10話 新たな旅路と砂時計

 新たに宿を取ってから1週間が過ぎた、もうこの村でやる事もなくなってきたな。


「ん~、今日で宿の期限も切れたし、そろそろ違う街にでも行こうかね」


 てことで、さっそく食材を買い込み(つってもアイテムボックスがあるから、店で料理を買っただけなんだけど)、水も十分に買った、後は何が必要かねぇ。


 そんなこんなで、俺にとって異世界で初めての村、リュッベルソン村を後にする。

 目的地は、この村の東側に位置する、そこそこ大きな街になる。


「なんて名前だったかな、まぁ行ってみりゃわかるか」


 なんてお気楽な事を考えながら、新たな旅を始めることにする。

 この1週間、俺が何をしていたかというと、まずは、俺の別荘とも呼べる異空間、神庭(かんば)を寝泊りできるようにすること。

 簡単に言えば寝具類を持ち込んだ、後は水を、植えた木々に掛けた事か。

 それ以外は神庭には持ち込んでいない、家を作ろうかと思ったが、さすがに材料も建築技術もない俺にはできなかった。


「魔法さえ使えりゃ今頃豪華な家を作ってんだけどなぁ……」


 できるかなぁって思ったがやっぱりできなかった、土魔法を使えるようにならなけりゃだめだなこりゃ。


 それ以外は何をしてたかと言うと、村の周辺に居る動物を狩ったりしていた。

 なぜ動物かというと、村の近くには魔物が出てこなかったのだ。


「多分、冒険者達が魔物を狩ってるからいないんだろうなぁ」


 そう、俺はまだ異世界に来てから1度も魔物を狩った事がない。

 情けないがいないもんは仕方がない、だから魔物の強さもよくわかっていない。

 ウルフが群れるとランクDくらいの強さとか言ってたっけか、ならウルフ30匹とかに襲われたけど、前みたいに怪我をすることなく全部倒せたから、まぁ俺は弱くは無いと思うんだ。


 でも過信はしないようにした、この世界は簡単に命がなくなるからな、そこは気をつけないと平和ボケは命を落とす。


 後はというと、この世界、時計っつーもんがないから時計を作っていた……と言っても砂時計だけどな。

 基本的にこの世界の人たちは時間を季節等を考慮して、陽の傾きによって判断するそうだ、後は街の鐘とかで。

 なので、正確な時間がわからないのだ。

 俺はまだ陽の傾きだけだと大まかな時間しかわからないから、時計はないかと探したんだ。

 でも無かったんだなぁこれが。


 この世界は基本的に時計を持ってる人は、街自体の所有物かお金持ちくらいだそうだ、それも砂時計が一般的らしい。

 村でも時間を計るのは砂時計で、午前中は3時間ごとに、砂時計の砂が全部落ちると自動で鐘がなるように、魔法で制御してるらしい。

 そういう魔法はあるのに、時間を知る魔法はないんだなと思ったが、時魔法ってのがあっても1秒とか1時間とか正確な時間がこの世界のどこにもないだろうから、無いのも当たり前か。


