろうな、うん、うまい」


 地球にいた時にはお祭りのとき以外はあまりなかった物だから、あんまり食べた事がないのだが、この世界は普通に露天で売ってるんだな。

 都会に行くとデパートや駅の中で売ってたりしたが、田舎に駅なんぞあっても店などほぼない。

 だからほとんどチョコバナナなど食った事ないのだ。


「よし、英気を養ったぞ、今度は歩きながら魔物に魔法を使ってみるか」


 そう思い、迷宮に歩き出し、途中の魔物共を相手に魔法を使い、感触を掴んでいく事にした。





「お、いたいた、ありゃゴブリンか?」


 初めてゴブリンを見た、今まで出会わなかったがほんとちっさい醜い人型をしているんだな。


「よし、あいつに普通の威力のファイアボールぶつけてみるか」


 幸いこちらには気づいてないようだ、今がチャンスだな。


「よし、試しに言葉に出さずに撃ってみるか」


 杖をゴブリンに向け頭の中で魔法を唱える。


(ファイアボール!)


 すると見事に魔法は発現して一直線にゴブリンに直撃する。


 ゴブリンは声にならない声を一瞬だけ上げて、すぐに倒れた、というかぶっ飛んでった。

 起き上がらないのを確認して近寄って見てみると、


「うわ、なんかグロいな……」


 人型のせいなのか、火魔法を使ったからなのか血すら焼けており、体が黒く焦げている。

 見ててあまりいい気はしない光景だ。


「人型のせいかも知れんけどなんか見た目がやな感じ……でも罪悪感なんかはないな、やっぱ魔物だからかね」


 人を殺した事はないが、いや~な思いは沸いてこなかった、せいぜい倒したゴブリンの見た目がグロい程度にしか感じない。

 これは良い事だ、いちいちこの程度で狼狽(うろた)えてたら、いざという時にこっちが危なくなる。

 これから迷宮に行こうとしてるのにこの程度で狼狽えてたら、ここら辺で慣れるまで狩りをすることになるからな、それは時間の無駄だろう。

 なので動揺してない事を確認して再び迷宮へ向かって歩き出す事にする。


 数匹魔物が出てきてすべての敵を火と水の魔法で倒したが、どちらも魔力消費5だと1撃で簡単に葬る事ができた。

 試しに撃った魔力3のファイアボールでも倒せたが、少しの間動いていたので魔物に対しては確実に葬る為に魔力5で撃つ事にした。




 そうして数時間歩き続けてようやく迷宮の近くに着くことが出来た。

 ちらほらと冒険者が増えていき、入り口から少し離れた所には簡単な店構えをした道具屋だろうか、が並んでいた。

 商魂(しょうこん)たくましいもんだな。


「さて、俺も少し休憩してから中に入ろうかね、入り口だけ探しとくか」


 入り口は冒険者達が一番多かった所にあった、その周りでパーティー同士で作戦を練ったり駄弁(だべ)ったりしているのだろう。

 俺は有益な情報がないかと少し聞き耳を立てながら休憩をする事にした。


「行儀悪いかもしれんが命が掛かってるからな、そんなことは言ってられないな」


 休憩が終わり、たいして良い情報がなかったので、異世界初の迷宮に挑む事にした。


 入ってしばらくは予想していた通り魔物も動物も一切出なかった。

 これだけ冒険者がいるならば入り口付近にはいないだろうと思っていたが、ここまでいないとはねぇ。

 だからと言って不意に出てくることも考えられるから気を引き締めないとな。

 ただでさえ暗い洞窟で明かりはランタン1つだ、道も頭の中でMAPを描きながら慎重に進んでいかないとな。


「やっぱり洞窟だけあってジメジメしてるな、空気がまずいわ」


 多湿だが気温は低い、寒いってほどじゃないがひんやりしている、洞窟内って暑いってイメージもあるが、寒い所もそれなりにあるみたいだな。

 そんな事を考えていたら目の前から何かが飛んできた。


「ん? なんだ? なんか黒い物が……」


 それが見えた瞬間にはもう手を切られていた。

 幸い対した傷じゃないのでよかったが、あんな魔物もいるのだろうか?

 なんて暢気に考えてる場合じゃない、敵だ、迎撃しないと!