 てことで、砂時計は村でも1つしかないらしい、3時間用だけだ。

 この砂時計って言うものですら、高価な物になるみたいだ。


 俺からしたら砂時計ごときが高価なのか? と思うが、この世界の技術力だと、正確な砂時計を作るのが難しいらしい。

 そういう鍛冶技術はあまり発展してないみたいだな。

 まぁ、魔法があるからそういうのは発展しないんだろう。


 かと言ってこの世界の文化が遅れまくってる訳ではない。

 魔法がある分、地球よりはるかに進んでる部分もあるし、反対に魔法がある分、遅れている物もある。


 以前ラウル様が言ってた、地球よりも少しだけ文明が遅れてるっていうのは本当みたいだ。


「でも、時計とかそういうのはほしかったなぁ……」


 なので改めて時計を作ろうと思ったのだが、これが全く作れなかった。

 なぜなら、1秒がどのくらいなのか一切わからないからだ。

 なら1時間は? これもまたわからない。


 わかるのは午前中の3時間毎になる鐘の音のみ、3時間毎の砂時計を作るのも結構シビアだと思うんだがよく作ったもんだ。

 改めて1秒刻みの時計を作った人ってすげぇと思ったもんだ。


 なので仕方ないから、俺も自分で3時間毎の砂時計を作ろうと思った。

 しかし、俺には鍛冶技術がない、だから諦めてたんだが、これがまさかの方向で作れてしまったのだ。

 どう作ったかと言うと……


「確かあの時は、試験管に似たガラス製品を買ったときだったなぁ」


 この世界でもガラスというのはあるみたいだ、じゃあそれを加工するのは? それはまだ未熟な文明のようだ。

 だから常に一定の形で砂時計の器やら、実験に使う試験管やらは、かなり限られた人にしか作れないらしい。

 粗悪品ならそこら中に溢れてるらしいが、サイズがバラバラで、実験に使ってしまうと常に結果がバラバラで使えないそうだ。


 なので、そういう物は、国から厳しい審査を受けて、ちゃんと認可されて売られてる場所があるそうだ。

 だが、必然的にそういう所はめちゃくちゃ高くなる。


「まぁそりゃそうだよな、完成したポーション入れたりとかはいいけど、実験や正確な時間を知りたい砂時計の器は、サイズが狂ってたらすべて台無しだもんな」


 そういう理由もあり、常に一定の形を作るのは相当な技術がいるので、それを作れる人も必然と少ないみたいだ。

 なので、俺が正確な時間を知りたいと思うなら、正規品である砂時計を買うか自分で作るしかない。


 ちなみに、正規品の砂時計はなんと大金貨5枚はするという。

 500万ゴルドだ、今の俺にはとてもじゃないが払えない金額だ……

 じゃあ後はどうするか、作るしかないって事で、試験管らしきガラス製品を買ってきたのだが、

 いかんせん作り方がわからんかった、ただの焚き火でやるには無理だし、俺には火魔法なんて使えない。

 じゃあどうやって作れたかと言うと、宿にいて試験管みたいなのを指でコロコロしていたときだ。


「砂時計って真ん中が細くなってそこから砂が落ちてきて~……」


 なんて考えてたらだ……なんかカランッて試験管が落ちたんだよな、

 なんだ? って見てみると、指でコロコロしてた所が、ほっそ~~~くなってて、まるでバーナーで炙(あぶ)ってガラスが溶けて細くなり、千切れた感じになってたんだ。


 これを見たときは何が起こったかわからんかった。

 別に魔力を使ったわけでもない、火魔法なんぞ使えない、じゃあ何が起きたのか?

 考えてもわからんから、もう一回やってみた、すると……


「指でコロコロやるだけで、まぁガラスが形を変えること変えること……」


 なんか頭の中で思い描きながらガラスを弄ると、その形に変わっていくのよね。

 だから真ん中が細くなるように念じながらやると、細くなっていくのだ。


 それをやっていて思った事がある、これってもしや俺がイメージすると物を作ったり、変化させたりできる力があるんじゃないのかと。

 そこでステータスを見てみると、忘れていた事に気づいた。


「あ、これ……後回しにしてたけど、この神力っつーやつのおかげなのかな?」


 魔力の横に神力って欄があったのを忘れていた、多分この神力ってのが俺のイメージを形にするのではないかと思うんだ。

 確証はないが、漠然とした確信はあるんだよな。


「でも神力を使ったかどうかがわからないんだよなぁこれ……」


 そう、なぜなら……




 魔力 239/239   (神力 ∞)




 なんて書いてあるからな。

 無限だ無限、だからいくら使ったかがわからないのだ。


「あ~、普通無限にあるっつったら喜びたい所なんだが、使ったかどうか分からないってのが不便だとはなぁ……」


 まぁこういう理由で、神力を使ったから色々できたかどうかがわからないのだ。

 でもなんとなくだが、神力だろうとは思ってる。

 だってさ、それ以外に説明付かないもん、なぜならラウル様直々に無属性しか使えないって言われたからな!

 自分で言ってて悲しくなってきた……


「ま、まぁ、できるんだからいいよね! ってことで、街の鐘を利用して砂時計を作ったのだ、しかも結構正確なやつだぞ」


 3時間と6時間と12時間の3種類を作ってみた、それも10個づつくらい作ったかな。

 1度作れれば簡単だ、砂が落ちる真ん中の部分の細い穴だけを合わせればいいからな、そして作ったやつは全部、街の鐘で時間がきちんと合っているか調査済みだ。

 それで作ってて気づいた事だが、この器があれば砂はどれでもいいってことでもないらしい。

 今使ってるこの砂だからこそ、この器の穴の大きさでほぼ正確に時間通りに落ち切ることができるようだ。


「そう思うと、砂時計作るのも結構技術いるよなぁ……」


 いかに地球の技術が、長い間培われた技術で成り立っているか思い知ったよ。

 こりゃデジタル時計なんて夢のまた夢だろうなぁ……

 そりゃそうか、この世界、電気っつー概念が無いみたいだし。

 この世界は田舎ほど夜暗くなったら寝る時間、陽が昇ってきたら活動時間、てな具合に規則正しい生活をするのが一般的だ、なぜなら夜、明かりを灯す事が難しいからだ。

 ロウソクや魔力を使ったランタン、光魔法等があるが光が弱かったり高価な物、光魔法の使い手が少ない等の理由から、田舎ではほとんど使う人がいないらしい。

 なので暗くなったら寝る時間になるようだ。


 一応大きな街ならば街灯とかもあるとこはあるみたいだ、しかしかなり高価なのでさすがに村では買えないらしい。

 そこら辺は地球から遥かに遅れてる部分だよなぁ、まぁ地球も電気が出来てから急速に発展してきたんだろうと思うからな。

 この世界も電気があれば、魔法がある分地球よりとんでもないスピードで発展するかもしれん。

 まぁ、今はまだまだ遠い話だろうけど。


「まぁとりあえず、結構正確な砂時計を作れたから良しとしますかね」


 今は砂時計は魔法袋に入っている、この砂時計は何気に曲者(くせもの)で、ポケット等に入れておくと振られて時間が正確じゃなくなるし、アイテムボックスに入れちゃうと時が止まるから時間経過がわからない。

 ってことで消去法で魔法袋になったのだ。


 ちなみに、リュッベルソン村を出るときに、お世話になった人、図書館の館長と宿屋を経営してる姉妹、それぞれ1つづつ、計3個をプレゼントしといた、みんなには6時間用のやつをプレゼントしたんだが、

 これがまぁ喜ばれた事喜ばれた事。


「ここまで喜ぶかねぇってくらい喜んでたな」


 特に最後に止まった宿の女将マリーには、異世界初のキスをしてもらった、もちろんほっぺだぞ、でもそのくらい喜んだと言う事で俺も嬉しく思ったよ。

 そこで館長からの話だと、これがもし正確な砂時計だとしたら、金貨5枚はくだらないらしい。

 認可されてる物じゃないから高値は付かないらしいが、俺からしたら適当に作った(一応真剣に正確に作ったけど)、物でこの値段だ、十分高値と言えるだろう。


「もし1秒刻みの時計を作れたら、国くらい買えるんじゃないのかね? いや、ほんとに」


 とりあえず次の街に行った時は、これを売って属性魔法の杖を買おうと思う、属性魔法の杖がいくらするかまだわからないからなぁ。

 館長に聞いたんだけど、その街によって相場はマチマチなので、実際に行ってみないとわからないそうだ。

 多分、大銀貨数枚から金貨数枚だろうって言ってたけど、地域によってはこの数倍になるかもだとさ。


「この砂時計が金貨数枚で売れたら、1・2本くらいは属性魔法の杖買えるといいなぁ」


 そんなこんなであっという間に1週間が経ち、今日新たな街を目指して旅立ったと言うわけだ。


「ここからは気を引き締めていかないとな、魔物が多いって言う村の東側だからな」


 リュッベルソン村から見ると、北と東が魔物が多く、特に東は一番多くなるそうだ、

 だからここからが、本当の旅の始まりと言っても過言じゃないかもしれない。

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