「1匹か? ……素早すぎだろ、なんだあの黒いのは」


 良く観察し数回ほど交わしながらタイミングを見計らい何回か斬ろうとしたが簡単に避けられる為、面積が広い剣の腹でやることにし叩き付けるようにして振るう。

 すると、バシ! っと上手く叩き付ける事ができたようだ。

 今叩いた物が魔物かどうか見てみると……


「こりゃコウモリか? ……ずいぶん鋭い爪してやがるな」


 よく見てみると爪が3・4cmもあるようだ、これで引っ掛かられたらそりゃ痛いわな。

鑑定してみると、バットとだけ書かれていた、どうやら動物のようだな。

 こんな好戦的なコウモリがいるのか、こりゃこの洞窟一筋縄ではいかなそうな気がしてきたな。

 こいつをアイテムボックスに仕舞い込んで、今まで以上に慎重に進む事にする。

 と、その前に……


「せっかくだ、この傷を自己治癒じゃなく回復ポーションで治してみるか」


 未だにポーションを使った事がないのだ、ここで試してみるのもいいだろう。

 今までは自己治癒で簡単に全回復してきたが、アイテムがあるなら魔力を温存するのもいいだろう。

 こういう冒険には臨機応変に対応しなければいけない、なのにアイテムの効果を知らないままってのもまずいだろう。


「多分飲むんだよな?」


 そう思い一口飲んでみる事にする、すると……


「ブフーーーッ!! にっがっ! まっずっ!! なんじゃこりゃ!?」


 あまりの不味さに噴出してしまった、しかもまだ口の中に味がこびり付き不味さが消えない。


「なんだこの殺人的な不味さは!? 人を殺せるぞこれ!!」


 冗談ではなくこれ1本飲みきったら死んじゃうんじゃないかと思わせるほどの不味さだ。

 これほんとにポーションか? 騙されたか間違って何か違う物を買っちまったんじゃないのか?

 そんなことを思ってると後ろから声が掛かった。


「よう、どうした蹲(うずくま)って?」


 声がした方を見てみると、3人の冒険者達がいた。男3人のパーティーだ。

 真ん中の男がリーダーだろうか、その男が声を掛けてきた。


「いやー、ポーションを飲んだんだがあまりの不味さに驚いてた所なんだよ」

「は? ポーションって回復の方か? そりゃ不味いわな」

「やっぱそうなのか、間違って買ったか騙されたかと思ってた所だ」

「いや、回復のやつは不味いのが基本だな、なんせ飲むもんじゃないからな」


 は? なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。

 なんだって? 飲む物じゃないだって?


「ポーションっつったら飲むのが普通じゃないのか?」

「飲むのはマナポーションの方だな、回復のは普通は振り掛けるもんだ」

「振り掛けるっていうと傷口にそのまま直(ちょく)でか?」

「おう、その方が効き目が早いしな、飲んじまうと効果が薄まっちまうからな」


 なんてこったい、思いっきり勘違いしてたみたいだ。

 でも確かに、飲むより掛ける方が効果は早いだろうけどまさかだったな。


「外傷がある場合は掛けるのが早いし効果も高い、飲むと体全体に回るから効果が弱くなるんだよ、まぁ内臓がやられたりだとか高級なポーションは飲んでもいいみたいだけどな」

「なるほど、たしかに外から見えない部分は飲まないとダメだな、でも傷は直(じか)に掛けた方が良いと」

「そうなるな、まぁ誰しも1回はその苦さを経験するもんだ、俺もマナポーションと間違って飲んじまった事もあるしな、だからその殺人級の不味さには思い出すだけでも未だに震えが来るぜ」


 そういうリーダーらしき男の言葉に後ろにいる仲間の2人もうんうんと激しく頷いていた。

 どうやらほんとにみんな1度は経験するらしい。


「俺は剣がメインで魔力が少ないからな、もうマナポーション自体を使わないからポーションなんて2度と飲まないようにしてるぜ、緊急のときに飲んで気絶しちまったら元も子もねぇからな」


 そう言って、はっはっはっと大笑いしている。

 なるほど、気絶するとか言ってたけどこりゃ大げさじゃないな……

 少しくらい味を改善しようとか思わないのかねぇ、こりゃちょっと自分でポーションを改良しなけりゃ怖くて使えないぞ……


「そうだったのか、初めてポーション使うから知らなかったよ、色々ありがとう」

「良いってことよ、それよりおまえは1人で来たのか? 仲間がいないようだが」

「ああ、一人で来た、俺は冒険者じゃないからな、迷宮っつーのがどういうもんか経験したくてね」

「そりゃまた命知らずな……ここら辺はそんなに強い所じゃないがそれでも深層に行くに連れて強敵は出てくるぞ」

「やっぱ深層に行くほど強いのが出てくるのか、まぁそこまで行こうとは今は考えてないからな」

「ならいいが、もし1人で行くなら気をつけろよ、ここらは弱くても毒を持ってる厄介なやつもいる、毒に掛かり毒消しや治癒方法がなければ、地上まで戻れる保証はないぞ」


 うわ、まじかよ、低層にも毒系の魔物がいるのか……毒消しは一応持ってきてるが怖いな。

 ちょっと迷宮を侮ってたな、観光気分で来る所じゃなかったな、C+とか中々強い魔物を倒してたからちょっと天狗になってわ。

 気をつけないと簡単に命を落とすって注意してたのに、まだ調子乗ってたわ、今一度、気を引き締めよう。


「一応毒消しは持ってきてるがもう少し買っといたほうが良いか、忠告ありがとう、少し様子を見てダメそうならさっさと帰る事にするよ」

「ああ、そうした方がいい、どうしても最初は侮っちまうからな、最初の1回で命を落とす奴が結構いるんだ、だから危なくなったらすぐ逃げろよ」

「わかった、その言葉を覚えとくよ」

「ああ、そうしろ、じゃあ先に行くな」


 そういい残して3人の冒険者は先に進んでいった。

 その後ろからもう一度礼を言い、俺も先を進もうと歩き出した。


 まだ迷宮に入って10分程度だ、有り難い忠告を噛み締め、細心の注意を払いつつ奥へと進んでいくことにする。

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